2017年 04月 01日
![]() 『デザインってなんだろ?』松田行正著、紀伊國屋書店、2017年3月、本体1,800円、B6変形判並製328頁、ISBN978-4-314-01145-7 『タウリス島のイフィゲーニエ』ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ作、市川明訳、松本工房、2017年1月、本体1,100円、新書判並製352頁、ISBN978-4-944055-87-6 『ゴーストタウン』ロバート・クーヴァー著、上岡伸雄・馬籠清子訳、作品社、2017年3月、本体2,400円、四六判上製246頁、ISBN978-4-86182-623-8 ★松田行正『デザインってなんだろ?』は3月29日取次搬入済の新刊。新書判よりわずかに天地左右が大きいサイズで、手のひらにしっくりくる美しい本です。帯文に曰く「ブックデザインの世界を颯爽と駆け抜けてきた著者が、長年の経験と博覧強記の知識を駆使して、デザインや美的感覚が、そもそもどのように形成されていったか、歴史の糸をときほぐしつつ解説する渾身のデザイン論。混迷する文化状況を俯瞰し、その行く末を占う読み物としても楽しめる、基礎教養が詰まったコンパクトブック」。目次は書名のリンク先をご覧ください。小口に仕掛けがあり、2種類の模様が浮かび上がるようになっています。巻頭からめくるのと巻末からめくるのでは模様が違うのです。一見、硬くて開きづらい本のように感じますが、PUR製本なので、よほど乱暴にしないかぎりはぐいっと開いてもしっかり開きます。松田さんは巻頭の「はじめに」で、現在はコンピュータで仕事をしているものの、コンピュータ以前のデザインは「コンピュータまかせではない発送の宝庫だ」と指摘されています。「本書は、歴史探偵さながらに、さまざまなデザインの背景にある意味などを探求し、まとめてみたものです」。またこうも記しておられます「効率や実利にばかり気を取られ、〔・・・〕すぐに役立つことばかりにとらわれ過ぎるのも、なにか寂しい気がします。やはり精神的で持続可能性のある豊かさは大事です」。歴史をひもとくカラー図版多数、これこそ本当の「自己啓発本」です。「さっさと仕事を終えて遊ぼう!」という帯のキャッチフレーズも素敵です。 ★ゲーテ『タウリス島のイフィゲーニエ』は、大阪大学名誉教授の市川明さん(いちかわ・あきら:1948-)の個人訳によるドイツ語圏演劇翻訳シリーズ「Akira Ichikawa Collection」の第1巻として2014年10月に刊行されたものの新装版。初版は横長のB5変型判という大判な本でしたが、新装版では第2巻以降と同じ新書判となっています。本文は美しいオリーブ色で刷られ、ドイツ語原文との対訳となっています。同シリーズの既刊書には以下のものがあります。第2巻:クライスト『こわれがめ 喜劇』2015年、第3巻:レッシング『賢者ナータン 五幕の劇詩』2016年、第4巻:ブレヒト『アルトゥロ・ウイの興隆』2016年。有限会社松本工房さんは大阪市でグラフィックデザイン、組版、出版を営んでいる会社。二代目の代表者松本久木さんへの2009年のインタヴュー記事によれば同社は1977年に松本さんの父上が創業。経営難から2000年代前半に久木さんが関わるようになり、見事に危機を脱して、大阪の「ひとり出版社」として活躍されています。制作されている書籍はいずれも造本が美麗なものばかりですが、ほとんどがお手頃価格なのがすごいところ。たとえば劇作家の深津篤史さん(ふかつ・しげふみ:1967-2014)の作品集成『深津篤史コレクション』3巻本をご覧ください。その繊細な佇まいにはっとします。このほか、海外からの注文が多く来るという博士号取得論文刊行シリーズ「INITIAL」、アートブックレーベル「colophon.」、ギャラリーとヴィジュアルブックのレーベル「ondo」など、いずれも紙媒体の喜びに満ちあふれた仕事を手掛けておられます。 ★クーヴァー『ゴーストタウン』は『Ghost Town』(Henry Holt/Grove Press, 1998)の翻訳。訳者あとがきによれば、本書の刊行によって「クーヴァーのパロディ物4冊が揃った」と。ほかの3冊は『老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る』『ノワール』『ようこそ、映画館へ』で、いずれも作品社より刊行。『ゴーストタウン』について訳者はこうも述べています。「いわば西部劇のテーマパークで乗り物に乗り、決められたコースを走っているかのような感じなのだ。とはいっても、ディズニーランドのような清潔なテーマパークではない。暴力的な要素、卑猥で下品な要素が思い切り誇張され、神話に隠された裏の部分を露わにする。そして、人間が作り上げた文化的構築物の中でしか生きられない我々の姿を照射して見せる」(244頁)。「ピンチョン、バース、バーセルミらと並び称される、アメリカのポストモダン文学を代表する小説家」(著者略歴より)としてのクーヴァーの面目躍如とした一作、と言ってよいかと思われます。 +++ ★今月以降の注目新刊を列記します。 0329『カウンター・デモクラシー――不信の時代の政治』ピエール・ロザンヴァロン著、嶋崎正樹訳、岩波書店 0329『幻想としての〈私〉: アスペルガー的人間の時代』大饗広之著、勁草書房 0331『〈わたし〉と〈みんな〉の社会学』大澤真幸/見田宗介著、左右社 0331『不協和音の宇宙へ: モンテスキューの社会学』中江桂子著、新曜社 0331『人間の運命』ラインホールド・ニーバー著、髙橋義文/柳田洋夫訳、聖学院大学出版会 0331『歴史の喩法――ホワイト主要論文集成』ヘイドン・ホワイト著、上村忠男訳、作品社 0401『理念の進化』ニクラス・ルーマン著、土方透監訳、新泉社 0404『書店員の仕事』NR出版会編、新泉社 0404『流されるな、流れろ! ありのまま生きるための「荘子」の言葉』川崎昌平著、洋泉社 0405『啓蒙と神話: アドルノにおける人間性の形象』藤井俊之著、航思社 0406『デカメロン(中)』ボッカッチョ著、平川祐弘訳、河出文庫 0406『現金の呪い――紙幣をいつ廃止するか?』ケネス・S・ロゴフ著、村井章子訳、日経BP社 0408『ゲンロン0 観光客の哲学』東浩紀著、ゲンロン 0410『第四の革命――情報圏(インフォスフィア)が現実をつくりかえる』ルチアーノ・フロリディ著、春木良且/犬束敦史/先端社会科学技術研究所訳、新曜社 0411『実体概念と関数概念【新装版】――認識批判の基本的諸問題の研究』エルンスト・カッシーラー著、山本義隆訳、みすず書房 0411『死に至る病』セーレン・キェルケゴール著、鈴木祐丞訳、講談社学術文庫 0411『写生の物語』吉本隆明著、講談社文芸文庫 0411『ヨハネス・コメニウス 汎知学の光』相馬伸一著、講談社選書メチエ 0411『勉強の哲学――来たるべきバカのために』千葉雅也著、文藝春秋 0411『人類の未来――AI、経済、民主主義』ノーム・チョムスキー/レイ・カーツワイル/マーティン・ウルフ/ほか著、NHK出版新書 0412『アナキスト民俗学: 尊皇の官僚・柳田国男』絓秀実/木藤亮太著、筑摩選書 0414『スノーデン 日本への警告』エドワード・スノーデン/青木理/井桁大介/金昌浩 /ベン・ワイズナー/宮下紘/マリコ・ヒロセ著、集英社新書 0415『バウドリーノ』上下巻、ウンベルト・エーコ著、堤康徳訳、岩波文庫 0418『科学とモデル――シミュレーションの哲学 入門』マイケル・ワイスバーグ著、松王政浩訳、名古屋大学出版会 0418『ゾンビ学』岡本健著、人文書院 0419『辺境図書館』皆川博子著、講談社 0419『ポピュリズムとは何か』ヤン=ヴェルナー・ミュラー著、板橋拓己訳、岩波書店 0420『ラカニアン・レフト――ラカン派精神分析と政治理論』ヤニス・スタヴラカキス著、山本圭/松本卓也訳、岩波書店 0420『もうひとつの〈夜と霧〉: ビルケンヴァルトの共時空間』ヴィクトール・E・フランクル著、諸富祥彦/広岡義之編、広岡義之/林嵜伸二訳、ミネルヴァ書房 0420『戦争にチャンスを与えよ』エドワード・ルトワック著、奥山真司訳、文春新書 0422『再起動する批評――ゲンロン批評再生塾第1期全記録』東浩紀編著、朝日新聞出版 0422『老子道徳経(井筒俊彦翻訳コレクション)』井筒俊彦著、古勝隆一訳、慶應義塾大学出版会 0422『著作権の誕生――フランス著作権史』宮澤溥明著、太田出版 0425『美学講義』G. W. F. ヘーゲル著、寄川条路監修、石川伊織/小川真人/瀧本有香訳、法政大学出版局 0425『記号と再帰 新装版: 記号論の形式・プログラムの必然』田中久美子著、東京大学出版会 0425『人工知能の哲学: 生命から紐解く知能の謎』松田雄馬著、東海大学出版部 0427『臨床哲学の知』木村敏/今野哲男著、言視舎 0427『美味礼讃』ブリア=サヴァラン著、玉村豊男訳、新潮社 0429『アレゴリー:ある象徴的モードの理論』アンガス・フレッチャー著、伊藤誓訳、白水社 0430『思考の体系学: 分類と系統から見たダイアグラム論』三中信宏著、春秋社 0510『柄谷行人講演集成1985-1988 言葉と悲劇』ちくま学芸文庫 0512『ラテン語を読む――キケロ―「スキーピオーの夢」』山下太郎著、ベレ出版 0526『メルロ=ポンティ哲学者事典 第二巻:大いなる合理主義・主観性の発見』加賀野井 秀一ほか監訳、白水社 0529『トールキンのベーオウルフ物語<注釈版>』J・R・R・トールキン著、岡本千晶訳、原書房 ★なんといっても今月は、東浩紀さんの『観光客の哲学』と、千葉雅也さんの『勉強の哲学』に注目。翻訳ではヘイドン・ホワイト『歴史の喩法』と、ヤニス・スタヴラカキス『ラカニアン・レフト』。古典ものでは寄川条路監修『美学講義』と、鈴木祐丞訳『死に至る病』、玉村豊男訳『美味礼讃』ですね。 +++
by urag
| 2017-04-01 19:20
| 本のコンシェルジュ
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