2021年 06月 20日
『哲学的人間学』ベルンハルト・グレトゥイゼン著、金子晴勇/菱刈晃夫訳、知泉書館、2021年6月、本体5,400円、新書判上製424頁、ISBN978-4-862-85338-7 『魔術の書』DK社編、池上俊一監修、和田侑子/小林豊子/涌井希美訳、グラフィック社、2021年6月、本体3,800円、A4変形判並製320頁、ISBN978-4-7661-3479-7 『資本主義と危機――世界の知識人からの警告』マルクス・ガブリエル/イマニュエル・ウォーラーステイン/ナンシー・フレイザー/アクセル・ホネット/ジョン・ベラミー・フォスター/大河内泰樹/斎藤幸平/ガエル・カーティ著、岩波書店、2021年5月、本体1,900円、四六判並製216頁、ISBN978-4-00-061471-9 ★『哲学的人間学』は『Philosophische Anthropologie』(1931年)の全訳。知泉学術叢書の第15弾です。「古代からルネサンス近代にいたる人間学の歴史を,原典を踏まえながら考察した名著の待望の翻訳」(カバー表4紹介文より)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。グレトゥイゼン(Bernard Groethuysen, 1880-1946)はベルリン生まれの文化哲学者でディルタイの弟子。母親からロシア移民の血筋を引いています。20世紀初頭にフランスへ遊学した経験があり、後年にはナチス政権樹立後フランスに亡命し、同国の国籍を取得。大手出版社ガリマールに勤務経験があり、同時代のフランス知識人との広い交流で知られています。著作にはドイツ語のものとフランス語のものがあります。日本語訳は70年代に4点刊行されていますが、そこからしばらく紹介が途絶えていました。グレトゥイゼンの特異な足跡とその人文知は再評価されて良いはずです。 ★『魔術の書』は『A History of Magic: Wicthcraft & the Occult』(DK, 2020)の訳書。古代から現代までの魔術の歴史を豊富なカラー図版の数々とともに紹介しています。名古屋大学出版会の「ルネサンス原典シリーズ」を手掛けられている池上俊一さんが監修されていることもあり、購入にためらいはありませんでした。日本の陰陽道も見開きで取り上げられています。宗教書売場で扱われるものと思いますが、魔術は様々な文化や学問との広範な歴史的接点を持っているので、「隠されたもの」としてのオカルトという異相の深淵を書棚でどう正当に扱うかという問題は、なかなかの難問ではあります。 ★『資本主義と危機』は日本版オリジナルのインタヴュー集。帯文に曰く「世界の知識人が、欲望、市場、規範、ジェンダー、構造的危機、エコロジーなどの論点から、危機の原因とその克服の可能性を熱く語る」と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。こうした、現代社会の難問をめぐって世界の知性に尋ねるインタヴュー集は他社では新書として刊行されることがここ数年増えているので、本書は単行本ではあるものの、新書売場で関連書とともに扱ってみるというのも一つの拡販手段となるかもしれません。 ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『ミクロ政治学』F・ガタリ/シュエリー・ロルニク著、杉村昌昭/村澤真保呂訳、法政大学出版局、2021年6月、本体5,400円、四六判上製670頁、ISBN978-4-588-01128-3 『他者の靴を履く――アナーキック・エンパシーのすすめ』ブレイディみかこ著、文藝春秋、2021年6月、本体1,450円、四六判上製仮フランス装304頁、ISBN978-4-16-391392-6 『ポピュリズムとファシズム――21世紀の全体主義のゆくえ』エンツォ・トラヴェルソ著、湯川順夫訳、作品社、2021年5月、本体2,600円、46判上製326頁、ISBN978-4-86182-847-8 『伊藤整日記 4 1959-1960年』伊藤整著、伊藤礼編、平凡社、2021年6月、本体4,400円、A5判上製函入486頁、ISBN978-4-582-36534-4 ★『ミクロ政治学』はまもなく発売。『Micropolitiques』(Les Empêcheurs de penser en rond, 2007)の訳書です。共著者であるブラジルの精神分析家シュエリー・ロルニク(Suely Rolnik, 1948-)による「日本語版へのあとがき」が加えられています。ロルニクは巻頭の「外国語版とブラジル版第七版への序文」と、元版であるポルトガル語版(1986年刊)に付された「この本について」も書いています。本書は「1982年にガタリがロルニクとともにブラジル各地を旅しながら行なった「講演=討論会ライブ」の収録を柱にしながら、シュエリーがそれに関連するガタリのさまざまなテクストや自分自身のテクストをも組み合わせて、多声的な生きた言語空間として構成したもの」(訳者あとがきより)。帯文に曰く「民主化へと向かうブラジル社会のうねりに身をゆだね、活動家、知識人、学生、マイノリティ、フェミニスト、同性愛者らのグループと対話を重ねた一か月の記録」。ガタリ自身は本書を「一種の航海日誌である」と表現しています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★『他者の靴を履く』はまもなく発売。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社、2019年;新潮文庫、2021年6月)に続く副読本とのこと。帯文の文言を並べると、「〈多様性の時代〉のカオスを生き抜くための本」、「エンパシー(意見の異なる相手を理解する知的能力)×アナキズムが融合した新しい思想的地平がここに」と。「わたしがわたし自身を生きる」アナキズムと「他者の靴を履く」エンパシーとの間に繋がりをめぐる卓抜なエッセイ集です。 ★『ポピュリズムとファシズム』は発売済。『The New Faces of Fascism: Populism and the Far Right』(Verso, 2019)の訳書。「ポピュリズムのゆくえ――歴史としての現在」と「ファシズムの新しい顔――現在の中の歴史」の二部構成。巻末には訳者あとがきのほか、中村勝己さんによる解説「新型コロナの時代におけるポピュリズムをいかに考えるか?――トラヴェルソのポスト・ファシズム論をめぐって」が併載。訳者によれば本書は「21世紀世界のゆくえを左右していくであろうポピュリズムに対して、20世紀世界を動かしたファシズムとの比較によって、構造的で能動的な分析を行なったもの」です。トラヴェルソ(Enzo Traverso, 1957-)はイタリア生まれの歴史家。現在は米国コーネル大学で教授を務めておられます。 ★『伊藤整日記 4 1959-1960年』は発売済、第4回配本。1952年から1969年までの18年間を記録した日記を全8巻で公刊するもので、巻数通りの順番で発売されています。第4巻は欧州から貨物船で帰国後、小説連載や『日本文壇史』、大学講義を継続し、『谷崎潤一郎全集』解説、礼さんの訳書の翻訳チェック、三島由紀夫らとの座談会や、講演旅行、さらに世界文学全集の企画に、米国コロンビア大学での招聘研究員、と相変わらずご多忙。次回配本は7月刊行予定の第5巻「1961-1962年」。
by urag
| 2021-06-20 23:30
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