2017年 11月 01日
「新文化」2017年11月1日付記事「丸善ジュンク堂書店、工藤恭孝社長と岡充孝副社長が辞任」に曰く「10月25日に行われた臨時株主総会および取締役会で承認され、11月1日に発表した。両氏は取締役を退任してそれぞれ会長、副会長に、同社取締役だった嶋崎富士雄氏(文教堂グループホールディングス社長)も退任した。中川清貴取締役が社長に、大越久成取締役が常務に昇任、岡山好和氏、五味英隆氏、杉本昌嗣氏が取締役に新任。監査役だった野村育弘氏も取締役に就いた」と。 「文化通信」2017年11月1日付記事「丸善ジュンク堂書店、工藤社長が退任」では「新社長に就任した中川取締役はDNPの常務執行役員。このほか、大越久成取締役が常務取締役に就任、岡山好和営業本部長、野村育弘監査役、五味英隆氏が取締役に新任した。ジュンク堂書店を1976年に創業して以来、トップとしてジュンク堂を率いてきた工藤氏は経営の第1線から退くことになる」と。 「新文化」記事では続けて「11月1日付で東日本営業部と西日本営業部を新設。池袋本店の中村洋司店長と京都本店の西川仁店長が両部の部長を兼務する。/丸善ジュンク堂書店営業本部のもとで店舗運営を担う(株)淳久堂書店においても同日付で、工藤社長と岡副社長が退任した。中川清貴氏が新社長に就任。また、毛利聡、中村洋司、西川仁、船木照道、杉本昌嗣の5氏が取締役に新任した」とあります。 岡さんのコメントは以下の通り。「2014年度から赤字決算を続けていました。決算期は1月で、株主総会は従来4月に行っていますが、こういうことは早い方がよいと思いました」(「新文化」)。「昨期までの厳しい売上、利益状況から脱し、黒字化への道筋に目処がつきつつあります。が、創業期からの現体制は、全国90店舗を数える会社の規模からみても、もはや限界であるのは明らかです。さらなる会社発展のためには、次世代の体制作りが急務であろうと考えました。また好機でもあろうと思います」(「文化通信」)。 2014年は大阪屋が新会社へ以降した年で、その翌年(2015年)には栗田出版販売が民事再生法適用申請、翌々年(2016年)には太洋社が倒産し、大阪屋と栗田が統合しました。今回の退任劇は、DNP傘下書店である丸善およびジュンク堂のみが抱える問題ではなく、どの書店でもここ3年間は正念場だったと言えます。潮目とも言うべき象徴的な変化であり、本年末から来年にかけてさらなる変動が現れるものと想像できます。一言で言えば、合理化による負の嵐です。従業員の支えきれる限界を超えた時、いかなる組織でも瓦解が始まります。 マチナカ書店だけでなくチェーン書店も減少し、書店への大量配本に売上を頼っているタイプの版元や、そうした取引先を抱える取次は、配本先を確保できずに経営が脆弱になるでしょう。そのあおりを食らって、印刷製本会社は減少するでしょうし、製造と流通のインフラがやせ細れば、中小版元はいよいよ不安定な状況に陥る可能性が増します。ひるがえってパターン配本への依存度が高いタイプの書店は、取次や版元の弱体化の影響を受けて方向性を失うでしょう。出版業界での雇用はますます流動的になり、労働環境は今以上にブラック化するものと思われます。うまく逃げ切って勤め上げた世代とそうでない世代の格差はいよいよ深刻になり、業界の現状にそぐわない政治力学的な議論がいたずらに交わされて、言論そのものも空転するでしょう。 +++ 【11月2日追記】コメント欄だけでなくメールでもご感想やご意見を頂戴しています。御礼申し上げます。あえて書かずにいたことを図らずも補足しなければならなくなる機会を得ることは、幸運とも不運とも言えるでしょうか。 +++ 【11月6日追記】個人投資家で作家の山本一郎さんのオフィシャルブログの11月2日付エントリー「新聞や出版などメディア業界の「先の読めなさ」と「購買活動の仕組み」について」を、知人から紹介されました。 山本さんは「丸善ジュンク堂の一報も、また一歩、出版という紙に情報を印刷して売って回収するというモデルが崩壊している、ということ」と指摘され、「新聞業界よりも先に鬼籍に入りそうな出版業界は、版元も取次も本屋もそう遠くない未来に死ぬ運命にあります。これはもう、仕方のないことです。それでも、特殊な分野、価値のある情報を束ねて適切な価格で日本人に対して売っていくというサイクルは、あくまでこの「紙に印刷する本で情報を流通させるというビジネス」において破綻しているのであって、必要となるものはバリューとプレファレンスです。ニッチでもお金を払ってくれる誰にどのくらい愛されるのかが見えてくれば、転換していくビジネスの先も予想がつくようになります」とお書きになっておられます。 山本さんのご意見には大筋のところ異論はありません。ゆえにここからは、山本さんのように「破綻」を見ることができる方についてではなく、認めたくない方々とも一緒に生きていかねばならない出版業界の難しさについてほんの少し書きたいと思います。 何とか会社を生き延びさせなければならないという至上命題を抱えている経営者はともかくとして、出版界の現場では「もうとっくに破綻している」と冷静に状況を分析されている方も多いだろうと想像します。状況を悪くしているのは、そうした現場の諦めや手詰まり感というよりも、適切に絶望することのできない人々による都合の良い、場当たり的な振る舞いではないか、と思わなくもありません。「適切に絶望すること」は「座して死を待つこと」ではありません。出版界が寄る辺なき状況に陥っているのは、共有すべき(再)スタートラインをすでに失っているからです。私企業間の利害の一致をふんわりした希望で包んで飲み込もうとしても、所詮無理があります。知人は私に「なぜもっとはっきりと書かないのか」と尋ねましたが、今はまだ、察していただける方にのみ語りかけるしかありません。 +++
by urag
| 2017-11-01 17:31
| 雑談
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Comments(3)
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by
佐藤健一
at 2017-11-02 14:58
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日頃のウラゲツ氏に似合わぬ終末論的言説ですね。
ノストラダムスの大予言の一節を彷彿とさせます。
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urag at 2017-11-02 15:35
佐藤さんこんにちは。コメントありがとうございます。残念ながら私の書いたことは実際のところ「予言」ではなく「すでに起こっていること」です。こうした状況下では小細工や手先のサバイバル術は通用しません。弛緩した希望論や偽りの向上心に溢れた技術論を拒絶するという点においては、私はむしろ終末論という名の絶望から再出発することを支持します。ただしご承知の通り終末論者には色々なタイプがいることには留意すべきです。
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佐藤健一
at 2017-11-06 12:55
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預言の一部は常に/既に実現しているものなのですよ。預言とはそうしたものです。なんちゃって
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