2021年 01月 11日
★ちくま学芸文庫1月新刊は5点。 『21世紀を生きるための社会学の教科書』ケン・プラマー著、赤川学監訳、ちくま学芸文庫、2021年1月、本体1,600円、文庫判496頁、ISBN978-4-480-51031-0 『大衆の国民化――ナチズムに至る政治シンボルと大衆文化』ジョージ・L・モッセ著、佐藤卓己/佐藤八寿子訳、ちくま学芸文庫、2021年1月、本体1,600円、文庫判464頁、ISBN978-4-480-51029-7 『生の仏教 死の仏教』京極逸蔵著、ちくま学芸文庫、2021年1月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51027-3 『城と隠物の戦国誌』藤木久志著、ちくま学芸文庫、2021年1月、本体1,100円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-51024-2 『新版 自然界における左と右』上下巻、マーティン・ガードナー著、坪井忠二/藤井昭彦/小島弘訳、ちくま学芸文庫、2021年1月、本体1,450円/1,300円、文庫判416頁/384頁、ISBN978-4-480-51017-4/978-4-480-51016-7 ★『21世紀を生きるための社会学の教科書』は文庫オリジナルの新訳。原著は『Sociology: The Basics』(Routledge, 2010; 2nd edition, 2016)。帯文に曰く「社会学の歴史、理論、未来を論じた決定版入門書」。著者のプラマー(Ken Plummer, 1946-)は英国の社会学者。90年代に2点の訳書があります。『生活記録(ライフドキュメント)の社会学――方法としての生活史研究案内』(光生館、1991年)、『セクシュアル・ストーリーの時代――語りのポリティクス』(新曜社、1998年)。 ★『生の仏教 死の仏教』は、浄土真宗本願寺派の開教使として米国での布教に尽力した京極逸蔵(きょうごく・いつぞう、1887-1953)さんの同名著書(学風書院、1957年)の文庫化。親本での副題は「在米布教師の信仰記録」。表記は新字新かなに改められています。巻頭に鈴木大拙の序文あり。巻末解説「アメリカ仏教の先駆者」は武蔵野大学仏教文化研究所所長のケネス田中さんによるもの。 ★『大衆の国民化』は1994年に柏書房より刊行された単行本の文庫化。原著『The Nationalization of the Masses』は75年刊。帯文の言葉を借りると「国民主義の歴史的展開を大衆の政治参加から考察」と。文庫版訳者あとがきによれば文庫化に際し改訳したとのことです。巻末解説は成蹊大学教授の板橋拓己による「モッセ史学の軌跡」。著者のモッセ(George Lachmann Mosse, 1918-1999)はドイツ出身で米国で長く教鞭を執った歴史学者。本書のほか5点の訳書がありますが、文庫化は初めてです。 ★『城と隠物の戦国誌』は2009年より朝日新聞社より刊行された単行本の文庫化。「戦国時代、村びとたちは命と財産を守るため、どのような対策をとっていたのか。〔…〕人々の危機管理の知恵を追う」(カバー裏紹介文より)。日本中世史がご専門だった著者は一昨年亡くなられており、文庫版解説を奈良大学教授の千田嘉博さんがお書きになっています。 ★『新版 自然界における左と右』は、92年に紀伊國屋書店から刊行された単行本の分冊文庫化。原著は『The Ambidextrous Universe』の1990年刊第3版。「ちくま学芸文庫版への訳者あとがき」によれば訳文の改訂などの有無については言及がなく、その後の科学的新発見や新説を補足する「訳註などを加えることは行いませんでした」とあります。ただし巻末には、英文学者の若島正さんによる解説「マーティン・ガードナー讃」が加えられています。ガードナー(Martin Gardner, 1914-2010)は米国の高名なポピュラー・サイエンス・ライター。文庫化された訳書に『奇妙な論理』(全2巻、現代教養文庫、1989年/1992年;ハヤカワ文庫NF、2003年)などがあります。 ★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。 『新たな極右主義の諸側面』テーオドル・アドルノ著、橋本紘樹訳、堀之内出版、2020年12月、本体2,500円、B6変型判並製122頁、ISBN978-4-909237-51-4 『エマニュエル・トッドの思考地図』エマニュエル・トッド著、大野舞訳、筑摩書房、2020年12月、本体1,500円、四六判並製240頁、ISBN978-4-480-84753-9 『WAYFIDING 道を見つける力――人類はナビゲーションで進化した』M・R・オコナー著、梅田智世訳、インターシフト発行、合同出版発売、2021年1月、本体2,700円、四六判上製416頁、ISBN978-4-7726-9571-8 『現代思想2021年1月号 特集=現代思想の総展望2021――実在・技術・惑星』青土社、2020年12月、本体1,600円、A5判並製254頁、ISBN978-4-7917-1408-7 『文藝 2021年春季号』河出書房新社、2021年1月、本体1,350円、A5判並製488頁、ISBN978-4-309-98023-2 『植民地の偉大さと隷従』アルベール・サロー著、小川了訳、東京外国語大学出版会、2021年1月、本体2,700円、四六判上製372頁、ISBN978-4-904575-84-0 ★『新たな極右主義の諸側面』は、版元紹介文に曰く「アドルノがオーストリア社会主義学生同盟の招待に応じて1967年4月6日に行った講演であり、これまで音声記録しか残されていなかった。2019年、アドルノの没後50年に改めて出版されたところ、週刊誌『シュピーゲル』のベストセラーリストに七ヶ月もの間名前を連ね、2020年4月時点で7万部という古典的な思想家の書物としては異例な売れ行きを見せた」とのこと。原題は「Aspekte des neuen Rechtsradikalismus」。『ドイツの新右翼』や『エリートたちの反撃――ドイツ新右翼の誕生と再生』などの訳書で知られる批評家フォルカー・ヴァイス(Volker Weiß, 1972-)が長めのあとがきを寄せています。 ★「実際のところ権威に結びついたパーソナリティーや極右主義のイデオロギーといったコンプレックスは全体として、彼らが対象としている敵、つまりは彼らが怒りを向けている敵たちに実質を有しているわけではまったくないということを、抵抗の際に彼らに意識させるよう試みるのです。問題は投影という契機なのであって、じっくりと理解して変化させねばならない本来の研究主体は極右主義者たちであって、彼らが憎しみを総動員して向けている相手の側ではないということを意識化するのです」(63頁)。歴史は繰り返しているというべきか、アドルノのこの講演は再読三読に値します。 ★『エマニュエル・トッドの思考地図』は、日本語版オリジナル出版となる語り下ろし。筑摩書房さんの創業80周年記念出版でもあります。帯文に曰く「危機の時代を見通す真の思考法を〔…〕初めて語りつくす。〔…〕現代最高の知性が明かす思考の極意」。トッドはこう述べます。「考えるのではなく、学ぶのです。最初に学ぶ。そして読む。歴史学、人類学などの文献をひたすら読み、そして何かを学んだとき、知らないことを知ったときの感動こそが思考するということでもあります」(27頁)。目次は下段に掲出します。訳者の大野舞さんは、昨年7月にトッドへのインタビューをまとめた『大分断――教育がもたらす新たな階級化社会』をPHP新書で上梓されています。 日本の皆さんへ 序章 思考の出発点 1 入力――脳をデータバンク化せよ 2 対象――社会とは人間である 3 創造――着想は事実から生まれる 4 視点――ルーティンの外に出る 5 分析――現実をどう切り取るか 6 出力――書くことと話すこと 7 倫理――批判にどう対峙するか 8 未来――予測とは芸術的な行為である ブックガイド ★『WAYFIDING 道を見つける力』の原書は『Wayfinding: The Science and Mystery of How Humans Navigate the World』(St. Martin's Press, 2019)。「道を探しているとき、ヒトはいったい何をしているのだろうか? 鳥やミツバチやクジラとはどのように、そしてなぜ違うのか? 技術のスピードと利便性は、わたしたちが世界を移動し、そのなかで自分の場所を見つける方法をどう変えたのか? 移動生態学から心理学、考古学、言語学、人工知能、そして人類学にいたるまで、様々な分野の研究と知見を足がかりに、わたしは人類のナビゲーションの起源と、それがヒトという種の進化に与えた影響をめぐる驚くべき物語を見いだした」(14頁)。 ★著者はこう続けます。「三つの場所――北極圏、オストラリア、オセアアニアーーに暮らす人々を訪ねた。ときに「伝統的ナビゲーション」もしくは「自然のナビゲーション」とも呼ばれる技を実践し、地図や道具や装置をほとんど使わずに、環境にある手がかりを駆使して長距離を移動する人たちだ。地図に囲まれて育ったわたしのような人間にとって、そうした種類のナビゲーションはひとつの啓示だった。それは別の方法で世界を眺め、別の方法で空間、時間、記憶、移動を考えることにほかならない」(15頁)。著者のオコナー(M. R. O'Connor)はアメリカの科学ジャーナリスト。既訳書に『絶滅できない動物たち――自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ』(ダイヤモンド社、2018年)があります。 ★『現代思想2021年1月号』は特集が「現代思想の総展望2021」。2本の討議、藤原辰史+山内志朗「人間は生きた土である――分解と混合の哲学」、入不二基義+上野修+近藤和敬「哲学とは何か、そして現実性とは」のほか、3本の翻訳、トリスタン・ガルシア「概念の羅針盤――現代実在論の認識的方向と存在論的方向」伊藤潤一郎訳、ベルナール・スティグレール「新しい信用のために――過剰・約束・妥協」石田英敬訳・解題、フェルディナン・アルキエ「スピノザ『ヘブライ語文法要諦』フランス語版への序文」合田正人訳・解題、さらに、渡名喜庸哲「遠隔と接触――リモート時代におけるレヴィナスの「顔」」を含む14本の論考が掲載されています。今月末発売予定の2月号の特集は「精神医療の最前線――コロナ時代の心のゆくえ」とのこと。 ★『文藝 2021年春季号』は特集が「夢のディストピア」。飛浩隆×高山羽根子の2氏による対談「ディストピア小説の主人公とは誰か――嫌(いや)視点の作り方」に始まり、金原ひとみ、真藤順丈、東山彰良、尾崎世界観、高瀬隼子、の5氏による短編作、桜庭一樹さんの日記「分断されていく世界で――2020年1月~10月 東東京ディストピア日記」、樋口恭介、水上文、木澤佐登志、の3氏の論考と、Marukidoさんのエッセイ、そして特別企画として闇の自己啓発会(江永泉・木澤佐登志・ひでシス・役所暁、の4氏)による「身体と精神改造のための闇のブックガイド」が掲載されています。このブックガイドは近刊と聞く4氏による『闇の自己啓発』(早川書房、2021年1月)を中心にしたコーナーを店頭で作るための参考になるのではないでしょうか。 ★『植民地の偉大さと隷従』の原書は、フランスの政治家で植民地理論家のサロー(Albert-Pierre Sarraut, 1872-1962)の著書『Grandeur et servitude coloniales』(Éditions du Sagittaire, 1931)。パリ郊外で開催された国際植民地博覧会にあわせて刊行されたもの。本邦初訳です。訳者は本書をこう説明しています。「アルベール・サローは本書中でフランスの植民地統治がいかに現地住民の福祉の向上、文化の開明に心血を注いでいるかを強調している。フランスの善意と人類愛を強調しているのである。まさに、それゆえに植民地現地の住民たちがなぜ「揺り戻しの大波」を起こすのか理解できないでいるようである。植民者として、現地住民の文化に混乱を起こしていることが彼にはどうしても理解できなかった。植民地支配の中核にいた理論家は、みずからに課せられた「隷従」から逃れることができなかったのである」(17頁)。目次は以下の通り。 これは植民地主義礼讃の書なのか?――序に代えて|小川了 第一章 問題の所在 第二章 ヨーロッパによる植民地開発の発展 第三章 植民地大国フランスの義務 第四章 フランス植民地帝国の創設 第五章 植民地統治の基本原理 第六章 植民地事業がもたらす恩恵 第七章 揺り戻しの大波 終章 白人の責務 訳註 訳者あとがき 人名索引/事項索引 ★さらに、以下の新刊との出会いもありました。書名を列記いたします。 『中平卓馬論――来たるべき写真の極限を求めて』江澤健一郎著、水声社、2021年1月、本体3,000円、A5判変型上製213頁、ISBN978-4-8010-0540-2 『哲学JAM[赤版] 現代社会をときほぐす』仲正昌樹著、共和国、2020年12月、本体2,000円、四六変型判上製200頁、ISBN978-4-907986-78-0 『西田幾多郎』田中久文著、作品社、2020年12月、本体3,600円、四六判上製512頁、ISBN978-4-86182-836-2
『熊楠――生命と霊性』安藤礼二著、河出書房新社、2020年12月、本体2,400円、46判上製256頁、ISBN:978-4-309-02849-1 『現代アートを殺さないために――ソフトな恐怖政治と表現の自由』小崎哲哉著、河出書房新社、2020年12月、本体2,700円、46変形判並製408頁、ISBN978-4-309-25664-1 『東京精華硯譜 中國硯大全Ⅰ 端硯について』楠文夫著、平凡社、2021年1月、本体3,800円、A4判上製84頁、ISBN978-4-582-24735-0 『光の地形』公文健太郎[写真]、平凡社、2020年12月、本体5,800円、A4変判上製160頁、ISBN978-4-582-27836-1 『民衆と情熱――大歴史家が遺した日記 1830-74(2)1849~1874年』J・ミシュレ著、大一道編、大野一道/翠川博之訳、藤原書店、2020年12月、本体8,800円、四六変型判上製920頁+口絵4頁、ISBN978-4-86578-286-8 『「共食」の社会史』原田信男著、藤原書店、2020年12月、本体3,600円、四六判上製432頁、ISBN978-4-86578-297-4 『愛してくれてありがとう』玉井義臣著、藤原書店、2020年12月、本体1,600円、B6変型判上製264頁+カラー口絵8頁、ISBN978-4-86578-295-0 『シマフクロウとサケ――アイヌのカムイユカラ(神謡)より』宇梶静江[古布絵制作・再話]、藤原書店、2020年12月、本体1,800円、A4変型判上製オールカラー32頁、ISBN978-4-86578-292-9 +++
by urag
| 2021-01-11 20:37
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