2022年 11月 06日
★まもなく発売となる、ちくま学芸文庫11月新刊4点5冊を列記します。 『ブラッドランド――ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実(上・下)』ティモシー・スナイダー[著]、布施由紀子[訳]、ちくま学芸文庫、2022年11月、本体各1,600円、文庫判478頁/528頁、ISBN978-4-480-51144-7/51145-4 『言語学を学ぶ』千野栄一[著]、ちくま学芸文庫、2022年11月、本体1,000円、文庫判272頁、ISBN978-4-480-51134-8 『病気と治療の文化人類学』波平恵美子[著]、ちくま学芸文庫、2022年11月、本体1,200円、文庫判352頁、ISBN978-4-48-051152-2 『沖縄の食文化』外間守善[著]、ちくま学芸文庫、2022年11月、本体1,000円、文庫判228頁、ISBN978-4-480-51154-6 ★『ブラッドランド』は、2015年に筑摩書房より刊行された単行本上下巻の文庫化。原著は2010年刊で、2022年に新版が刊行。これに付された新しいあとがきが、今回の文庫版では新たに訳出されています。訳者あとがきも新しく書き直されています。帯文に曰く「惨劇の全貌・・・ウクライナ、ポーランド、ベラルーシ、バルト三国。ロシアと西欧諸国に挟まれた地で起きた知られざる歴史」。「封印された歴史・・・都合な真実を隠蔽したのは誰か――空前の国家権力の犯罪を暴く歴史書の金字塔」。ブラッドランド=流血地帯とはすなわち、ナチスとソ連の暴虐によって第二次大戦と大祖国戦争で1400万人の市民が命を落としたウクライナ、ポーランド、ベラルーシ、バルト三国を指します。 ★『言語学を学ぶ』は、2002年に三省堂より刊行された『言語学 私のラブストーリー』を改題文庫化したもの。第Ⅰ部「言語学へのいざない」では、音声学、音韻論、比較言語学など、16のキーワードを解説し、第Ⅱ部「近代言語学を築いた人々」ではクルトネ、ソシュール、マテジウス、カルツェフスキー、マルティネ、メシチャニーノフ、サピア、ヤコブソン、メイエ、河野六郎が、簡潔に紹介されています。著者は2002年に逝去されています。巻末には、千野亜矢子さんによる「あとがき」と、東京大学准教授の阿部賢一さんによる解説「言葉をこよなく愛した言語学者」が加わっています。 ★『病気と治療の文化人類学』は、1984年に海鳴社より刊行された単行本の文庫化。文庫化にあたり加筆修正を行ったとのことです。「原著の文章のわかりにくい箇所を手直しし、文脈上必要な情報を加筆し、最小限であるが、新しい研究成果も加えている」と「文庫版著者あとがき」に記されています。巻末には東京大学の浜田明範さんによる文庫版解説「パイオニアの凄み」が加わっています。 ★『沖縄の食文化』は、2010年に沖縄製粉株式会社が刊行した単行本の文庫化。文庫化に際し、大幅な加筆修正が施されているとのこと(著者は2012年に没しているため、文庫編集部と著作権継承者との間で合議のもと行ったと巻末に特記されています)。巻末解説「偉大なるガチマヤー」は斎藤真理子さんが寄せられています。ガチマヤーとは食いしん坊のこと。 ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『ゲンロン13』ゲンロン、2022年11月、本体2,800円、A5判並製500頁、ISBN978-4-907188-47-4 『野生の教養――飼いならされず、学び続ける』岩野卓司/丸川哲史[編]、法政大学出版局、2022年11月、本体2,800円、四六判並製378頁、ISBN978-4-588-13033-5 ★『ゲンロン13』は、いわゆるメイン特集はなく、東さんの巻頭論文「訂正可能性の哲学2、あるいは新しい一般意志について」、東さんと梶谷懐さん、山本龍彦さんの座談会「情報時代の民主主義と権威主義」などを中心とし、小特集「ロシア的なものとその運命」では、座談会や翻訳論考のほか、「ポストソ連思想史関連年表(2)2018-2022」が掲載されています。目次詳細や、東さんのメッセージは誌名のリンク先をご覧ください。編集後記によれば、来春には「別冊ゲンロン」が出版されるとのこと。 ★東さんの巻頭論文の冒頭より引用します。「民主主義の危機が世界中で叫ばれている。本論は、その状況に呼応しつつ、2011年に刊行した『一般意志2.0』という著作の主題を論じなおし、民主主義と政治の未来について考えるために書かれた論文である。民主主義と政治の未来について考えるとは、すなわち人間の未来について考えるということでもある。/ここに掲載されるのはその論文の三分の二ほどである。残りは2023年の春に刊行予定の書籍で発表される。同書には、本論文と1年前に『ゲンロン12』に発表した論文「訂正可能性の哲学」が併せて収録される予定である」(40頁)。 ★『野生の教養』は、明治大学大学院教養デザイン研究科の教員による教養入門の書。「私たちが本書で提案したい教養は「野生の教養」というものである。野生とはまずは「飼いならされていない」ということである。現代社会では私たちは飼いならされた思考にあまりに慣れてしまっている。だからこそ、野生が見直されている。野生というのは、単に原始時代やアフリカのジャングルに特有なものではない。実は私たちの日常に潜んでいるのだ。身近な自然に触れたときはもちろんのこと、ポケモンなどのアニメのキャラクターやゲームなどにも野生を感じることはできる。慣れ親しんだ日常をちょっと違った角度から眺めてみただけで、私たちは野生に出会う驚きを体験する。教養のなかで無意識のうちに眠っている野生を暴き出すのが本書の目的である」(「はじめに」より)。 ★「「野生」による教養の問い直しは、従来の教養が基盤にしている西欧中心の歴史の問い直しにもつながる。〔…〕「未開」の人たちに固有な歴史は無視されており、西欧との関係においてしか彼らの歴史は普遍的な歴史に登録されえないのだ。こういった歴史観に抗して、「野生の教養」は「野生」を歴史の原点に据えながら、「未開」の人たちに固有な歴史を解放することで歴史を再解釈していく。ここに今までの教養とは違う教養の新たな姿が見えてくるだろう」(同)。「“野生”の思考」「“野生”の政治」「“野生”の人類史」の三部構成。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。 ★続いて金剛出版さんの11月新刊より3点。 『精神分析のゆくえ――臨床知と人文知の閾』十川幸司/藤山直樹[編著]、金剛出版、2022年11月、本体3,400円、4-6判上製256頁、ISBN978-4-7724-19321 『はじめてのメラニー・クライン グラフィックガイド』ロバート・ヒンシェルウッド/スーザン・ロビンソン[著]、オスカー・サーラティ[絵]、松木邦裕[監訳]、北岡征毅[訳]、金剛出版、2022年11月、本体2,400円、A5判並製192頁、ISBN978-4-7724-1915-4 『精神分析のパラダイム・シフト――アンドレ・グリーンの精神分析』ロジーヌ・ジョゼフ・ペレルバーグ/グレゴリオ・コホン[編]、館直彦/増尾徳行[監訳]、加茂聡子/工藤晋平/鈴木菜実子/吉村聡 [訳]、金剛出版、2022年11月、本体4,000円、A5判上製208頁、ISBN978-4-7724-1931-4 ★『精神分析のゆくえ』は、「2016年から始められた、小寺記念精神分析研究財団主催「学際ワークショップ」の第1回から第5回までの発表を、1冊の書物にしたもの」(「はじめに」より)。「精神分析を人文学との関係で捉え直すという試み」であり、「この試みは、今後も継続して行う予定である」(同)とのことです。寄稿者は、國分功一郎、藤山直樹、原和之、佐藤淳二、妙木浩之、立木康介、松木邦裕、十川幸司、久保田泰考、岡田温司、宮﨑裕助、村上靖彦、の各氏。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。特に岡田さんの「ジョルジョ・アガンベンと精神分析」、宮﨑さんの「共感の共同体論再考――来たるべきテレパシー民主主義のために」は、本書が心理学書売場だけでなく哲学書売場で同時展開されても充分に読者の興味を惹くものではないかと思われます。 ★『はじめてのメラニー・クライン グラフィックガイド』は、『Introducing Melanie Klein: A Graphic Guide』(Icon Books, 1997)の全訳。イラストを多用した概説書シリーズ「FOR BEGINNERS」の1冊。現代書館から翻訳出版された同シリーズでは、『フロイト』1980年、『ユング』1993年、『ラカン』1997年などの既刊書があります。いっぽう、『精神分析のパラダイム・シフト』は、『The Greening of Psychoanalysis: Andre Green's New Paradigm in Contemporary Theory and Practice』(Routledge, 2017)の訳書。リツァ・グティエレス-グリーン、ロジーヌ・ジョゼフ・ペレルバーグ、ジェド・セコフ、グレゴリオ・コホン、マイケル・パーソンズらが寄稿しています。 ★最後に作品社さんの10~11月の新刊より3点。 『パゾリーニ』四方田犬彦[著]、作品社、2022年11月、本体12,000円、A5判上製1088頁、ISBN978-4-86182-943-7 『新海誠論』藤田直哉[著]、作品社、2022年10月、本体2,000円、四六判並製224頁、ISBN978-4-86182-934-5 『Forget it Not』阿部大樹[著]、作品社、2022年10月、本体2,200円、四六判変型上製208頁、ISBN978-4-86182-937-6 ★特筆すべきは、四方田さんの書き下ろし3000枚のライフワーク『パゾリーニ』。全24章と補論2篇。「本書の意図はきわめて単純なものである。パゾリーニの側に立って人生を見つめること。パゾリーニが芸術創造にあたって抱いていた情熱の諸相を見定めること。この二点につきる」(「後書き」より)。A5判2段組で1000頁を超える大作です。 ★藤田さんの『新海誠論』は「映像作品、関連書籍、本人インタビューなど網羅、『すすめの戸締まり』への軌跡を完全解明」(帯文より)。阿部さんの『Forget it Not』は精神科医で翻訳家の著者による初めての論文およびエッセイ集とのこと。
by urag
| 2022-11-06 23:13
| ENCOUNTER(本のコンシェルジュ)
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