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2025年 04月 28日

注目新刊:ユング=シュティリング『心霊学の理論』幻戯書房、ほか

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★最近出会いがあった新刊を列記します。時間の都合により、ルリユール叢書の新刊2点についてのみ後段で特記します。

心霊学の理論』ユング=シュティリング(著)、牧原豊樹(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2025年4月、本体4,800円、四六判変上製464頁、ISBN978-4-86488-321-4
デイジー・ミラー/ほんもの』ヘンリー・ジェイムズ(著)、齊藤昇(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2025年4月、本体2,700円、四六判変上製248頁、ISBN978-4-86488-322-1
攻殻機動隊論 新版_2025』藤田直哉(著)、作品社、2025年4月、本体2,700円、46判並製384頁、ISBN978-4-86793-093-9
山本周五郎[未収録]時代小説集成』山本周五郎(著)、末國善己(編)、作品社、2025年4月、本体5,400円、四六判上製544頁、ISBN978-4-86793-087-8
公共内芸術――民主主義の基盤としてのアート』ランバート・ザイダーヴァート(著)、篠木涼(訳)、人文書院、2025年4月、本体5,400円、四六判並製476頁、ISBN978-4-409-10046-2
普通の組織――ホロコーストの社会学』シュテファン・キュール(著)、田野大輔(訳)、作品社、2025年4月、本体6,000円、四六判上製440頁、ISBN978-4-409-24169-1
現代思想2025年5月臨時増刊号 現代思想+ 久里洋二――1928-2024』青土社、2025年4月、本体2,000円、B5変型判並製214頁、ISBN978-4-7917-1480-3

★〈ルリユール叢書〉第45回配本は、64冊目の『心霊学の理論』と65冊目の『デイジー・ミラー/ほんもの』。『心霊学の理論』は、ドイツの小説家ユング=シュティリング(Jung-Stilling: Johann Heinrich Jung, 1740-1817)による1808年の著書『Theorie der GeisterKunde oder was von Abnungen, Gesichten und Geistererscheinungen geglaubt und nicht geglaubt werden müßte』(心霊学の理論――予感・幻視・心霊現象の何を信じ、何を信じてはいけないか)の全訳。帯文に曰く「ヴィルヘルム・グリム、フケー、C・G・ユングらを魅了し、人心を惑わす「危険な書」として発刊即、発禁となった禁断の書。霊界、幽体離脱、ドッペルゲンガー、テレパシー等々を克明に詳述したユング゠シュティリングの哲学的思索の総決算の書にして、スヴェーデンボリを超える心霊書。本邦初訳」。章立ては「序論」「第一章 機械論的哲学の吟味とその反証」「第二章 人間本性についての省察」「第三章 予感、予知、魔術、予言」「第四章 幻視と心霊現象」「第五章 心霊学の理論のまとめと結論」。同叢書でのユング=シュティリングの訳書は、『ヘンリヒ・シュティリング自伝――真実の物語』(牧原豊樹訳、2021年5月)に続く2冊目です。

★『心霊学の理論』が禁書となったのはそのキリスト教批判によるものかと思われますが、一方で様々な興味深い超常的逸話を蒐集しており、読む者を飽きさせません。そのなかにはフランスの作家カゾット(Jacques Cazotte, 1719-1792)の有名な「予言」が含まれます。カゾットの訳書はわずかに『悪魔の恋』(渡辺一夫・平岡昇訳、逍遥書院、1948年;世界幻想文学大系(1)、国書刊行会、1976年;バベルの図書館(19)、国書刊行会、1990年;新編バベルの図書館(4)所収、国書刊行会、2012年)をひもとくことができるくらいですが、彼がとある会食の席で臨席者たちに語った、フランス革命と死をめぐる予言については、ネルヴァルの『幻視者(上)』(入沢康夫訳、古典文庫:現代思潮新社、1968年;原著1852年)所収の一章「カゾット」でも読むことができます。ユング=シュティリングもネルヴァルも、典拠としたのはジャン=フランソワ・ド・ラ・アルプの遺稿※です。ネルヴァル『幻視者』をすでにお読みの方はぜひユング=シュティリング『心霊学の理論』もお手に取ってみてください。

※ド・ラ・アルプの遺稿『Prédiction de Cazotte, faite en 1788』(1817年)にある「カゾットの予言」の逸話は創作であったかもしれない、という説があります。平岡昇さんが「ジャック・カゾットの生涯と作品――解説に代えて」でこう書いています。「彼〔カゾット〕のこの種の幻覚ないし予言として有名なのは、晩年のラ・アルプが書き残し、死後、遺稿中に発見されたいわゆる「カゾットの予言」(前掲、入沢訳ネルヴァル『幻視者』上巻、124-131頁に全訳されている)である。これはネルヴァル、サント・ブーヴ、テーヌなどに取り上げられ、この予言の真否についてはカゾットに近かった人々の多くの証言が残っているが、結局、サント・ブーヴのいうようにおおよそのところはラ・アルプの創作とみなしていいようだ(サント・ブーヴ『月曜閑談』第五巻参照)。大革命の前年1788年の諸島、カゾットがあるサロンでの会話で、近くフランスに革命が起ると断言し、同席者の一人一人の悲惨な運命と、併せて自分の刑死をも無気味なほど冷淡にしかも詳しく予言した話である。その予言を受けた列席者はコンドルセ、シャンフォール、マルゼルブ、ルーシェらの思想家、作家、詩人、高官から大貴族の婦人に及んで、この文全体に一種凄愴な気分がみなぎっている。これがラ・アルプの創作だとしても、晩年の病的に神経の鋭敏になったカゾットの口からは、迫りくる危機に対する不吉な予感が幾度か漏れただろうことは想像に難くない」(『世界幻想文学大系(1)悪魔の恋」』渡辺一夫/平岡昇訳、国書刊行会、1976年、377~378頁)。

★『デイジー・ミラー/ほんもの』は、米国の哲学者ウィリアム・ジェイムズの実弟で高名な作家のヘンリー・ジェイムズ(Henry James, 1843–1916)の代表作のひとつ『Daisy Miller』(1878年)と『The Real Thing』(1893年)をカップリングした新訳本です。帯文に曰く「ヨーロッパにおける、アメリカ人女性の無垢で奔放な生を描き、〈国際テーマ〉の名作として文名を高めた短編「デイジー・ミラー」。画家とモデルと絵画の関係を寓話的に描き出す〈芸術もの〉の短編「ほんもの」。ヘンリー・ジェイムズの小説的リアリティの特性が浮かび上がる珠玉の2篇」。2篇とも既訳がありますが、特に『デイジー・ミラー』は幾度となく翻訳されています。


by urag | 2025-04-28 00:32 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)


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