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2020年 07月 13日

注目新刊および既刊:星川啓慈『増補 宗教者ウィトゲンシュタイン』法蔵館文庫、ほか

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増補 宗教者ウィトゲンシュタイン』星川啓慈著、法蔵館文庫、2020年7月、本体1,000円、文庫判264頁、ISBN978-4-8318-2612-1
植物園の世紀――イギリス帝国の植物政策』川島昭夫著、共和国、2020年7月、本体2,800円、四六変型判上製240頁、ISBN978-4-907986-66-7

★『増補 宗教者ウィトゲンシュタイン』は、1990年に法蔵館より刊行された単行本を増補し文庫化したもの。昨年11月に創刊した法蔵館文庫の第5弾です。「はじめに」の文言を借りると「ウィトゲンシュタイン自身の言葉と彼を知る人々の証言を中心にして」「「宗教的人間」として彼を捉え」たもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。増補版では「全体をアップデートした」とのことです。

★新たに発見された二種類の日記『秘密の日記』『哲学宗教日記』(それぞれ訳書あり)をめぐる分析(第4章「『秘密の日記』にみる『論理哲学論考』の基本的性格の成立」、第5章「『哲学宗教日記』にみる「宗教者」ウィトゲンシュタイン」)を加え、それに連動して第2章「第一次世界大戦とトルストイとの出会い」の第1節「戦場のウィトゲンシュタイン」と第3節「『草稿1914-1916』」を大幅に加筆し、さらに神をめぐる沈黙と語りかけとの間の矛盾をめぐる終章「自分が「神に対して」語ることと「神について」他人に語ること」も新たに加わっています。

★法蔵館さんの文庫創刊に見習って、人文書版元も自社文庫レーベルをどんどん作っていけば、文庫売場はもっと豊かに面白くなるのではないでしょうか。

★『植物園の世紀』は、2020年2月に逝去された京都大学名誉教授、川島昭夫(かわしま・あきお)さんの遺著。1989年から1996年にかけて各媒体で発表されてきた「植物園」関連の8本の論考を著者による自選で1冊にまとめたもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。巻頭の「はじめに」と巻末の「本書について」は、川島ゼミご出身の志村真幸さんがお書きになっています。ちなみに共和国さんでは著者の京都大学退職を記念した論文集『異端者たちのイギリス』を刊行しておられます。編者は志村さんです。

★志村さんは「はじめに」で本書をこう紹介しておられます。「植物園は、自然と人間の歴史的な結びつきをあきらかにする格好のテーマです。近代のイギリスと植民地という問題において、植物園がいかに重要な役割をはたしたかが、本書には論じられています」(9頁)。

★このほか、自粛明けにようやく購入できた4月から6月にかけての新刊を列記します。

平等をめざす、バブーフの陰謀』フィリップ・ブォナローティ著、田中正人訳、法政大学出版局、2020年6月、本体8,200円、四六判上製854頁、ISBN978-4-588-01117-7
フランスの自伝――自伝文学の主題と構造〈新装版〉』フィリップ・ルジュンヌ著、小倉孝誠訳、法政大学出版局、2020年5月、本体3,600円、四六判上製342頁、ISBN978-4-588-14057-0
偶発事の存在論――破壊的可塑性についての試論』カトリーヌ・マラブー著、鈴木智之訳、法政大学出版局、2020年4月、本体2,800円、四六判上製190頁、ISBN978-4-588-01116-0
立昇る曙[アウロラ・コンスルジェンス]――中世寓意錬金術絵詞』大橋喜之訳、八坂書房、2020年6月、本体4,500円、A5判上製400頁、ISBN978-4-89694-273-6
近代人の自由と古代人の自由/征服の精神と簒奪 他一篇』コンスタン著、堤林剣/堤林恵訳、岩波文庫、2020年5月、本体1,010円、文庫判392頁、ISBN978-4-00-325252-9
ノヴァセン――〈超知能〉が地球を更新する』ジェームズ・ラヴロック著、藤原朝子監訳、松島倫明訳、NHK出版、2020年4月、本体1,500円、四六判上製184頁、ISBN978-4-14-081815-2

★『平等をめざす、バブーフの陰謀』は『Conspiration pour l'égalité dite de Babeuf』(2 vols, Bruxelles, 1828)の全訳。底本は同1828年に出版された正誤表付の2刷とのことです。著者のフィリップ・ブォナローティ(Philippe Buonarroti, 1761-1837)はイタリアに生まれ、1793年にフランスに帰化した革命運動家。 「バブーフは処刑されたが、ブォナローティは処刑を免れ、30年後に亡命先で資料・証言を収集し本書を著した。〔…〕裁判などの証拠資料も合わせた全訳」(帯文より)。

★『フランスの自伝〈新装版〉』は、1995年に刊行されたフィリップ・ルジュンヌ(Philippe Lejeune, 1938-)の『L'Autobiographie en France』(Armand Colin, 1971)の全訳の新装版です。1994年に書かれた長めの「日本語版へのあとがき」は初版に続き本書でも収録されています。11社共同「書物復権」での復刊であり、新装版にあたって内容の変更はないようです。本書の後半は自伝をめぐるアンソロジーになっていて、ルソー以後の様々なテクストが収録されています。詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。ルジュンヌは自伝研究・日記研究のスペシャリストで、訳書にはあともう1冊、『自伝契約』(花輪光監訳、水声社、1993年)があります。

★『偶発事の存在論』は『Ontologie de l'accident : Essai sur la plasticité destructrice』(Léo Scheer, 2009)の全訳。「本書では、『新たなる傷つきし者』〔河出書房新社、2016年〕で示された「可塑性」の二つの現れ〔構築的可塑性、破壊的可塑性〕を、神経生物学や精神病理学の領域にとどまらず、いくつかの文学作品にまで例をとりながら、人人が経験するさまざまな「変貌〔メタモルフォーズ〕」の局面に広げて考察している。〔…〕一連の変容家庭の分析的記述は、爆発的変形の可能性が私たちの誰の内にもあることを教える」(訳者あとがきより)。

★マラブーはこう書きます。「失業者、ホームレス、PTSDに苦しむ患者、重度の鬱病者、自然災害の犠牲者、こうした人々の全てが、互いに似たような存在となってきた。私が『新たなる傷つきし者』でその相貌を描こうとした、新たな越境的同盟〔インターナショナル〕が生まれようとしている。ジジェクが言うように、心的外傷後の主体の形は、同一性の空虚と放棄というこれまでには見たことのない人間の姿を示しており、それはほとんどのセラピー、とりわけ精神分析の手には負えないのである。/こうした状況のなかで生活すること――だが、つきつめて言えば人間は常にそのような状況のなかにあるのではないだろうか――は、外部の不在の経験に行き着くものであり、それは同時に内部の不在でもある。そこから逃れることは不可能で、ただその場で変貌を遂げるしかない。世界の内も外も存在しない。変化はより一層根源的で、暴力的にならざるをえない。それだけに、必ず〔存在の〕断片化が生じる。主体の主体自身に対する不和が最も亢進した場合、その葛藤が最も深刻な場合には、もはや悲劇的な像すら構成しない。それは逆説的にも、無関心と冷淡さによって特徴づけられるのである」(27~28頁)。

★マラブーの著書は現代人が抱える問題への思考を喚起するもので、その影響範囲は人文書売場にのみ押しとどめられるものではありません。本書を他の様々な売場に展開して様々な読者の手に届けることのできる想像力こそ、明日の書店に求められているものではないか、という予感がします。

★『立昇る曙』は、13世紀から15世紀の間に執筆され17世紀前半に印刷された錬金術書『Aurora Consurgens』の全訳。トマス・アクイナス作という体裁を取っていますが、実際のところは不明です。訳書では同作の様々な写本や関連書から採った図像をちりばめ、ミーノ・ガブリエレによる図像概説を訳出し、さらに海外のものを含む解説3本を添え、さらに付録としてゾシモスの『力能について』抄訳のほか、『アリスレウスの幻視』『ダスティンの幻視』『三語の書』などが訳出されています。ユングによって見いだされ、フォン・フランツによる註釈が『結合の神秘』原典にカップリングされている伝説の書が日本語で参照できるようになったのは、まさに驚異的というほかありません。

★『近代人の自由と古代人の自由/征服の精神と簒奪 他一篇』は帯文に曰く「専制はなぜ批判されるべきか。小説『アドルフ』で知られるコンスタン〔バンジャマン・コンスタン:Benjamin Constant, 1767-1830〕の政治論集。ナポレオンを批判し、個人的自由の保障を唱えた近代自由主義の古典」。1819~20年「近代人の自由と古代人の自由」、1814年「征服の精神と簒奪」、1829年「人類の改善可能性(ペルフェクティビリテ)について」を収録。本書とともに、ツヴェタン・トドロフ『バンジャマン・コンスタン――民主主義への情熱』(小野潮訳、法政大学出版局、2003年)をひもときたいです。

★『ノヴァセン』は『Novacene: The coming age of hyperintelligence』(Allen Lane, 2019)の訳書。書名にもなっているノヴァセンというのは、人類が地球を「地質学的にも生態系の面からも改変する能力を獲得した時代」としてのアントロポセン(人新世)を引き継ぐ時代を指した言葉。ラヴロックはアントロポセンを「火の時代」と呼んで批判的に考察し、その時代が生み出したサイボーグ(ラヴロックの定義では電子的生命形態のことで、知能を持った電子的存在)だけが「いまや目前に迫った天文学的危機をガイアが切り抜けるための先導役を果たせる」(111頁)のだ、として積極的に論じています。ラヴロックが思い描くサイボーグの外見は「球体〔スフィア〕」(121頁)だそうです。

★「速さという特性によって、ひとたびAIによる生命が現れれば、それは急速に進化し、今世紀の終わりまでには生物圏の重要な一端を担うだろう。つまり、ノヴァセンの主要な住人は人間とサイボーグということになる。このふたつの種はともに知性をもち、意図をもって行動する。サイボーグは友好的にもなり得るし、敵対的にもなり得る。だが、現在の地球の年齢や状態から、サイボーグはわたしたちと共に動き協働する以外に選択肢はないだろう。未来の世界は、人間やほかの知的種の身勝手なニーズではなく、ガイアの存続を確かなものにするというニーズによって規定されるのだ」(130頁)。

★「もしわたしのガイア仮説が正しく、地球が実際に自己調整システムだとすれば、人間という種がこのまま生き残るかどうかは、サイボーグがガイアを受け入れるかどうかにかかっている。サイボーグは自分たちのためにも、地球を冷却に保つという人間のプロジェクトに加わらなければならないだろう。それに、これを達成するために使えるメカニズムは、有機的生命だということも理解するだろう。人間と機械との戦争が起こったり、単に人間がマシンによって滅ぼされるといったことが起こることはまずないと信じているのはこれが理由だ。つまりわたしたちがルールを課すからではなく、マシンが自らのために、人間という種をコラボレーションの相手として確保しておきたいと思うからだ」(133~134頁)。

★これ以上は引用しない方がいいと思うのですが、こうしたある種楽観的とも思える未来予測の先には「ITガイア」への移行と「有機的ガイア」の死、人間の滅亡が予見されてもいます(140頁)。本書のクライマックスは明らかにこのページより後にあります。存外に怖いです。

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by urag | 2020-07-13 00:00 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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