2021年 02月 14日
『マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」』丸山俊一/NHK「欲望の時代の哲学」制作班著、NHK出版新書、2021年2月、本体800円、新書判208頁、ISBN978-4-14-088645-8 『たぐい vol.3』奥野克巳/近藤祉秋編、亜紀書房、2021年2月、本体1,500円、A5判並製160頁、ISBN978-4-7505-1681-3 『闇の自己啓発』江永泉/木澤佐登志/ひでシス/役所暁著、早川書房、2021年1月、本体1,900円、四六判並製416頁、ISBN978-4-15-209999-0 『貞観政要 全訳注』呉兢編、石見清裕訳、講談社学術文庫、2021年1月、本体2,310円、文庫判776頁、ISBN978-4-06-521912-6 『不埒な人たち――ハシェク短編集』ヤロスラフ・ハシェク著、飯島周編訳、平凡社ライブラリー、2020年12月、本体1,500円、B6変型判382頁、ISBN978-4-582-76903-6 ★『マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」』は、NHK-BS1スペシャルのシリーズ「コロナ危機」で2020年10月3日に放送された番組「マルクス・ガブリエル コロナ時代の精神のワクチン」を書籍化したもの。「気候危機は未来のことだと考えるのは間違いです。私たちは、1972年のローマクラブが予想した良くないシナリオをたどっているのです。悪夢のようなシナリオです。世界が滅亡する映画とまったく同じに見えなくても、現実ではこんな感じで滅んでいってしまうのかもしれません。〔…〕地球規模で見れば、世界の終わりは、人間の経験とは異なる時間軸の中にあるのです。ウイルスのようにね」(78頁)。ローマクラブが1972年に発表した第1回報告書「成長の限界」の内容は、今でも読み継がれている『成長の限界――ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』(ドネラ・メドウズほか著、ダイヤモンド社、1972年)で読むことができます。 ★『たぐい vol.3』は特集1「異種との遭遇」と特集2「ティム・インゴルドの世界」の2本立て。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。奥野克巳×上妻世海×能作文徳「ティム・インゴルド『人類学とは何か』を読む」は、一年前に訳書が刊行された『人類学とは何か』(奥野克巳/宮崎幸子訳、亜紀書房、2020年3月)をめぐる、人類学者、キュレーター、建築家による興味深い対談。巻末には「人類学マンガ」として、シンジルト+MOSA「蓄糞はウンチになった」が収められています。 ★『闇の自己啓発』は、配信サイト「note」上で連載された、90年代前半生まれの若手が中心となった読書会「闇の自己啓発会」の書籍化。千葉雅也さんが推薦文を寄せておられます。早川書房デザイン室による攻めた造本設計が美しいです。役所さんによる「まえがき――播種」によれば、「note版ではカバーしきれなかった語彙の説明や補足を、本書では注として4万字以上追加している。さらに「闇の自己啓発会」発起人の江永氏による書き下ろし論考〔補論「闇の自己啓発のために」〕を加え、本文も大幅に加筆修正している」とのこと。 ★役所さんはこうも書いています。「ビッグブラザーの支配する世の中で、自己を奪われないためには何をすればよいのか。私は読書会こそがその答えであると思う。ひとりで思考し、学び続けることが難しくても、ともに語り、学び、思考する共犯者がいることで、自己を失わずに、思考することを続けやすくなる。そしてそれを発信することで、思考の種を播き、共犯者を増やしていくことが可能になる。〔…〕私たちは、いわゆる普通の自己啓発に対する防衛術として「闇の自己啓発」を生み出した。〔…〕必要なのは、オルタナティヴな「変革」のヴィジョンだ」(3~4頁)。共感を覚えます。出版人や書店人にとっても重要な認識です。世界像を反転させていくヒントが満載の鼎談集に学びたいと思います。 ★『貞観政要 全訳注』は文庫オリジナルの訳し下ろしです。「唐王朝の最盛と謳われる7世紀「貞観の治」をなした皇帝・太宗。その「名君」が臣下と議論を交わし、ときに痛烈な諫言を受け入れた様を、後世の皇帝の手本として編纂した」(カバー表4紹介文より)のが、『貞観政要』全十巻四十篇。帯文に曰く「人の上に立つ者すべての必読書」。その通り! ★『不埒な人たち』は平凡社さん自身が2002年に刊行した単行本の増補版。ライブラリー化にあたり、2篇「古い薬種店」「ブグリマ市の司令官」が追加され、全27篇となったユーモア短編を、ヨゼフ・ラダによる挿絵入りで読むことができます。巻末には「平凡社ライブラリー版編訳者あとがき」が加えられています。今こそハシェクの皮肉に学ぶとき。そろそろ代表作『兵士シュヴェイクの冒険』(全4巻、岩波文庫)が再刊されてもいい頃です。 ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『はたらかないで、たらふく食べたい――「生の負債」からの解放宣言 増補版』栗原康著、ちくま文庫、2021年2月、本体820円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-43720-4 『大杉栄伝――永遠のアナキズム』栗原康著、角川ソフィア文庫、2021年2月、本体1,200円、文庫判416頁、ISBN978-4-04-400335-7 『生の力を別の仕方で思考すること――ジャック・デリダにおける生死の問題』吉松覚著、法政大学出版局、2021年2月、本体4,000円、A5判上製286頁、ISBN978-4-588-15114-9 『平成美術――うたかたと瓦礫(デブリ) 1989–2019』椹木野衣/京都市京セラ美術館編、世界思想社、2021年2月、本体3,182円、B5変型判232頁、ISBN978-4-7907-1751-5 『新版 日本のハゼ』瀬能宏監修、矢野維幾写真、鈴木寿之/渋川浩一解説、平凡社、2021年2月、本体4,000円、A5変型判並製588頁、ISBN978-4-582-54261-5 『ねむらない樹 vol.6』書肆侃侃房、2021年2月、本体1,500円、A5判並製208頁、ISBN978-4-86385-442-0 ★栗原康さんの著書2点が文庫化されました。『はたらかないで、たらふく食べたい 増補版』は、タバブックスより2015年に刊行された単行本に、タバブックスの「仕事文脈」誌に掲載したエッセイ4篇と、書き下ろしの文庫あとがき「アリがおどれば、世界はとまる」、さらに早助よう子さんによう解説「あの頃の栗原さん」など、計50頁分を加えて文庫化したもの。『大杉栄伝』は夜光社より2013年に刊行された単行本に加筆修正を施し文庫化したもの。文庫版あとがき「生は永久の闘いである」と、白井聡さんによる解説「奴隷根性は道徳的腐敗と経済的破綻を生んだ」が加わっています。 ★『はたらかないで~』は、今を遡ること8年前にかの「現代思想」誌に掲載されて読者を騒然とさせた問題作「豚小屋に火を放て」(自らの失恋話を織り交ぜた伊藤野枝論)をはじめとする「爆笑解放社会エッセイ」(帯文より)。「いまコロナでいろいろとまっているかのようにみえるけれども、じっさいには逆である。仕事もオンラインになってムダがはぶかれ、スピードアップ。会社にいく時間すらはぶかれる。もっとはやく、もっとはやく。地獄にむかって加速せよ。〔…〕本書で問いかけたかったのは、そんな世界にちょっとブレーキをかけませんかということだ」(文庫版あとがきより)。 ★『大杉栄伝』に寄せられた白井さんの解説にはこう書かれています。「生命とは「永遠のアナキズム」なのだとしか言いようがあるまい。〔…〕生命の力は人間を爆弾にするのだし、その事実を克明に描き出した本書自体も爆弾の一種だ。それは、この時代に向けて、今日の日本社会という肥溜めめがけて放り込まれた。〔…〕栗原の爆弾はいつの日か、肥溜めを、そこに住む生ける屍ともども吹き飛ばすだろう。その時私たちは、糞まみれになりながらも、歩き始められるはずだ。生命の喜びを噛みしめながら」。グレーバーの『ブルシット・ジョブ』が売れている売場なら、栗原さんの本も確実に売れていいはずです。 ★『生の力を別の仕方で思考すること』は、立命館大学客員協力研究員で、共訳書にマーティン・ヘグルンド『ラディカル無神論──デリダと生の時間』(法政大学出版局、2017年)や、カトリーヌ・マラブー『真ん中の部屋――ヘーゲルから脳科学まで』(月曜社、近刊)などがある、吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さんの博士論文を改稿して刊行したもの。「講義〔1975~1976年度講義『生死』〕が行なわれた1970年代から最晩年にいたるまで、デリダが発表した思想には、この「生死」という問題が一貫している」と吉松さんは指摘します。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書の書名はデリダの『ならず者たち』(原著2003年;みすず書房、2009年)から採られたもの。 ★『平成美術』はまもなく発売(2月20日頃)。椹木野衣さんによる企画および監修の展覧会「平成美術:うたかたと瓦礫(デブリ) 1989–2019」(2021年1月23日~4月11日、京都市京セラ美術館新館東山キューブ)の公式図録。版元紹介文に曰く「美術は、個人の作品ではなく、離合集散するアーティストたちの集合的活動になった! 平成を代表する14のグループや集合体の主要作約70点を200枚余の写真でフルカラー掲載」。椹木さんの表題論考、平成美術史カラー年表(731項目、図版77点)、赤坂真理・立岩真也・片山杜秀の3氏による平成論で構成されています。ブックカバーはミシン目で切り取るとポストカード15枚になります。ブックデザインは松本弦人さんによるもの。 ★『新版 日本のハゼ』は、2004年刊行の初版以来16年ぶりとなる新訂増補版。収録総数は64種を増補して534種。日本のハゼ661種のうち約8割だそうです。淡水、汽水、海水と多様な生態環境を有するハゼが美麗なカラー写真と詳細な解説で紹介されています。ついつい見入ってしまいます。 ★『ねむらない樹 vol.6』では特集1で第三回「笹井宏之賞」が発表され、今回初参加となる哲学者・千葉雅也さんの選評を座談会で読むことができます。また、飯田有子さんの歌集『リンゴ貫通式』を読む特集5では批評家の杉田俊介さんの論評が掲載されています。
by urag
| 2021-02-14 23:30
| ENCOUNTER(本のコンシェルジュ)
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