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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2017年 07月 03日

メモ(23)

「文化通信」2017年7月3日付記事「アマゾン、取次へのバックオーダー6月末で全面停止」によれば「アマゾン・ジャパンは本紙取材に対し、かねて出版社や取次に告知していた通り6月30日で日本出版販売(日販)へのバックオーダーを停止することを明らかにした。一方、出版社には取次との流通改善で対応しようと…」(以下有料)。業界全体にとって重要な内容なので、これはできれば無料で公開していただきたかったですが、同日付の紙媒体1面記事を参考に私が気になったポイントをまとめておくと次のようになります。

1)バックオーダー停止は出版社2000社以上に通知し、合計35回の説明会に520社超が参加。直取引である「e託」への申し込みは駆け込みで増加したものの成約数は未公表。
2)期日通り6月30日いっぱいで日販にも大阪屋栗田にもバックオーダーの発注を停止。
3)すでにシステム接続が完了している大村紙業京葉流通倉庫河出興産工藤出版サービスのほか、主要倉庫業者4社とEDIの準備を進め、7月~9月には稼働予定。

全文詳細はぜひ7月3日付の紙媒体の「文化通信」をご覧ください。一番気になるのは1)の直取引の成約数や、3)のEDI準備中の倉庫業者4社です。ここに切り込んでいく他のメディアがあったらよいのですが。1)については小零細の版元が多いのでしょう。そう推測できる理由については「メモ(22)」の後半で述べました。

なお、「新文化」2017年6月30日付の記事には「京葉流通倉庫、今冬までに販売サイト開設」というのもあって、「物流・倉庫業を手がける京葉流通倉庫(埼玉・戸田市)が今秋から冬にかけて、取引のある出版社約50社の本を対象に、直接読者に販売するウェブサイトを立ち上げる。京葉流通倉庫が発送や代金回収を担うという」と報じられています。出版業界の発展にはロジスティクスの進化が欠かせないわけですが、今後は倉庫業者の動向に注目が集まりそうです。

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バックオーダー終了に伴う「カート落ち」によってアマゾンはロングテールの一部を失うことになります。それを見越したリアル書店の店員さんの中には「アマゾンでは売っていませんが、ウチでは売ってます」と宣伝しようとお考えになっている方もおられるようです。そうした試みを当ブログでは応援していきたいと思います。

ところで「カート落ち以後の社会」で、本を探している人々にとってもっとも強力なツールのひとつは、オンライン書店「honto」になるでしょう。「honto」では単品ページごとに、ジュンク堂、丸善、文教堂といったリアル書店の店頭在庫が一覧で表示されます。○が3冊以上あり、△が1~2冊あり、×が在庫なしです。アマゾンは全国に大小10か所の物流拠点(FC:フルフィルメントセンター)があり、膨大な商品点数を在庫していますが、ジュンク堂、丸善、文教堂の三大チェーンの全店舗を合わせた在庫数も相当なものになります。

そのため、アマゾンでカート落ちしている本も「honto」で探すことができます。それどころか、版元品切本すらよく見つかります。今のところ店頭在庫を買うためには「honto」経由で取り置きを依頼するか、店舗に電話して代引で取寄せるか、どちらかになります。私の場合、版元品切になった単行本から文庫まで、全国のジュンク堂や丸善、文教堂から代引で折々に購入しています。送料と代引手数料がかかりますが、往復交通費とは比べ物にならない微々たる金額です。アマゾンをはじめとするネット書店の「即出荷、送料無料」に慣れてしまうとつい目が向かなくなってしまうのかもしれませんが、カート落ちしている本や版元品切本を新本で探すなら「honto」で検索、というのは今や常識です。

「honto」自体の「24時間」在庫点数はアマゾンに比べれば物足りませんが、重要なのはリアル店舗の在庫を探せる、ということなのです。これはアマゾンではできないことです。当ブログのエントリー「ジュンク堂のネットストアHONでは支店の在庫が分かりますよ」は2010年の古いエントリーにもかかわらずいまだにアクセスがあります。「新文化」2017年5月17日付記事「日販の平林彰社長、業界3者の在庫「見える化」と「出荷確約」態勢に意欲」によれば、「今年7月に出版社と日販、書店の在庫情報を共有できるネットワークを構築したうえ、「見える化」と「出荷確約」した流通を目指す考えを打ち出した」とのことでしたが、業界三者以上に「見える化」を欲しているのは読者です。全国書店の店頭在庫の横断検索が読者にできるようになれば、ずいぶん便利になるはずです。ちなみに「NAVERまとめ」には「在庫検索可能なリアル書店一覧」というリストがあります。

出版社が時折経験することに「版元品切本で探している読者が多いのに書店から返品依頼が入る」というものがあります。不思議なことと言うべきか当たり前と言うべきか、他店で売れていようが版元で重版していようが、別の書店では1冊も売れていないということがままあります。さらには「こんな貴重な本がよく残ってたな」と唸ってしまう返品依頼もあったりします。当然のことながら、そういう本は返品されたが最後、そのお店に再出荷できることはありません。つまり、読者が血眼になって探しているかもしれない本を「まったく売れない」と嘆いている本屋さんもいらっしゃるわけです。このミスマッチをいいかげんに何とかしなくてはならないのではないか。版元にせよ書店にせよ取次にせよ、在庫の「見える化」は読者の利益であるべきです。

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明敏なる諸先輩や同輩からの示唆によって、出版物流の危機について理解を深めるためには次の二つの新聞記事の閲覧が必須、と知りました。

1)「文化通信」2017年5月1日付インタビュー記事「抜本的な解決に向けて取次(取協)と出版社(雑協)の協議がスタート――2010年から相次ぎ業者が撤退、出版輸送はどうなるか」では、日販専務取締役安西浩和さん(取協「発売日・輸送対策委員会」副委員長)とトーハン専務取締役・川上浩明さん(同委員長)の発言が読めます。厳しい状況がひしひしと伝わってきます。

見出しを抜き出してみると以下のようになります。「トーハンは7年で9社が撤退」「荷主に労働環境改善要求も」「輸送のバリエーションが増加」「幹線担う大手も撤退の動き」「配送が止まる事態も」「平均積載率は5割程度」「自助努力して運送会社と交渉」「業量は日によって2倍に」「休配13日で法の範囲内に」「新聞配送の活用を実験」「最低運賃保証でコスト圧迫」「出版社の協力金と運賃のギャップ開く」「書籍だけ運ぶのは無理」「受益者負担考える時期に」「いまの構造全体に」「秋から年末にかけ方向性」「業界四者での取り組みも必要に」。業界四者というのは、出版社、取次、書店の従来の三者に加え、輸配送業者を含めたものです。おそらくはここに倉庫業者の視点も必要になるものと予想されます。

このほかの大きな見出しには次のものがありました。「労働環境、安全の問題も背景に(安西副委員長)」「輸送網の維持が販売会社最大の課題(川上委員長)」「販売への悪影響ないように検討する(安西副委員長)」「自助努力のうえで、問題解決図りたい(川上委員長)」。全文を熟読しておくべき非常に重要な記事です。なお同記事については、「東スポweb」内の渡辺学氏(法務広報室長)によるブログ「ニュースのフリマ」2017年5月9日付エントリー「出版界でも深刻な配送問題」に言及があります。

2)「日本経済産業新聞」2017年6月30日~7月5日付の亀井慶一さんによる連載記事「よくわかる出版物流」(全5回)もタイムリーなまとめ記事です。各回の見出しは以下の通り。「書店数、10年で25%減」「アマゾン、取次会社と対立」「雑誌不振 取次の再編加速」「雑誌返品率 4割超える」「配送会社、相次ぐ撤退」。この連載に関連する記事として、同新聞では2027年5月5日付の大阪経済部・荒尾智洋氏記名記事「出版物流、荷物減っても配送負担が増す理由」があります。

これらの記事を参考にして常識的に考えると、雑誌配送網にまったく頼らない書籍配送網というのは考えにくく、配送網の維持のための取次や運送会社の自助努力が限界点を越える場合には、送品返品送料について出版社や書店が今以上の負担をするか、それが無理なら順次配送網を小さくするか、どちらかしかないように思われます。後者の場合、配本先から外れる書店が主に地方で出てくるということを意味しており、配本先が多くないと採算が取れない出版社の経営も打撃を受けます。

そうした背景と呼応するかのように、「日本経済新聞」2017年7月1日付記事「日販、グループ書店1割閉鎖へ」では以下のように報じられています。「出版取次大手の日本出版販売(日販)はグループ書店の最大1割を閉鎖する。対象は約25店で、2018年3月期中に閉鎖する。出版市場が縮小するなか、経営が苦しくなった書店をグループに取り込んできたが、黒字化が見込めない店舗は閉店に踏み切る」(以下、要登録)と。日販傘下の書店チェーンにはリブロやあゆみBOOKSをはじめとする書店があり、トーハンでも傘下書店にはブックファーストなどがあります。これまでも閉店作業は粛々と進められてきましたが、さらに店舗数が絞られていくことになるのでしょう。

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by urag | 2017-07-03 19:48 | 雑談 | Comments(0)


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