2025年 01月 05日
★まず、まもなく発売となるちくま学芸文庫1月新刊5点を列記します。 『日常性の解剖学――知と会話H・ガーフィンケル/G・サーサス/H・サックス/E・シェグロフ(著)、北澤裕/西阪仰(訳)、ちくま学芸文庫、2025年1月、本体1,400円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-51286-4 『近代日本の中国認識――徳川期儒学から東亜協同体論まで』松本三之介(著)、ちくま学芸文庫、2025年1月、本体1,400円、文庫判368頁、ISBN978-4-480-51285-7 『色彩について』L・ウィトゲンシュタイン(著)、中村昇/瀬嶋貞徳(訳)、ちくま学芸文庫、2025年1月、本体1,200円、文庫判256頁、ISBN978-4-480-51284-0 『カルメル山登攀』十字架の聖ヨハネ(著)、奥村一郎(訳)、ちくま学芸文庫、2025年1月、本体1,800円、文庫判592頁、ISBN978-4-480-51279-6 『禅の時代――栄西・夢窓・大灯・白隠』柳田聖山(著)、ちくま学芸文庫、2025年1月、本体1,300円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-51277-2 ★『日常性の解剖学』は、「エスノメソドロジー・会話分析の基本論文集」(帯文より)。親本はマルジュ社より1989年に初版、1995年に新版が刊行されました。「ちくま学芸文庫版訳者あとがき」によれば、文庫化にあたり「訳者らは、全編を精読した。その結果、論理的にうまく読み下せないと思われた箇所、十カ所ほどに最低限の修正を加えた」とのことです。 ★『近代日本の中国認識』は、日本政治思想史家の松本三之介(まつもと・さんのすけ, 1926-)さんによる単行本(以文社、2011年)の文庫化。文庫版あとがきが新たに加わっています。巻末特記には「文庫化にあたっては、誤字・脱字の訂正のほか、注やルビの追加および語句の修正など若干の加筆を行った」とあります。 ★『色彩について』は、ウィーン生まれの哲学者ルートウィヒ・ウィトゲンシュタイン(Ludwig Wittgenstein, 1889-1951)による最晩年の断片集『Remarks on Colour』(Blackwell, 1977)の訳書(新書館、1997年)の文庫化。「文庫版訳者あとがき」によれば、「今回改めて訳文を読み、より読みやすいように日本語を整えた」とのことです。「人は普段から、まったく新しいものを学ぶ心構えができていなければならない」(第Ⅲ部断片45)。 ★『カルメル山登攀』は、16世紀スペインの神秘家、十字架の聖ヨハネ(San Juan de la Cruz, 1542-1591)による代表作のひとつで「神との合一に到るための階梯を詳述したカトリック神秘思想を代表する作品」(カバー表4紹介文より)である『Subida del Monte Carmelo』の訳書(ドン・ボスコ社、1969年;改定版2012年)の文庫化。訳者の奥村一郎(おくむら・いちろう, 1923-2014)さんは逝去されており、編集部による巻末特記には「文庫化にあたっては、明らかな誤りは適宜訂正した。またルビも増やした」とあります。新たに加わった解説は東大名誉教授の鶴岡賀雄さんが寄稿されています。 ★『禅の時代』は、中国禅宗史がご専門の柳田聖山(やなぎだ・せいざん, 1922-2006)さんの著書(筑摩書房「仏教選書」、1987年)の文庫化。帯文に曰く「日本臨済禅の系譜に沿って読む「日本の仏教」への足跡」。文庫版解説「禅仏教への飽くなき追究」は駒沢大学名誉教授の石井修道さんがお書きになっています。 ★続いて最近では以下の新刊との出会いがありました。 『図書館を建てる、図書館で暮らす――本のための家づくり』橋本麻里/山本貴光(著)、新潮社、2024年12月、本体3,300円、A5判上製240頁、ISBN978-4-10-355991-7 『江戸の性愛業』永井義男(著)、作品社、2024年12月、本体2,400円、46判並製224頁、ISBN 978-4-86793-055-7 『崇高と資本主義――ジャン=フランソワ・リオタール論』星野太(著)、青土社、2024年12月、本体2,400円、46判並製284頁、ISBN978-4-7917-7694-8 『現代思想2025年1月号 特集=ロスト・セオリー 絶滅した思想――天動説・王権神授説・エーテル…』青土社、2024年12月、本体1,600円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1476-6 『優生保護法のグローバル史』豊田真穂(編)、人文書院、2024年12月、本体3,600円、四六判並製358頁、ISBN978-4-409-24167-7 『果てしない余生――ある北魏宮女とその時代』羅新(著)、田中一輝(訳)、人文書院、2024年12月、本体5,000円、四六判上製372頁、ISBN978-4-409-51105-3 『リオリエント〈新版〉――アジア時代のグローバル・エコノミー』アンドレ・グンダー・フランク(著)、山下範久(訳/新版序)、藤原書店、2024年12月、本体4,400円、A5判並製656頁、ISBN978-4-86578-444-2 『ヒポクラテスの告発――天然痘を根絶した蟻田功の遺言』木村盛世(著)、藤原書店、2024年12月、本体1,800円、四六変型判並製240頁、ISBN978-4-86578-445-9 ★上記のうち、2点について特記します。まず『図書館を建てる、図書館で暮らす』は、学芸プロデューサーの橋本麻里さんと文筆家の山本貴光さんのご自宅「森の図書館」をカラー写真とともに紹介する一冊。「芸術新潮」誌の連載に大幅な加筆訂正を施したものです。設計者の建築家、三井嶺さんの寄稿や図面も併載。「〈森の図書館〉のよい点は、モノとしての本を分類して配置でき、そのなかを歩き回れるところ。日々そこで暮らすだけでも書棚や本が目に入って触発される」(山本「理想の図書館」168頁)。 ★次に『崇高と資本主義』は、東京大学准教授で美学がご専門の星野太(ほしの・ふとし, 1983-)さんによる書き下ろし作。序章での言葉を借りると、「芸術を通じた「崇高なもの」の探究が、資本主義にたいする批判として機能しうる」と考えた一方で「資本主義そのものが「崇高なもの」である」とも述べた「リオタールの批評的戦略を明るみに出すこと」によって「「ポストモダンの哲学者」という紋切型の形容にまみれたリオタールではなく、「崇高」という概念を通じて「資本主義」の問題を思考しつづけた、特異な哲学者としてのリオタールの姿」(「序章」25頁)を描出するもの。
by urag
| 2025-01-05 17:42
| ENCOUNTER(本のコンシェルジュ)
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