2020年 04月 19日
『ハリー・スミスは語る――音楽/映画/人類学/魔術』ラニ・シン編、湯田賢司訳、カンパニー社、2020年4月、本体2,800円、四六判並製304頁(カラー16頁)、ISBN978-4-910065-01-4 『みんなのコミュニズム』ビニ・アダムザック著、橋本紘樹訳、斎藤幸平企画・翻訳協力、榎本俊二イラスト、堀之内出版、2020年3月、本体1,600円、B6変型判並製144頁、ISBN978-4-909237-46-0 ★『ハリー・スミスは語る』は『Think of the Self Speaking: Selected Interviews』(Elbow Press/Cityful Press, 1998)の訳書。1960年代から1980年代にかけて収録された、ハリー。スミス(Harry Everett Smith, 1923-1991)に対する7つのユニークなインタヴューに、アレン・ギンズバークのインタヴュー「ハリー・スミスを語る」を加えたもの。巻頭ではスミスによる美しいヴィジュアルアートの数々がカラーで掲載され、巻末には「フィルモグラフィー+ディスコグラフィー」が配されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。 ★編者のラニ・シンは「はじめに」でこう述べています。「ハリー・スミスは宇宙論の大家、映像作家、画家、人類学者、言語学者、オカルト研究家に収まりきらない存在だった。スミスは錬金術的な関係性の壮大な枠組みを通して世界を見渡していた。ハリーはサイケデリック時代を先取りしていた。包括的な美意識により、どのように「すべてのものが繋がっている」かを表現することが、人間存在の基本的な構造を明らかにする最善の方法だと彼は考えていた」(8頁)。 ★「「ハリーとウダウダ過ごす」という単純な観点から飛び立った読者は、共感、複雑性、広大なスケール、精神的にハイになったことによるアイディアの奔流、比喩と暗示と暗喩による知的な煙幕がないまぜになった会話によってさまざまなハーモニーが一箇所に合流し、奇妙な高揚感を味わう」(9頁)。対談はいずれも興味深く、時にはまったく筋が追えなくなるほど、ぶっ飛んでいます。おそらく本書は奇書に類するものと言ってよいのかもしれません。本書はカンパニー社さんの書籍第2弾です。出品されている某ネット書店を通じて購入したところ、このご時世に休日にもかかわらずすぐに出荷して下さいました。ありがたいことです。 ★『みんなのコミュニズム』は『Kommunismus : kleine Geschichte, wie endlich alles anders wird』(Unrast Verlag, 2018)の訳書。著者のビニ・アダムザック(Bini Adamczak, 1979-)はベルリンを拠点に活動するドイツのアクティヴィスト。政治理論、クイア・ポリティクス、などに関する論考があります。本書は世界各国で訳されてきた話題書です。日本語版では橋本さんによる柔らかな訳文と、榎本さんによるキュートなイラスト、デザイン事務所nipponiaのお二人による親しみやすい装丁(専用の栞付き!)で、若い世代にも手に取りやすい一冊となっています。目次は以下の通りです。 コミュニズムってなに? 資本主義ってなに? どんなふうに資本主義は生まれたの? 労働ってなに? 恐慌ってなに? どうすべきか? 1つめのトライ 2つめのトライ 3つめのトライ 4つめのトライ 5つめのトライ 6つめのトライ エピローグ 日本語版付録インタビュー『みんなのコミュニズム』の著者、ビニ・アダムザックに聞く ★本書冒頭で著者はこう明確に断言します。「コミュニズムっていうのは、現在の社会――資本主義社会――でみんなを悩ませている苦しみを全部なくしてしまう社会のこと。〔…〕もう苦しまなくてもいいような社会をイメージしてみるといいんじゃないかな?」(6頁)。「コミュニズムはたしかにとってもよく効く薬だけど、万能薬じゃなくて、資本主義の苦しみにしか効かない」(7頁)。「人間の歴史のなかで、正しい形のコミュニズムなんてものはまだ一度もないから、そもそもコミュニズムってなんなのか、だれも正しいイメージをもてないんだ」(46~47頁)。帯文にはこうあります、本書は「力強く「ラディカルな夢を見ることは可能で、価値があること」を教えてくれます」と。 ★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。 『民主主義の非西洋起源について──「あいだ」の空間の民主主義』デヴィッド・グレーバー著、片岡大右訳、以文社、2020年4月、本体2,400円、四六判上製192頁、ISBN978-4-7531-0357-7 『吉本隆明全集22[1985-1989]』吉本隆明著、晶文社、2020年4月、本体6,800円、A5判変型上製594頁、ISBN978-4-7949-7122-7 『積読こそが完全な読書術である』永田希著、イースト・プレス、2020年4月、本体1,700円、本体1,700円、四六判並製240頁、ISBN978-4-7816-1864-7 『ele-king臨時増刊号 山本太郎から見える日本』ele-king編集部編、ele-king books:Pヴァイン発行、日販IPS発売、2020年4月、本体1,620円、菊判並製240頁、ISBN978-4-909483-52-2 ★『民主主義の非西洋起源について』はまもなく発売。2005年に発表され、2007年にAK Pressより刊行されたグレーバーの論文集『Possibilities: Essays on Hierarchy, Rebellion, and Desire』の第11章として収録された論考「There Never Was a West: Or, Democracy Emerges From the Spaces in Between」を中核に、その仏語訳版『La démocratie aux marges』(Flammarion, 2018)で掲載されたアラン・カイエによる「まえがき」と、ウェブマガジン「In These Times」でグレーバーが2000年に発表した論考「惜しみなく与えよ」を併録。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。 ★グレーバーはこう論じます。「民主主義的国家とはつねに一個の矛盾でしかなかった。グローバル化は単に、もともと腐っていた基盤をあらわに示したにすぎない」(122頁)。「サパティスタの出した答え――革命とは国家の強制的装置を奪い取ることだと考えるのをやめて、自律的コミュニティの自己組織化を通して民主主義を基礎づけなおそうという提案――は、完璧に有効である」(123頁)。「重要なのは、普通の人びとが討議の場に集まって座り込み、自分たちの課題に自分たちで――武力によって決定を支えられつつ課題に対処するエリートたちに劣らず――対処できるということを、さらにまた、無理だったということになるとしても、彼らには試してみる権利があるのだということを、私たちが心から信じることだ」(123~124頁)。 ★訳者あとがきで片岡さんはこう書いています。「本論考を貫くのは、「アナキズムと民主主義はおおむね同じものである」という仮説、「あるいはそうあるべきだ」という信念にほかならない」(167頁)。グレーバーの訳書は今後、以文社より2001年の『人類学的価値理論の構築へ向けて』が、岩波書店より2019年の『ブルシット・ジョブズ』が出版予定となっています。 ★『吉本隆明全集22[1985-1989]』はまもなく発売。円熟期の批評的到達点である『ハイ・イメージ論』の第Ⅰ巻、諸概念が極度に凝縮された最後の長篇散文詩『言葉からの触手』、そして国内外の様々な思想と対峙し続けた1985年から1988年までの書評集を収録しています。この第22巻は本全集において、時代と激しく斬り結んだ絶対的ピークのひとつです。付属の「月報23」には、先崎彰容さんによる「吉本隆明と言論の不在」と、ハルノ宵子さんによる「Tの悲劇」を収載。先崎さん曰く「吉本の著作は、やせ細った現代を相対化する縁を与えてくれる」と。次回配本は8月刊行予定、第23巻。 ★『積読こそが完全な読書術である』は発売済。私家版『サイコパスの読書術――暗闇で本を読む方法』(時間銀行書店、2017年11月)を全面改稿した、書評家の永田希(ながた・のぞみ:1979-)さんのメジャーデビュー作です。千葉雅也さんによる推薦文や目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。現代人に必要な「ビオトープ的積読環境の構築と運用を提案」(はじめに、6頁)する、卓抜な読書論です。総合カルチャーサイト「Real Sound」では刊行を記念し、著者へのインタヴュー記事「本は読まずに積んでおくだけでいい?」が4月18日に公開されています。 ★『ele-king臨時増刊号 山本太郎から見える日本』は発売済。山本太郎さんへのインタヴュー「政治家・山本太郎はどこから来て、どこへと向かうのか」をはじめ、内田樹、宇都宮健児、宮台真司、望月衣塑子、松尾匡、渡辺照子、の各氏へのインタヴューと、斎藤幸平、高島鈴、白石嘉治、の各氏によるコラム、として、松本哉、Mars89、沖野修也、マシュー・チョジック、の各氏の談話を掲載。目次詳細は誌名のリンク先でご覧いただけます。遅かれ早かれ訪れる現長期政権以後において民主政治を奪還するために大いに参考にしたい、充実した一冊。 +++
by urag
| 2020-04-19 23:55
| ENCOUNTER(本のコンシェルジュ)
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