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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2016年 08月 01日

備忘録(31)

◆2016年8月1日午前10時現在。
人文書版元のサバイバルがますます深刻化してきたのか、と心配されている方も多いでしょうか。周知の通り「東京商工リサーチ」2016年7月21日付TSR速報「[東京] 出版業(株)新思索社 破産開始決定負債総額5099万円 ~哲学書などの専門出版社~」によれば、新思索社さん(1994年設立、資本金1000万円、新宿区)が7月13日、東京地裁から破産手続き開始決定を受けたとのことです。負債総額は債権者18名に対して5099万円と。「哲学書や人間学、心理学、社会学、自然系などの出版を手掛けていた。〔ベイトソンの〕『精神と自然』『精神の生態学』、〔バーガーの〕『社会学への招待』などの専門書を出版していたが、出版不況から販売も伸び悩み、業績低迷が続いていた。こうしたなか、小泉孝一社長が亡くなったことで事業継続を断念。平成28年7月8日に取締役が破産を申し立てていた」と。関連記事には「帝国データバンク」7月21日付記事「哲学書「精神と自然」で知られる出版社、新思索社が破産開始」や、「新文化」7月25日付記事「新思索社、破産手続き開始決定受ける」などがあります。

小泉孝一さんについては、人文業界で知らない人はいないでしょうけれども、ご存知ない方には、小田光雄さんによる「出版人に聞く」シリーズで出版されている聞き書き『鈴木書店の成長と衰退』(論創社、2014年)が参考になるかと思います。私が最後にお見かけしたのは、2012年7月に都内某所で行われた「二宮隆洋さんを偲ぶ会」においてでした。残念でなりません。

倒産した版元の本は通常であれば書店さんがすべて返品するので、一気に店頭から消えて読者が入手できなくなるという不運に見舞われますが、新思索社さんの本はネット書店「honto」で調べる限り、丸善やジュンク堂などでまだ在庫が残っているようです。取次から書店への事故通知は7月13日にすでに済んでいるでしょうから、同チェーンではこのまま在庫を保持して下さるのかもしれません。わがままを言えば、ぜひ返品せずに残していただきたいものです。背取り屋さんの狩りの対象になることが予想されますので、早めに購入されておくのがよさそうです。新思索社さんのウェブサイトはすでに閉鎖されています。ベイトソンやチクセントミハイ、バーガー、ローレンツ、クリック、ヴァン・デル・ポスト、ミッチャーリヒ、マンフォード、パノフスキーなど、主要な著書は文庫化のチャンスがあるかもしれませんけれども、すべてではないでしょうから、店頭に残っている商品については単行本を買い逃す手はありません。

また、次の記事も業界や研究者の間で話題になっていますが、「朝日新聞」2016年7月20日付記事「学術書専門の創文社、売り上げ激減 20年めどに解散へ」よれば、創文社さん(1951年創業、千代田区、社員6人)が「2020年をめどに会社を解散する予定であることがわかった。同社は「売り上げの落ち込みが激しく回復が見込めない」としている。/『ハイデッガー全集』や『神学大全』など、哲学や宗教、歴史、政治、社会系の書籍のほか、「哲学研究」などの雑誌も発行してきた。同社によると、最近は年10%の割合で売り上げが落ち続け、昨年は10年前の約3分の1だったという。新刊書の発行は来年3月まで続けるという」と。

トマスの『神学大全』は幸い2012年に全巻完結していますが、『ハイデッガー全集』はそもそもクロスターマン版のドイツ語原書でも完結しておらず、既刊書のみに絞ってもあと4年ですべての訳書が出るのは極めて困難かと思われます。読者として留意すべきなのは、2020年というのはあくまでもめどかもしれないと含んでおくことかと思われます。現在の出版界の状況に鑑みれば、前倒しになる可能性もないわけではないかもしれず(こうした状況はどの出版社にとってもまったく他人事ではありません)、一愛読者としてはこの期間にコツコツと未読書を購入していくほかなさそうです。

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◆8月2日15時現在。
「女性セブン」2016年8月11日号掲載記事「学力1位秋田の東成瀬村 小学校図書費は全国平均の4倍超」(8月2日配信)では、秋田県東成瀬村教育委員会の鶴飼孝教育長の印象的な証言を紹介しています。秋田県は文科省「全国学力テスト」で8年連続1位を獲得しており、東成瀬村は県下でトップクラスの学力を誇るのだとか。記事では「学習塾が1つもない東成瀬村が、なぜ日本一の学力を誇るのか?」と問いかけ、その背景の分析を試みています。

全国学校図書館協議会の「2015年度学校図書館調査」によると児童1人当たりの図書購入費は全国平均では1394.7円だそうですが、東成瀬村では1人当たり6000円の予算を組んでいるのだとか。また、村の小学校では朝の10分間読書や、月1回15分ほどの読み聞かせを実践しているのだそうです。

鶴飼さんの言葉が印象的です。「まず語彙が増えます。子供たちが生きていくうえで、自分の言葉で自分の気持ちや考えを相手に伝えていかなければなりません。そして、読解力もつきます。/教育とは、テストの平均点をあげることだけが大事なのではありません。しっかりとした人間性を育てることが重要です。子供たちはさまざまな可能性を持っています。その可能性を引き出すためにも土台づくりはしっかりとしないといけません。その土台づくりに、考える力や生きる力などの総合的な力が必要なんです。/主体的に積極的に人生に向かい、夢に取り組むためには、単に知識を増やすだけではなく、課題に向かっていく知的好奇心や向上心も必要になっていきます。そして他人の話を聞くのも大切です。そのためにも読書は必要だと思っています」と。

至極まっとうなご発言で共感を覚えます。近年、大学教育においては「教養」よりも実学的専門知識の習得に重きを置く傾向があるように見受けますが、専門家育成には「総合力」の陶冶も必要なはずです。東成瀬村の初等教育は、まさにそうした総合力のための「土台づくり」に意識的に取り組んでいる、という事例なのでしょう。総合力はむろん、成人前も成人後も、セカンドライフでも大事なわけで、その意味で図書館が地域に果たしうる役割というのは大きなものがあると言えそうです。一出版人として希望とともに責務というものも感じた記事でした。

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◆8月3日午前11時現在。
契約終了や商業施設の改築もしくは撤退など、テナントとして展開してきたチェーン書店の閉店や休業の諸動向に注視せざるをえない昨今、と言えるのかもしれません。「共同通信」2016年8月2日付記事「セブン、西武八尾・筑波2店閉鎖――ニッセンは完全子会社へ」によれば「セブン&アイ・ホールディングス(HD)がグループ見直しの一環で、業績が低迷しているそごう・西武の百貨店2店舗を来年2月末に閉鎖する方針を固めたことが2日、分かった。〔・・・〕 閉鎖対象の百貨店は西武八尾店(大阪府八尾市)と西武筑波店(茨城県つくば市)」と。

西武八尾店7Fにはリブロ八尾店西武筑波店5Fにもリブロつくば店が入居(いずれも日販帳合)。つくばエリアについてはこのところ書店さんの撤退や店頭販売終了が相次いでいる(友朋堂書店チェーン、くまざわ書店つくば店)のは周知の通りです。前者の近鉄八尾駅周辺エリアでは近隣にヨーカ堂系列の大型複合モール「アリオ八尾」が2006年にオープンし、3Fには丸善八尾アリオ店(トーハン帳合)が入っています。八尾駅中央口から西武百貨店内通路経由でアリオ2Fに至る屋根付連絡通路はどうなるのでしょうか。西武八尾店は駅前という好立地ですからおそらく後継事業がすでに計画され始めているのではないかと推察できます。なお西武八尾店では5Fにヴィレッジヴァンガード八尾西武、3Fに同系列のQKアリオ八尾が展開。QK(キューケー)はヴィレッジヴァンガードが運営する「キッズ・ベビーのための遊べる本屋」で、絵本やベビー雑貨、玩具を扱っています。

リブロチェーンに話を戻すと、パルコブックセンター渋谷店では「ザ・閉店セール 最後の10日間」が8月7日(日)まで開催されています。洋書90%~50%OFFバーゲン、雑貨70%~50%OFFセール、サンキューセールPARCO出版・パルコ劇場DVDが39%OFF)のほか、100%ORANGEブックカバー・プレゼント、期間中お買上金額税込2,000円以上のお客様にはパルコブックセンターオリジナルA5クリアファイルをプレゼント(先着200名様限定)などが告知されています。PARCO出版のセールは要チェックです。パルコBCは1990年代において「J文学」ブーム牽引の地として渋谷の文化史に名を残している名店ですから、いずれ戻ってきてくれるような気がします。

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◆8月3日18時現在。
「毎日新聞」8月3日付、宮田哲・大場あい氏記名記事「西武筑波閉店 百貨店1店舗だけに…茨城県民ショック」によれば、「近年は大型SC出店や公務員宿舎の廃止による駅周辺の人口減などで売り上げが低迷、昨年度はピーク時の5割に落ち込んでいた」と。「SCの方が子どもを遊ばせる場所が多く、見て回れる楽しさがある。閉店も仕方ないのでは」との市民の声も紹介しています。ちなみに大型SCというのはイーアスつくば(2008年開業、ACADEMIAが3Fで営業中)や、LALAガーデンつくば(2004年開業、くまざわ書店の撤退後、TSUTAYAが1Fに入居)のことかと思います。

またこうも報じられています。「店を支援する動きもあった。周辺の企業などで組織する「つくばセンター地区活性化協議会」は同店への集客を含めたにぎわい創出策などを検討し、イベントや花壇整備などを実施。入居する商業施設「クレオ」を運営する筑波都市整備(本社・つくば市)も賃料の減額などに応じてきた。市も無電柱化による景観維持の方針を決め、7月にはそごう・西武に営業継続を申し入れたばかりだった」。

つくば市の市原健一市長曰く「非常に残念だ。30年以上にわたって中心市街地の顔とも言える、基幹的な施設として市民に親しまれてきた。我々も戸惑っている。〔今後については〕周辺企業とも連携し、市街地の空洞化が起きないよう早急に対応を考えたい」と。筑波都市整備も「全力を挙げて後継テナントを探し、影響を最小限に抑えたい」とコメントしているそうです。

一方、つくば市の友朋堂書店吾妻店では、一箱古本市が以下の通り開催されるとのことです。

友朋堂書店一箱古本市

内容:2016年2月に閉店したつくば市の書店、友朋堂書店の吾妻店で一箱古本市を開催します。閉まってしまったまちの書店のシャッターをみんなの力で開けよう!

日時:2016年8月7日10:00~18:00
会場:友朋堂書店吾妻店(つくば市吾妻3-8-7)

プログラム:
10:00~15:00
 ・一箱古本市(書店内)
 ・つくばにかかわるひとたちのおすすめ選書(新刊)販売
 ・アンケート「まちにとって書店とは」
 ・久野あずみさんの読みきかせ
 ・飲食店ブース

16:00~18:00
 ・語る会「まちにとって書店とは」・・・アンケートをもとに書店再生のプランを語り合います。語る会スピーカー:南陀楼綾繁さん(不忍ブックストリート)、植田浩平さん(PEPOLE BOOKSTORE)、「ディープなつくば人」。語る会の聴講料:一般=1,000円、大学生以下=500円、児童・幼児=無料。

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by urag | 2016-08-01 11:05 | 雑談 | Comments(0)


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