2024年 12月 23日
★まず、まもなく発売となる新刊3点を列記します。 『レペルトワールIV[1974]ミシェル・ビュトール評論集』ミシェル・ビュトール(著)、石橋正孝(監訳)、福田桃子/岩下綾/小川美登里/ほか(訳)、幻戯書房、2024年12月、本体6,300円、A5判上製544頁、ISBN978-4-86488-312-2 『ユダヤ人の女たち』マックス・ブロート(著)、中村寿(訳)、幻戯書房、2024年12月、本体4,200円、四六変形判上製424頁、ISBN978-4-86488-313-9 『機械状エロス――日本へのまなざし』フェリックス・ガタリ(著)、ギャリー・ジェノスコ/ジェイ・ヘトリック(編)、杉村昌昭/村澤真保呂(訳)、河出書房新社、2024年12月、本体3,400円、46判上製256頁、ISBN978-4-309-23167-9 ★『レペルトワールIV[1974]』は、フランスの作家ミシェル・ビュトール(Michel Butor, 1926-2016)による評論集全5巻中の第4巻。帯文に曰く「ビュトール流「旅学(イテロロジー)」は、言語からイメージへ、イメージから言語へと自由に行き来しながら創作゠批評を展開する。「絵画のなかの言葉」を皮切りに、絵画の文学性、文学の絵画性を交錯させる、絢爛たる論理の一大円舞」と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。このあと第5巻が刊行予定です。全巻購読特典としてA5判96頁予定の冊子『Itérologie Butorienne』が予告されています。 ★『ユダヤ人の女たち』は、ルリユール叢書第42回配本61冊目。カフカ没後100年記念出版と銘打ち、カフカの友人で作家・翻訳家・作曲家のマックス・ブロート(Max Brod, 1884–1968)の自伝的小説『Jüdinnen』(1911年)の初訳が刊行されました。帯文に曰く「1910年代チェコのギムナジウムに通うドイツ系ユダヤ人青年の恋愛と蹉跌を赤裸に描く」と。「〔本作の〕発表は、ブロートとカフカにとって、ユダヤ民族主義に真剣にかかわるためのきっかけとなった。単なるユダヤ系のドイツ語作家から確信的なユダヤ主義者にいたるまでのブロートの「転向」過程を知るためには、本作の内容を知ることが必要である」(訳者解題より)。 ★『機械状エロス』は、フランスの思想家で精神分析家フェリックス・ガタリ(Felix Guattari, 1930-1992)による日本論をまとめた『Machinic Eros: Writing on Japan』(Univocal, 2015)の全訳。目次を下段に転記しておきます。共編者のギャリー・ジェノスコ(Gary Genosko, 1959-)の著書には『フェリックス・ガタリ――危機の世紀を予見した思想家』(杉村昌昭/松田正貴訳、法政大学出版局、2018年)があります。 ◎『機械状エロス』目次 Ⅰ フェリックス・ガタリの日本論(杉村昌昭訳) 誇らしげな東京 粉川哲夫によるインタビュー ――〈トランス・ローカル〉をめぐって 舞踏 田中泯との対話――身体の動的編成をめぐって 田原桂一の顔貌機械 田原桂一の〈未視感〉 〈カオスモーズ〉の画家、今井俊満 草間彌生の〈豊かな情動〉 高松伸の〈建築機械〉 高松伸との対話――特異化とスタイル エコゾフィーの実践と主体的都市の復興 Ⅱ ガタリにとって日本とは何か(村澤真保呂訳) ギャリー・ジェノスコ「情動的転移と日本の現代アート」 ジェイ・ヘンドリック「批判的ノマディスム?――日本におけるフェリックス・ガタリ」 訳者解説 杉村昌昭「ガタリの「日本論」について」 村澤真保呂「編者の二論文について」 ★次に、ちくま学芸文庫の12月新刊6点を列記します。 『新編 意味の変容』森敦(著)、ちくま学芸文庫、2024年12月、本体1,600円、文庫判464頁、ISBN978-4-480-51280-2 『赤紙と徴兵――105歳、最後の兵事係の証言から』吉田敏浩(著)、ちくま学芸文庫、2024年12月、本体1,400円、文庫判368頁、ISBN978-4-480-51278-9 『中国目録学』清水茂(著)、ちくま学芸文庫、2024年12月、本体1,100円、文庫判224頁、ISBN978-4-480-51276-5 『カロルス大帝伝』エインハルドゥス/ノトケルス(著)、國原吉之助(訳・注)、ちくま学芸文庫、2024年12月、本体1,100円、文庫判272頁、ISBN978-4-480-51264-2 『自由と理性』R・M・ヘア(著)、村上弥生(訳)、ちくま学芸文庫、2024年12月、本体1,500円、文庫判432頁、ISBN978-4-480-51271-0 『踊念仏』大橋俊雄(著)、ちくま学芸文庫、2024年12月、本体1,400円、文庫判368頁、ISBN978-4-480-51270-3 ★『新編 意味の変容』は、作家の森敦(もり・あつし, 1912-1989)さんの私小説であり文学論『意味の変容』と、真言密教をめぐるエッセイ『マンダラ紀行』、自伝的講演録『十二夜』を一冊にまとめたもの。井上明芳さんによる解題と、柄谷行人さんによる「『意味の変容』論――「解説」にかえて」が併録されています。『意味の変容』はもともと『群像』誌で連載され、その後、柄谷さんの勧めで1984年に筑摩書房より単行本として刊行。1991年にちくま文庫、2012年に『意味の変容・マンダラ紀行』として講談社文芸文庫で再文庫化されました。今回、再々文庫化されたかたちです。ちくま文庫版と講談社文芸文庫版では柄谷さんの解説のほか、岩井克人、浅田彰、中上健次、の各氏による解説も付されていたので、旧版の古書価は下がりにくいかもしれません。 ★『赤紙と徴兵』は、ジャーナリストの吉田敏浩(よしだ・としひろ, 1957-)さんの著書(彩流社、2011年)の文庫化。「滋賀県大郷村(現・長浜市)で兵事関係の業務を行っていた人物が命令に反して長年秘匿してきた貴重資料や証言に基づき、若者を戦地に送り出しつづけたその苦悩や悔恨に寄り添いつつ、草の根の視点から徴兵システムの実態に迫る」(カバー表4紹介文より)。著者による文庫版あとがきと、歴史学者の吉田裕さんによる解説が付されています。 ★『中国目録学』は、中国文学研究者の清水茂(しみず・しげる, 1925-2008)さんの著書(筑摩書房、1991年)の文庫化。巻末特記によれば、中国古典学者で京都大学教授の古勝隆一さんの協力のもと「本文内の誤りは適宜訂正した」とあります。古勝さんは解説も書かれています。曰く「前近代中国の学問や書物の歴史を大局から論じた著作」と。 ★『カロルス大帝伝』は、カール大帝(シャルルマーニュ、カロルス大帝)の廷臣エインハルドゥスによる『カロルス大帝伝』と、大帝の曾孫カール3世の依頼を受けて修道士のノトケルスが執筆した『カロルス大帝業績録』を併せて筑摩書房より1988年に刊行された単行本の文庫化。よく間違われがちですが、「カロルス」であって「カルロス」ではありません。訳者の國原吉之助(くにはら・きちのすけ, 1926-2017)さんはすでに逝去されており、東京大学准教授の菊地重仁さんが文庫版解説「カール大帝の二つの伝記――カールの記憶の伝達とカールの利用との狭間で」においていくつかの補足を記しておられます。 ★『自由と理性』は、文庫オリジナル。英国の倫理学者R・M・ヘア(Richard Mervyn Hare, 1919-2002)の著書『Freedom and Reason』(Oxford University Press, 1963)の新訳です。既訳書には『自由と理性』(山内友三郎訳、理想社、1982年)がありますが現在は絶版。今回の新訳の訳者、村上弥生(むらかみ・やよい, 1961-)さんの恩師が山内さんです。ヘアは序説でこう述べます。「ほとんどの人が道徳の問題について自分の意見を持つ自由があると考えているにしても、どのような意見を持ってもかまわないと感じているわけではない。〔…〕道徳的な論争のほとんどはこの二つの特質の二律背反性から生じている。〔…〕明らかに両立することが不可能に思われるこの二つの立場を調和させる方法を探り、自由と理性の間の二律背反を解消することが道徳哲学の課題であり、またそれこそが本書が取り組む課題である」(16~17頁)。解説「自由で多元的な倫理学の可能性」は専修大学教授の佐藤岳詩さんによるもの。 ★『踊念仏』は、日本仏教史学者の大橋俊雄(おおはし・しゅんのう, 1925-2001)さんの著書『踊り念佛』(大蔵出版、1974年)の文庫化。カバー表4紹介文に曰く「一遍・法然研究の第一人者であった著者が、踊念仏という活動にスポットを当てることで、開祖の大きさを日本仏教史や民間信仰の体系の中で捉えなおした」一書。文庫版解説「一遍・時衆・踊り念仏」は筑波学院大学名誉教授の坂本要さんがお書きになっています。 ★続いて、11~12月の注目新刊書と重版書を列記します。 『日本政治学史――丸山眞男からジェンダー論、実験政治学まで』酒井大輔(著)、中公新書、2024年12月、本体1,080円、新書判304頁、ISBN978-4-12-102837-2 『キリスト教の啓示に直面する哲学的信仰』カール・ヤスパース(著)、岡田聡(訳)、作品社、2024年12月、本体3,600円、四六判上製272頁、ISBN978-4-86793-065-6 『限局性激痛』ソフィ・カル(著)、青木真紀子/佐野ゆか(訳)、平凡社、2024年11月、本体10,000円、B6変型判304頁、ISBN978-4-582-83972-2 『機関精神史 第五号 特集*マニエリスム漫画の冒険』後藤護(編集)、高山えい子(発行)、2023年5月(初刷)、2024年12月(2刷) ★『日本政治学史』は、カバーソデ紹介文に曰く「丸山眞男、升味準之輔、京極純一、レヴァイアサン・グループ、佐藤誠三郎、佐々木毅などの業績に光を当て、さらにジェンダー研究、実験政治学といった新たに生まれた潮流も追う。欧米とは異なる軌跡を照らし、その見取り図を示す」と。酒井大輔(さかい・だいすけ, 1984-)さんの初めての単独著です。「学史はたんなる回顧ではない。〔…〕私たちの社会が適切な反省の手がかりを手にしてきたかの検討素材となる」(まえがきより)。 ★『キリスト教の啓示に直面する哲学的信仰』は、ドイツの哲学者カール・ヤスパース(Karl Jaspers, 1883-1969)による1960年の論考「Der philosophische Glaube angesichts der christlichen Offenbarung」の全訳。加筆修正版が1962年の著書『Der philosophische Glaube angesichts der Offenbarung』〔『啓示に面しての哲学的信仰』重田英世訳、創文社、1986年〕で、今回の訳書では単行本版で削除された箇所が太字で組まれています。巻末付録として、ヤスパースの論考「聖書宗教について」(1946年)と、訳者による論考「カール・ヤスパースのひとと思想」が付されています。 ★『限局性激痛』は、版元紹介文に曰く「1999~2000年、2019年に東京・原美術館で展示された「ソフィ・カル 限局性激痛」に未邦訳分を新たに訳出した完全版。ソフィ・カル(Sophie Calle, 1953-)の希望により、日本語版の造本は布張りのカバーに箔押しのタイトル、赤金のインクで三方を塗り上げた。近現代美術キュレーター・岡部あおみによる日本語版解説を付す」と。造本の美しさが際立っている一冊です。当時の図録、原美術館編『Sophie Calle : douleur exquise』(アルカンシェール美術財団、1999年)や、フランス語原著版(原美術館発行による日本語訳冊子付)をお持ちの方もぜひ。 ★『機関精神史 第五号』は、特集「マニエリスム漫画の冒険」。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。昨春の初刷は完売で、2刷は12月1日の東京文学フリマにて完売とのこと。後藤護さんの序に曰く「マニエリスムはリビドーが、エロスが、抑えきれない魔の衝動がなければ、そもそも発現しないものであることを、私は中条氏に、バタイユ『エロスの涙』に、そして宮谷一彦と早見純に啓示されたのである。冷ますほどの熱がない人間の一体どこがクールだというのか」。
by urag
| 2024-12-23 02:58
| ENCOUNTER(本のコンシェルジュ)
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