2023年 02月 12日
★2月10日、月刊「中央公論」誌2023年3月号で「新書大賞2023」の発表があり、例年通り私も参加いたしました。選考対象は、2021年12月から2022年11月までに刊行された新書です。私が選んだ5冊は「目利き48人が選ぶ2022年私のオススメ新書」に掲載されています。書名を上げると、以下の通りです。 【1】『現代思想入門』千葉雅也[著]、講談社現代新書、2022年3月 【2】『ブルシット・ジョブの謎』酒井隆史[著]、講談社現代新書、2021年12月 【3】『スピノザ』國分功一郎[著]、岩波新書、2022年10月 【4】『パンデミック監視社会』デイヴィッド・ライアン[著]、松本剛史[訳]、ちくま新書、2022年3月 【5】『心的現象論・本論』吉本隆明[著]、知の新書SONDEOS、2022年1月 ★このうち、千葉さんの本が大賞を受賞し、國分さんのが6位に入賞となりました。私が毎年選んでいる書目がベスト20と重なることはほとんどなく、ましてや1位になることは今までなかったと記憶しています。今後の書き手が「現代思想入門」を書く時、千葉さんの本書を売上、反響、内容において凌ぐのはなかなかたいへんだと思います。 ★受賞記念で公開された記事が3つあります。ひとつは受賞インタビュー「学術を身体的に咀嚼し、社会と繫ぐ」(中央公論、2023年2月10日付)で、これは誌上でも掲載されています。また『現代思想入門』巻頭の「はじめに 今なぜ現代思想か」を2回に分けて転載した、「新書大賞受賞! ‟きちんと化”する世界になぜ現代思想が必要なのか」(現代ビジネス/現代新書、2023年2月11日付)、「グレーゾーンこそ人生のリアル! 新書大賞受賞者の究極の哲学――二項対立的思考を揺さぶれ」(現代ビジネス/現代新書、2023年2月11日付)も公開されました。また受賞前、刊行後の関連記事として、千葉さんへのインタヴュー「哲学者・千葉雅也が語る、「哲学・思想」と「自己啓発・ライフハック」の意外な関係」(現代ビジネス、2022年6月4日付)と「哲学者・千葉雅也が語る、「現代思想をスルメのようにじっくり噛み締める」ための方法」(現代ビジネス、2022年6月4日付)もご参照ください。 ★今回の「新書大賞2023」では5点選びましたが、私が考えるほかの候補としては、次の書目がありました。 『超訳 芭蕉百句』嵐山光三郎[著]、ちくま新書、2022年9月 『スピノザ――人間の自由の哲学』吉田量彦[著]、講談社現代新書、2022年2月 『中国哲学史――諸子百家から朱子学、現代の新儒家まで』中島隆博[著]、中公新書、2022年2月 『合成生物学』ジェイミー・A・デイヴィス[著]、藤原慶[監訳]、徳永美恵[訳]、ニュートン新書、2022年4月 『人新世の科学――ニュー・エコロジーがひらく地平』オズワルド・シュミッツ[著]、日浦勉[訳]、岩波新書、2022年3月 『わかりあえない他者と生きる――差異と分断を乗り越える哲学』マルクス・ガブリエル[著]、大野和基[インタビュー・編]、月谷真紀[訳]、PHP新書、2022年3月 『ウクライナ危機後の世界』ユヴァル・ノア・ハラリ/ジャック・アタリ/ポール・クルーグマン/ジョセフ・ナイ/ティモシー・スナイダー/ラリー・ダイアモンド/エリオット・ヒギンズ[著]、大野和基[編]、宝島新書、2022年7月 『コロナ後の未来』ユヴァル・ノア・ハラリ/カタリン・カリコ/ポール・ナース/リンダ・グラットン/リチャード・フロリダ/スコット・ギャロウェイ/イアン・ブレマー[著]、大野和基[編]、文春新書、2022年3月 『第三次世界大戦はもう始まっている』エマニュエル・トッド[著]、大野舞[訳]、文春新書、2022年6月 ★『中央公論』3月号では新書大賞関連のほかに注目記事が色々とありました。「時評2023」の3篇、岩間陽子「改革と革命とPTA」、井上智洋「柄谷行人の思想と日本経済の衰退」、河野有理「福沢諭吉と「二月の勝者」」。特集「独裁が崩れるとき」での対談、小泉悠×熊倉潤「プーチンと習近平の急所はどこにあるのか?――二つの権威主義体制を徹底解剖」。新刊刊行に合わせた鼎談で、菅義偉×北村滋×橋本五郎「回顧録が明かす安倍政治の戦略と人事――憲政史上最長政権の軌跡」。連載では、角幡唯介「冒険の断章【第38回】〈実在の精髄〉とは何か」。特に角幡さんのテクストは、三島由紀夫の『太陽と鉄』『金閣寺』での記述と、ご自身の北極行や登山での極限的経験を重ね合わせたもので、非常に啓発的でした。ここ最近読んだすべての雑誌記事の中でもっとも胸に刺さりました。いいずれ単行本化されるのだろうと思いますが、非常に楽しみです。 +++ ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。書誌情報を列記します。 『独学の思想』上村忠男[著]、未來社、2022年2月、本体5,600円、46判上製392頁、ISBN978-4-624-01201-4 『哲学者がみた日本競馬――昭和から令和、21世紀の競馬場に立つ』檜垣立哉[著]、教育評論社、2023年2月、本体1,700円、四六判並製184頁、ISBN978-4-86624-074-9 『日本人美術家のパリ 1878-1942』和田博文[著]、平凡社、2023年2月、本体5,000円、A5判上製436頁、ISBN978-4-582-20729-3 +++ ★今回から始めるはずだった「なにものか」については私用に遮られ、なおも準備中。これといった特別なスタートではなく、不意に始まることになるだろう。そしてそれはしばしば遮られるだろう。 +++
by urag
| 2023-02-12 21:41
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