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2022年 01月 10日
★まず、藤原書店さんの12月新刊2点からご紹介します。 『哲学の条件』アラン・バディウ著、フランソワ・ヴァール序、藤本一勇訳、藤原書店、2021年12月、本体6,200円、四六判上製624頁、ISBN978-4-86578-331-5 『パリ日記――特派員が見た現代史記録1990-2021(II)シラクの時代(1)1995.5-2002.5』山口昌子著、藤原書店、2021年12月、本体4,800円、A5判並製824頁+口絵2頁、ISBN978-4-86578-332-2 ★『哲学の条件』は、フランスの哲学者アラン・バディウ(Alain Badiou, 1937-)が主著『存在と出来事』(原著:1988年;藤本一勇訳、藤原書店、2019年)の刊行後におこなった講演や討議会での発言を集めた『Conditions』(Seuil, 1992)の全訳です。編集者で哲学者のフランソワ・ヴァール(François Wahl (1925-2014)が巻頭に長文の序「抜け去るもの」を寄せています。ヴァールは序を書いた理由についてこう述べています。「本書の格別の困難は、集められた発言の数々が―― 一見読みやすいように見えるけれども――『存在と出来事』の語彙(つまり装置)に依拠していることに起因しているのである。したがって、ここで背景をなしている体系と名づけるべきものを思い出さなければ、これらのテクストのどんな読解も不完全なものにすぎないだろう」(11頁)。 ★ヴァールはさらにこう書いています。「本来の意味での哲学は、それが思考へ引き上げた存在論と、真理を産出するもろもろのプロセスからなる集合とのあいだを「循環する」。この真理のプロセスについて再び言っておけば、それは昔から四つしかない。すなわち、科学、芸術、政治、愛の四つである。この四つのプロセスの集合は、哲学が事後において出来するために必要な集合、そして必然的に完全な集合である。〔…〕真理の〔四つの〕プロセスが哲学を条件づけるのは、それらのプロセスが《真理》の一時代の危機の場をなすかぎりにおいてである。〔…〕実を言えば、真理とは知が禁じるもの――すなわち「『どれでもよいもの』、名づけえぬ部分、概念なき結合」――にかかわるものであり、そこにこそ今日の危機が――したがって哲学にとっての賭金が――あるのだ」(21~22頁)。 ★バディウ自身は本論の冒頭で「今日哲学は自分自身の歴史との関係によって麻痺して」(81頁)おり、「哲学は自分自身の内部から歴史主義と絶縁しなくてはならない」(83頁)と宣言します。「我々が言いたいのは、哲学の自己提示は、哲学史など参照せずに最初から事故決断すべきだということである。哲学はみずからの諸概念を、それらの歴史的な契機の法廷に事前に出廷させることなく提示する大胆さをもつべきである」(83頁)。「今日、哲学史はかつてないほど哲学の法廷となっており、そしてこの法廷はほとんどつねに死刑判決を下す。すなわち形而上学の過去と現在の閉局あるいはその脱構築の必要という評決である。〔…〕私はこうした系譜学的な至上命令から哲学を引き剥がすことを提案する」(同頁)。 ★「私としては、暴力的に哲学史を忘却することを、つまりは存在忘却という歴運的な設定のすべてを暴力的に忘却することを提案しよう。〔…〕この忘却命令は一種の方法であって、もちろんいささかも無知などではない。歴史を忘れるということが言わんとしているのは、何よりもまず、決定には前もって決められた歴運的な意味があるという想定に頼ることなく至高の決定を下すということである。それは歴史主義と手を切り、かのデカルトやスピノザがしたように、言説の自律的な正当化へと足を踏み入れることである」(84頁)。「哲学とは何よりもまず物語との断絶、そして物語の注釈との断絶である」(98頁)。 ★「〔哲学は〕自分の分身から自分を分離するものとしても〔定義できるだろう〕。哲学とはつねに鏡の破壊である」(116頁)。「哲学の歴史は哲学の倫理の歴史である。すなわち災いをもたらす自己重複から、哲学がみずからを抜き去る暴力的な挙措の連続である。さらに言えば、哲学はその歴史において、まさしく《真理》の脱実体化なのであり、またこの脱実体化こそが哲学行為の自己解放なのである」(117頁)。緻密さと荒々しさが渾然一体となったバディウの哲学は、多くの読者にとっていまなお未来に属するものであるような感覚を呼び起こします。 ★なお、藤原書店さんでは『存在と出来事』第二部と銘打たれた『世界の論理』(Logiques des mondes. L’Être et l’Événement, 2, Seuil, 2006)の続刊が予告されています。 ★『パリ日記(II)』は、全5巻の第2回配本。第I巻『ミッテランの時代』に続き、第II巻および第III巻ではシラク大統領の任期中での、山口特派員の日記が綴られます。第II巻では、ユーゴ紛争終結、通貨ユーロの誕生、米国同時多発テロ事件、などが起き、忙殺される記者たちの奮戦が簡潔に伝えられます。 ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『美学のプラクティス』星野太著、水声社、2021年12月、本体2,500円、四六判上製232頁、ISBN978-4-8010-0615-7 『現代思想2022年1月号 特集=現代思想の新潮流 未邦訳ブックガイド30』青土社、2021年12月、本体1,600円、A5判並製256頁、ISBN978-4-7917-1425-4 『アンファンタン――七つの顔を持つ預言者』ジャン=ピエール・アレム著、小杉隆芳訳、法政大学出版局、2021年12月、本体3,300円、四六判上製296頁、ISBN978-4-588-01141-2 『生き方としての哲学――J・カルリエ, A. I.デイヴィッドソンとの対話』ピエール・アド著、小黒和子訳、法政大学出版局、本体3,000円、四六判上製340頁、ISBN978-4-588-01138-2 『増補 アガンベン読解』岡田温司著、平凡社ライブラリー、2021年12月、本体1,600円、B6変判並製272頁、ISBN978-4-582-76925-8 『胡適文選2』胡適著、佐藤公彦訳、東洋文庫、2021年12月、本体3,400円、B6変判上製函入354頁、ISBN978-4-582-80906-0 『伊藤整日記(7)1966-1967年』伊藤整著、伊藤礼編、平凡社、2021年12月、本体4,200円、A5判上製函入320頁、ISBN978-4-582-36537-5 ★『美学のプラクティス』は2010年から2019年までに各媒体で発表されてきた論考9本に加え、2006年発表の書評に加筆改稿したものを序論として添えて、1冊にまとめたもの。「崇高」「関係」「生命」の3部構成。「美学とは何か。/本書は、このいささか大仰な問いに対して、原理的ではないしかたでの応答を試みるものである」(序論より)。「本書は、さしあたりこの10年間の「美学」にかかわる仕事を総括した、ひとつの中間報告のようなものである」(あとがきより)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★『現代思想2022年1月号』は、特集が「現代思想の新潮流 未邦訳ブックガイド30」。版元紹介文に曰く「邦訳が待望される近年の重要文献から未だ日本では知られざる気鋭の著作まで――哲学、フェミニズム、人類学、数学、精神分析、政治学などさまざまな分野の未邦訳書を30冊に精選」と。編集後記にある通り「未邦訳ブックガイド」特集は、1986年4月号(特集=未邦訳ブックガイド――現代思想の22冊)以来のもの。22冊のうち未邦訳のままなのは3冊です。クリステヴァ『愛の歴史』、ルロワ=グーラン『西洋芸術の始原』、エーコ『不在の構造』。なお、2018年から2020年の1月号ではこのところ「現代思想の総展望」と銘打った特集号でした。 ★『アンファンタン』は、フランスの推理小説家でエッセイストのジャン=ピエール・アレム(Jean-Pierre Alem, 本名:Jean-Pierre Georges Alphonse Callot, 1912-1995)の著書『Enfantin : le Prophète aux Sept Visages』(Pauvert, 1963)の訳書。訳者あとがきに曰く「19世紀前半突如パリに出現し、多くのパリ人(主に青年男女)の心を捉え、社会に一大旋風を巻き起こしたサン=シモン主義運動の指導者アンファンタン〔Prosper Enfantin, 1796-1864〕の波乱万丈の生涯を綴ったもの」。日本では関連書がほとんどないため、貴重な成果です。 ★『生き方としての哲学』は、フランスの哲学史家ピエール・アド(Pierre Hadot, 1922-2010)の自伝的対話篇『La Philosophie comme manière de vivre』(Albin Michel, 2001)の訳書。聞き手となったのは「長い間私〔アド〕の同僚であり友人であったアーノルド・I・デイヴィッドソンとジャニー・カルリエ」。アドの講義の聴講生には例えば、卓抜なハイデガー論『アナーキーの原理』をものしたライナー・シュールマンがいます。アドは彼の第三期課程博士論文であるエックハルト論を審査した一人です。シュールマンとの出会いは21頁で触れられています。 ★『増補 アガンベン読解』は、2011年の単行本に新章と新たなあとがきを加えてライブラリー化したもの。新章は第10章「生-の-形式 firma-di-vita」で、ライブラリー版あとがきは「アガンベンは間違っているのか?」。前者はアガンベン最大の連作「ホモ・サケル」シリーズの中核的概念を読み解き、後者はコロナ禍での緊急事態宣言を批判したアガンベンの理路を解説したもの。 ★『胡適文選2』は全2巻の完結篇。帯文に曰く「中国の新文化運動の指導者の一人、胡適〔1891-1962〕。その思想と学問方法を最もよく理解できる文章を自ら精選した書。本邦初訳。第2巻は主に国故整理に関する文章と解説、年表を収める」と。原著は1930年刊。国故整理とは中国古典の再評価のこと。東洋文庫の次回配本は5月刊『羇旅漫録』。 ★『伊藤整日記(7)1966-1967年』は全8巻の第7回配本。帯文に曰く「第7巻は、「変容」「花と匂い」「同行者」、翻訳、評論、講演の文士活動のほか、ペンクラブ、文芸家協会に加えてユネスコ、フルブライト委員会、芸術院会員など公的役割も拡大、そしてついに日本近代文学館ができる」と。残すは第8巻(1968~1969年)のみとなりました。
by urag
| 2022-01-10 17:22
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