2018年 07月 18日
★ジョルジョ・アガンベンさん(著書:『アウシュヴィッツの残りのもの』『バートルビー』『涜神』『思考の潜勢力』『到来する共同体』) ★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』) アガンベンさんの近著『Che cos'è reale?: La scomparsa di Majorana』(Neri Pozza, 2016)が上村忠男さんによって翻訳されました。附録の二篇、エットレ・マヨラナ「物理学と社会科学における統計的法則の価値」、ジェロラモ・カルダーノ『偶然ゲームについての書』は、前者が原著でも収録されていますが、後者は訳書において新たに付されたものです。アガンベンさんの論及があった重要テクストなので、全訳での収録はたいへん参考になります。 版元さんの内容紹介文によれば本書は「マヨラナの論文を手がかりにして、アガンベンは失踪の原因が「不安」や「恐怖」といった心理に還元されるべきものではなく、《科学は、もはや実在界を認識しようとはしておらず──社会科学における統計学と同様──実在界に介入してそれを統治することだけをめざしている》という認識にマヨラナが至ったことと関係している、という地点に到達する。その果てに見出されるのは、「実在とは何か」という問いを放つにはどうすればよいか、ということにほかならなかった」と。メイヤスーやガブリエル、マラブーらの新刊と併せてひもときたい本です。同書の議論との交差については、同じく講談社選書メチエで『AI原論――神の支配と人間の自由』を4月に上梓された西垣通さんと、メイヤスー本の訳者・千葉雅也さんの対談「AIは人間を超える」なんて、本気で信じているんですか?」「AIが絶対に人間を超えられない「根本的な理由」を知ってますか」「AIが「人間より正しい判断ができる」という思想、やめませんか?」(「現代ビジネス」7月16~18日)が参考になります。アガンベンへの言及はないものの、問題圏は重なっています。 アガンベンさんは本書の末尾をこう結んでおられます。「ここでわたしたちが示唆しようと思う仮説は、もし量子論力学を支配している約束事が、実在は姿を消して確立に場を譲らなければならないということだとするなら、そのときには、失踪は実在が断固としてみずからを実在であると主張し、計算の餌食になることから逃れる唯一のやり方である、というものである。〔…〕1938年3月の夜、無のなかに消え去り、彼の失踪の実験的に明らかにしうるあらゆる痕跡を見分けがつかなくさせる決断をすることによって、彼は科学に、実在とは何か、という未済の、しかしまた避けて通るわけにはいかない回答をいまもなお期待している問いを提起したのだった」(45~46頁)。 ★近藤和敬さん(著書:『カヴァイエス研究』、訳書:カヴァイエス『論理学と学知の理論について』) フランスの哲学者ジルベール・シモンドン(Gilbert Simondon, 1924-1989)による1958年の博士論文『L'Individuation à la lumière des notions de forme et d'information』がついに全訳されました。底本は2013年のMillon版の本論ですが(附録※は分量の都合で訳出されていません)、2017年版での変更箇所も反映されているとのことです。近藤さんは第一部「物理的個体化」の訳出と、結論の共訳、訳注の整理と調整を担当されたそうです。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。これを契機に副論文『技術的諸対象の実在様態について』の翻訳も期待したいところです。※附録・・・「個体化概念から帰結する事柄についての補足的な覚え書き」「個体概念の歴史」「個体性の基準の分析」「アラグマティック」「形、情報、ポテンシャル」の5篇で、それぞれ本論から割愛された部分や草稿や準備稿ですが、最後の「形~」のみ1960年の講演録。 個体化の哲学――形相と情報の概念を手がかりに ジルベール・シモンドン著 藤井千佳世監訳 近藤和敬/中村大介/ローラン・ステリン/橘真一/米田翼訳 法政大学出版局 2018年7月 本体6,200円 四六判上製638頁 ISBN978-4-588-01083-5 ★竹峰義和さん(訳書:メニングハウス『生のなかば』、共訳:シュティーグラー『写真の映像』) 先月末発売された岩波書店の月刊誌「思想 2018年7月号:ヴァルター・ベンヤミン」において、論文「サンチョ・パンサの歩き方――ベンヤミンの叙事演劇論における自己反省的モティーフ」を寄稿されるとともに、ベンヤミンの「技術的複製可能性の時代における芸術作品――第一稿」の翻訳を手掛けておられます。ほとんどが抹消線で埋め尽くされた第一稿は、『新批判版全集』(2008年~)で活字化された新たな草稿で、『旧全集』(1972~1999年)の第一稿はこんにちでは第二稿とされています。ちなみに岩波現代文庫の『パサージュ論』全5巻(2003年;単行本版は93~95年)は第5巻を除いて現在品切で、岩波文庫の『ベンヤミンの仕事』2巻本(1994年)も品切。新全集に基づく新訳がいずれ刊行されることになるのでしょうか。 +++
by urag
| 2018-07-18 15:59
| 本のコンシェルジュ
|
Comments(0)
|
アバウト
カレンダー
ブログジャンル
検索
リンク
カテゴリ
最新の記事
画像一覧
記事ランキング
以前の記事
2024年 12月 2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 2004年 10月 2004年 09月 2004年 08月 2004年 07月 2004年 06月 2004年 05月 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||