2023年 10月 29日
★おかげさまでコロナ感染のつらい時期は脱しましたが、咳と痰がしつこく続いています。皆様もどうぞお気を付けください。先週に引き続き省力発信となります。まず最初に注目の新書新刊既刊を列記します。 『訂正する力』東浩紀(著)、朝日新書、2023年10月、本体850円、新書判248頁、ISBN978-4-02-295238-7 『闇の精神史』木澤佐登志(著)、ハヤカワ新書、2023年10月、本体1,020円、新書判320頁、ISBN978-4-15-340014-6 『かたちには理由がある』秋田道夫(著)、ハヤカワ新書、2023年8月、本体900円、新書判144頁、ISBN978-4-15-340010-8 『近代美学入門』井奥陽子(著)、ちくま新書、2023年10月、本体1,100円、新書判320頁、ISBN978-4-480-07584-0 『最強に面白い 哲学――科学の起源は哲学! 現代科学と向き合うために必須の哲学入門!!』ニュートン超図解新書、2023年10月、本体900円、新書判200頁、ISBN978-4-315-52746-9 『恐怖の正体――トラウマ・恐怖症からホラーまで』春日武彦(著)、中公新書、2023年9月、本体920円、新書判264頁、ISBN978-4-12-102772-6 『「狂い」の調教――違和感を捨てない勇気が正気を保つ』春日武彦/平山夢明(著)、扶桑社新書、2023年3月、本体880円、新書判248頁、ISBN978-4-594-09375-4 ★うち、2点について特記します。まず『訂正する力』は、「デビュー30周年を飾る集大成『訂正可能性の哲学』を実践する決定版」(帯文より)。語り下ろしで、聞き手と構成は近代史研究家の辻田真佐憲さんが担当されています。「刊行にあたっては、辻田さんの構成を、ぼく自身の言葉でもういちどすべて語りなおしています」(おわりに、240頁)とのこと。主要目次は以下の通りです。 はじめに 第1章 なぜ「訂正する力」は必要か 第2章 「じつは……だった」のダイナミズム 第3章 親密な公共圏をつくる 第4章 「喧騒のある国」を取り戻す おわりに ★「日本にいま必要なのは「訂正する力」です。〔…〕そこで必要になるのは、トップダウンによる派手な改革ではなく、ひとりひとりがそれぞれの現場で現状を少しずつ変えていくような地道な努力だと思います。/〔…〕小さな改革を後押しするためには、いままでの蓄積を安易に否定するのではなく、むしろ過去を「再解釈」し、現在に生き返らせるような柔軟な思想が必要です。ぼくは本書でその思想について語っていきます。/ものごとをまえに進めるために、現在と過去をつなぎなおす力。それが本書の言う「訂正する力」です」(はじめに、3~4頁)。 ★「老いるとはなんでしょうか。それは、若いころの過ちを「訂正」し続けるということです。30歳、40歳になったら20歳のころと考えが違うのは当然だし、50歳、60歳になってもまた変わってくる。同じ自分を維持しながら、昔の過ちを少しずつ正していく。それが老いるということです。老いるとは変化することであり、訂正することなのです」(6頁)。「もし可能であれば、本書は、ものをつくっているひと、なにかひとつのことをやり続けているひとに手に取ってもらいたいと願っています」(おわりに、242頁)。 ★次に『闇の精神史』は、巻末特記によれば「『SFマガジン』2021年2月号から2023年2月号にかけて連載された「さようなら、世界――〈外部〉への遁走論」を加筆修正し、まとめたもの」。主要目次は以下の通りです。 まえがき 第1章 ロシア宇宙主義――居住区〔コロニー〕としての宇宙 第2章 アフロフューチャリズム――故郷〔ルーツ〕としての宇宙 第3章 サイバースペースーーもうひとつのフロンティア 終章 失われた未来を解き放つ 注 ★「まえがき」の全文はウェブで公開されています。以下では終章から引きます。「過去は生きている。失われた記憶として。無数の別の可能性をもつ集団的な夢として。それは目覚めさせることのできる死者である。死者の復活というプロジェクト、それはほかならぬ過去それ自体に対してこそ思考さればければならない。/近代を乗り越えるのではなく、近代の夢(ただし近代自身すら必ずしも十分に意識化することのなかった夢)を救い出すことによってユートピアは達成されるのかもしれない」(292頁)。 ★「時間の流れとともに忘れ去られていった、実現されなかった可能性や失われた夢。瓦礫と塵埃の中からそれらの破片を掘り起こして未来の消失点から差し込んでくる一条の光に反照〔リフレクト〕させんとする営為こそは、未来を想像することのできないノーフューチャーな現在において意味を持ちうるのではないだろうか」(293頁)。 ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『ゲンロン15』ゲンロン、2023年10月、本体2,300円、A5判284頁、ISBN978-4-907188-52-8 『ニューロ――新しい脳科学と心のマネジメント』ニコラス・ローズ/ジョエル・M・アビ=ラシェド(著)、 檜垣 立哉(監訳)、櫛原克哉/志水洋人/野島那津子/山田理絵(訳)、叢書・ウニベルシタス:法政大学出版局、2023年10月、本体5,200円、四六判上製542頁、ISBN978-4-588-01161-0 『共感の共同体――感情史の世界をひらく』伊東剛史/森田直子(編)、平凡社、2023年10月、本体6,500円、A5判上製376頁、ISBN978-4-582-83937-1 『現代思想2023年11月号 特集=〈水〉を考える――水文学、河川工学から水中考古学まで』青土社、2023年10月、本体1,600円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1454-4 ★『ゲンロン15』は、東浩紀さんの巻頭論文「哲学とはなにか、あるいは客的-裏方的二重体について」に始まり、作家の川上未映子さんによるエッセイ「春に思っていたこと」、原一男・大島新・石戸諭の三氏による座談会「ドキュメンタリーはエンターテインメントでなければならない」、三宅陽一郎さん、宮﨑裕助さん、山内志朗さんの寄稿のほか、東さんによるユク・ホイさんへのインタヴュー「「わたしは自分の問いに忠実でありたい」――ポストモダンとアジアと哲学をめぐる対話」などを収録。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。 ★東さんの論考冒頭の導入部分から引きます。「ぼくはこの原稿で、もういちど12年前の直感について考えてみたいと思う。そのうえで現代における哲学の役割を再定義したい。/消費社会の幻想について考えること。そえはぼくの考えでは、けっして現実逃避でもなければ、政治的思考の下位にある余技でもない。むしろ「人間とはなにか」を考えるうえでとても重要なことだ」(11頁)。「世界はテーマパークのようにできている。だからテーマパークの構造を考えることは哲学的だし、むしろこれからの哲学者はテーマパークのスタッフのような役割を担うことになる。ぼくは本稿でそのようなことを主張する」(12頁)。 ★続いて本論より引きます。「客が存在しなければ裏方も存在しない。裏方がものを考えるのは、客がものを考えなくてもよいようにするためだ。そしてその客はべつの局面では裏方になり、裏方はこんどは客になる。ぼくたちはそのように「ものを考える局面」と「ものを考えない」局面がモザイク状に組み合わされた時代を生きている。いいかえれば現実と幻想が不可分に絡み合った時代を生きている。それが消費者的-生産者的、あるいは客的-裏方的二重体の時代だ。/だから、この時代の総体を捉えるためには、現実を見ろ、裏方を見ろ、おまえの安楽な消費生活が踏みつけにしているものを見ろ、というだけではだめなのだ。現代社会はそんなに単純にはできていない。ぼくたちはむしろ、客であること、動物であること、「ものを考えないこと」の意味を考えねばならない」(23頁)。 ★『ニューロ』は、英国の社会学者ニコラス・ローズ(Nikolas Rose, 1947-)と、医学史家のジョエル・アビ=ラシェド(Joelle Abi-Rached)の共著『Neuro: the new brain sciences and the management of the mind』(Princeton University Press, 2013)の全訳。「〔この書物では〕脳と心の新しい科学に対するより肯定的な関係の方向性のいくつかを描きだしてみたい」(序論、5頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。 ★『共感の共同体』は論文集。共感とは何かをめぐり、歴史的な視点から考え直そうとするもの。「共同体の感情的紐帯」「汽水域の世界の共感」「共感を再定義する」「戦争が日常化した世界の共感」「共同体の感情的瓦解と再編」の5部構成で9本の論考と、編者による序章と終章を収録。寄稿者は掲載順に森田直子、倉田明子、ジョン・ポーター、舘葉月、伊東剛史、大鳥由香子、小田原琳、クリントン・ゴダール、鈴木健太、の各氏。 ★『現代思想2023年11月号 特集=〈水〉を考える』は、版元紹介文によれば「水の総合科学である水文学から環境倫理、考古学や文化人類学といったさまざまな領域から、水を治める/と共に生きることを問う」特集号。蔵治光一郎さんと福永真弓さんの討議「意味ある〈水〉を取り戻すために――水の科学と作法のゆくえ」をはじめ、論考20本と資料を収載。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。
by urag
| 2023-10-29 18:59
| ENCOUNTER(本のコンシェルジュ)
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