2022年 08月 21日
『メタファー学のパラダイム』ハンス・ブルーメンベルク著、村井則夫訳、法政大学出版局、2022年8月、本体3,800円、四六判上製346頁、ISBN978-4-588-01146-7 『ポストドラマ演劇はいかに政治的か?――レーマン演劇論集』ハンス=ティース・レーマン著、林立騎訳、白水社、2022年8月、本体4,000円、4-6判上製254頁、ISBN978-4-560-09437-2 『ソクラテス言行録 2』クセノポン著、内山勝利訳、京都大学学術出版会:西洋古典叢書、2022年7月、本体3,000円、四六変上製264頁、ISBN978-4-8140-0284-9 『オランダ旅行』ディドロ著、川村文重訳、京都大学学術出版会:近代社会思想コレクション、2022年7月、本体3,800円、四六判上製260頁、ISBN978-4-8140-0432-4 『オルター・ポリティクス――批判的人類学とラディカルな想像力』ガッサン・ハージ著、塩原良和/川端浩平監訳、前川真裕子/稲津秀樹/高橋進之介訳、明石書店、2022年7月、本体3,200円、4-6判並製432頁、ISBN978-4-7503-5441-5 ★『メタファー学のパラダイム』は、ドイツの思想史家ハンス・ブルーメンベルク(Hans Blumenberg, 1920-1996)の1960年の著作『Paradigmen zu einer Metaphorologie』の訳書。帯文に曰く「初期著作にして、後年の思想的展開をも予見する格好の案内書」。なお原書は2013年にズーアカンプから、アンゼルム・ハーファーカンプ(Anselm Haverkamp, 1943-)による長大なコメンタールを付した新版が刊行されています。 ★「メタファー学の「範例論」とは、これからなされるべき「より深い探求」のための予備的作業を課題とするにすぎない。その予備的考察は、絶対的メタファーが潜んでいると思われる領域を見極め、絶対的メタファーの確定基準を考察するものである。これらのメタファーが「絶対的」と呼ばれるのは、それが厳密な「術語」を求める要求に抗う自立性ももつからであり、けっして「概念」へ解消されることがないからである。しかし、あるメタファーが別のメタファーによって代替・代理されたり、より厳密なメタファーによって修正されたりすることは起こりうる。したがって、絶対的メタファーといえども「歴史」をもつ。絶対的メタファーは、概念よりも根本的な意味で歴史をもっている。メタファーの歴史的変遷は、概念の変容を引き起こす歴史的意味地平の変化、把握様式の変化に関わる「メタ運動論」を出現させる。このメタ運動論という階層的関係によって、メタファー学が、(狭義の術語的意味での)概念史に貢献することが示される。メタファー学は思考の下部構造へ遡り、体系的な結晶群の基底ないし析出層への接近を試みる。そしてまた、精神が自らの像を先取りするにはどれほどの「果敢さ」が必要であるかを自覚し、さらには歴史を描くにはどれほど大胆な推測が求められるかを、身をもって示さなければならない」(8頁)。 ★『ポストドラマ演劇はいかに政治的か?』は、ドイツの演劇学者ハンス=ティース・レーマン(Hans-Thies Lehmann, 1944-)の2000年から2020年に発表された論考10本をまとめた日本語版オリジナル論集。随所に20世紀フランス思想の重要哲学者たちへの参照があります。レーマンの代表作『ポストドラマ演劇』(原著1999年刊;訳書、谷川道子ほか訳、同学社、2002年初版、2006年再版)が長期品切のなか、待望の刊行です。 ★『ソクラテス言行録 2』は、「西洋古典叢書」2020第5回配本。同叢書2020は全5巻完結で、「ソクラテス言行録」も全2巻完結です。第2巻は「家政管理論」「酒宴」「ソクラテスの弁明」の3作を収録。既刊書『ソクラテス言行録 1』は遡ること10年前に刊行(内山勝利訳、2011年3月)され、「ソクラテス言行録」を収録。 ★『オランダ旅行』は、「近代社会思想コレクション」第33巻。18世紀フランスの啓蒙思想家ドゥニ・ディドロ(Denis Diderot, 1713-1784)が1773年から1774年に執筆し、1818年に公刊した晩年の旅行記『オランダとオーストリア領ネーデルラントへの旅』の訳書。女帝エカテリーナ二世に再三勧められ、60歳目前に出立。本文の4分1は他の著者の文献からの引き写しだそうで、実はディドロは「筋金入りの出不精」(訳者解説、195頁)だったそうです。 ★『オルター・ポリティクス』は、レバノンに生まれオーストラリアで活躍する人類学者ガッサン・ハージ(Ghassan J. Hage, 1957-)の著書『Alter-Politics: Critical Anthropology and the Radical Imagination』(Melbourne University Press, 2015)の訳書。帯文に曰く「他者の否認に抗する共生の思考」。ハージの既訳書には『ホワイト・ネイション――ネオ・ナショナリズム批判』(保苅実/塩原良和訳、平凡社、2003年)、『希望の分配メカニズム――パラノイア・ナショナリズム批判』(塩原良和訳、御茶の水書房、2008年)がありますが、前者は長期品切。既刊や新刊も早めに購入しておく必要があります。 ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『非暴力の力』ジュディス・バトラー著、佐藤嘉幸/清水知子訳、青土社、2022年8月、本体2,400円、四六判並製256頁、ISBN978-4-7917-7486-9 『水俣病闘争史』米本浩二著、河出書房新社、2022年8月、本体2,500円、46判上製232頁、ISBN978-4-309-22862-4 『第二世界のカルトグラフィ』中村隆之著、共和国、2022年8月、本体2,500円、四六変型判上製224頁、ISBN978-4-907986-91-9 ★『非暴力の力』は、米国の哲学者ジュディス・バトラー(Judith Pamela Butler, 1956)の著書『The Force of Nonviolence: An Etico-Political Bind』(Verso, 2020)の全訳。2010年代後半の各大学での講義をもとに加筆改訂されたもの。訳者曰く「戦争とレイシズムの時代における非暴力のマニフェスト」。 ★『水俣病闘争史』は、元新聞記者で著述家、大学非常勤講師の米本浩二(よねもと・こうじ, 1961-)さんによる水俣病闘争の通史。「公害問題の原型である水俣病は、21世紀の諸問題に通じるものがある。〔…〕水俣病闘争は現在の諸問題とまったく相似形にある」と訳者は書いています。 ★『第二世界のカルトグラフィ』は、フランス語圏の文学研究がご専門の中村隆之(なかむら・たかゆき, 1975)さんによる「図書新聞」での連載「感傷図書館」(2017~2021年)を中心に加筆再構成したもの。「故郷でも国でもない」、「普段、わたしたちの想像力からは隠されている未知の場所」であり、「あったらいい」世界のヴィジョンとしての「第二世界」をめぐる一冊。
by urag
| 2022-08-21 22:54
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