2021年 03月 28日
★まず、最近で出会った新刊を列記します。 『ミルドレッド・ピアース――未必の故意』ジェイムズ・M・ケイン著、吉田恭子訳、幻戯書房、2021年3月、本体3,800円、四六変形判上製432頁、ISBN978-4-86488-217-0 『星の時』クラリッセ・リスペクトル著、福嶋伸洋訳、河出書房新社、2021年3月、本体2,450円、46変形判上製192頁、ISBN978-4-309-20819-0 『現代思想2021年4月号 特集=教育の分岐点――共通テスト・一斉休校・35人学級…』青土社、2021年3月、本体1,500円、ISBN978-4-7917-1412-4 『ミシェル・フーコー『コレージュ・ド・フランス講義』を読む』佐藤嘉幸/立木康介編、水声社、2021年4月、本体6,000円、A5判上製386頁、ISBN978-4-8010-0556-3 ★『ミルドレッド・ピアース』は米国の作家ジェイムズ・M・ケイン(James Mallahan Cain, 1892-1977)の長編小説『Mildred Pierce』(1941年)の全訳。2段組で読み応えがあります。同作は45年に映画化され、さらに2011年にはテレビドラマ化されています。帯文に曰く「大恐慌の巨大都市郊外で、役立たずの夫を追い出した「独居妻(グラス・ウィドウ)」が奮闘する愛と金と逸脱の物語。米国大衆の夢と欲望を描くロサンゼルス都市小説の古典」と。 ★『星の時』はウクライナに生まれ主にブラジルで活躍したユダヤ人作家クラリッセ・リスペクトル(Clarice Lispector, 1920-1977, リスペクトールとも)の遺作『A hora da estrela』(1977年)の訳書。同作は85年に映画化されています。地方からリオデジャネイロのスラム街にやってきた女性タイピストの「踏みつぶされた無垢」と「名もなき悲惨」を描いた小説です。リスペクトル単独の訳書は『G・Hの受難 家族の絆』(高橋都彦訳、集英社、1984年)以来のもの。 ★『現代思想2021年4月号 特集=教育の分岐点――共通テスト・一斉休校・35人学級…』は、鳥飼玖美子さんへのインタヴュー「「英語嫌い」にさせない教育のために」や、大内裕和さんと中村高康さんによる討議「入試改革から見えてくる高大接続問題」を中心に、16本の論考を収めています。成田龍一さんは連載「「戦後知」の超克」第8回だけでなく、特集にも論考「「歴史総合」という船出、そのもつ可能性と困難と」を寄せておられます。次号(5月号)の特集は「「陰謀論」の時代」。 ★『ミシェル・フーコー『コレージュ・ド・フランス講義』を読む』はまもなく発売。共編者の佐藤嘉幸さんによる「はじめに」によれば「本論集が目的とするのは、コレージュ・ド・フランス講義の全体を前期、中期、後期の三期に分けた上で、それら三期それぞれに固有の問題構成と、それら三期に通底する問題の総体を、単に哲学的観点からのみではなく、権力理論、(ポスト)マルクス主義、法哲学、倫理学、美学、化学認識論、精神分析など複数の観点から明らかにすることであり、また逆に、コレージュ・ド・フランス講義がこれらのディシプリンにもたらす巨大な貢献の射程を評価、確定することである」。 目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。17本の論考を収録。海外からの寄稿も充実しています。エマニュエル・ドリール、エティエンヌ・バリバール、ダニエル・ドゥフェール、サンドロ・メッザードラ、マウリツィオ・ラッツァラート、フィリップ・サボ、ジュディス・バトラー。 ★続いて、昨年言及しそびれていた注目既刊書を列記します。 『モダン・タイポグラフィ――批判的タイポグラフィ史試論』ロビン・キンロス著、グラフィック社、2020年11月、本体3,600円、A5判上製函入320頁、ISBN978-4-7661-3274-8 『未来哲学 創刊号 特集・未来哲学とは何か』末木文美士・山内志朗・中島隆博編集、ぷねうま舎、2020年11月、本体1,500円、A5判並製220頁、ISBN978-4-910154-11-4 ★『モダン・タイポグラフィ』は英国の出版社ハイフン・プレスのオーナーで視覚コミュニケーションとタイポグラフィの研究者でもあるロビン・キンロス(Robin Kinross, 1949-)による高名な著書『Modern Typography: An Essay in Critical History』(初版1992年、第2版2004年、修訂版2019年)の訳書。帯文によれば「啓蒙主義から歴史復興、モダニズムを経て国際様式、情報デザインにいたる時代精神の変化と、金属活字から写真植字、デジタルフォントにいたる技術の変遷のなか、タイポグラファたちは何を目指してきたのか。「近代」を軸にめぐるタイプグラフィの精神史を鮮やかに描き出した名著」。目次は以下の通りです。 序文と謝辞 1 モダン・タイポグラフィ 2 啓蒙主義の諸起源 3 19世紀という複合体 4 反動と反乱 5 新大陸における伝統的な価値 6 新しい伝統主義 7 ドイツの印刷文化 8 北海沿岸の低地帯諸国の印刷文化 9 ニュータイポグラフィ 10 モダンな人々の移民 11 終戦直後の状況と復興 12 スイス・タイポグラフィ 13 モダニズム以降におけるモダニティとは 14 実例 15 出典:文献解題 16 出典:参考文献 訳者あとがき 索引 ★『未来哲学』創刊号は、末木文美士さんが所長、山内志朗さんと中島隆博さんが副所長を務め、一昨年夏に創設された「未来哲学研究所」が主宰する年2回発行の思想誌。3氏は編集委員を務めておられます。2020年後期刊行となる創刊号の特集は「未来哲学とは何か」。シンプルで美しい装丁造本デザインは寄藤文平さんと古屋郁美(文平銀座)によるもの。目次詳細は以下の通りです。 創刊の言葉「〈哲学〉は〈未来〉に船出できるか?」末木文美士 ◆特集「未来哲学とは何か」 提題1「通底する存在と情念──中世から未来を問うために」山内志朗 提題2「未来哲学としての東洋哲学」永井晋 提題3「来者を思う──哲学の希望」中島隆博 「シンポジウム コメント」佐藤麻貴 対談「「哲学の未来」っていったい?──思考を更新するための条件をめぐって」中島隆博×納富信留 ◆コラム 「太古の森、化石林に見る地球生命人類史観」辻誠一郎 「『バビロン天文日誌』と未来予知学」三津間康幸 「二〇世紀の天動説──ロシア宇宙主義のヴィジョン」細川瑠璃 ◆論考 「仏教認識論の射程──未来原因説と逆向き因果」護山真也 「存在をめぐる読みの可能性──アヴィセンナ、アヴェロエス、アクィナスの応答」小村優太 「AI・仏性・倫理」師茂樹 「モノたちが互いに区別されて存在している世界──アシュアリー学派の行為論と偶因論」法貴遊 「革命・国家・悪──田辺元の実践哲学」田島樹里奈 ◆書評と対話 「思想史をどう書くか」 書評「「王権」と「神仏」・日本思想史の両極――末木文美士著『日本思想史』を読む」葛兆光(張厚泉訳) 対話「思想史を書き直す」葛兆光+末木文美士(翻訳・通訳=張厚泉) +++
by urag
| 2021-03-28 23:30
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