2022年 01月 30日
★まず、最近の注目新刊を掲出します。 『ラディカント――グローバリゼーションの美学に向けて』ニコラ・ブリオー著、武田宙也訳、フィルムアート社、2022年1月、本体2,600円、四六判上製296頁、ISBN978-4-8459-1818-8 『ルツィンデ 他三篇』フリードリヒ・シュレーゲル著、武田利勝訳、幻戯書房、2022年1月、本体3,600円、四六変上製360頁、ISBN978-4-86488-240-8 『ドゥルーズと革命の思想』鹿野祐嗣編著、廣瀬純/堀千晶/山﨑雅広著、以文社、2022年1月、本体4,200円、四六判上製424頁、ISBN978-4-7531-0367-6 ★『ラディカント』は、フランスの敏腕キュレーターとして著名なニコラ・ブリオー(Nicolas Bourriaud, 1965-)の単独著初訳。原著は『Radicant : pour une esthétique de la globalisation』(Denoël, 2009)です。版元紹介文に曰く「起源としての唯一の「根」を讃えた「ラディカル」なモダニズムとも、多文化主義的なポストモダンや多様で同時的な組織網たるリゾーム(地下茎)とも異なる、前進するにつれて根を伸ばし張りなおしていく「ラディカント(radicant)」的あり方を備えたモダニティ=オルターモダンという視座を提示」と。巻頭の序論で、ブリオー自身は次のように書いています。 ★「ラディカントという付加形容詞は、前進するにつれて根を伸ばし、また増やしてゆく有機体を指すものである。ラディカントであることとは、みずからの根を異質な文脈やフォーマットのなかで演出することであり、そこで始動させることである。わたしたちのアイデンティティを完全に定義する力を根に認めないことである。観念を翻訳することであり、行動を移植することであり、押しつけよりもむしろ交換することである。もし21世紀の文化が、同時的あるいは連続的に数多くの根を張るためにみずからの起源を消去することを企図する作品とともに創出されるとしたら? この消滅課程は、放浪者の条件の一部をなしている。放浪者とは、われらが不安定な時代の中心的な人物像であり、現代の芸術的想像の中心にあらわれ、執拗にとどまるものである。この人物像は、諸形態の領域――形態=行程という領域――やある倫理様態を伴っている。つまり翻訳である。本書はこの翻訳の諸様相をリスト化し、現代文化におけるその主要な役割を示そうとするだろう」(27~28頁)。 ★『ルツィンデ 他三篇』は、「ルリユール叢書」第20回配本(28冊目)。ドイツ・ロマン派の先導者フリードリヒ・シュレーゲル(Karl Wilhelm Friedrich von Schlegel, 1772-1829)の小説『ルツィンデ』(1799年)の新訳に、初期批評3篇「ディオディーマについて」1795年、「哲学について ドロテーアへ」1799年、「小説(ロマーン)についての書簡」1800年、を併録。『ルツィンデ』の日本語訳は4回目で、直近では平野嘉彦訳(『ドイツ・ロマン派全集(12)シュレーゲル兄弟』所収、国書刊行会、1990年)以来のもの。 ★『ドゥルーズと革命の思想』は、鹿野祐嗣(しかの・ゆうじ, 1988-)、廣瀬純 (ひろせ・じゅん, 1971-)、堀千晶(ほり・ちあき, 1981-)、山﨑雅広(やまざき・まさひろ, 1991-)の4氏がそれぞれ1篇ずつ、「ドゥルーズと政治」(帯文より)をめぐって書き下ろした論考を所収したもの。編者序文に曰く「思想史的文脈、現実の革命運動との接点、マルクスとの関係といった個々の論点から、ドゥルーズの革命的な思想を支える背景やその具体的な応用実践の場を探る」と。 ★続いて、まもなく発売となる新刊3点列記します。 『大衆運動 新訳版』エリック・ホッファー著、中山元訳、紀伊國屋書店、2022年2月、本体2,000円、46判並製304頁、ISBN978-4-314-01189-1 『〈叱る依存〉がとまらない』村中直人著、紀伊國屋書店、2022年2月、本体1,600円、46判並製208頁、ISBN978-4-314-01188-4 『国家と実存――「ユダヤ人国家」の彼方へ』立川健二著、彩流社、2022年2月、本体3,000円、四六判並製307頁、ISBN978-4-7791-2797-7 ★紀伊國屋書店さんの近刊が2点。『大衆運動 新訳版』は、ホッファーの生誕120年を記念した新訳。既訳は高根正昭訳(『大衆』1961年、改題『大衆運動』1969年;復刊版2003年)で、原著『忠実なる信奉者――大衆運動の本質に関する考察(The True Believer: Thoughts on the Nature of Mass Movements)』は1951年。いっぽう、『〈叱る依存〉がとまらない』は、臨床心理士の村中直人(むらなか・なおと, 1977-)さんによる書き下ろし。巻頭の「はじめに」での表現を借りると、脳科学や認知科学の視点に心理学の知見を加え、できるかぎり易しい言葉で「叱ること」とうまくつきあう方法を説いたもの。2点とも広く読まれる予感がします。 ★『国家と実存』は、言語学者の立川健二(たつかわ・けんじ, 1958-)さんによる『ポストナショナリズムの精神』(現代書館、2000年)の問題圏を引き継ぐ論集。99年から2001年にかけて各媒体で発表された論考のほか、未発表や書き下ろしを加えたもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★このほか、最近出会いがあった新刊を並べます。 『村上春樹とフィクショナルなもの――「地下鉄サリン事件」以降のメタファー物語論』芳川泰久著、幻戯書房、2022年1月、本体2,400円、四六上製224頁、ISBN978-4-86488-241-5 『現代思想2022年2月号 特集=家政学の思想』青土社、2022年1月、本体1,500円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1426-1 『金時鐘コレクション(3)海鳴りのなかを――長篇詩集『新潟』ほか未刊詩篇』金時鐘著、藤原書店、2022年1月、本体4,400円、四六変判上製520頁+口絵4頁、ISBN978-4-86578-311-7 ★『村上春樹とフィクショナルなもの』は、早稲田大学教授で仏文学研究者の芳川泰久(よしかわ・やすひさ, 1951-)さんによる単独著では、『村上春樹とハルキムラカミ――精神分析する作家』(ミネルヴァ書房、2010年)に続く2冊目となる村上春樹論(共著を含めると3冊目)。帯文に曰く「『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』をメタファー物語論で読み解」くもの。 ★『現代思想2022年2月号』は特集が「家政学の思想」。2本の討議、阿古真理+藤原辰史「ケアの家政学」、重田園江+桑田学「エコノミーとエコロジーの思想史――経済学が不可視化したものを掘りおこす」のほか、15本の論考と1本の翻訳を収録。詳細は誌名のリンク先で確認できます。3月号は特集「憲法を考える」とのことです。 ★藤原書店の1月新刊は3点。『金時鐘コレクション(3)』は、全12巻の第7回配本。長篇詩集「新潟」、未刊詩篇、座談会、インタビューなどを収録するほか、資料編では「新潟」の原型だという創作ノート『詩稿No.6』を紹介。吉増剛造さんが解説「切れない、切れない――長篇詩集『新潟』を読んで、語る」を寄せておられます。1月新刊のもう2点は、竹内敏晴『竹内レッスン!――からだで考える』(森洋子画)という絵本と、江崎道朗/渡瀬裕哉/倉山満/宮脇淳子『リバタリアンとは何か』という討論集。
by urag
| 2022-01-30 23:53
| 本のコンシェルジュ
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