2023年 12月 17日
★まず注目新刊2点から取り上げます。 『中世イスラーム数学史――エピソードでたどるアラビア数学』J. L. Berggren(著)、三浦伸夫(監訳)、坂田基如(訳)、丸善出版、2023年11月、本体8,000円、A5判上製314頁、ISBN978-4-621-30823-3 『New! ケキャール社顛末記』逆柱いみり(著)、青林工藝舎、2023年11月、本体2,500円、A5判並製400頁、ISBN978-4-88379-508-6 ★『中世イスラーム数学史』は、カナダの数学史家でサイモン・フレーザー大学名誉教授のレン・バーグレン(John Lennart Berggren, 1941-)さんによる『Episodes in the Mathematics of Medieval Islam』(2nd ed., Springer, 2016)の訳書。カバーソデ紹介文に曰く「類書のほとんどないイスラーム数学(アラビア数学)史分野では一番詳しい原書の初翻訳。20世紀後半以降、格段に進歩したアラビア数学研究の最新成果をふんだんに盛り込み、さらに文化的背景(イスラーム文化との関連)にも言及しながら、アラビア数学史の全貌を、多数の珍しい図版を交えて興味深く解説。アラビア数学、組み合わせ法などの話題も紹介。アラビア数学全般を通史的に扱った基本図書の決定版」と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★著者自身による「日本語版へのまえがき」によれば、「アジアの言語への翻訳ははじめて」で、2011年に上梓されたドイツ語訳版での訳者による原著の誤字脱字修正をも参考にしているとのことです。また、こうも書かれています。「本書執筆のきっかけとなったのは、古代数学を扱ったアスガー・アーボーによる『Episodes from the Early History of Mathematics』(A・アーボー『古代の数学』中村幸四郎訳、河出書房新社、1971年)でした。しかしアーボーによる説明の一部は、イスラーム数学の現状には合わないということがわかり、いくつかの重要な著作を中心に中世イスラームの数学を記述していくことを基本原則とすることにしました」。 ★『New! ケキャール社顛末記』は、漫画家の逆柱いみり(さかばしら・いみり, 1964-)さんの第三作品で初の長編作だという『ケキャール社顛末記』(青林堂、1999年)を「あらたに全編描きなおし」(帯文より)したもの。青林工藝舎さんの隔月刊漫画誌『アックス』のweb版『放電横丁』で2020年11月11日から2023年7月20日にかけて掲載された書き下ろし作品を単行本にしたもの。怪獣芸術家のピコピコさんの解説「全てが怪獣になる日」に曰く「今作は『ケキャール社顛末記』を修正、加筆した改訂版なわけだが、カーチェイス部分と共に怪獣描写が劇的に増加し、もはや怪獣漫画と呼んで差し支えないくらいの作品となっている。単なる増補版を越えた、大傑作怪獣漫画が誕生したのだ」。まもなく発売となる『アックス』誌第156号は本書の発売記念特集で、逆柱いみりさんとピコピコさんとの対談「怪獣に呪いと祝福を受けた者たち」が掲載されるとのことです。 ★続いてまもなく発売となる注目新刊をご紹介します。 『悪魔のいる漫画史』後藤護(著)、blueprint、2023年12月、本体2,500円、四六判並製320頁、ISBN978-4-909852-46-5 ★同書は、暗黒批評家の後藤護(ごとう・まもる, 1988-)さんによる、『ゴシック・カルチャー入門』(ele-king Books、2019年)、『黒人音楽史――奇想の宇宙』(中央公論新社、2022年)に続く単独著第三作。blueprintのカルチャーサイト「リアルサウンド」のブック部門で2021年2023年にかけて13回にわたり連載された「マンガとゴシック」を中心に、各種媒体に発表してきたマンガ論を1冊にまとめたもの。版元紹介文に曰く「ゴシック、マニエリスム、悪魔をテーマに古今の漫画を縦横自在に読み解く漫画評論集」。書名は澁澤龍彦さんの『悪魔のいる文学史――神秘家と狂詩人』(中央公論社、1972年;中公文庫、1982年;小学館P+D BOOKS、2022年)から採られているとのこと。印象的なカバー装画は、漫画家の丸尾末広さんによる描き下ろし。目次を以下に転記しておきます。 まえがき――手塚治虫と澁澤龍彦 第1章 楳図かずおのゴシック・マンガ――「赤んぼう少女」から「まことちゃんハウス」まで 第2章 楳図かずおと恐怖のトートロジー ――『神の左手悪魔の右手』における鏡・分身・反復 第3章 『ポーの一族』と「ロマンティックな天気」――疾風怒濤からロココ的蛇状曲線へ 第4章 『アラベスク』に秘められたグロテスクなデーモン――山岸凉子のバレエ・ゴシック【前篇】 第5章 乙女と奈落~『舞姫 テレプシコーラ』で『ヴィリ』を読む――山岸凉子のバレエ・ゴシック【後篇】 第6章 怪奇漫画の帝王、古賀新一の魅力再考――澁澤龍彦が『エコエコアザラク』に与えた影響 第7章 日野日出志「蔵六の奇病」と虹色のデカダンス――ユイスマンス『腐爛の華』から考える「腐れの美学」 第8章 丸尾末広と「独身者機械」――初期エログロナンセンス作品から最高傑作『パノラマ島綺譚』まで。 第9章 楠本まき『KISSxxxx』論 前篇――キュアーで踊る、ハッピーゴスの誕生 第10章 楠本まき『KISSxxxx』論 後篇――日常という名の「不思議の輪」 第11章 百科全書派ゴシックとしての『フロム・ヘル』――パノラマ的視点の問題を突く 第12章 チャールズ・バーンズ『ブラック・ホール』とタラッサ的退行――シアトル、グランジとの同時代的共振 第13章 「河童の斬られた片腕」の謎――水木しげる『決定版 日本妖怪大全』 第14章 諸星大二郎の『壺中天』――風格主義的漫画(Manneristic Comics)試論 第15章 夢幻のカリガリスムとダンディズム――高橋葉介『夢幻紳士』を読む 第16章 水晶の官能、貝殻の記憶――『進撃の巨人』における「小さな」もの 第17章 黒い脳髄、仮面のエロス、手の魔法――三浦建太郎『ベルセルク』を読む 第18章 スプラッター資本主義と糞のカーニヴァル――『チェンソーマン』のダークエコロジカルな倫理 あとがき ★本書の刊行を記念して、以下のイベントが近々に行われます。 ◉Real Sound Collection『悪魔のいる漫画史』刊行記念番組:実写版「悪魔のいる漫画史」 登壇者:後藤護×寺井広樹×宇田川岳夫×ヒロシニコフ 日時:2023年12月21日20時~ 場所:渋谷PARCO9F「SUPER DOMMUNE」 入場料:¥1,000(50人限定) ★巻末略歴によれば、後藤さんは現在、ポリマス(博識)をテーマとする『博覧狂気の怪物誌』(晶文社、2024年刊行予定)、ダグラス・マッカーサーのサングラスの衝撃に始まる『戦後日本黒眼鏡サブカルチャー史』(版元、刊行年未定)の2冊を鋭意準備中とのことです。 ★最後に、最近出会いのあった新刊3点を列記します。 『ラウンドテーブルトーク 児童精神科医という仕事――臨床の過去・現在、そして明日を語る』岩垂喜貴(編著)、小平雅基/渡部京太/齊藤万比古(著)、金剛出版、2023年11月、本体2,800円、4-6判並製224頁、ISBN978-4-7724-2004-4 『戦史の余白――三十年戦争から第二次大戦まで』大木毅(著)、作品社、2023年12月、本体2,000円、46判並製274頁、ISBN978-4-86793-010-6 『日本の「これから」の戦争を考える――現代防衛戦略論』関口高史(著)、作品社、2023年12月、本体2,400円、46判並製274頁、ISBN978-4-86182-981-9 ★『ラウンドテーブルトーク 児童精神科医という仕事』は、カバーソデ紹介文に曰く「本書は,わが国の児童精神科医療に関わる関係者に向けて、臨床における現場感覚を生き生きと感じ取ってもらうことと、児童精神科臨床の現状と問題点や課題を提示することを、主な目的として企画した」。第1部「トークセッション/児童精神科入院治療について」と第2部「四人の児童精神科医によるラウンドテーブル・トーク」の2部構成。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。「4人の医師が、模索し実践してきた臨床の道のりを語る」(帯文より)。 ★作品社さんの12月新刊より2点。『戦史の余白』は、『独ソ戦』(岩波新書、2019年)が近年大きな話題を呼んだ現代史家の大木毅(おおき・たけし, 1961-)さんが、国際通信社のシミュレーション・ゲーム専門誌「コマンドマガジン」に2015年から2022年にかけて寄稿してきたものをまとめ、書き下ろしの「はじめに」「終章」を加えたもの。帯文に曰く「三十年戦争、アメリカ独立戦争、ナポレオンのロシア遠征、第二次大戦でのウクライナを舞台にした戦いから、マンシュタイン、山本五十六などの知られざる秘話まで――従来の正面からの評論とは趣が異なるが、戦史・軍事史のさまざまな側面を、いわばからめ手から描きだしたユニークな一書。軍事史の第一人者による、最新の戦史」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★『日本の「これから」の戦争を考える』は、帯文によれば「現代戦の教訓となる過去の二つの戦い〔ガダルカナル戦、フォークランド紛争〕から具体的に学び、〔…〕その視座となる「戦争の基本的事項」「戦略環境の醸成」「抑止対処戦略の基本コンセプト」、そして具体的な「島嶼防衛」などを〔…〕安全保障研究の第一人者が示す」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。著者の関口高史(せきぐち・たかし, 1965-)さんは元防衛大学校准教授。
by urag
| 2023-12-17 20:21
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