2017年 12月 17日
★ここ最近の注目書には分厚い本が多いです。 『スーパーインテリジェンス――超絶AIと人類の命運』ニック・ボストロム著、倉骨彰訳、日本経済新聞出版社、2017年11月、本体2,800円、四六判上製720頁、ISBN978-4-532-35707-8 『現代革命の新たな考察』エルネスト・ラクラウ著、山本圭訳、法政大学出版局、2014年12月、本体4,200円、四六判上製406頁、ISBN978-4-588-01020-0 『思想 2017年12月号 E・ヴィヴェイロス・デ・カストロ』岩波書店、2017年11月、A5判並製150頁、ISSN0386-2755 『吉本隆明全集14[1974-1977]』吉本隆明著、晶文社、2017年12月、本体6,500円、A5判変型上製584頁、ISBN978-4-7949-7114-2 『金鱗の鰓を取り置く術』笠井叡著、現代思潮新社、2017年12月、本体20,000円、A5判上製貼函入832頁、ISBN978-4329100078 『近世読者とそのゆくえ――読書と書籍流通の近世・近代』鈴木俊幸著、平凡社、2017年12月、本体7,400円、A5判上製592頁、ISBN978-4-582-40298-8 ★『スーパーインテリジェンス』は『Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies』(Oxford University Press, 2014)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「人類がいつの日か、汎用知能(一般知能)において人間の頭脳を超越する人工知能を構築することができたなら、それは非常にパワフルなスーパーインテリジェンス(超絶知能)となりうる。そのとき、われわれ人類の運命は、機械〔マシン〕のスーパーインテリジェンスに依存することになるだろう。〔・・・〕スーパーインテリジェンスの出現によってもたらされる課題とは何か。本書は、この問いの本質を理解し、それにどのように答えるべきかを考察する試みである。この問いの答えを見つける作業は、われわれ人類にとっておそらく、歴史上いまだかつてない重要な作業となり、かつ、困難な作業となりうる。そして、その結果が成功しようが失敗しようが、いずれにしても、それはわれわれ人類にとっておそらく最初で最後の挑戦となろう」(「原著まえがき」5~6頁)。 ★「本書の大方は、スーパーインテリジェンスが出現したら、その後、世界はどうなるのか、という問題の考察にさかれている。たとえば、スーパーインテリジェンスの形態とパワー、知能爆発の速度、そして超絶知能エージェントが獲得しうる戦略的優位性といったトピックについて考察している。その後、中盤の数章では、これらの考察の結果を踏まえ、コントロール問題の取り扱いに議論の軸足を移し、人類が、スーパーインテリジェンスの初期条件をどう設定すれば、人類の継続的な生存が約束され、かつ、人類の利益のためになる結果が実現されるかについて考察している。さらに、最終版の数章においては、何をなせば、人類消滅のカタストロフィ回避のチャンスを高められるかについていつくか提言を行っている」(6頁)。 ★ボストロム(Nick Bostrom, 1973-)はスウェーデン生まれの哲学者。オックスフォード大学教授、人類の未来研究所および戦略的人工知能研究センターの所長であり、世界トランスヒューマニスト協会の共同創立者です。本書が初訳となります。訳者あとがきによれば本書は「瞬く間にニューヨーク・タイムズ紙ベストレラーとなり、イーロン・マスク、ビル・ゲイツ、スティーヴン・ホーキング、および、その他の多数の学者や研究者に影響を与え、彼らをして、AIの開発研究は安全性の確保が至上命題、と言わしめるきっかけになった」と紹介されています。参考になる動画として「TED TALK」における2005年7月の「人類三つの課題」と、2015年3月の「人工知能が人間より高い知性を持つようになったとき何が起きるか?」、そして、巻頭の「スズメの村の、終わりが見えない物語」をアニメ化した作品をご紹介しておきます。なお、世界トランスヒューマニスト協会(現在は「ヒューマニティ・プラス」)に加盟する国内の団体に「日本トランスヒューマニスト協会」があるそうです。 ★『スーパーインテリジェンス』のようにある意味エクストリームな哲学書および関連書としては近年では、『現代思想 2015年9月号 特集=絶滅――人間不在の世界』(青土社)や、ドゥルーズを憎しみと破壊の哲学として読みとくカルプ『ダーク・ドゥルーズ』(大山載吉訳、河出書房新社、2016年11月)、反出生主義を標榜するデイヴィッド・ベネター『生まれてこないほうが良かった――存在してしまうことの害悪』(小島和男/田村宜義訳、すずさわ書店、2017年10月)などがありました。今後も増えるかもしれませんが、どう分類すべきか、興味は尽きません。これらをあえて一緒(!)にして「ダークな哲学(仮)」コーナーを店頭でお作りになる場合はぜひ、埴谷雄高『死霊』(全三巻、講談社学術文庫)も置いて下さると面白いと思います。またこそに、江川隆男『アンチ・モラリア』(河出書房新社、2014年6月)や、エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ カストロ『食人の形而上学』(檜垣立哉/山崎吾郎訳、洛北出版、2015年10月) 、マラブー『新たなる傷つきし者』(平野徹訳、河出書房新社、2016年7月) 、ヘグルンド『ラディカル無神論』(吉松覚/島田貴史/松田智裕訳、法政大学出版局、2017年6月)、そして来月ついに発売となるマルクス・ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』(清水一浩訳、講談社選書メチエ、2018年1月)や、小泉義之『新しい狂気の歴史』(青土社、2018年1月)などを並べるとさらに議論の枠組が広がるかと思われます。 ★『現代革命の新たな考察』は『New Reflection on the Revolution of Our Time』(Verso, 1990)の全訳。目次は書名のリンク先をご確認下さい。第4章「釈明なきポスト・マルクス主義」はシャンタル・ムフとの共著で、付録の「言説-分析を超えて」はスラヴォイ・ジジェクによるものです。序文にはこうあります。「伝統的な左派が寄りかかってきた様々な想定はいまや修正を必要としているが、その修正の度合いを最小限に抑えようとしても無駄なことである。ただ批判と見直しだけがみずみずしく健全な新しい出発点を提供できる。そしてとりわけ、仮想的なマルクス、つまりその言説が後の「マルクス主義」の改変を被っていないマルクスというような希望的観測など存在しない。〔・・・〕本書がその一部を成すポスト・マルクス主義の観点は、短なる理論的な選択以上のものである。すなわちそれは、ここ十年で広がり始めた歴史的状況において左派の政治的プログラムの再定式化を目論むものにとって不可避の決断なのである」(4~5頁)。【12月20日追記:刊行年月を2017年12月と誤記しておりました。ただしくは2014年12月でした。お詫びして訂正します。3年前の書籍ですが、素晴らしい本なのでこのまま掲載させていただきます。ちなみに何をきっかけに勘違いしたのかは思い出せませんでした。疲れているのかもしれません。】 ★『思想 2017年12月号 E・ヴィヴェイロス・デ・カストロ』は売行良好のためになかなかオンライン書店では在庫が復活しませんが、書店さんの店頭で見つけ次第買っておくべき特集号です。目次は誌名のリンク先をご覧ください。ヴィヴェイロス・デ・カストロの2012年の論考「人類学における「変形」、「人類学」の変形」を始め、檜垣立哉、パトリス・マニグリエ、近藤宏、モハーチ・ゲルゲイ、山崎吾郎、エリー・デューリング、の各氏の論文が収録されています。 ★『吉本隆明全集14[1974-1977]』は、第15回配本。「神話の物語や歌謡には、語ることと謳うことが、じっさいの行為と区別できなかった時代がうもれている」という一文で始まる『初期歌謡論』(1977年)と、その同時期に発表された関連する評論・講演・エッセイを収録。「〈初期〉ということ〈歌謡〉ということ」と題されたエッセイではこう自身の仕事を振り返っておられます。「なぜわたしたちは、俳句、短歌、現代詩をひとしく、〈詩〉としてつかむ視点をもちえないのか。〔・・・〕誰からもどこからも手段を借りずに、統一的な〈詩とはなにか〉という課題に、応えを与えようと試みた。うまくいったかどうはべつとして、それを試みたのである」(441頁)。付属の「月報15」は、藤井貞和さんの「『初期歌謡論』」、水無田気流さんの「吉本隆明の詩・神話・等価」、ハルノ宵子さんの「ギフト」が掲載されています。次回配本は来年3月刊行、第15巻とのことです。 ★『金鱗の鰓を取り置く術』は、舞踏家にしてオイリュトミストの笠井叡さんによる最新最大の著書。笠井さんの公式サイトによれば、「構想に十年、執筆に五年余の歳月をかけた大作が遂に刊行。饒舌の跋扈、退廃の蔓延。人類の危機が迫っている。この時代を超える思想はあるのか。笠井は、古事記を言語創世神話として読み解く。古事記に記された日本語の古文法、カラダの中のコトバの骨格にコトバを与え続ける。二十一世紀のこれからの世界を創るために」と。2013年1月、フランス滞在中の深夜に啓示を得た著者が、国学者・大石凝真素美(おおいしごり・ますみ:1832-1913)の『真訓古事記』を読みつつ「カラダの中から出てきた言葉を「備忘録」として書き綴った」のをまとめたのが本書です。「序」で笠井さんはこう述べておられます。「大石凝真素美。彼だけが古事記を説話、神話、民族創世神話としては読まなかった。日本語の言語創成神話として読み切った、日本でたった一人の人物である」(6頁)。「大石凝真素美は、孤立無援である。むしろ狂人扱いされ、これからも市民権を持つことはないだろう。〔・・・〕いまに、地上の民族主義者とグローバリストが凄惨な戦争を始める。そして、この戦争によって国と地球が崩壊しようと、この「真訓古事記」を担い続けるカラダが、新しい国を生み出すだろう」(7頁)。また第一章ではこうもお書きになっています。「人類はまだ唯一、克服されえない「奴隷制」の中にある。労働における「賃金契約」とは人類最後の奴隷制である。聖霊の時代の労働は、神話から歴史への道を歩み始めた人間に、神から与えられた呪い、「人は苦しみを持て、労働せよ」からの、完全解放でなければならない」(第一章、30頁)。なお『大石凝霊学全集』(全三巻、解題・解説=大宮司朗、八幡書店、2005年)は税別36,000円で八幡書店ウェブサイトから今も購入できるようです。 ★『近世読者とそのゆくえ』は帯文に曰く「近世から近代へ読者と読書の変容! 近世後期に大量に出現した読者たち、自学し、漢詩づくりにまで手を染める読者たちは、〈読書の近代〉をどのように迎えたのか? 刊行された書物現物はもとより、葉書など多様な史料を駆使して、読者のニーズや版元の戦略、書籍流通の具体を明らかにする画期的論考」と。主要目次を列記しておくと、「序章――近世読者のゆくえ」「第一章 民間の学芸と書籍文化」「第二章 拡大する書籍市場と幕末の書籍流通」「第三章 近代教育のはじまりと明治初年代の書籍流通」「第四章 書籍業界における江戸時代の終わり方」。序章には「本書は、書籍と人々との関わりの歴史を諸事例をもってたどりながら、江戸時代の継続と終焉の様相を見定めようとしたものである」(18頁)とあります。またあとがきでは次のように説明されています。「旧著『江戸の読書熱――自学する読者と書籍流通』(平凡社選書、2007年)は、書物、学問に対する民間の熱意の高まりと、その動きに応じて初学者向けの書物類が盛行していく様子に時代の変化、江戸という時代のひとつの達成を見ようとしたものであった。この「江戸」的状況が、慶応四年で終着を迎えるのではなく、当然「江戸」は、その先、明治にまで及び、そして現代のわれわれにもその痕跡が濃厚であったりもするはずである。その後の展開、どこに江戸時代の終わりを見定められるか、単線的な理解を許さない多様な事態の推移について、手探りであちこち手を伸ばして史料を漁りつつ愚考を重ねてきた。その集積が本書である」と。 +++
by urag
| 2017-12-17 22:25
| 本のコンシェルジュ
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