2019年 10月 14日
★まず最初にここ最近で出会った新刊を列記します。 『列島祝祭論』安藤礼二著、作品社、2019年10月、本体2,600円、46判上製364頁、ISBN978-4-86182-773-0 『ともがら(朋輩)』中原文夫著、作品社、2019年10月、本体1,100円 46判上製104頁、ISBN978-4-86182-780-8 『東洋/西洋を越境する――金森修科学論翻訳集』金森修著、小松美彦/坂野徹/隠岐さや香編、読書人、2019年10月、本体3,800円、四六判上製272頁、ISBN978-4-924671-41-6 『贈与論――資本主義を突き抜けるための哲学』岩野卓司著、青土社、2019年9月、本体2,800円、四六判並製340頁、ISBN978-4-7917-7213-1 ★『列島祝祭論』は、文芸評論家で多摩美術大学准教授の安藤礼二(あんどう・れいじ:1967-)さんが集英社の月刊文芸誌「すばる」に連載した「列島祝祭論」(全25回、2016年7月号~2018年9月号)が元になっており、それに加筆修正を加えて一冊としたものです。主要目次は以下の通り。 翁の変容 翁の発生 国栖 小角 修験 空海 天台 一遍 後醍醐 後記 後醍醐から現在へ 古典作品からの引用および謝辞 人名索引 ★「現在を知り、現在を根本から変革していくためには政治の革命、現実の革命のみならず宗教の革命、解釈の革命こそが必要なのである。その系譜を知り、理論においても実践においても、引き継ぐことが必要なのである。そのために列島の祝祭の起源、その原型にさかのぼる必要がある。近代的な天皇の起源である中世的な天皇にさかのぼり、さらには天皇という概念そのものをいったん解体してしまう必要がある。再構築は、あるいは脱構築は、そうした徹底的な解体、解釈の――批評の――徹底からしか生まれないであろう」(348頁)。 ★『ともがら』は、小説家・中原文夫(なかはら・ふみお:1949-)さんによる書き下ろし小説。「熟年で緊迫する生の葛藤、迷走する二人の奇妙な交感」と帯文にはあります。二人というのは、主人公の男性「水野」と、その学生時代の友人で、病院で偶然主人公と再会したもう一人の男性のことです。人生の黄昏時の風景が淡々と描かれています。「周りから侮られているような気がして、しばらく体を強張らせていた水野は、ここは開き直る時だと思い立ち、背に浴びる視線を弾いてにらみ返すつもりで勢い込んで後ろに振り向いた。だが、彼の独り相撲をあざ笑うかのように、すでに誰の視野にも水野は入っておらず、何事もなかったような談笑の渦が目の前にあった。拍子抜けした水野は前に向き直って目をつむり、腕を組んでうなだれた」(90頁)。 ★『東洋/西洋を越境する』は、科学思想史家の金森修(かなもり・おさむ:1954-2016)さんが1995年から2013年にかけてフランス語で公刊してきた8つの論考を、隠岐さや香、近藤和敬、山口裕之、東慎一郎、田中祐理子、香川知晶、田口卓臣、の各氏が日本語訳して1冊としたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭には東京大学名誉教授・芳賀徹さんによる「推薦の辞――越境のスリル、そして輝き」と、編者代表の小松美彦さんによる「まえがき」が配され、巻末に全業績一覧と略年譜が掲出されています。科学史の偉大な先達である伊東俊太郎さんは「若くしてフランスに留学し、かの地の科学思想を研究し、それを我が国に本格的に紹介し発展させた夭折の英才は、また日本の思想にも鋭い考察の眼を向けていた。東西にまたがる注目すべき学究の力技の成果を、広く世に推したい」と帯に推薦文を寄せておられます。 ★『贈与論』は、『ジョルジュ・バタイユ――神秘経験をめぐる思想の限界と新たな可能性』(水声社、2010年)、『贈与の哲学――ジャン=リュック・マリオンの思想』(明治大学出版会、2014年)に続く、明治大学教授・岩野卓司(いわの・たくじ:1959-)さんの3冊目の単独著。白水社の月刊誌「ふらんす」での連載「新・呪われた部分――贈与に憑かれた思想家たち」(全12回、2015年4月号~2016年3月号)を全面的に加筆改稿し、書き下ろしを加えたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「商取引としての交換、互酬的な贈与交換、返礼なき贈与は、これからの世の中で、ひとつに還元されることなく、お互いに関係をもちながら、それぞれの役割を果たしていくことになる。これらの多様な交換と贈与の現象を、僕らは交換、贈与と返礼、貸し借りといった解釈の次元にとどまらず、もっと根本から考えていくべきである。そしてその根本は、動物や人間の動物性とも深くかかわっており、人間と動物の関係の問い直しにもつながってくるのだ」(273頁)。「来るべき世紀は贈与の思想から始まることになるだろう」(276頁)。中沢新一さんは本書への推薦文のなかで「贈与は一貫してフランス思想の通奏低音であった。〔…〕現代フランス思想を読み解く鍵は実に贈与の中にある」と記されています。 ★続いて、しばらく言及できていなかったここ数か月の注目既刊書から何点か列記します。 『ジョン・ケージ 作曲家の告白』ジョン・ケージ著、大西穣訳、アルテスパブリッシング、2019年7月、本体1,600円、小B6判上製128頁、ISBN978-4-86559-206-1 『シュタイナーの瞑想法 秘教講義3』ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖訳、春秋社、2019年6月、本体2,400円、四六判上製216頁、ISBN978-4-393-32549-0 『シュタイナーの瞑想・修行論 秘教講義4』ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖訳、春秋社、2019年7月、本体4,800円、四六判上製576頁、ISBN978-4-393-32550-6 『インテグラル理論』ケン・ウィルバー著、加藤洋平監訳、門林奨訳、日本能率協会マネジメントセンター、2019年6月、本体2,800円、A5判変型並製408頁、ISBN978-4-8207-2734-7 ★『ジョン・ケージ 作曲家の告白』は、ナショナル・インターカレジエイト・アーツ・カンファレンスでの講演「作曲家の告白」(1948年)と、京都賞受賞講演「自叙伝」(1989年)の2本を収めた日本版オリジナルの自伝的講演集。前者から印象的な言葉を引きます。 ★「パーソナリティには二つの主要な部分があります。私たちのほとんどは、無数の方法と方向性によって意識と無意識が分け隔てられています。音楽の機能は、他のあらゆる健康的な時間の使用と同様に、分離されたそれらを、もう一度繋げ合わせようよすることにあります。時空間への意識が喪失するとき、個人を作る複数の要素が統合され、音楽が人を一つにする瞬間を提供するのです。これは、音楽があり、怠惰で注意散漫にならないように気をつけてさえいれば、生じることです。/今日、多くの人々の時間の使用は、健康的でないどころか、実践することで病気になってしまうような代物です。なぜならそれは、個人の一部分を発展はさせますが、他の部分には害を与えるからです。もたらされた不調は、当初は心理的なものであり、人は仕事から離れ、休暇をとることによってそれを除去しようとします。しかし結局は上手くいかず、しまいに病気は全体の組織を攻撃するようになるのです」(48頁)。 ★「神経症は、作曲を制止させ、阻止する振る舞いをします。作曲が可能であるということ、それはこの障害が克服されたことを意味します。/東洋世界で言われているように、無私に、つまり金や名誉を気にかけることなく、単純に作ること自体を愛することから作曲を始めるならば、それは統合的な活動であり、人はその一生の瞬間に、完璧で満たされていると感じるでしょう。ときに作曲することによって、ときに楽器を演奏することによって、ときに単純に聴くことによって、これが生じるのです」(49頁)。 ★『シュタイナーの瞑想法 秘教講義3』は帯文に曰く「1903年から09年までの、神智学協会での秘教講義と、個人的な瞑想指導の記録」。「朝と夜の主要練習」より、「朝」のパートを引きます。「目が覚めたら、できるだけすぐに、一切の外から来る感覚印象と一切の日常生活の記憶とから注意を引き離す。この空になった魂の中をまず「しずけさ」(Ruhe)という思いで充たす。この「しずけさ」の思いがからだ中に浸透するようでなければならない。/しかし、これはごくわずかな間(二秒から五秒まで)に生じる。次に、ほぼ五分間、魂を次の七行のマントラで充たす。/光を放射するすがたかたち/霊の輝く波立つ海/魂はあなたたちから離れた/魂は神性の下にいた/魂の本性がそこにやすらいでいた/生存の外皮の領界へ/私の「自我」は意識して歩み入る」(73~74頁)。さらにこの先にも重要なインストラクションがありますが、それは本書の現物をご確認下さい。 ★『シュタイナーの瞑想・修行論 秘教講義4』は帯文に曰く「4つの重要な著作と講演を収録」。『人間の自己認識へのひとつの道――八つの瞑想』(1912年刊)、『オカルト上の進歩の意味 全十講』(1913年連続講義)、『霊界の境域――格言風の考察』(1913年刊)、『人智学 21年後の総括――同時に世界の前でそれを代表するときのための指針 全九講』(1924年連続講義)。シュタイナーは人智学を「現代の人間賛歌」なのだと説きます(「人智学 21年後の総括」第一講、376頁)。「人智学協会は人びとの心のもっとも深い憧れを人びとに語らしめる道を見出さなければなりません。そのときこそ、人びとの心は、この上なく深い憧れと共に答えを求め続けることでしょう」(同頁)。付録として訳者の高橋巖さんの講演「人智学とは」(2018年12月23日、京都)が収められています。『秘教講義』第3巻と第4巻の巻末解説はそもに飯塚立人さんがお書きになっています。 ★『インテグラル理論』は『A Theory of Everything: An Integral Vision for Business, Politics, Science and Spirituality』(Shambhala Publications, 2000)の訳書で、『万物の理論――ビジネス・政治・科学からスピリチュアリティまで』(トランスビュー、2002年)の全面的改訳版です。発売2か月となる8月末時点で3刷を数えています。数多くあるウィルバー(Kenneth Earl "Ken" Wilber Junior, 1949-)の著書の中でも代表的な主著と言っていいと思います。帯文に曰く「「ティール組織」のベースにもなった未来型パラダイムの入門書」と。かのフレデリック・ラルーによるベストセラー『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版、2018年)に、ウィルバーによる「本書に寄せて」という一文が収録されているのは、周知の通りです。 ★今回の改訳版の第5章「インテグラル理論を活用する」から引きます。「私の見解では、人々が苦しむ原因として、リベラル派は外面的な要因を重視しがちであり、保守派は内面的な要因を重視しがちなのだ。言い換えれば、誰かが苦しんでいるとき、典型的なリベラル派は外面的な社会制度を非難する傾向にあり(「あなたが貧乏な生活を送っているのは、社会によって不公平な扱いを受けているからだ」)、それに対して、典型的な保守派は、内面的な要因を非難する傾向にある(「あなたが貧乏な生活を送っているのは、あなたが怠け者だからだ」)」(208頁)。「大事な点はこうだ。統合的な政治、リベラル派の最良の部分と保守派の最良をひとつに結びつける政治を実現するための第一歩は、内面象限の原因と外面象限の原因の両方が、等しく現実のものであり、等しく重要であるということを認識することなのである。〔…〕要するに、真に統合的な政治は、内面領域の発達と外面領域の発達の両方を重視するものになるはずなのである」(209頁)。 ★これは『エデンから――超意識への道』(松尾弌之訳、講談社、1986年、絶版;原著『Up from Eden: A Transpersonal View of Human Evolution』初版1981年、新版1996年)の最終章でも論及されていたことですが、残念ながら訳書はとうの昔に絶版になっており、古書価が高止まりしているように見受けます。ちなみにウィルバーの訳書は一度も文庫化されていません。分断と断片化の時代においてウィルバーの思索と探求は忘却すべきではないもののひとつです。 +++
by urag
| 2019-10-14 23:57
| 本のコンシェルジュ
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