2024年 06月 02日
★まもなく発売となるちくま学芸文庫の6月新刊4点を列記します。 『価値の社会学』作田啓一(著)、ちくま学芸文庫、2024年6月、本体1,800円、文庫判608頁、ISBN978-4-480-51241-3 『沖縄戦記 鉄の暴風』沖縄タイムス社(編著)、ちくま学芸文庫、2024年6月、本体1,600円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-51244-4 『時間と死――不在と無のあいだで』中島義道(著)、ちくま学芸文庫、2024年6月、本体1,100円、文庫判224頁、ISBN978-4-480-51245-1 『ポパー〔第2版〕』小河原誠(著)、ちくま学芸文庫、2024年6月、本体1,600円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-51249-9 ★『価値の社会学』は、社会学者の作田啓一(さくた・けいいち, 1922-2016)さんが1972年に岩波書店から上梓した単行本(2001年に再刊)の文庫化。価値に関する一般理論をまとめた第一編「社会的価値の理論」と、理論をもとに日本社会を分析した第二篇「日本社会の価値体系」の二部構成です。編集部の巻末特記によれば「明らかな誤りは正し、固有名詞の表記も一部今日通例のものにした」とのことです。巻末には、東京大学教授の出口剛司さんによる解説「作田啓一『価値の社会学』に寄せて」が加わっています。作田さんの著書の文庫化は今回が初めてとのことで、意外に思います。 ★『沖縄戦記 鉄の暴風』は、1950年に朝日新聞社および沖縄タイムス社から刊行され、1970年の第2版以降は沖縄タイムス社より版を重ねたロングセラーを文庫化したもの。沖縄戦の実態を生存者より聞き書きした記録です。文庫化にあたり、巻頭に沖縄タイムス社による「ちくま学芸文庫版『鉄の暴風』まえがき」が、巻末には沖縄国際大学名誉教授の石原昌家さんによる解説「新聞人が遺した警鐘を、いま再び打ち鳴らす――戦後八〇年を目前に」が加えられています。 ★『時間と死』は、哲学者の中島義道(なかじま・よしみち, 1946-)さんが2016年にぷねうま舎から刊行した著書の文庫化。「本書は、今年〔2016年〕2月に刊行した『不在の哲学』(ちくま学芸文庫)の続篇とも言うべきものであり、〈いま〉しかないのではないか、それ以外に、未来が、とりわけ過去があるかのような気がするのは、大掛かりなトリックなのではないか、すなわち138億年・100億後年以上に及ぶ「客観的世界は丸ごと仮象なのではないか……、ここ20年ほど考えてきたこうした想念を言語化したものである。もしそうなら、私が死ぬことの過酷さはずいぶん軽減されるであろう。私は広大な宇宙「から」消滅するのではなくなるであろう。私はただそのつどの〈いま〉から消えるだけなのであり、それは日々刻々生じていることにすぎないのだ」(あとがき、215~216頁)。 ★「客観的世界が丸ごと仮象であるとしたら、少なくとも私が死ぬことは、私が客観的世界のうちで死ぬこと、客観的世界から消滅することではないことになる。その場合、私の死にいかなる意味を付与することができようか。いかなる意味も付与することはできないのである」(はじめに、15~16頁)。 ★巻末の「文庫版へのあとがき」には、昨春に脳出血で倒れ、現在は自宅でリハビリ生活を続けているご自身の、確信のさらなる変化が綴られています。発売前のネタバレになってしまうので引用はやめておきますが、「時間と死」をめぐる中島さんの思索に新たな地平が現れつつあるのが垣間見えます。 ★『ポパー〔第2版〕』は、科学哲学者の小河原誠(こがわら・まこと, 1947-)さんが講談社のシリーズ「現代思想の冒険者たち」の1冊として1997年に上梓した『ポパー ――批判的合理主義』の改訂版です。巻頭の「第2版序」によれば「改訂にあたっては全体の構成には手をつけず、基本的に誤記や表現などの修正をおこない、また若干の補足を加えて読みやすくすることに努めた。〔…〕旧版では、種々の事情から引用箇所は明示していなかったが、本版では明示した」とのことです。巻末には事項と人命を合わせた索引が配されています。 ★続いて、最近出会いのあった新刊を列記します。 『25年後の東浩紀――『存在論的、郵便的』から『訂正可能性の哲学』へ』宮﨑裕助(編著)、東浩紀/大畑浩志/小川歩人/佐藤嘉幸/清水知子/檜垣立哉/森脇透青/吉松覚(著)、読書人、2024年5月、本体1,500円、新書判並製368頁、ISBN978-4-924671-65-2 『アレ Vol.13 娯楽の苦楽』アレ★Club、2024年5月、本体1,500円、A5判並製266頁、ISDN278-4-572741-13-1 『橋本治「再読」ノート』仲俣暁生(著)、破船房、2024年4月、本体1,400円、B6判並製80頁、ISBNなし 『宇宙開発の思想史――ロシア宇宙主義からイーロン・マスクまで』フレッド・シャーメン(著)、ないとうふみこ(訳)、作品社、2024年5月、本体2,700円、四六判並製288頁、ISBN978-4-86793-036-6 『泉鏡花きのこ文学集成』泉鏡花(著)、飯沢耕太郎(編)、作品社、2024年5月、本体2,700円、46判並製256頁、ISBN978-4-86793-032-8 『自由主義憲法――草案と義解』倉山満(著)、藤原書店、2024年5月、本体2,600円、四六判並製384頁、ISBN978-4-86578-424-4 『玉井義臣の全仕事――あしなが運動六十年(2)交通遺児育英会の設立と挫折 1969–1994』玉井義臣(著)、藤原書店、2024年5月、本体8,000円、A5判上製584頁+カラー口絵4頁、ISBN978-4-86578-426-8 『人種の母胎――性と植民地問題からみるフランスにおけるナシオンの系譜』エルザ・ドルラン(著)、ファヨル入江容子(訳)、人文書院、2024年6月、本体5,000円、四六判上製412頁、ISBN978-4-409-04127-7 『セクシュアリティの性売買――世界に広がる女性搾取』キャスリン・バリー(著)、井上太一(訳)、人文書院、2024年5月、本体5,000円、四六判並製420頁、ISBN978-4-409-24161-5 『マリア=テレジア――「国母」の素顔(上)』バルバラ・シュトルベルク=リーリンガー(著)、山下泰生/伊藤惟/根本峻瑠(訳)、人文書院、2024年5月、本体7,500円、A5判上製442頁、ISBN978-4-409-51101-5 『マリア=テレジア――「国母」の素顔(下)』バルバラ・シュトルベルク=リーリンガー(著)、山下泰生/伊藤惟/根本峻瑠(訳)、人文書院、2024年5月、本体7,500円、A5判上製460頁、ISBN978-4-409-51102-2 ★『25年後の東浩紀』は、編者の宮﨑さんによる「はじめに」によれば本書は、2023年9月2日に専修大学神田キャンパスで開催された脱構築研究会シンポジウム「25年後の『存在論的、郵便的』から『訂正可能性の哲学』へ――東浩紀氏とのディスカッション」の記録をもとに編まれたもの。第1部「シンポジウム・新世代セッション」と第2部「シンポジウム・同世代/先行世代セッション」は、当日の発表と質疑応答の順序をそのまま再現。第3部「『存在論的、郵便的』解説篇」は同作の議論を一通りたどり直すための森脇透青さんと小川歩人さんによる解説で、第4部「『存在論的、郵便的』読解篇」は編者の宮﨑さんが「シンポジウム」の討議を経てあらためて同作を読み、その論点を検討し直すもの」。充実の一冊です。 ★『アレ Vol.13』の特集は「娯楽の苦楽」。哲学者の檜垣立哉(ひがき・たつや, 1964-)さんへのインタヴュー「競馬から考える、偶然性と向き合うこと」、動物商で動物園園長でもある白輪剛史(しらわ・つよし, 1969-)さんへのインタヴュー「動物商と動物園」をはじめ、「漫画、イマーシブシアター、VTuber、プリキュア、バー、銃火器、日本語ラップ、楽器店、果ては趣味を持てないことまで様々なコンテンツを扱っている」(巻頭言より)。今号も充実した誌面となっています。第四期スタートとのことで、「今期は特に「現代社会」を意識した、読者が比較的とっつきやすいテーマを中心に取り上げていく予定」(同)と予告されています。 ★『橋本治「再読」ノート』は、文筆家で編集者の仲俣暁生(なかまた・あきお, 1964-)さんにおる個人出版プロジェクトである「破船房(はせんぼう)」の刊行物の第2弾。仲俣さん自身による紹介文によれば「橋本の旧著を再読し、その思想をあらためて捉え直そうとした」もので、「回顧的なものではな」く、「むしろ未来を、つまり「これから何をしたらよいか」を志向するもの」。取り上げられるのは以下の著書です。『浮上せよと活字は言う』(増補版、平凡社ライブラリー、品切)、『江戸にフランス革命を!』(新装版、青土社)、『宗教なんか怖くない!』(ちくま文庫、電子版あり)、『貧乏は正しい!』(全5巻、小学館文庫、電子版あり)、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(新潮文庫)、『ぼくたちの近代史』(河出文庫、品切)、『小林秀雄の恵み』(新潮文庫、電子版あり)など。橋本治の魅力が生き生きと甦る、親しみやすい本です。初刷500部は完売で、2刷500部もそろそろなくなりそうだと聞いています。 ★作品社の新刊より2点。『宇宙開発の思想史』は、モーガン州立大学建築・計画学部准教授で建築と都市デザインが専門の研究者フレッド・シャーメン(Fred Scharmen)による『Space Forces: A Critical History of Life in Outer Space』(Verso, 2021)の訳書。「宇宙科学と空想科学を縦横に行き来し、「宇宙進出=新たな世界の創造」をめぐる歴史上の7つのパラダイムを検証する」(帯文より)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ロシア宇宙主義をめぐっては最近類書が立て続けに刊行されており、書店さんでのコーナー作りには絶好の機会と言ってよいと思います。 ★『泉鏡花きのこ文学集成』は、写真評論家できのこ文学研究家の飯沢耕太郎(いいざわ・こうたろう, 1954-)さんの編纂による1冊。「“世界に冠たる「きのこ文学」作家”泉鏡花の8作品を集成。『原色日本菌類図鑑』より、190種以上のきのこ図版を収録。その魅力を説く「編者解説 きのこ文学者としての泉鏡花」付」(帯文より)。8篇は総ルビが付されており朗読したくなります。カラー図版はいずれも美しく印象的。飯沢さんはきのこ文学をめぐる編著書を多数手がけられているのは周知の通りです。中でも『きのこ文学名作選』(港の人、2010年)や『きのこ漫画名作選』(ele-king books、2016年)は美麗な造本も相俟って話題となりました。 ★藤原書店の5月新刊は2点。『自由主義憲法』は「旧知の浜田聡参議院議員より、「自分として、独自の憲法草案を持っておきたいので、作成してほしい」との依頼があり、作成したのが本書で提示する「自由主義憲法草案」です」(はじめに、1頁)とのこと。浜田議員による跋文が巻末に掲出されています。「私の仕事は、真の憲法論議を広げていくことです。/たった一人でも、やれることはあやってきました。そして数年前とは違う環境になってきました。/国民全体の議論に広がった時、日本人の多くの人が、日本とは何か、自由とは何か、生活を守るとは何か、について考えるのではないかと思います」(跋、371頁)とのこと。 ★『玉井義臣の全仕事――あしなが運動六十年』は全4巻別巻1で構成。その第1回配本が今回の第Ⅱ巻。帯文に曰く「生涯を遺児救済運動に捧げてきた稀有の社会運動家の軌跡」。「交通遺児育英運動から、病気・災害遺児支援にも活動を広げた疾風怒濤の時代。会機関紙に22年間連載した、子どもたちへの熱いメッセージ全228回を収録」と。付属の月報は、岡嶋信治「交通評論家 玉井義臣先生との出逢い」のほか、あしなが奨学生、同卒業生、遺児の母親の声を掲載。次回配本は第Ⅲ巻『あしなが育英会の誕生と発展 1994-2024』と予告されています。 ★人文書院の新刊より3点4冊。『人種の母胎』はまもなく発売。フランス・エピステモロジーの学統を引く哲学者エルザ・ドルラン(Elsa Dorlin, 1974-)による『La Matrice de la race. Généalogie sexuelle et coloniale de la Nation française』(Édition la découverte, 2006/2009)の全訳。訳者によれば「本書はドルランが、フーコーはフェミニズム認識論(フェミニスト哲学)の立場から2000年以降のフランスにける新たなフェミニズムの潮流において、強固な思想的支柱となる重要な哲学者の一人としての地位を明確に徴づけた書物である」(訳者あとがき、382頁)。 ★ドルランは巻頭のプロローグでこう書いています。「本書はおもに性差別と人種差別のカテゴリーシステムの歴史性に着目する。単なる表象ではなく、思考カテゴリー、インテリジビリティ〔了解度〕のスキーム、支配者たちの合理性それ自体が論じられる。したがって、本書はコレット・ギヨマンによって開始された支配に関する認識論を引き継ぐと同時に、二つの指針によってそれを刷新しようとするものである。/第一の指針は、「性〔セックス〕」と「人種」という両カテゴリーが類比関係〔アナロジー〕では扱われないというものである。〔…〕第二の指針は、性差別と人種差別を生み出した支配者たちの合理性に焦点を当てる一方で、こうした合理性の峻厳な論理や最適な機能性よりも、それが被る危機に主に関心を寄せることにある」(10頁)。 ★言及されているコレット・ギヨマン(Colette Guillaumin, 1934-2017)はフランスの社会学者。ドルランの著書で参照されている代表作『人種差別主義イデオロギー』(1972/2002年)は未訳です。 ★『セクシュアリティの性売買』は発売済。米国の社会学者キャスリン・バリー(Kathleen Barry, 1941-)による『The Prostitution of Sexuality』(New York University Press, 1995)の訳書。帯文に曰く「性売買の実態と、廃絶への具体的構想――搾取と暴力にまみれた性売買の実態を国際規模の調査で明らかにし、その背後にあるメカニズムを父権的権力の問題として理論的に抉り出した、ラディカル・フェミニズムの名著。女性の自己選択と売買相互の同意を強調するセックスワーク論を批判し、独自の性売買廃絶主義により全女性の解放を力強く構想する」。バリーの既訳書には『性の植民地――女の性は奪われている』(田中和子訳、時事通信社、1984年)があります。 ★『マリア=テレジア』は発売済。ドイツの歴史学者バルバラ・シュトルベルク=リーリンガー(Barbara Stollberg-Rilinger, 1955-)による『Maria Theresia. Die Kaiserin in ihrer Zeit. Eine Biographie』(C. H. Beck, 2019)の全訳。 帯文によれば「女傑、美女、慈母としての伝統的神話を解体する、ポスト英雄時代の新たな一代記。死後、何世代にもわたって美化され、偶像化されたマリア=テレジアの生涯を膨大な史料に基づいて再構築し、ヨーロッパ近代史の中に再び位置づける」(上巻)。「知られざる「ハプスブルクの女帝」の全貌に迫る、第一人者による圧巻の評伝。「帝国の女主人」として、男性政治の歴史からは特例とされ、フェミニズム研究の範疇からも除外されていたマリア=テレジア、その実像を解き明かす」(下巻)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
by urag
| 2024-06-02 23:36
| ENCOUNTER(本のコンシェルジュ)
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