2019年 11月 24日
『くたばれインターネット』ジャレット・コベック著、浅倉卓弥訳、ele-king books:Pヴァイン、2019年11月、本体2,600円、ISBN978-4-909483-43-0 『名づけられないもの』サミュエル・ベケット著、宇野邦一訳、河出書房新社、2019年11月、本体2,800円、46判上製262頁、ISBN978-4-309-20787-2 『呪われた詩人たち』ポール・ヴェルレーヌ著、倉片健作訳、ルリユール叢書:幻戯書房、2019年11月、本体3,200円、四六変上製280頁、ISBN978-4-86488-184-5 『アムール・ジョーヌ』トリスタン・コルビエール著、小澤真訳、ルリユール叢書:幻戯書房、2019年11月、本体5,600円、四六変上製544頁、ISBN978-4-86488-185-2 『アレ Vol.7:休――rest, break, in-active』アレ★Club、2019年11月、本体1,400円、A5判並製272頁、ISDN278-4-572741-07-0 『東アジアのイノベーション――企業成長を支え、起業を生む〈エコシステム〉』木村公一朗編、作品社、2019年11月、本体2,600円、ISBN978-4-86182-783-9 『アルジェリア、シャラ通りの小さな書店』カウテル・アディミ著、平田紀之訳、作品社、2019年11月、本体2,200円、46判上製248頁、ISBN978-4-86182-784-6 『小尾俊人日誌 1965-1985』小尾俊人著、中央公論新社、2019年11月、本体3,200円、四六判上製304頁、ISBN978-4-12-005251-4 『歴史探究のヨーロッパ――修道制を駆逐する啓蒙主義』佐藤彰一著、中公新書、2019年11月、本体900円、新書判288頁、ISBN978-4-12-102567-8 『スピノザ――〈触発の思考〉』浅野俊哉著、明石書店、2019年11月、本体3,000円、4-6判上製384頁、ISBN978-4-7503-4911-4 『北斎――十八世紀の日本美術』エドモン・ド・ゴンクール著、隠岐由紀子訳、東洋文庫:平凡社、2019年11月、本体3,200円、B6変判上製函入372頁、ISBN978-4-582-80897-1 ★『くたばれインターネット』は、トルコ系移民の子孫だというアメリカの作家ジャレット・コベック(Jarett Kobek)が自ら立ち上げた出版社「We Heard You Like Books」で2016年に出版した『i hate the internet』の翻訳。「ツイッター時代のヴォネガット」と「タイムズ」誌で賞賛されたベストセラーです。政治家、アーティスト、作家、実業家、等々、あらゆるセレブたち(巨大ネット通販の創業者を含む)をこき下ろしつつ、小説という一般概念なぞぶっ壊しかねないテンションで疾走する、ネット時代の自称「ひどい小説」。 ★「ネットというものは、文化のような顔をしてやってきた技術革新の生み出した、知性の封建制度以外の何ものでもない」(33頁)。「今やアメリカ文学の担う役割というものは奴隷労働者を搾取することである。あなたが今お読みになっているこの本がまさにその好例となる」(32頁)。「無関係なごわごわとした手触りの悪い中身が次から次へと現れてくるコンピューターネットワークの姿をまねたひどい小説を書くしかない」(34頁)。「ガーディアン」紙が「文化的な診断による怒りのコメディ」と評したのは的確であるように思われます。 ★『名づけられないもの』は宇野邦一さんによる「ベケット没後30年個人訳小説三部作」の第3弾完結編。「『モロイ』、『マロウン死す』に続いてベケットが欠いた作品『名づけられないもの』は、前の二作にもまして法外な作品である。もはや「あらすじ」を言うことなどほとんど不可能、無意味であり、どういう作品なのか、はたして小説であるのか、それだって明言することは難しい」と宇野さんは訳者あとがきで書いておられます。原著は『L'Innommable』(Minuit, 1953/2004)で、既訳には安藤元雄訳と岩崎力訳があります。 ★「もうあなたに言ったとおり、私は進退窮まっていますが、この最後の仕事にいちばんこだわっています。ここからぬけ出ようとしても、出られないでいます」とベケットはジェローム・ランドン宛ての1951年9月10日付の手紙に書いたといいます。「言葉があるかぎりそれを言わなくてはならない〔…〕奇妙な罰、奇妙な過失〔…〕言葉は私をたぶん私の物語の限界まで連れて行った、私の物語に向けて開く扉の前に」(237頁)。同書の「栞」の中で詩人の吉増剛造さんは「“巨大な吐息”なのだ、ベケットは」と綴っておられます。 ★『呪われた詩人たち』は、幻戯書房のシリーズ「ルリユール叢書」の第3回配本。「コルビエール、ランボー、マラルメらを世に知らしめ、同時代人の蒙を開き、次代に甚大な影響をもたらした詩人ヴェルレーヌによる画期的評論」(帯文より)。原著『Les Poètes maudits』は初版が1884年、新版が1888年に刊行。既存の抄訳には鈴木信太郎訳『呪はれた詩人達』(創元社、1951年)などがありますが、初版の「緒言」を併せて訳出した全訳は本書が初めてです。論じられている対象は、上記3名のほか、デボルド=ヴァルモール、ヴィリエ・ド・リラダン、哀れなルリアンの計6名。最後のルリアンというのはほかならぬヴェルレーヌ自身のこと。 ★『アムール・ジョーヌ』は同じくルリユール叢書第3回配本の2点目。「中原中也の愛した呪われた詩人コルビエールと海の男の子守唄……。中也はコルビエールに何を見たのか。解答は、その詩のなかに。あの名高き『黄色い恋』の、全訳完全版」(帯文より)。トリスタン・コルビエール(Tristan Corbière, 1845–1875)はフランスの詩人で、本書の原著『Les Amours jaunes』(1873年)は29歳で夭折した彼が自費出版したただひとつの詩集です。既存の抄訳には中原中也訳や篠田一士訳などがあります。なお今回の完訳版では「アルモールの海岸」の章でロマナン版(1935年)掲載の挿絵の数々を収めています。 ★『アレ Vol.7』は本日11月24日に第29回「文学フリマ東京」にて発売開始。特集は「休」。発行元紹介文によれば「寝る」や「暇を持て余す」といった静的なものから「レジャー」や「アクティビティ」といった動的なものまで包含する「休む・休み」という行為・概念について、様々な角度から考察を試み」るもの。巻頭を飾るのは國分功一郎さんへのインタビュー「これからの「休み」を哲学する」(8~33頁)。特集頁掉尾を飾る佐藤克文さんへのインタビュー「「バイオロギング」から見えてくる動物の休息」(170~196頁)も要注目です。 ★『東アジアのイノベーション』は、巻末謝辞によればJETROアジア経済研究所で2017年4月から2019年3月まで実施した「アジアの企業とイノベーション」研究会の成果。「本書では、東アジアのなかでも起業の話題が増えたシンガポールや台湾、中国を対象に、起業を通じたイノベーションを支える環境がどのように発展してきたのかを紹介する」(ii頁)。主要目次は以下の通り。 はじめに 序章 東アジア経済の変化:イノベーションの新たな担い手|木村公一朗・牧兼充 コラム(1)韓国のスタートアップ|安倍誠 第1章 大学の起業家育成:シンガポール国立大学の事例|福島路 コラム(2)タイのエコシステムの現状と今後の展望|越陽二郎 第2章 「シリコンバレー志向型政策」の展開:台湾の事例|川上桃子 コラム(3)シリコンバレーとアジアをつなぐ移民起業家たち|川上桃子 第3章 ベンチャーキャピタル:中国の事例|丁可 コラム(4)中国「政府引導基金」の実態|丁可 第4章 コワーキングスペース:中国「衆創空間」の事例|伊藤亜聖 コラム(5)中国のスタートアップの特許|木村公一朗 第5章 大学のスタートアップ支援:中国・清華大学の事例|周少丹・林幸秀 コラム(6)日本のエコシステムとディープテック|伊藤毅 第6章 オープンソースとマスイノベーション:メイカー向けハードウェア・スタートアップの事例|高須正和 コラム(7)スタートアップ・コミュニティにおける成功者の役割|福嶋路 第7章 シェアリング・エコノミー:中国の事例|丸川知雄 コラム(8)スター・サイエンティストが拓く日本のエコシステム|牧兼充 終章 起業を通じたイノベーションの今後|木村公一朗 謝辞 エコシステムの構成要素 索引 ★『アルジェリア、シャラ通りの小さな書店』は、アルジェリア出身でパリ在住の作家カウテル・アディミ(Kaouther Adimi, 1986-)による長篇小説第3作『Nos Richesses』(Seuil, 2017)の全訳。訳者あとがきによれば本書は「1930年代半ばにアルジェに書店兼出版社を開き、以後30年以上にわたり多くの優れた文学書を世に出した実在の伝説的出版人の波乱に満ちた半生を描く」もの。伝説の出版人というのは、エドモン・シャルロ(Edmond Charlot, 1915-2004)のこと。カミュ、グルニエ、ヴェルコール、サン=テグジュペリ、ジャン・ジオノ、アンリ・ボスコ、等々、多くの作家が登場します。 ★『小尾俊人日誌 1965-1985』は、みすず書房創業者で編集者の小尾俊人(おび・としと:1922-2011)さんの日誌150冊からその核心部分を翻刻したもの。思想史家の市村弘正(いちむら・ひろまさ:1945-)さんと、みすず書房の編集者をお務めだった加藤敬事(かとう・けいじ:1940-)さんが編纂され、「まえおき」「おわりに」、そして解説対談「『小尾俊人日誌』の時代」を担当されています。丸山眞男さんや藤田省三さんらとの浅からぬ関係など、戦後思想史の貴重な証言となっており、業界人必読です。 ★『歴史探究のヨーロッパ』は、2014年刊『禁欲のヨーロッパ』、2016年刊『贖罪のヨーロッパ』、2017年刊『剣と清貧のヨーロッパ』、2018年『宣教のヨーロッパ』と続いてきた西洋中世史家の佐藤彰一(さとう・しょういち:1945-)さんによる、西欧の修道院および修道制の歴史をめぐる一連の著書の第5作。「人文主義から啓蒙主義へ、キリスト教文明の転機」と帯文にあります。「方法的懐疑の思想が知識人の世界を席巻し、それが導きの糸となって、啓蒙思想の君臨が始まる。啓蒙思想は考証学的歴史を駆逐し、考証を欠いた歴史、というより正確には歴史人類学、歴史社会学を前面に押し出すことになった。啓蒙史学と呼ばれる潮流から生まれたモンテスキューの『法の精神』やルソーの『社会契約論』はそうした一例であるし、その延長線上にあるマルクス主義歴史学と称されるものも同じである」(239~240頁)。主要目次は以下の通り。 はじめに 第一章 人文主義と宗教論争 第二章 ブールジュ学派の射程――歴史と法学 第三章 サン・モール会の誕生と発展 第四章 ジャン・マビヨンとその時代 第五章 修史事業の展開 第六章 デカルトかライプニッツか 第七章 考証学(エリュデシオン)の挫折 第八章 啓蒙と功利主義の展開と修道制 終章 ヨーロッパ修道制の歴史的意義 あとがき 参考文献 索引(事項・人名) ★『スピノザ――〈触発の思考〉』はまもなく発売。『スピノザ――共同性のポリティクス』(洛北出版、2006年)につぐ、浅野俊哉(あさの・としや:1962-)さんによるスピノザ論の第二書。『思想』誌やお勤め先の関東学院大学法学部の各種紀要に2007年から2019年にわたって発表されてきた7篇の論考に巻頭の「はじめに」を加えて収録。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。思想史上の「異物」としてのスピノザが後世にもたらした触発=変様(アフェクチオ)を辿る力作。 ★『北斎』はフランスの作家で評論家のエドモン・ド・ゴンクール(Edmond de Goncourt, 1822-1896)による最晩年の著書『Hokousaï : l'art japonais au XVIIIe siècle』(1896年)の全訳。帯文に曰く「今では世界的に著名な北斎を、1世紀以上前に評価し愛して書かれた名著」と。全60章。第1章の書き出しはこうです。「地球上には、過去に決別したあらゆる才能に対する不公平な評価というものが存在する!」(21頁)。本書と双璧を成すゴンクールの『歌麿』は同じく隠岐由紀子(おき・ゆきこ:1949-)さんによって東洋文庫より2005年に刊行されています。 +++
by urag
| 2019-11-24 23:46
| 本のコンシェルジュ
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