2017年 07月 28日
アマゾン・ジャパンが日販や版元に申し立てている「引当率」の根拠がいかに(版元にとっては)ずさんなものかが分かる証言がここ最近改めて出始めています。某版元営業さんのツイートによれば「アマゾンより「貴社欠品状況と日販引当率をお知らせします」というメールがくるようになったけど、100点ばかりあげられている「需要高カート落ち商品リスト」の内容が、すべて旧版やVANでも品切れにしているものなんだが。日販に補充しろといわれてもな」と。 こうしたメールはまだ弊社には届いていませんが、他社さんからも同様の感想を聞いています。メールでお知らせが来るということは、おそらくベンダーセントラルに登録している版元を中心に、順次送っているのだと思われます。アマゾンはバックオーダー発注停止に伴う説明会の折に、数字を羅列しただけでまったく具体的な書名を挙げていない引当率のデータを版元に提示し、混乱した印象しか与えてきませんでした。さすがに各方面から突っ込みが入ったのか、ようやくカート落ち問題に関連して具体的な書名のリストを版元に送り始めた、ということでしょうか。 し・か・し、欠品の内容たるや、旧版や品切本ばかりというわけです。そんなのをカウントしていたらそりゃ引当率は下がりますよ。開いた口がふさがらない。実際このことは以前から版元サイドからは疑問視されてきました。これと同じことを2年前にもアマゾンはやらかしているのです。 2016年の夏、栗田が民事再生法適用を申請した後に行われた版元への「増売セミナー」で、アマゾンは販売機会欠損率ワースト30の書目リストを版元に提示しています。その昔当ブログでも明かしたかと記憶しますが、弊社に提示されたリストではワースト30のうち、25点は普通に送品できている本でワーストでも何でもなく無理やりリストアップされているものでした。そして、残りの5点は版元品切本だったのです。こんな馬鹿馬鹿しいことをいつまでアマゾンは続けるのでしょうね。 こうした品切本や旧版まで含めてアマゾンは日販に在庫しろ、と言っている(に等しい)のでしょうから、無茶にもほどがあります。日販さんはもっと怒っていいはずです。だって本当に無茶苦茶なんだから。アマゾンの発注方法に合理性を感じないなら、はっきりとそう内外に説明すべきです。 先述の版元営業マンさんはこうもお書きになっています。「取次の在庫ステータス22と32はアマゾンからの発注がでないって書いてるけど、もしかしてVAN関係なく、フル発注して引当率下げてるんじゃ?って疑いたくなる。欠品率で品切れ商品の無駄データを送ってくるぐらいなら、引き当て不能だった書籍のデータが欲しいわ。それちゃんと補充するから」。フル発注疑惑、これですね。引当不能書目が何だったか、それをきちんとアマゾンが版元に直接提示し確認できれば、問題はすぐに解決できるはずです。なぜそれをやらないのか。 直取引の有無に関係なく、アマゾンは版元に直接、在庫確認や発注を行えばいいのです。それだけでもずいぶんと混乱は収まるはずです。e託最優先思想から脱却しない限り、アマゾンの「すぐに調達、すべてを調達」というミッションは達成されようがありません。 別の版元さんからはこんな声も聞かれました。「絶版本をKINDLEかPODにしろと言われるが、改訂前のものを商品化して何の意味があるのか」。まったくその通りで、もう本当に椅子から転げ落ちそうになりますね。絶版本の中身を精査しないままで「すべてを調達する!」と言われても、そんなアバウトすぎる需要予測には、版元にとっては何の意味もありません。 アマゾンは毎日全単品の需要予測を独自に算出していると言っていますが、その需要予測にどんな要素が組み込まれているか、版元に開示するつもりはなさそうです。しかし、調達率や引当率を上げるためには、アマゾンの需要予測の精度がそもそも問題になってくるわけで、そこを精確にメーカーである版元に説明できなければどうしようもありません。なぜ旧版や年度落ち本が必要なのか、非常に興味深いので、その理由をぜひ詳しく教えて欲しい(こうした問いかけに既視感を覚えるのは・・・ツタヤ図書館のせいですね)。 アマ「くれよ」、版元「ないよ」、アマ「欲しいんだよ」、版元「なんでだよ」、アマ「売れる見込みがあるからだよ」、版元「どこかだよ」、これの繰り返しですよ、今のままでは(コント「アマゾンくん」)。 +++ 一方ではこんなこともあります。あくまでも寓話です。 版元「この本はよく売れているからもっと在庫してもらった方がいいと思うんだけど」 アマ「そういうことは取次さんに相談してください」 版元「・・・(回りくどいわ~)」 版元「取次さん、そういうことなんでアマゾンさんに在庫してもらった方が」 取次「発注するしないはアマゾンさん次第なんで」 版元「・・・(これ以上どうしろっていうんだよ)」 アマ「e託(直取引)もご検討ください、バックオーダー止めるんで」 版元「はあ?(正気かよ)」 アマ「・・・(在庫なくなった)」 版元「・・・(やっぱりな。あとはアマゾンの発注待ちか)」 版元「・・・(カートが落ちると2~3週間は復活しないんだよな)」 取次「・・・(うちの倉庫だって扱える物量の限界はあるよ)」 アマ「10月に藤井寺FCと八王子FCを稼働させるよ」 版元「・・・(中小版元の本を在庫してくれるのか?)」 アマ「・・・」 取次「うちも在庫点数を増やすべく頑張ってますんで」 版元「・・・(MD契約してないから取次に何を何冊在庫してもらってるかわからん)」 版元「・・・(昔っからカート落ちって版元品切と勘違いされるんだよな)」 著者「出版社さん、なんでアマゾンで扱ってもらえないの?」 版元「はあ、扱ってもらえるかどうかはアマゾンの判断なんです」 著者「アマゾンさん、なんで?」 アマ「当社の需要予測に基づいています」 お客「出版社ではもう品切なんですか」 版元「ありますよ、全国の書店さんでご注文いただけます」 お客「本屋さん、この本欲しいです」 書店「取り寄せになるので多少時間かかります」 お客「・・・(早く欲しいのに)」 お客「出版社さん、アマゾンで買えないんですけど」 版元「かくかくしかじかの本屋さんでは在庫しているようですよ」 お客「考えてみます(アマゾンなら送料無料ですぐ届くのに)」 版元「・・・(なにかとアマゾンアマゾンって言われてかなわんな)」 運送「当日配送キツイわ、撤退したい」 アマ「・・・(代替をちゃんと探してあるもんね)」 お客「デリバリープロバイダから荷物届かない」 アマ「・・・(米英ではさらなる施策を試行錯誤してるし将来日本でも)」 新聞「配送トラブルが生じていると言われているが?」 アマ「現在は解消しています」 デリ「・・・(正直無理だわ)」 例えば今日現在、弊社5月刊『鉄砲百合の射程距離』(内田美紗=俳句、森山大道=写真)はアマゾンでは「通常1~4週間以内に発送します」と表示されています。「honto」では1~3日以内に出荷との表示。本書は弊社銘柄中、いまもっとも客注が多い書目で、おそらくアマゾンでも在庫すればそれなりに堅調に動くでしょう。ちなみに同書は版元在庫ありなので、もしアマゾンさんが弊社に直接発注を出してくれれば、午前中の受注で翌営業日、午後の受注で翌々営業日に取次搬入可能です。取次が在庫を持っていない場合でも取寄せ発注を出すよりかは多少は時短になると思うのですけれども。 +++
by urag
| 2017-07-28 10:59
| 雑談
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Comments(2)
アマゾンのやり口で一番の問題は、ベンダーセントラルを使わない地方出版に対して行なっている苛め「Amazon八分」です。
これで私の著書は発売2ヶ月の間、1冊も取り扱わない状況にされ、その間の大手新聞の1/4面掲載も空しく丸毎カゴ落ちを食らいました。 1年以上経った今でも在庫は最大2冊まで、2冊続けて売れると2週間以上の取り扱い停止になる八分状態が続いています。
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軍師さんこんにちは。アマゾンの「しくみ」はここ数年で対外的に行われてきた説明会やその周辺情報の取得によって、だいぶ出版社側も理解(容認という意味ではありません)が進んでいます。長くなるのでここでは説明できませんが、当ブログはもちろん、貴サイトもアマゾンは読んでいると思われます。彼らから積極的なアプローチがあることは期待できませんが、アマゾンが色々と試行錯誤していることも確かです。
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