2018年 04月 08日
『フィレンツェ史 上』ニッコロ・マキァヴェッリ著、在里寛司/米山喜晟訳、ちくま学芸文庫、2018年4月、本体1,400円、文庫判464頁、ISBN978-4-480-09857-3 『フィレンツェ史 下』ニッコロ・マキァヴェッリ著、在里寛司/米山喜晟訳、ちくま学芸文庫、2018年4月、本体1,500円、文庫判512頁、ISBN978-4-480-09858-0 『論証のレトリック――古代ギリシアの言論の技術』浅野楢英著、ちくま学芸文庫、2018年4月、本体1,000円、文庫判256頁、ISBN978-4-480-09860-3 『大都会の誕生――ロンドンとパリの社会史』喜安朗/川北稔著、ちくま学芸文庫、2018年4月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-09862-7 『動物たちのすごいワザを物理で解く――花の電場をとらえるハチから、しっぽが秘密兵器のリスまで』マティン・ドラーニ/リズ・カローガー著、吉田三知代訳、インターシフト発行、合同出版発売、2018年4月、本体2,300円、四六判並製384頁、ISBN978-4-7726-9559-6 『魔術妖術大図鑑 復刻版』辰巳一彦著、復刊ドットコム、2018年4月、本体4,000円、B6判上製176頁、ISBN978-4-8354-5582-2 『奇妙な同盟――ルーズベルト、スターリン、チャーチルは、いかにして第二次大戦に勝ち、冷戦を始めたか Ⅰ』ジョナサン・フェンビー著、河内隆弥訳、藤原書店、2018年3月、本体2,800円、四六判上製376頁、ISBN978-4-86578-161-8 『奇妙な同盟――ルーズベルト、スターリン、チャーチルは、いかにして第二次大戦に勝ち、冷戦を始めたか Ⅱ』ジョナサン・フェンビー著、河内隆弥訳、藤原書店、2018年3月、本体2,800円、四六判上製384頁、ISBN978-4-86578-162-5 『フィルカル Vol. 3, No. 1』フィルカル編集部編、ミュー発行、2018年3月、A5判並製382頁、ISBN978-4-943995-19-7 『文藝 2018年夏季号』河出書房新社、2018年4月、本体1,300円、A5判並製518頁、ISBN978-4-309-97942-7 ★ちくま学芸文庫のまもなく発売(10日予定)となる4月新刊は3点4冊。マキァヴェッリ『フィレンツェ史』上下巻は、筑摩書房版『マキァヴェッリ全集』第3巻(1999年刊)所収の「フィレンツェ史」を文庫化したもの。上巻では献辞、序文、第一巻~第四巻を収め、下巻では第五巻~第八巻、そして米山さんによる訳者解説「「フィレンツェ史」はいかにして書かれたか」と「『フィレンツェ史』理解のためのフィレンツェ史年表」が併載されています。訳者解説末尾には「本書の文庫化においては、特に訳注の部分で若干の訂正を加え」たと特記されています。『マキァヴェッリ全集』(全6巻、補巻1)から文庫化されるのは、『ディスコルシ』(第2巻)や『戦争の技術』(第1巻所収)につづき、3点目かと思います。 ★『論証のレトリック』は1996年刊の講談社現代新書の文庫化。巻末の特記によれば文庫化に際し「一部図表を「付録」として巻末に移した」とのことです。帯文に曰く「説得は、いかにして可能か? 修辞・弁論術の発祥地に立ち返り、論証の「型」を伝授する」と。目次構成は以下の通りです。はじめに――「言論の技術」とは何か、第一章「レトリック(レトリケー)事始め」、第二章「アリストテレスのレートリケー理論」、第三章「ロゴスによる説得立証に役立つ固有トポス」、第四章「エートスまたはパトスによる説得立証に役立つ固有トポス」、第五章「さまざまな共通トポス」、第六章「レートリケーとディアレクティケー」、第七章「レートリケーと論理学」、むすび、引用ならびに参考文献、あとがき、『論証のレトリック』文庫版解説(納富信留)、付録。著者の浅野さんは一昨年に逝去されているため、納富さんの解説では親本刊行以後に刊行されたギリシア・ローマの古典文献の翻訳について紹介があります。 ★『大都会の誕生』は、有斐閣選書の一冊として1986年に刊行された親本に、川北稔さんによる論考「盛り場のロンドン」(1993年、都市問題研究会編『都市問題研究』513号に掲載されたものを一部改稿)を加えて文庫化したもの。文庫化にあたり副題が「出来事の歴史像を読む」から「ロンドンとパリの社会史」に改められています。目次を以下に列記しておきます。 世界にひらく窓 帝国の首都ロンドンの生活文化|川北稔 1 ミンチン横丁の賑わい――ジェントルマン文化と「舶来品」 2 コーヒーハウスの時代――「商業革命」と都市型文化の成立 3 「首都の空気は自由にする」 4 「ロンドンへのあこがれ」の増幅装置――「社交季節」と定期馬車 「世界の工場」の玄関口 工業化とロンドン民衆の生活|川北稔 1 ディケンズと工業化――なぜ「ロンドン」なのか 2 イースト・エンド・スラムの成立 3 ファッション・センターとしてのロンドン 4 「苦汗労働」の成立 5 針子と港湾労働者――ロンドンの二大カジュアル・ワーク 6 「苦汗労働」の機械化?――ミシンの導入 7 工業化のもたらしたもの 盛り場のロンドン(増補)|川北稔 盛り場の形成 パリのブルヴァールに集まる人びと|喜安朗 1 ブルヴァールにおける出来事 2 盛り場の移動 3 新しい盛り場の舞台装置 4 民衆の盛り場 5 都市空間の分極化 民衆騒乱の舞台 路上の権利|喜安朗 1 カーニヴァルの民衆蜂起 2 抑圧の解体――ブルヴァールの「祝祭」 3 民衆のパロディー――既存秩序の流動化 4 路上の権利 5 境界領域の再現 6 盛り場と騒乱の舞台 あとがき 世界経済のメトロポリス――なぜロンドン史か|川北稔 民衆史への新しい視点――民衆の生活圏と都市空間の意味|喜安朗 ちくま学芸文庫版へのあとがき|川北稔 ちくま学芸文庫版へのあとがき|喜安朗 ★『動物たちのすごいワザを物理で解く』は『Furry Logic: The Physics of Animal Life』(Bloomsbury Sigma, 2016)の翻訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。熱、力、流体、音、電気・磁気、光、の全6章だてで、特異な能力を発揮する動物たちを科学的に解説したポピュラー・サイエンスの名作です。身近な動物や虫の何気ないすごい能力には感心するばかりですが、研究者の探究心にも驚かされます。例えば、水に濡れた犬がブルブルと体を震わせて水滴を払い落とし自力で体を乾かすあの行動について研究した学者、アンドリュー・ディッカーソンは、本書の後段では、雨の中でも蚊が飛べるのはなぜかを研究していることが紹介されています。同じように犬のブルブルを研究していたもう一人の研究者デイヴィッド・フーは、水上をすいすいと移動したり留まったりできるアメンボの物理を研究してもいます。素朴な疑問が科学の扉を開く様に読者は魅了されると思います。 ★『魔術妖術大図鑑 復刻版』は立風書房の「ジャガー・バックス」シリーズで1976年に出版されたものの復刻版です。主な収録内容や見開き頁のサンプル画像は書名のリンク先でご覧になれます。巨匠たちによるおどろおどろしくも魅惑的なイラスト、子供向けながらモラルなどお構いなしのまじないや秘法の情報満載で強烈です。ジル・ド・レを描いた劇画は当時としてはスレスレの描写だったろうと思われ、狂気を感じさせます。錬金術師や魔術師、魔女の群像が子供たちの脳裏に刻まれただろうことは想像に難くありません。本書でパラケルススやクロウリー、エリファス・レヴィ、ブラヴァツキーらの名前を知った子供たちはその後、それぞれの著書を読む大人になったのでしょうか。いささかやりすぎとも思える本書の溢れんばかりのイメージ喚起力と情報力は、今日の児童書では自主規制によって失われてしまったものを思い出させます。復刊ドットのコムオリジナル特典として、限定生産の特製コースターが付属しています。 ★『奇妙な同盟』は全二分冊で、『Alliance: The Inside Story of How Roosevelt, Stalin and Churchill Won One War and Began Another』(Simon & Shuster, 2006)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者あとがきの文言を借りると「本書は、1941年8月に行われた、ルーズベルト、チャーチルの大西洋会談に始まって、1945年7月のポツダムまでの主要会談、ほか数々の首脳会議における米英ソ三巨頭(ルーズベルト、チャーチル、スターリン、ただしルーズベルトの死後はトルーマンが引き継ぐ)及びかれらを取り巻く脇役たちの実像と史実を、各種史料を駆使して綴るノンフィクションである」と。著者のジョナサン・フェンビー(1972-)はイギリスの国際ジャーナリスト。既訳書には『国際報道の裏表』(小糸忠吾/橋本正邦/堀川敏雄訳、新聞通信調査会発行、共同通信社発売、1988年)があります。日本では先月末劇場公開となった映画『ウィンストン・チャーチル――ヒトラーから世界を救った男』(ジョー・ライト監督、2017年)が、特殊メイクでアカデミー賞を受賞した辻一弘さんのご活躍により話題となっていますが、第二次世界大戦の終結と冷戦の始まりに深くかかわった米英ソの政治的内幕を学ぶ上でうってつけの新刊がタイミングよく出たことにも注目したいです。 ★『フィルカル Vol. 3, No. 1』は、「分析哲学と文化をつなぐ」をキャッチフレーズにしている雑誌で、今回で3年目の通算5号です。今まででもっともヴォリュームのある号となっています。昨秋発売された前号(Vol. 2, No. 2)につづき、野上志学さんによる「デヴィッド・ルイス入門」の第2回が掲載され、前号の発売後に同誌編集委員が企画して行われたトークイベント「哲学の夜」第一回の様子も収録されています。なお、今般発売された最新号の発売を記念し、寄稿者が登壇して「芸術における作品創造と複製、アメコミスーパーヒーローの定義と歴史」をテーマに討論するイベントが以下の通り行われます。 内容:『フィルカル』最新号に論文が掲載された高田敦史さんと岩切啓人さん、コメンテーターとして森功次さんが登壇され、論文の背景にある研究分野を一般向けに解説しディスカッションします。高田さん論文「スーパーヒーローの概念史」は、ハッキングの歴史的存在論の展開として、アメコミのスーパーヒーロー概念の質的変化を分析する論考です。制度の変化も観点に入れた、虚構種の存在論としてもアメコミヒーロー論としても新しいタイプの議論が展開されています。分析美学の新世代を担う岩切さん論文「創造と複製」は、分析美学の本格的な論文です。芸術における作品複製は創造になりうるのか、というテーマをめぐって、それを否定する論証を批判し、肯定する立場を模索しています。高田さん、岩切さんがそれぞれ、論文をめぐって解説したうえで、来場の方々からの質問を受けてディスカッションする予定です。日本の分析美学を牽引する研究者たちと触れ合える貴重な機会です。美学に関心ある方々、作品複製やアメコミヒーローについて議論したい方々、ぜひともご参加ください。 ※今回のイベントでは参加の事前予約を受け付けます。専用フォームからお気軽にお申込みください。 一度に4名様までご予約いただけます。料金の前払いはございません。なお、事前予約はイベント前日の4月20日(金)までの受け付けとなります。ご了承ください。 ★『文藝 2018年夏季号』は4月9日発売。昨年末に幻戯書房より『文学問題(F+f)+』を上梓され乗りに乗っている文筆家の山本貴光さんが文芸時評「季評 文態百版」という新連載をお始めになり、第1回として「2017年12月~2018年2月」が掲載されています。文芸作品(本・雑誌・デジタルテキスト)、人物、文学賞、展覧会・その他催事、を「文芸的事象」として観察対象に設定し、クロニクルを編んでいくという、非常に手間のかかる地道なものです。山本さんのブログ「作品メモランダム」のプロフィールで公開されている通り、仕掛中のお仕事が山のようにある中での観測およびまとめ作業となるだけに、ご苦労が偲ばれます。なお同号では、石牟礼道子さんやECDさんの追悼ページもあります。陣野俊史さんは初の小説作品「泥海」を同号で発表されるとともに、「詩小説家としてのECD」という論考も寄せておられます。 +++
by urag
| 2018-04-08 23:55
| 本のコンシェルジュ
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