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2017年 10月 29日
『完訳 天球回転論――コペルニクス天文学集成』高橋憲一訳/解説、みすず書房、2017年10月、本体16,000円、A5判上製728頁、ISBN978-4-622-08631-4 『麻薬常用者の日記〔新版〕Ⅰ天国篇』アレイスター・クロウリー著、植松靖夫訳、国書刊行会、2017年10月、本体2,300円、四六変型判並製320頁、ISBN978-4-336-06215-4 『書物の宮殿』ロジェ・グルニエ著、宮下志朗訳、岩波書店、2017年10月、本体2,700円、四六判上製208頁、ISBN978-4-00-061223-4 『語るボルヘス――書物・不死性・時間ほか』J・L・ボルヘス著、木村榮一訳、岩波文庫、2017年10月、本体580円、192頁、ISBN978-4-00-327929-8 『国語学史』時枝誠記著、岩波文庫、2017年10月、本体900円、320頁、ISBN978-4-00-381504-5 『呻吟語(ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)』湯浅邦弘著、角川ソフィア文庫、2017年10月、本体960円、320頁、ISBN978-4-04-400291-6 『幸福論』B・ラッセル著、堀秀彦訳、角川ソフィア文庫、2017年10月、本体800円、384頁、ISBN978-4-04-400339-5 ★コペルニクス『完訳 天球回転論』は、高橋憲一さんによる『コペルニクス・天球回転論』(みすず書房、1993年)に続く、待望の完訳版です。既訳は大まかに言うと、『天球回転論』第一巻の抄訳(全14章のうち第11章まで)と関連する未刊論考「コメンタリオルス〔小論〕」と訳者解説の三本立てでしたが、今回の完訳版では『天球回転論』全6巻の全訳と「コメンタリオルス」、そして訳者解説の三本立てです。同書第1巻の既訳には矢島祐利訳『天体の回転について』(岩波文庫、1953年)があります。言うまでもありませんが、『天球回転論』はコペルニクスの没年に刊行された主著で、地動説を闡明した歴史的転換点を為す古典です。高額本ではありますけれども、品切になる前に購入しておきたい書目です。みすず書房さんの近刊書にはスピノザ『知性改善論・短論文』の佐藤一郎さんによる新訳が12月刊行と予告されていて、こちらも鶴首して待ちたい本です。 ★クロウリー『麻薬常用者の日記〔新版〕Ⅰ天国篇』は国書刊行会版『アレイスター・クロウリー著作集』第3巻(1987年;原著『The Diary of a Drug Fiend』1922年)の改訳新装版を3分冊で刊行するものの第1回配本。個人的にはギーガーの絵をあしらった旧版の函入本が好きなのですが、今回の新装版は判型もハンディかつスタイリッシュに変更されて、これはこれで美しい一冊です。クロウリー没後70年を記念しての刊行で、第Ⅱ巻「地獄篇」は来月(2017年11月)発売予定、第Ⅲ巻「煉獄篇」は12月とのことです。全巻購読者は特典として特製収納BOXがもらえるとのことで、これは揃えるしかないでしょう。国書刊行会さんでは今月、グスタフ・マイリンク『ワルプルギスの夜――マイリンク幻想小説集』(垂野創一郎訳、国書刊行会、2017年10月、本体4,600円、A5判上製450頁、ISBN 978-4-336-06207-9)も刊行されており、こちらも要チェックです。 ★次に岩波書店の今月新刊から3点。グルニエ『書物の宮殿』は『Le palais des livres』(Gallimard, 2011)の全訳。書名からすると書物論なのかと連想しますが、実際は少し違います。訳者あとがきで宮下さんは次のように紹介しておられます。「作家人生も終わりに近づいたグルニエが、テーマに応じて、これまで自分が読んできた文学テクストを引いたり、ジャーナリスト・作家としての経験を織り交ぜたりしながら、文学について、書くことについて思いをめぐらせたエッセイだといえる」。目次詳細と立ち読みは書名のリンク先でご利用になれます。特に本書末尾のテクスト「愛されるために」は印象的で、「書くこと〔エクリチュール〕は、ひとつの生きる理由なのだろうか?」という一文から始まります。この一文は帯にも大書されている文言です。 ★ブエノスアイレスでの1978年の連続講演集である『語るボルヘス』は特記がないものの、『ボルヘス、オラル』(書肆風の薔薇、1987年;第二版〔新装版〕、水声社、1991年)の改訳版と見ていいかと思います。単行本版と文庫版の違いを列記しておくと、単行本版は原著『Borges, oral』1979年初版を底本とし、ボルヘスの「序言」と5つの講演「書物」「不死性」「エマヌエル・スウェデンボルグ」「探偵小説」「時間」を収めたほか、巻頭にはアベリーノ・ホセ・ポルト(ベルグラーノ大学学長)による「ベルグラーノ大学におけるボルヘス」、巻末にマルティン・ミュラーによる「講演者ボルヘス」、さらに「ボルヘスのプロフィール」と題した無記名の紹介文が訳出され、最後に「訳者あとがき」が置かれています。一方、文庫版は序文と5つの講演(「スウェデンボルグ」が「スヴェーデンボリ」と表記変更されています)を収録したほかは、新たに書き直された訳者による「解説」が巻末に配され、単行本版にあるポルトやミュラーのテクストはありません。底本は原著初版本ではなく、1996年刊の全集第4巻です。 ★時枝誠記『国語学史』は、1940年に岩波書店から刊行された単行本の文庫化。凡例によれば底本は改版第14刷(1966年)です。「序説」と「研究史」の二部構成で、第二部は「第一期 元禄期以前」「第二期 元禄期より明和安永期へ」「第三期 明和安永期より江戸末期へ」「第四期 江戸末期」「第五期 明治初年より現代に至る」と立て分けられています。藤井貞和さんが解説「『国語学史』と『国語学原論』」を寄せておられます。巻末に索引あり。時枝誠記(ときえだ・もとき:1900-1967)の文庫で読める著書は、『国語学原論』(上下巻、岩波文庫、2007年、品切重版中)と『国語学原論 続篇』(岩波文庫、2008年、在庫僅少)以来のもの。 ★角川ソフィア文庫の今月新刊では2点取り上げます。「『菜根譚』と並ぶ混沌の時代の処世訓」との端的な惹句が帯文に書かれた呂坤『呻吟語』は抄訳です。現代語訳、書き下し、原文、解説で構成されています。文庫で読める『呻吟語』抄訳には講談社学術文庫版(荒木見悟訳著)がありましたが、現在品切。「『呻吟語』は、決して過去の遺物ではありません。むしろ今こそ読まれるべき古典です」と今回の編訳本の巻頭に置かれた「はじめに」で湯浅さんは強調しておられます。まったく同感です。現代人の心に深く突き刺さる教えに満ちた素晴らしい本です。 ★ラッセル『幸福論』は1952年に刊行され、1970年に改版が出た角川文庫の、久しぶりの新版です。目次や試し読みは書名のリンク先へどうぞ。巻末にはNHK「100分de名著」で『幸福論』を取り上げた小川仁志さんが「復刊に際しての解説」を寄せておられます。「幸福論」という訳題のついた古典的名著にはアランやヒルティ、ヘッセのそれがありますが、類似する書名ではショーペンハウアーの『幸福について』などもあり、ラッセルの本書と比べ読みするのも面白いと思います。 +++ ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『タラバ、悪を滅ぼす者』ロバート・サウジー著、道家英穂訳、作品社、2017年10月、本体2,400円、四六判上製272頁、ISBN978-4-86182-655-9 『『死者の書』の謎』鈴木貞美著、作品社、2017年10月、本体1300円、46判上製280頁、ISBN978-4-86182-658-0 『詩集工都――松本圭二セレクション第2巻(詩2)』松本圭二著、航思社、2017年10月、本体3,200円、四六判上製396頁、ISBN978-4-906738-26-7 ★『タラバ、悪を滅ぼす者』は、イギリスの桂冠詩人ロバート・サウジー(Robert Southey, 1774-1843)による物語詩『Thalaba the Destroyer』(1801年)の全訳。訳者あとがきによれば、サウジーによる自註のうち、「本文と関連するところ、直接の関係は薄くても内容的に興味深いところは訳出」したとのことです。既訳には高山宏さんによる抄訳「破壊者サラバ」(『夜の勝利――英国ゴシック詞華撰Ⅱ』所収、国書刊行会、1984年)があり、今回の新訳本でも言及があります。訳者の道家さんは「アラブ人でイスラム教徒の主人公タラバがドムダニエルの悪の魔術師の一味と戦う」作品である本作を、「突飛と思われるかもしれないが〔・・・〕話の枠組みが驚くほど『ハリー・ポッター』に類似し、かつ対照的」とも指摘されています。 ★『『死者の書』の謎』は27日(金)取次搬入済。章立てを列記しておくと、序章「釈迢空と折口信夫のあいだ」、第一章「『死者の書』の同時代」、第二章「『死者の書』の読まれ方」、第三章「「口ぶえ」とその周辺」、第四章「釈迢空の象徴主義」、第五章「『死者の書』の謎を解く」。巻末には、文献一覧と人名・書名索引が配されています。折口の生誕130周年にあたる本年、『死者の書』は中公文庫版や岩波文庫版があるにもかかわらず角川ソフィア文庫でも今夏刊行されており、今世紀に入ってから川本喜八郎さんによる人形アニメ映画化や、近年の近藤ようこさんによる漫画化が果たされていることは周知のとおりですが、丸ごと一冊を費やした謎解き本はさほど多くありません。 ★『詩集工都』はまもなく発売(30日取次搬入)。「松本圭二セレクション」の第2回配本、第2巻です。底本は七月堂より2000年に刊行された単行本で、帯文に曰く「幻の」第二詩集。付属の「栞」には「「詩」を映写すること」と題された佐々木敦さんによる寄稿と、松本さんによる著者解題が掲載されています。後者は前橋文学館特別企画展図録『松本圭二 LET'S GET LOST』からの転載とのことですが、第二詩集の刊行までの紆余曲折に満ちた顛末が赤裸々に記されていて、読む者を戦慄させます。松本さんの執念もさることながら、セレクションに賭ける航思社さんの思いにも凄まじいものを感じます。こうした情念の塊にも似た書物に出会うと、読み手が味読するという次元を超えて、手にしたこの物体に刻まれた言葉たちに読者が視線を食らわれているかのような心地さえします。 +++
by urag
| 2017-10-29 00:23
| 本のコンシェルジュ
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