2024年 05月 12日
★まず最初に、ようやく購入できた注目既刊書を列記します。 『ロシア宇宙主義』ボリス・グロイス(編)、乗松亨平(監訳)、上田洋子/平松潤奈/小俣智史(訳)、河出書房新社、2024年4月、本体3,600円、46変形判上製376頁、ISBN978-4-309-23141-9 『パイデイア――ギリシアにおける人間形成(中)』W・イェーガー(著)、曽田長人(訳)、知泉学術叢書:知泉書館、2024年4月、本体6,500円、新書判上製846頁、ISBN978-4-86285-408-7 ★『ロシア宇宙主義』は「人類の不死・復活と宇宙への進出。いま最も注目される100年前の思想の画期的アンソロジー」。ロシア語原著は2015年刊。5人の思想家の論考11篇を収めています。編者のグロイスはこう紹介します。「「神の死」から、それとは正反対の結論を導いたのがロシア宇宙主義の理論家たちである。彼らは人類に、宇宙〔コスモス〕を全面的に支配しよう、そしていま生きている、あるいはかつて生きていたすべての人間を対象にして、個人の不死を保証しようと呼びかけた。このような要請を実現する手段となるべきだとされたのは、中央集権的な世界国家である。要するに、ロシア宇宙主義は理論的な言説であるだけでなく、政治的なプログラムでもあったのだ」(11頁)。本書の目次は以下の通りです。 日本語版への序文「ロシア宇宙主義と日本化する世界」ボリス・グロイス|乗松亨平訳 「ロシア宇宙主義――不死の生政治」ボリス・グロイス|上田洋子訳 ○ニコライ・フョードロフ 解説「フョードロフ――博物館と共同事業の香草」小俣智史 「博物館、その意味と使命」ニコライ・フョードロフ|小俣智史訳 ○アレクサンドル・スヴャトゴル 解説「スヴャトゴル――詩とアナーキズム|上田洋子 「「父たちの教義」とアナーキズム生宇宙主義」アレクサンドル・スヴャトゴル|上田洋子訳 「われわれの主張」アレクサンドル・スヴャトゴル|上田洋子訳 「生宇宙主義の詩学(序章あるいは第一段階)」アレクサンドル・スヴャトゴル|上田洋子訳 ○ヴァレリアン・ムラヴィヨフ 解説「ムラヴィヨフ――愛国貴族の宇宙主義」上田洋子 「普遍生産数学」ヴァレリアン・ムラヴィヨフ|上田洋子訳 ○コンスタンチン・ツィオルコフスキー 解説「ツィオルコフスキー ――無限の進歩と無限の反復」乗松亨平 「汎心論、あるいはすべてのものは感覚をもつ」コンスタンチン・ツィオルコフスキー|乗松亨平訳 「生命の定理(一元論の補足解説)」コンスタンチン・ツィオルコフスキー|乗松亨平訳 「地球と人類の未来」コンスタンチン・ツィオルコフスキー|乗松亨平訳 ○アレクサンドル・ボグダーノフ 解説「ボグダーノフ――生の同志的交換」平松潤奈 「生の目的と規範」アレクサンドル・ボグダーノフ|平松潤奈訳 「老化と闘うテクトロジー」アレクサンドル・ボグダーノフ|平松潤奈訳 「不死の祝日」アレクサンドル・ボグダーノフ|平松潤奈訳 解説|乗松亨平 ★周知の通り類書では、S・G・セミョーノヴァ/A・G・ガーチェヴァ編著『ロシアの宇宙精神』(西中村浩訳、せりか書房、1997年)がありましたが、残念ながら現在品切。訳者あとがきによればロシア語原著『ロシア・コスミズム――哲学思想アンソロジー』は1993年刊で、「セミョーノーヴァによる導入の序文があり、それに続いて十七人の思想家のテクストが収められているが、本書では編者の了解を得て、序文とロシア・コスミズムの全体像をつかむためにもっとも重要な思想家六人を選んで翻訳した」とのこと。帯文に曰く「ロシアの大地に根ざし、近代科学技術に触発されて登場したロシア・コスミズムは、人間の不死復活、生命の謎、宇宙の生成からロケットによる宇宙開発など驚異的な思考と破天荒な想像力に満ち溢れている。本書はその代表的な六人の人物紹介と、彼らの主要な哲学・思想論文(本邦初訳)を収録する」。目次を転記しておきます。 序論「ロシアの宇宙精神」セミョーノーヴァ ○フョードロフ 「共同事業の哲学」 「科学と芸術の矛盾はどのようにして解決できるか?」 ○ソロヴィヨフ 「自然における美」 「愛の意味」 「キリストは蘇りぬ!」 ○ブルガーコフ 「経済のソフィア性」 「社会主義の魂」 ○フロレンスキイ 「器官投影」 「ヴェルナツキイへの手紙」 ○ツィオルコフスキイ 「宇宙の一元論」 「宇宙哲学」 ○ヴェルナツキイ 「人類の独立栄養性」 「精神圏についての緒言」 訳者あとがき ★『パイデイア(中)』は、知泉学術叢書の第31弾。上巻(2018年)に続く全3巻中の第2回配本です。カバー表4紹介文に曰く「ギリシア人の教養と理想的な人間像が相互に作用しつつ形成される経緯を描いた、イェーガーの古典的名著『パイデイア Ⅰ―Ⅲ』(1934-47)を訳出した待望の書。/本冊では第Ⅲ部「偉大な教育者と教育体系の時代」の前半、プラトンの教育哲学を主に扱う」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。凡例によれば、「上巻訳書と比べて、一部の言葉の訳を変更した場合がある(Poesieは詩情ではなく文芸、Rhetorikは修辞学ではなく弁論・修辞術、Gymnastikは体操術ではなく体育、Weisheitは英知ではなく知恵など)」とのことです。 ★なお同書を含むシリーズである知泉学術叢書には、以下の刊行予定があります。5月下旬出来予定第32弾:新神学者シメオン『教理講話』、6月上旬出来予定第33弾:山田弘明/吉田健太郎編訳『デカルト小品集――「真理の探求」「ビュルマンとの対話」ほか』。以後続刊:フランソワ・グザヴィエ・ピュタラ『13世紀の自己認識論――アクアスパルタのマテウスからフライベルクのディートリヒまで』、マンフレート・フランク『シェリング講義――同一哲学の鍵としての「反復的同一性」』。 ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『移動する地域社会学――自治・共生・アクターネットワーク理論』伊藤嘉高(著)、新潟大学人文学部研究叢書:知泉書館、2024年3月、本体4,000円、菊判上製328頁、ISBN978-4-86285-404-9 『『カサブランカ』――偶然が生んだ名画』瀬川裕司(著)、平凡社、2024年5月、本体3,400円、4-6判上製304頁、ISBN978-4-582-28269-6 『予言と言霊 出口王仁三郎と田中智学――大正十年の言語革命と世直し運動』鎌田東二(著)、平凡社、2024年4月、本体3,800円、4-6判上製360頁、ISBN978-4-582-70368-9 『潜る――日本海中紀行』高久至(写真・著)、平凡社、2024年4月、本体7,200円、A4判上製192頁、ISBN978-4-582-27839-2 ★『移動する地域社会学』は、新潟大学准教授の伊藤嘉高(いとう・ひろたか, 1980-)さんが2006年から2023年にかけて紀要や年報、雑誌や論集などに発表してきた11本の論考を加筆修正して1冊にまとめたもの。「本書は、モバイルな地域社会学――「移動する地域社会学」――の構想と実践の書である」(序論、3頁)。「第Ⅰ部「理論と方法」で、これまで不明瞭ないし断片的にしか示されてこなかったANT(アクターネットワーク理論)の方法が有する社会的意義を体系的に明らかにする」(同、10頁)。「第Ⅱ部「ケーススタディ」では、筆者がこの20年間のあいだに日本を含むアジアの各地で、主に地域住民組織に焦点を当てて行ってきたフィールドワークを取り上げ、それぞれの地域社会の構築をANTの方法を用いて記述することの意義を具体的に提示する」(同、11頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★「本書では、第Ⅰ部でANTの社会学的な調査法としての可能性を展開し、第Ⅱ部で筆者がローカル・ガバナンスの実現を念頭に置きながら進めてきた地域社会学のフィールドワークとの接続を図ろうとしている」(あとがき、282頁)。「ANTは、しばしば万事を流動化させようとするばかりで、固定された堅固な構造に対する批判力を持ちえない」と非難されてきた。しかし、本書の記述は、客観的とされる堅固な構造がいかにフラットな事物の連関によって成り立っているのかを明らかにすることで、そうした構造の変容可能性を追究することを目指すものでもある。結論では、この批判力に根ざし、さらなる連関、さらなる包摂による越境的な集合性の形成を促すことが「移動する地域社会学」の意義であることを示す」(序論、12頁)。 ★平凡社新刊より3点。『『カサブランカ』』はまもなく発売。表題の名作映画をめぐり「完成しない脚本、混乱する撮影、いらだつ俳優たち――名作の秘密と、誕生の裏舞台に迫る」(帯文より)と。主要目次は以下の通り。はじめに|主要スタッフ&キャスト一覧|第一章:『カサブランカ』の成立と反響|第二章:主要関係者|第三章:原作『誰もがリックの店に来る』|第四章:すぐれた構成 工夫の数々|おわりに:『カサブランカ』の永遠の魅力|主要参考文献。「筆者は、『カサブランカ』という映画を扱う資料だけでなく、監督や俳優等の関係者、映画会社、ハリウッド映画界の状況、亡命ユダヤ系映画人などについて書かれた関連書籍や資料を、可能なかぎり入手して読んだ。また同様に、約200本の関係ある映画(プロデューサー、監督の手掛けたほかの作品、主要俳優のほかの出演作、戦時下特有の傾向がみられるアメリカ映画など)をDVDや配信等で視聴した。/本書は、そういった調査・研究成果をふまえて執筆したものである」(はじめに、6~7頁)。著者の瀬川裕司(せがわ・ゆうじ, 1957-)さんは明治大学教授。ご専門は映画学、ドイツ文学史とのことです。 ★『予言と言霊 出口王仁三郎と田中智学――大正十年の言語革命と世直し運動』は発売済。京都大学名誉教授の鎌田東二(かまた・とうじ, 1951-)さんによる、『三田文学』誌での連載全12回(2020~2023年)をまとめたもの。「日本近代宗教史に大きな足跡を残す出口王仁三郎と田中智学に対しては、それぞれ個別に多様で豊富な研究がされてきた。だが、両者の生涯と宗教思想と宗教運動を徹底的に比較対照する研究はなされていない。本書は、同時代を生きる共通点や差異性を持つ特異な人物二人を対象軸とすることで、両者の思想や行動や社会特性をより鮮明に立体的に描き出す実験的な試みである」(はじめに、8頁)。 ★『潜る』は発売済。屋久島在住の写真家で水中ガイドの高久至(たかく・いたる, 1982-)さんによる写真集。「北海道から与那国島、小笠原まで35都道府県の変化する海を撮り歩いた水中写真家の集大成」(帯文より)。東シナ海、日本海、北海道、三陸・常磐、太平洋、瀬戸内海、南西諸島、の7部構成。「2016年に旅した順番を主軸にした。鹿児島県本土から時計回りで日本列島を一周したのち、さらに南下して南西諸島の与那国島まで。日本全国を津々浦々随分と潜り歩いた」(はじめに、4頁)。カバー表1のインパクト大の写真は、宗谷岬のやや北方の無人島「弁天島」のトド。荒俣宏さんの推薦文「海のほうから日本の自然を観る旅に、ようこそ」にはこう書かれています。「本書のいたるところに、海からの報告が映し出されている。眼のするどい読者なら、著者も気づかなかった海の変化を発見できるだろう」。
by urag
| 2024-05-12 15:40
| ENCOUNTER(本のコンシェルジュ)
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