2024年 03月 17日
★まず、最近出会いのあった新刊と既刊を列記します。 『哲学ってなんだろう?――哲学の基本がわかる図鑑』DK社(編)、山本貴光(訳)、東京書籍、2024年2月、本体2,200円、A4変形判上製128頁、ISBN978-4-487-81663-7 『パレスチナ解放闘争史』重信房子(著)、作品社、2024年3月、本体3,600円、四六判並製484頁、ISBN978-4-86793-018-2 『孤独と神秘――アリー・シャリーアティーの「沙漠論」にみる現代イランのイスラム思想』村山木乃実(著)、作品社、2024年1月、本体3,800円、ISBN978-4-86793-016-8 ★『哲学ってなんだろう?』は『What's the Point of Philosophy?』(DK Children, 2022)の訳書。「古代哲学から21世紀の現代思想までをイラストで解説、10歳から大人まで楽しめる哲学の入門書」(帯文より)。「「存在」ってなんだろう」「「知識」ってなんだろう」「「正しい」とか「間違っている」ってなんだろう」「「平等」ってなんだろう」「「考える」ってなんだろう」の四部構成。巻末には「哲学の歴史」と「用語集」、索引が添えられています。訳者の山本さん曰く「分からないことを楽しみながら、何度も読むのがコツですよ」とのこと。 ★東京書籍では本書のほか、原著「DK What's the Point of?」シリーズから『算数・数学で何ができるの?――算数と数学の基本がわかる図鑑』(松野陽一郎監訳、上原昌子訳、2021年1月)と『科学って何のためにあるの?――科学の基本的な5つの分野がわかる図鑑』(左巻健男監訳、上原昌子訳、2022年8月)の2点が刊行されています。 ★『パレスチナ解放闘争史』は、帯文に曰く「獄中で綴られた、圧政と抵抗のパレスチナ現代史」。第一部「アラブの目覚め――パレスチナ解放闘争へ(1916年~1994年)」、第二部「オスロ合意――ジェノサイドに抗して(1994年~2024年)」の二部構成。巻末には「パレスチナ民族憲章(1964年5月31日、第1回パレスチナ民族評議会で採択)」「パレスチナ民族憲章(1968年7月17日)」が併録され、年表が付されています。 ★『孤独と神秘』は、村山木乃実(むらやま・このみ, 1991-)さんの博士論文「アリー・シャリーアティーの神秘主義思想にかんする宗教学的研究――西洋と出会いから生まれたイラン的イスラム」(2022年)に加筆修正されたもの。帯文に曰く「本書は、現代イラン知識人を代表する、アリー・シャリーアティー(1933~1977)を本邦で初めて本格的に紹介。主要な文学作品群『沙漠論』の読解を通じて、近現代イランの思想を読み解く上で巨大な座標軸となる思想家、シャリーアティーの精神の内奥に迫る」。 ★シャリーアティー自身の著書の翻訳にはこれまでに『革命的自己形成』(松本耿郎訳、アジア経済研究所、1981年)、『イスラーム再構築の思想――新たな社会へのまなざし』(櫻井秀子訳、大村書店、1997年)の2点がありますが、いずれも絶版。原典ではペルシャ語全集(全36巻)があります。サルトルやファノンとの交友やフーコーによる評価が日本にも伝えられているものの、一般読者はほどんど知らないかもしれません。村山さんの著書によって再評価への機運が高まることを期待したいです。 ★続いて、水声社さんの注目既刊書を列記します。 『震える物質――物の政治的エコロジー』ジェーン・ベネット(著)、林道郎(訳)、水声社、2024年2月、本体3,500円、四六判上製321頁、ISBN978-4-8010-0728-4 『関係性の美学ニコラ・ブリオー(著)、辻憲行(訳)、水声社、2023年12月、本体3,200円、四六判上製256頁、ISBN978-4-8010-0782-6 『聖なる自己――カリスマ派の癒しの文化現象学』トーマス・J・チョルダッシュ(著)、飯田淳子/島薗洋介/川田牧人(監訳)、津村文彦/野波侑里/堀口佐知子/村津蘭(訳)、《人類学の転回》:水声社、2023年12月、本体6,000円、四六判上製457頁、ISBN978-4-8010-0770-3 『摩擦――グローバル・コネクションの民族誌』アナ・ツィン(著)、石橋弘之/岩原紘伊/寺内大左/難波美芸/箕曲在弘(訳)、《人類学の転回》:水声社、2023年12月、本体5,200円、四六判上製474頁、ISBN978-4-8010-0787-1 『ブランショとともに』郷原佳以/安原伸一朗/石井洋二郎/髙山花子/伊藤亮太/門間広明/森元庸介/千葉文夫/石川学(著)、水声社、2024年11月、本体1,000円、四六判アンカット無製本80頁、ISBN978-4-8010-0768-0 『底意地の悪い〈他者〉――迫害の現象学』ジャック=アラン・ミレール(監修)、森綾子/伊藤啓輔(訳)、《言語の政治》:水声社、2023年10月、本体4,000円、A5判上製252頁、ISBN978-4-8010-0750-5 『蜂起――詩と金融における』フランコ・“ビフォ”・ベラルディ(著)、杉田敦(訳)、《批評の小径》:水声社、2023年8月、本体2,500円、四六判上製216頁、ISBN978-4-8010-0744-4 ★『震える物質』は、米国の政治理論家でジョンズ・ホプキンズ大学教授のジェーン・ベネット(Jane Bennett, 1957-)による『Vibrant Matter: A Political Ecology of Things』(Duke University Press, 2010)の全訳。「不活発で受動的だとされてきた物質のもつ媒介作用を豊富な例から析出し、人間と人間以外のものが連鎖・協働する世界=アセンブリッジを思い描く。物=生命の新たなポリティカル・エコロジー」(帯文より)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。 ★「これまでも政治理論は、物質性を重要なものと認めてはきた。だがそこでいう物質性とは、ほとんどの場合、人間社会の諸構造であり、そういった諸構造やその他の諸対象に「体現」された人間的な意味のことを指していた。政治そのものが、往々にして、人間だけにかかわる領域だと考えられていたために、問題になるのは、あくまでもそこに加えられる一連の物質的制約であり、人間の行為の脈絡だったのだ。そういう人間中心主義への頑固なまでの抵抗こそが、私が求めている生命的物質主義と、今触れたような歴史的唯物論との、たぶん最も重要な違いなのだ。私は、そのようにナルシスティックに自動反応する人間の言語と思考への対抗の試みとして、人間以外のものの諸力(それらは自然、人間の身体、人間がつくった物の中で働いている)が様々なことを引き起こす力の重要性を強調、いや、強調以上に力説したい。むしろ私たちは、そのように世界の番人を自称する人間のナルシシズムに対抗するために、〔人間中心主義ではない〕擬人的な見方――人間の媒介作用が非人間的な自然の中にも反響しているとする考え――を多少なりとも養わなければならないのだ」(序、29~30頁)。 ★『関係性の美学』は、フランスのキュレーターで批評家のブリオー(Nicolas Bourriaud, 1965-)の主著『Esthétique relationnelle』(Les Presses du réel, 1998)の全訳。「芸術理論の空白のただなかで、全面的な商品〔コモディティ〕化へ向かいつつある現在のアートを読み解くための必携書」(帯文より)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ブリオーの既訳書には『ラディカント――グローバリゼーションの美学に向けて』(原著2010年;武田宙也訳、フィルムアート社、2022年)がありますが、『関係性の美学』はそれ以前から長らく翻訳が待ち望まれていました。 ★ブリオーはこう書きます。「今や市場価値を持たないものは消え去る運命にある。やがて、商業空間の外部では人間同士の関係は成り立たなくなってしまうだろう。〔…〕全面的な商品化の傾向は、現在の人間関係の空間に強烈な打撃を加えている。〔…〕社会的紐帯は、標準化された人工物に形を変えられたのだ。分業化と超専門化、機械化と収益性が支配する世界では、人間関係を管理可能かつ反復可能な、単純な原理に従属させるように誘導することこそが、支配権力の最優先事項となる。〔…〕現代の芸術的実践は、社会的実験をはぐくむ肥沃な土壌と、行動の画一化から部分的に保護された空間を提供している。本書が考察の対象とする作品は、すべて手の届くユートピアの設計図なのである」(序、16~17頁)。地域の文化拠点を標榜する複合型書店にとっても本書の視点は示唆的となるのではないでしょうか。 ★『聖なる自己』と『摩擦』は、ともにシリーズ「人類学の転回」より。米国の人類学者でカリフォルニア大学サンディエゴ校特別栄誉教授のチョルダッシュ(Thomas J. Csordas, 1952-)による『The Sacred Self: A Cultural Phenomenology of Charismatic Healing』(University of California Press, 1994)の全訳。『摩擦』は、米国の人類学者でカリフォルニア大学サンタ・クルーズ校文化人類学科教授のツィン(Anna Lownhaupt Tsing, 1952-)による『Friction: An Ethnography of Global Connection』(Princeton University Press, 2004)の全訳。チョルダッシュの訳書は初めてのものですが、ツィンの既訳書には『マツタケ――不確定な時代を生きる術』(原著2015年;赤嶺淳訳、みすず書房、2019年;訳書での著者名表記は「アナ・チン」)があります。 ★『ブランショとともに』は、水声社の会員制メールマガジン「コメット通信」に掲載されてきた論考15篇をまとめたもの。製本されていない状態で透明袋に入れて販売されているため、一般書店では購入しにくいかもしれません。目次は以下の通りです。 「力の過剰」としてのエクリチュール|郷原佳以 モーリス・ブランショの変貌|安原伸一朗 燃えさかる空虚――ロートレアモンを読むブランショ|石井洋二郎 夢のような物語|髙山花子 文学と彷徨の真理|伊藤亮太 ブランショと読者|門間広明 ある造語から|森元庸介 ブランショあるいはレシの体験|千葉文夫 第二次世界大戦期のフランスで執筆するということ|安原伸一朗 批評家になること、あるいは、消滅の始まり|郷原佳以 沈黙から沈黙へ|門間広明 はじまりのブランショ|石川学 ブランショと歴史―― 一九四三年のいくつかの時評について|伊藤亮太 一九四二年のブランショ――第一次世界大戦の痕跡に向かって|髙山花子 常套句の振動と消滅――ポーランとブランショ|郷原佳以 ブランショ書誌抄 ★『底意地の悪い〈他者〉』は「叢書 言語の政治」の第27弾。世界精神分析協会(AMP: Association de mondiale Psychanalyse)の主催で2009年2月にパリで開催された症例検討会の記録『L'Autre méchant : Six cas cliniques commentés』(Navarin, 2010) の全訳です。クリスティアンヌ・アルベルティによる「序文」に始まり、第一部「臨床ケースのテクスト」では、ジャン゠ダニエル・マテ、ミケル・バッソル、キャロル・ドゥヴァンブルシ゠ラ・サーニャ、アントニオ・ディ・チャッチャ、フィリップ・ドゥ・ジョルジュ、マリオ・ゼルゲムらの症例報告を収め、第二部「会話」では上記7名にミレールらを加えた討論の様子が活字化されています。 ★『蜂起』は、イタリアの思想家で活動家のフランコ・“ビフォ”・ベラルディ(Franco “Bifo” Berardi, 1949-)による『The Uprising: On Poetry and Finance』(Semiotext(e), 2012)の全訳。「言語の過剰としての詩によって感覚的身体と社会的連帯を再活性化し、金融資本主義の支配に対する蜂起を呼びかける、来るべき闘いの書」(帯文より)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★「お金と言語には共通する何かがある。それは、何もないにもかかわらず、何でも動かしてしまうことだ。それらは象徴、慣習、〔…〕にすぎないが、人間を説得して行動させ、働かせ、物理的なものを変えさせる力を持っているのだ」(155頁)。「しかし、経済と言語のアナロジーに惑わされてはならない。貨幣と言語には共通するものがあるが、言語が経済的な交換を超えるものである以上、それらの運命が一致することはないのだ。詩は非交換制の言語であり、無限の解釈学の再来であり、言語の感覚的身体の復活なのだ。/わたしがここで述べている詩は、言語の過剰であり、あるパラダイムから別のパラダムに移行することを可能にするような隠れた資源のことなのだ」(160~161頁)。
by urag
| 2024-03-17 21:26
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