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2024年 09月 08日

注目近刊新刊:人文書院版『ザッハー=マゾッホ集成』全三巻、ほか

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★まもなく発売となる注目新刊を列記します。

ザッハー=マゾッホ集成(Ⅰ)エロス』ザッハー=マゾッホ(著)、平野嘉彦/中澤英雄/西成彦(訳)、西成彦(解説)、人文書院、2024年9月、本体10,000円、四六判上製556頁、ISBN978-4-409-13042-1
ザッハー=マゾッホ集成(Ⅱ)フォークロア』ザッハー=マゾッホ(著)、中澤英雄(訳・解説)、人文書院、2024年9月、本体10,000円、四六判上製512頁、ISBN978-4-409-13043-8
ザッハー=マゾッホ集成(Ⅲ)カルト』ザッハー=マゾッホ(著)、平野嘉彦(訳・解説)、人文書院、2024年9月、本体10,000円、四六判上製436頁、ISBN978-4-409-13044-5
この生――世俗的信と精神的自由』マーティン・ヘグルンド(著)、宮﨑裕助/木内久美子/小田透(訳)、名古屋大学出版会、2024年9月、本体5,800円、A5判上製388頁、ISBN978-4-8158-1160-0
なぜEBMは神格化されたのか――誰も教えなかったエビデンスに基づく医学の歴史』大脇幸志郎(著)、ライフサイエンス出版、2024年9月、本体5,200円、四六判並製620頁、ISBN978-4-89775-484-0
『皇帝たちの都ローマ――都市に刻まれた権力者像』青柳正規(著)、ちくま学芸文庫、2024年9月、本体1,600円、文庫判464頁、ISBN978-4-480-51250-5
『「物質」の蜂起をめざして――レーニン、〈力〉の思想』白井聡(著)、ちくま学芸文庫、2024年9月、本体1,800円、文庫判560頁、ISBN978-4-480-51253-6
『改稿 日本文法の話〔第三版〕』阪倉篤義(著)、ちくま学芸文庫、2024年9月、本体1,400円、文庫判416頁、ISBN978-4-480-51258-1
『モラル・エコノミー ――インセンティブか善き市民か』サミュエル・ボウルズ(著)、植村博恭/磯谷明徳/遠山弘徳(訳)、ちくま学芸文庫、2024年9月、本体1,500円、文庫判432頁、ISBN978-4-480-51259-8

★『ザッハー=マゾッホ集成』全3巻が今月、3巻同時発売となります。「エロス」「フォークロア」「カルト」の3巻構成で、第Ⅰ巻「エロス」には『毛皮のヴィーナス[決定版]』(第3版、1878年)の初訳を含む全4作品を収録。第Ⅱ巻「フォークロア」は『ハサラ・ラバ――未来をのぞく夜』を含む全4作品を収録。第Ⅲ巻「カルト」には『漂泊者』を含む5篇の小説と、「ガリツィアにおけるユダヤ教の二つの宗派」を含む2篇の論考を収録。かつて桃源社版『マゾッホ選集』(全4巻別巻1、1976~1978年)が存在し、一部が文庫化されましたが、近年は品切が目立っています。今回の人文書院版集成は新しい読者との出会いの機会を作ってくれそうです。間村俊一さんによる美麗な装幀も読者を惹きつけることでしょう。

★平野嘉彦さんによる「刊行の言葉」を引きます。「マゾッホの多くの作品は、彼の故郷であったオーストリア領ガリツィア、現在はポーランド東南部からウクライナ西部にかけてひろがっている、この地方の自然、風土、社会を主題にしている。そうした作品は、かつてわずかながら日本語に訳されもしたが、ドイツ系、ポーランド系、ウクライナ系、ユダヤ系など、さまざまなエスニシティが葛藤をはらみつつ共生する、複数の言語、宗教を擁するこの地域の特性を紹介するには、十分とはいえなかった。〔…〕「エロス」、「フォークロア」、「カルト」の三巻からなる『ザッハー=マゾッホ集成』は、多岐にわたる詳細な注解も相俟って、その作品の文化史的、思想史的な理解をも可能にするものと自負している」。

★人文書院版集成全3巻の収録作品は版元さんのサイトで確認できますが、すでに絶版になっている桃源社版選集の収録作品を以下に列記しておきます。

『マゾッホ選集(1)毛皮を着たヴィーナス』(種村季弘訳、桃源社、1976年10月)収録作「毛皮を着たヴィーナス」→河出文庫『毛皮を着たヴィーナス』1983年4月、2004年6月新装版。
『マゾッホ選集(2)残酷な女たち 他』(飯吉光夫/福井信雄訳、桃源社、1977年3月)収録作「残酷な女たち」福井信雄訳、「風紀委員会」福井信雄訳、「醜の美学」飯吉光夫訳→河出文庫『残酷な女たち』2004年5月※福井信雄氏は池田信雄氏名義に。
『マゾッホ選集(3)ガリチア物語』(高本研一訳、桃源社、1976年11月)収録作「ガリチア物語」
『マゾッホ選集(4)密使 他』(種村季弘訳、桃源社、1977年9月)収録作「密使」「コロメアのドン・ジュアン」
『マゾッホ選集(別巻)ザッヘル=マゾッホの世界』(種村季弘著、桃源社、1978年7月)→筑摩叢書、1984年;平凡社ライブラリー、2004年。

★『この生』は、スウェーデン生まれの哲学者で米国で教鞭を執っているマーティン・ヘグルンド(Martin Hägglund, 1976-)の著書『This Life: Secular Faith and Spiritual Freedom』(Anchor Books, 2019)の全訳。「ハイデガーやデリダの難解さを脱し、アーレントとは別の仕方で、グローバル資本主義下の人間の条件を洞察、それを超え出るヴィジョンを提起する」(帯文より)。「本書は、宗教的な読者と世俗的な読者の双方に向けて書かれている。〔…〕私たちは、永遠の不在を嘆く代わりに、有限の生を、何かが賭けられていることの条件、誰もが自由な生をおくるための条件とみなすことで、有限な生へのコミットメントを認めるべきである」(序章、10頁)。

★「私が主張したいのは、資本主義的価値尺度にたいするマルクスの批判を展開することにより、価値を価値転換することが必要になるということである。問題となる価値転換には、私たちが自分の生を営むあり方について理論的にだけでなく実践的に変革することが必要になる。〔…〕私はマルクスが共産主義と呼んだものを参考にしつつ、民主社会主義の新たな展望の概要を示す。〔…〕私は、資本主義と自由主義をそれぞれの観点から批判することをつうじて、民主社会主義の一般原理を明確にし、その具体的な意味合いを詳述する」(20~21頁)。

★「私たちが生きている時代は、社会的不平等、気候変動、グローバルな不正義といった問題が、宗教的なかたちをとった権威の復活と絡み合っており、そうした宗教的な権威がこれらの問題の究極的な重要性を否定するにいたっている。その結果、進歩の可能性への世俗的信から撤退することで、道徳的で精神的な生を維持するための宗教的な「充足感」の必要を主張することが支配的な趨勢となっている。本書が探求するのは、そのような政治神学のあらゆる形態にたいして戦いを挑むことである。〔…〕永遠にたいする宗教的信仰の衰退は、けっして嘆くべきことではない。それはむしろこの生それ自体を目的とする世俗的信を明確にして強化する機会をもたらすのである」(21~22頁)。

★『なぜEBMは神格化されたのか』は、「国内外の膨大な文献を根拠にEBM誕生の歴史的背景やEBMを考案した人物たちの意図を紐解く超大作」(帯文より)。EBMとは「エビデンスに基づく医療(Evidence-Based Medicine)」のこと。本書は「臨床医学における実証的アプローチの発展と行き詰まり」「臨床の科学を夢見た人々」「噂に基づくEBM」の三部構成。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。まえがきと序がリンク先で立ち読み可能。医師の大脇幸志郎(おおわき・こうしろう, 1983-)さんは出版社勤務や医療情報サイト運営のご経験がおありとのことです。

★ちくま学芸文庫の9月新刊は4点。『皇帝たちの都ローマ』は、古代ギリシャ・ローマ考古学者の青柳正規(あおやぎ・まさのり, 1944-)さんの著書(中公新書、1992年)の文庫化。帯文に曰く「凱旋門、神殿、コロッセウム、浴場、水路……都市から見る帝国の興亡」。文庫版解説「都市ローマでの古代との対話」は法政大学名誉教授の陣内秀信さんによるもの。陣内さんは「ローマという都市の見え方が驚くほど変わり、「古代との対話」がより深く何倍も楽しいものになる」と評しておられます。青柳さんは「文庫版あとがき」で「本書の改訂版を出版するにあたって〔後略〕」とお書きになっているので、改訂はあったものと思われます。

★『「物質」の蜂起をめざして』は、政治学者で京都精華大学准教授の白井聡(しらい・さとし, 1977-)さんの著書(作品社、2010年;増補新版2015年)の文庫化。帯文に曰く「今こそレーニンに帰るときだ。没後100年、その真価に迫る」。文庫版解説「〈戦後日本〉の救済者」は京都大学大学院教授の細見和之さんによるもの。白井さんは「文庫版あとがき」でこう書いています。「執拗な思考だけが呼び戻されるに値する。近代資本主義社会が継続している限り、レーニンは何度でも甦る」(535頁)。本文改訂については特筆されていません。

★『改稿 日本文法の話〔第三版〕』は、国語学者の阪倉篤義(さかくら・あつよし, 1917-1994)さんの著書(教育出版、1989年)の文庫化。巻末特記によれば、文庫化にあたり「明らかな誤りは適宜訂正し」「図版は一部差し替えた」とのことです。「日常のことばへの関心と正確な認識を得ることが文法学習の意義であると訴え、長年にわたり多くの読者に親しまれてきた定評ある概説書」(カバー表4紹介文より)。文庫版解説は青山学院大学名誉教授の近藤泰弘さんによる「日本語のもうひとつの側面を明らかにする文法書」。

★『モラル・エコノミー』は、米国の経済学者サミュエル・ボウルズ(Samuel Bowles, 1939-)の著書(NTT出版、2017年)の文庫化。原著は『The Moral Economy: Why Good Incentives Are No Substitute for Good Citizens』(Yale University Press, 2016)です。帯文に曰く「社会実験と行動科学を武器に、あるべき社会を探る」と。文庫版解説は明治学院大学教授の亀田達也さんによるもの。亀田さんは「本書は、ポストコロナ社会における「秩序のゆらぎ」を考えるうえで、最重要の著作の一つである」と評しておられます。ボウルズの訳書が文庫化されるのはこれが初めてです。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

第三風景宣言』ジル・クレマン(著)、笠間直穂子(訳)、共和国、2024年8月、本体1,800円、四六変形判並製168頁、ISBN978-4-907986-26-1
敗北後の思想――ブロッホ、グラムシ、ライヒ』植村邦彦(著)、人文書院、2024年8月、本体2,400円、四六判並製214頁、ISBN978-4-409-04128-4
アーレントと黒人問題』キャスリン・T・ガインズ(著)、百木漠/大形綾/橋爪大輝(訳)、人文書院、2024年8月、本体4,500円、四六判並製328頁、ISBN978-4-409-03133-9
韓国ドラマの想像力――社会学と文化研究からのアプローチ』平田由紀江/森類臣/山中千恵(著)、人文書院、2024年8月、本体2,200円、四六判並製206頁、ISBN978-4-409-24164-6

★『第三風景宣言』はフランスの景観デザイナーで作庭家のジル・クレマン(Gilles Clément, 1943-)の著書『Manifeste du Tiers-paysage』(Éditions du commun, 2020)の訳書。ただし、アレクシ・ペルネによる序文は割愛されています。原著はもともと初版が2004年に、改訂版が2014年に刊行されています。底本となる2020年版は最新版です。題名はシェイエス(本訳書の表記ではシエース)の『第三身分とは何か』にちなんでいます。「生物多様性を目的とした空間設計の指標として、世界各国で参照される実践のためのマニフェストの日本語版、ついに刊行」(表紙表1紹介文より)。

★初版1000部は表紙も本文も化粧断ちをしていないアンカットの状態のため、地と小口が袋状になっています。見た目の荒々しさは新鮮で、近年まれに見る造本です。読むためにはペーパーナイフが必要ですが、切らずに所蔵したい読者のために、PDF版が頒価1000円でウェブストア「共和国ANNEX」にて販売予定とのことです。

★人文書院の8月新刊より3点。『アーレントと黒人問題』は、米国の哲学者キャスリン・T・ガインズ(Kathryn T. Gines, 1978-;2017年よりKathryn Sophia Belleに改名)の著書『Hannah Arendt and the Negro Question』(Indiana University Press, 2014)の訳書。「本書の目的は、アーレントの黒人問題にまつわる問題だらけの主張や想定や見落としを見て見ぬふりすることなく、括弧にくくることもなしに、彼女の鋭い哲学的・政治的洞察を認定していくことにある」(序論、18頁)。なお「本書の題名はリチャード・バーンスタインの『ハンナ・アーレントとユダヤ人問題』に倣ったもの」(同、17頁)とのこと。

★バーンスタインの『Hannah Arendt and the Jewish Question』(MIT Press, 1996)は未訳。ガインズが第1章から第3章にかけて分析しているアーレントの論考「リトルロックについて考える」(1959年)は『責任と判断』(中山元訳、ちくま学芸文庫、2016年)で読むことができます。

★『韓国ドラマの想像力』は、日本女子大学教授の平田由紀江さんと、摂南大学准教授の森類臣さんと、京都産業大学教授の山中千恵さんの三氏による共著。「2010年代以降にヒットした韓国ドラマを、経済格差、教育、国家権力、軍事、フェミニズムなど、多様な視点から社会学的に読み解く。ドラマ案内、韓国研究入門としても最適な一冊」。「境界を越える想像力」「格差をめぐる想像力」「権力を問い直す想像力」「“つながり”への想像力」の四部構成。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★『敗北後の思想』は、関西大学名誉教授の植村邦彦(うえむら・くにひこ, 1952-)さんによる書き下ろし。エルンスト・ブロッホ、アントニオ・グラムシ、ヴィルヘルム・ライヒ、E・P・トムスン、ディディエ・エリボン、デヴィッド・グレーバーらを読み解き、「20世紀のマルクス主義者たちの「敗北後の思想」がどのようなものものだったのかを見直す」(「はじめに」より)もの。「歴史的考察が現代日本の私たちの実践にとっても参考になると信じている」(「あとがき」より)とのことです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


by urag | 2024-09-08 21:26 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)


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