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2019年 10月 20日

注目新刊:ユング『分析心理学セミナー ――1925年、チューリッヒ』みすず書房、ほか

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分析心理学セミナー ――1925年、チューリッヒ』カール・グスタフ・ユング著、ソヌ・シャムダサーニ/ウィリアム・マガイアー編、横山博監訳、大塚紳一郎/河合麻衣子/小林泰斗訳、みすず書房、2019年10月、本体3,600円、四六判296頁、ISBN978-4-622-08843-1
人種と歴史/人種と文化』クロード・レヴィ=ストロース著、ミシェル・イザール序文、渡辺公三/三保元/福田素子訳、みすず書房、2019年10月、本体3,600円、四六判上製152頁、ISBN 978-4-622-08850-9
AI以後――変貌するテクノロジーの危機と希望』丸山俊一/NHK取材班編著、NHK出版新書、2019年10月、本体800円、新書判208頁、ISBN978-4-14-088603-8
キリスト教の合理性』ジョン・ロック著、加藤節訳、岩波文庫、2019年10月、本体1,010円、文庫判400頁、ISBN978-4-00-340079-1
柄谷行人浅田彰全対話』柄谷行人/浅田彰著、講談社文芸文庫、2019年10月、本体1,800円、A6判256頁、ISBN978-4-06-517527-9

★『分析心理学セミナー ――1925年、チューリッヒ』は『分析心理学セミナー1925――ユング心理学のはじまり』(河合俊雄監訳、猪股剛/小木曽由佳/宮澤淳滋/鹿野友章訳、創元社、2019年6月)と同じ原書(1989/2012年)の新訳。訳者あとがきによれば諸事情があったようで、非独占の形態で版権を取得され、創元社版との共存が果たされました。読者にとってみれば二書を読み比べる中で得るものがあるはずですし、歓迎したいと思います。個人的にはむしろこの二書を併せてご購読いただくことをお薦めしたいです。ここでは出版社の視点から、帯文を比べてみます。目次はそれぞれの書名のリンク先でご確認いただけます。

創元社版:『赤の書』はこうして分析心理学になった! 心理学は、「人生を豊かにする」学問である――ユングが生き生きと語りだしたみずからの心理学の生成過程とは? 世界が待ち望んだユング心理学の新しい入門書。

みすず書房版:無意識との対決から超越機能へ。ユング自らが生き生きと語ったフロイト、『赤の書』、タイプ論。最良の手引きと呼ぶべき、ユング心理学誕生のドキュメンタリ。

★『赤の書』が創元社より、『ユング自伝』や『タイプ論』がみすず書房より、それぞれ刊行されており、二社にとって意義深い出版となっているのが分かります。ユングにはまだ未訳の著作が残っているので、「ユング・コレクション」の人文書院さんを含め、ぜひ各社さんのさらなるご尽力を期待したいと思います。

★『人種と歴史/人種と文化』は『Race et Histoire, Race et Culture』(Albin Michel / UNESCO, 2001)の全訳。『人種と歴史』は、原書がもともと「1952年、ユネスコの依頼で書かれた、人種差別の偏見とたたかう小冊子シリーズの一冊であり、キャンペーンの背景にはナチス・ドイツの人種理論の根絶という戦後の切迫した問題意識があった」(カバー表4紹介文より)と。既訳書としては、荒川幾男訳がみすず書房より1970年に刊行されています(2008年新装版を最後に品切)。今回の新訳は渡辺公三さんの遺稿であり、西成彦さんが校閲されたとのことです。『人種と文化』は既刊書『はるかなる視線(I)』(みすず書房、1986年)の第一章「人種と文化」を、訳者である三保さんの許諾のもとに再録したもの。編集部による巻末特記によれば「表記等を若干改めた箇所がある」そうです。荒川訳『人種と歴史』では巻末に、フランスの民族学者であり哲学者のジャン・プイヨン(Jean Pouillon, 1916-2002)による「クロード・レヴィ=ストロースの業績」が収められていましたが、今回の新訳では巻頭にフランスの人類学者であるミシェル・イザール(Michel Izard, 1931-2012)による「序文」が配されています。

★『AI以後』は帯文に曰く「世界の異能の知性が語る、人類とAIをめぐる最先端のビジョン」。今夏全5回でNHKEテレにて放送された「超AI入門特別編 世界の知性が語るパラダイム転換」の書籍化です。宇宙物理学者マックス・テグマーク、倫理学者ウェンデル・ウォラック、哲学者ダニエル・デネット、「WIRED」元編集長ケヴィン・ケリーへのインタヴューに、NHKのプロデューサー丸山俊一さんによる「終章」と「あとがきにかえて」を加えたもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。興味深い知見に満ちた一冊ですが、中でも印象的だったもののひとつがデネットの次の言葉でした。

★「AIが自律性を持てば、私たちに隠しごとをするようになるでしょう。自立したエージェントは他のエージェントに自分の考えていることを悟られないようにするからです。ですから意識を持った、独自の意識をもって会話することのできるAIをつくろうとするならば、「神が人間に言葉を与えたのは、互いの考えていることを隠すためである」という、かのタレーランの名言を思い出すべきです。この皮肉な言葉には深い示唆があります。意識を持ったAIが非常に率直で、誠実で、全く裏表のないものになることは期待できません。真の意識とは相反する性質だからです。そのため非常に気をつけなければなりません。/私たちは、同じ人間同士でさえ協力や善意を受けるのにずいぶんと苦労しています。そこに自律型エージェントというカテゴリーが加わったら、ますます面倒なことになります。人間より素早く考えることができ、人間との共通点もあまりないからです。それが、人間と同等、またはより賢い知的エージェントをつくることに非常に慎重であるべきだと私が考える主な理由です」(103~104頁)。

★『キリスト教の合理性』は『The Reasonableness of Christianity, as Delivered in the Scriptures』(原題:聖書に述べられたキリスト教の合理性)の新訳。既訳には『キリスト教の合理性・奇跡論』(服部知文訳、岬書房、1970年;改訂版、国文社、1980年)があります。「ロック晩年の重要作。〔…〕理神論への道を開いた、ヨーロッパの宗教思想史を語るうえで不可欠の書」と帯文に謳われています。巻末の訳者解説では「敬虔なキリスト教徒であったロックが、なぜ、晩年になって、キリスト教とは何かを問わなければならなかったか」に焦点があてられ、晩年のロックの思想が整理されています。岩波文庫での加藤さんによるロックの訳書は、2010年の『完訳 統治二論』と2018年の『寛容についての手紙』に続いて3点目となります。

★『柄谷行人浅田彰全対話』は、柄谷さんの『ダイアローグⅢ』(第三文明社、1987年)や『ダイアローグⅣ』(第三文明社、1991年)、浅田彰さんの『「歴史の終わり」を超えて』(小学館、1994年;中公文庫、1999年)に収録されたもののほか、単行本未収録の雑誌対談を加え、全6本を1冊にまとめたもの。お二人の他に鼎談者がいるような座談会は収録していません。巻末に、柄谷さんによる「浅田彰と私」という一文が添えられています。末尾に次のような印象的な言葉が刻まれています。「彼は私にとって最高のパートナーであった。漫才でいえば、私はボケで、彼はツッコミである。あらゆる面で助けられた。私が思いついた、いい加減な、あやふやでしかない考えが、彼の整理によって、見違えるようになったことも何度もある。また、アメリカでもフランスでも、彼の言語能力と当意即妙の判断力にどれだけ助けられたことだろう。/「批評空間」をやめて以後、私はまた、対談や座談会が苦手になった。その意味では、元の自分に戻ったといえるかもしれない」(243頁)。

★講談社文芸文庫での柄谷さんの「全対話」には、2011年の『柄谷行人中上健次全対話』、2013年の『柄谷行人蓮實重彦全対話』があり、講談社さんの単行本では2018年の『大江健三郎 柄谷行人 全対話――世界と日本と日本人』があります。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

現代思想からの動物論――戦争・主権・生政治』ディネシュ・J・ワディウェル著、井上太一訳、人文書院、2019年10月、本体3,500円、4-6判並製410頁、ISBN978-4-409-03105-6
多田尋子小説集 体温』多田尋子著、書誌汽水域、2019年10月、本体1,800円、四六判上製224頁、ISBN978-4-9908899-2-0

★『現代思想からの動物論』は、オランダの出版社Brillのシリーズ「Critical Animal Studies」で2015年に刊行された『The War against Animals』の全訳。ワディウェル(Dinesh Joseph Wadiwel)はオーストラリアの人権・社会法学者で、今回の訳書が日本初訳となります。帯文に曰く「あらゆる権力支配の基盤に、人間による動物支配をみる力作。人文学の動物論的転回」。「生政治」「征服」「私的支配」「主権」の4部構成。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「本書の中で筆者は、人間と人外の力関係を規定する合理性を組織的次元で捉え、この関係を形づくる支配の様態と率直に向き合うことを試みる。人間と動物の政治関係を筆者は慎重に見取り図の形で示すが、この記述は私たち人間がみずからをどう見たがるかを離れ、私たちが自身らの支配する動物たちからどう見られているかを想像しようと努める。畢竟、暴力はそれを行使する者の視点からではなく、その威力を被る者の主体性を通してのみ理解しうる。〔…本書の原題〕『動物たちとの戦争』は最低でも、人間動物関係を親切、自然、ないし互恵的とみる主流言説の中和剤となる」(「日本語版まえがき」、2頁)。「世界規模でみれば、私たちの主要な動物利用の形態は、根深い敵意、暴力、支配の様態を映し出している」(同、3頁)。

★「本書の狙いは、理論的角度から人間動物関係をめぐる私たちの理解を揺さぶり問うた上で、この関係を彩る暴力の認識と克服へ向けた枠組みを示すことにあった。筆者が試みたのは以下のこととなる。/一、人間動物関係を戦争という観点から捉える。〔…〕二、動物たちとの戦争を目立って生政治的色彩の濃いものと理解する。〔…〕三、対動物戦争が継続的な日々の征服行為を伴うと認識する。〔…〕四、動物に対する人間の主権を概念化し、動物の主権に向けて考察を始める」(終章「停戦」、357~359頁)。「多くの人々は人間が動物たちに振るう暴力の広がりを直視または論評せず、大勢が楽しむ伴侶動物らとの関係は、愛と互恵と無支配に彩られているとみえる。が、本書は違う見方を示す」(「日本語版まえがき」、2頁)。日本においても本書の議論は様々な反響を呼ぶのではないかと予想できます。

★『多田尋子小説集 体温』は、書誌汽水域さんによる書籍第3弾。作家の多田尋子(ただ・ひろこ:1932-)さんの小説3編を収めた「ままならない大人の恋を描いた恋愛小説集」(カバー紹介文より)。「体温」(「群像」1991年6月号)、「秘密」(「群像」1992年10月号)、「単身者たち」(「海燕」1988年11月号)を収録(ちなみに講談社より1992年に刊行された作品集『体温』では「やさしい男」「焚火」「オンドルのある家」「体温」が収録されています)。新たに付された「あとがき」には自著の久しぶりの復刊に驚きを隠せない著者の心情が綴られています。投げ込みで「あなたの温もり、あなたとの距離」という11頁の冊子があり、大塚真祐子さん(三省堂書店成城店)、八木寧子さん(湘南蔦屋書店)と、発行者で書店員の北田博充さんのお三方による、本書をめぐるエッセイ3編が掲載されています。また、同名のチラシ(二子玉川・蔦屋家電にて無料配布中)では、多田作品との併読をお薦めする恋愛小説8作品を北田さんが紹介されています。多田さんは54歳から63歳までの活動期間中、芥川賞に歴代最多となる6度ノミネートされています。それから約4半世紀、書店員さんの努力によって名編が甦ったことは特筆に値すると思います。

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by urag | 2019-10-20 23:48 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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