2017年 01月 22日
![]() 死してなお踊れ――一遍上人伝 栗原康著 河出書房新社 2017年1月 本体1,600円 46版上製256頁 ISBN978-4-309-24791-5 帯文より:家も土地も財産も、奥さんも子どもも、ぜんぶ捨てた一遍はなぜ踊り狂ったのか――いま最高度に注目される思想家による絶後の評伝。 推薦文(瀬戸内寂聴氏):踊り狂うほど、民衆を熱狂させた、一遍上人の希有な魅力を、瑞々しい栗原さんの新鮮な文体で描いた、最高に魅力的な力作! 推薦文(朝井リョウ氏):栗原康の言葉を通せば、教科書の中のあの人もこの人もまるで旧知の悪友のよう。一遍と踊りたい、朝まで、床が抜けるまで! 目次: はじめに 第一章 捨てろ、捨てろ、捨てろ 第二章 いけ、いけ、往け、往け 第三章 壊してさわいで、燃やしてあばれろ 第四章 国土じゃねえよ、浄土だよ 第五章 チクショウ 注 参考文献 おわりに ★まもなく発売。売り出し中の若手の中でもっとも破天荒で転覆的で痛快な評伝を世に送り出せるアナーキスト、栗原康さんによる最新作。大杉栄伝(夜光社、2013年)、伊藤野枝伝(岩波書店、2016年)に続く第三弾で、踊り念仏で知られる時宗の開祖、一遍を扱います。瀬戸内さん、朝井さんを魅了したその文体は読む者の魂を鼓舞する生気に満ちたもので、このテンションを維持するのはなかなかのエネルギーを必要とするのではないかと思います。栗原さんのエネルギーの源泉のひとつかもしれないものが本書の冒頭にずばり書き記されていますが、こんな書き出しが近年の人文書にあっただろうかという赤裸々な告白になっています。引用するのも無粋なので、ぜひ現物を手に取ってみていただければ幸いです。 ★「富も権力もクソくらえ。アミダにまかせろ、絶対他力。浄土にいくということは、権力とたたかうということとおなじことだ」(33頁)。「トンズラだ、トンズラしかない。いちど人間社会をとびだして、アミダの光をあびにゆこう。一遍は、それをやるのが念仏なんだといっている」(57頁)。「だいじなことなので、くりかえしておこう。念仏に作法なんてありゃしない。うれしければうれしいし、たのしければたのしい。念仏は爆発だ。はしゃいじまいな」(110頁)。一遍につられて踊り念仏の輪が広がる様を描いた第三章の「踊り念仏の精神――壊してさわいで、燃やしてあばれろ」の節は、あたかも野外のレイヴでのトランス状態にも似た沸騰の中で、一遍の時代と現代とが見事にひとつになる瞬間を捉えています。「まるで獣だ、野蛮人だ。ここまでくると身分の上下も、キレイもキタナイも、男も女も関係ない。およそ、これが人間だとおもいこんできた身体の感覚が、かんぜんになるなるまで、自分を燃やして、燃やして、燃やしつくす。いま死ぬぞ、いま死ぬぞ、いま死ぬぞ。体が念仏にかわっていく」(114頁)。 ★「生きて、生きて、生きて。生きて、生きて、往きまくれ。おまえのいのちは、生きるためにながれている。なんでもできる、なんにでもなれる、なにをやっても死ぬ気がしない。あばよ、人間、なんまいだ。気分はエクスタシー!!」(114~115頁)。「さけべ、うたえ、おどれ、あそべ。おのれの神〔たましい〕をふるわせと。だまされねえぞ、鎌倉幕府。したがわねえぞ、戦争動員。念仏をうたい、浄土をたのしめ。しあわせの歌をうたうということは、あらゆる支配にツバをはきかけつということだ」(158頁)。「一遍にとって、念仏をとなえて死ぬというのは、いまある自分を殺してしまう、からっぽにしてしまうということであった。なんどでも、なんどでも、ゼロから自分の人生をやりなおす、やりなおしていい、やりなおせる。そういう境地を成仏するといっていた」(161頁)。今まで様々な仏僧伝があったとはいえ、栗原さんのそれは最初から最後までそれ自体が「歌」のようで、今までにない、天にも昇るようなヴァイブレーションを発散しています。 ★本書『死してなお踊れ』と同日発売となる河出書房新社さんの新刊に、荒川佳洋『「ジュニア」と「官能」の巨匠 富島健夫伝』があります。こちらも評伝です。ジュニア小説と官能小説をともに数多く残した流行作家、富島健夫(とみしま たけお:1931-1998)の生涯を描いたもの。富島の代表作は『おさな妻』(1970年)で、幾度となく映画化やTVドラマ化されています。 ★このほか、最近の新刊では『子午線――原理・形態・批評 Vol.5』(書肆子午線、2017年1月、本体2,000円、B5変型判並製264頁、ISBN978-4-908568-10-7)に注目しました。八幡書店社主の武田崇元さんの長編インタヴュー「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」が掲載されています。子午線ではこれまで既刊号で、松本潤一郎さん(第1号)、大杉重男さん、安里ミゲルさん(ともに第2号)、金井美恵子さん、花咲政之輔さん(ともに第3号)、稲川方人さん(第4号)といった方々のインタヴューを掲載されてきましたが、今回の相手はオカルト界の重鎮。レフトとオカルトのあわいの変遷をたどることのできる貴重な内容で、必読です。
by urag
| 2017-01-22 23:59
| 本のコンシェルジュ
|
Comments(0)
|
アバウト
カレンダー
ブログジャンル
検索
リンク
カテゴリ
最新の記事
画像一覧
記事ランキング
以前の記事
2024年 12月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 2004年 10月 2004年 09月 2004年 08月 2004年 07月 2004年 06月 2004年 05月 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||