2016年 04月 17日
才女の歴史――古代から啓蒙時代までの諸学のミューズたち マルヨ・T・ヌルミネン著 日暮雅通訳 東洋書林 2016年4月 本体6,500円 A5判上製474頁 ISBN978-4-88721-823-9 帯文より:あの日、彼女は何を変えたのか?・・・世界の並みいる科学・哲学・文学の偉人たちに霊感を与え続けたイデアの源泉たる女神らもまた、それぞれが自らの言葉で思考し、多くを独力で見出す一個の〈自然哲学者〔ピロソプス・ナトゥラリス〕〉だった!! 近代的な知が開闢を迎える18世紀までを彩った有史以来の有名無名の<花々のひと群れ>を列伝形式で辿る、〈教養〉なるものの道行き! 図版110点、人物略伝90項付。解説:小谷真理 目次: はじめに 序:女性教養人の“復活”と権力の行使、そして性役割(ジェンダー・ロール) Ⅰ部:古代の女性教養人 1.古代エジプトにおける知識、権力、宗教の体現者……ハトシェプス(前1518頃~前1458頃) 2.メソポタミアの化学の母たち……タプーティ=ベーラ=エーカリ(前1200頃) 3.ピュタゴラス派:最初期の女性哲学者たち……テアノ(前6世紀) 4.女性に知的活動は可能か?……アスパシア(前470頃~前410頃) 5.女神(ミューズ)から学者へ……ヒュパティア(370頃~415) Ⅱ部:中世の教養ある修道女と宮廷婦人 6.自身を歴史に書きとどめたビザンツ帝国の皇女……アンナ・コムネナ(1083~1153) 7.宇宙論、医学書、博物学書を著した修道女……ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098~1179) 8.フランス初の女性職業作家……クリスティーヌ・ド・ピザン(1364~1430頃) Ⅲ部:ルネサンス期の女性教養人と科学革命 9.果たして女性にルネサンスは到来し、人文学者たり得たのか?……カッサンドラ・フェデーレ(1465~1558)/ラウラ・チェレータ(1469~1499) 10.パリ出身の教養ある職業助産婦……ルイーズ・ブルジョア(1563~1636) 11.科学革命時代の北欧女性……ソフィー・ブラーエ(1556~1643)/マリア・クーニッツ(1610~1664) Ⅳ部:17,18世紀の教養ある貴婦人、科学の冒険者、 そして匠 12.オランダ女性による知のレース編み……プファルツ公女エリーザベト(1618~1680)/アンナ・マリア・ヴァン・スフールマン(1607~1678) 13.二人の哲学者:知を熱望したイングランドの貴婦人たち……マーガレット・キャヴェンディッシュ(1623~1674)/アン・コンウェイ(1631~1679) 14.博物画家、昆虫学の先駆者にして探険家……マリア・ジビーラ・メーリアン(1647~1717) 15.ベルリン・アカデミーの“科学技能者”……リア・ヴィンケルマン=キルヒ(1670~1720) Ⅴ部:啓蒙時代のサロン、大学、科学界の女性教養人 16.フランスにおける新物理学の伝道者……エミリー・デュ・シャトレ(1706~1749) 17.ボローニャ大学の三人の女性学者……ラウラ・バッシ(1711~1778)/アンナ・モランディ・マンゾリー(1716~1774)/マリア・ガエターナ・アニェージ(1718~1799) 18.天文学のシンデレラ……カロライン・ハーシェル(1750~1848) 19.革命の陰に生きた、近代化学の母……マリー・ポールズ・ラヴォワジエ(1758~1836) おわりに 解説:小谷真理 図版出典 参考文献 原註 略伝:女性教養人の回廊 索引 ★発売済(14日取次搬入済)。小谷さんによる解説によれば、原書はフィンランド語で出版された、Tiedon tyttäret: oppineita eurooppalaisia naisia antiikista valistukseen (WSOY, 2008)で、翻訳にあたり原著者監修による英語テクスト、Sisters of Science and Ideas: Educated Women from Antiquity to the Enlightenmentを底本としているとのことです。著者のヌルミネン(Marjo T. Nurminen, 1967-)はヘルシンキ生まれの科学史家・哲学史家で、デビュー作である本書はノンフィクション・フィンランディア賞を受賞しているとのこと。近年の著書に『地図製作者の世界――西洋絵図の文化史』(2015年、未訳)があります。初訳となる今回の著書について小谷さんは「古代から啓蒙時代までの世界が、斬新な視点から眺望されただけではなく、中世以降女性を閉め出してきた大学や学会といった知の生産所の問題が、明確に浮かび上がり、これには心底驚かされた」と評しておられます。巻末の「略伝:女性教養人の回廊」は人名小事典となっています。 ★類書としては、ロンダ・シービンガー『科学史から消された女性たち――アカデミー下の知と創造性』(小川眞里子ほか訳、工作舎、1992年)、同『ジェンダーは科学を変える!?――医学・霊長類学から物理学・数学まで』(小川眞里子ほか訳、工作舎、2002年)、マーガレット・アーリク『男装の科学者たち――ヒュパティアからマリー・キュリーへ』(上平初穂ほか訳、北海道大学出版会、1999年)などがあります。 ドゥルーズ 抽象機械――〈非〉性の哲学 大山載吉著 河出書房新社 2016年4月 本体2,800円 46判上製280頁 ISBN978-4-309-24758-8 帯文より:後期ドゥルーズ、はじめての入門書。強靭な思考と繊細な文体によってドゥルーズ後期の核心である「抽象機械」をはじめて解き明かしながら、その〈非〉性において哲学の本質をつかみ全く新たな思想の領野をきりひらく俊英の誕生を告げる渾身の書き下ろし。 目次: はじめに I 哲学とは何か I-1 〈非〉性と出来事へ向かう哲学 I-2 概念 I-3 内在平面 I-4 概念的人物 II 抽象機械の方へ II-1 地層 II-2 アレンジメントと第三の地層 II-3 抽象機械の方へ III 思考の三幅対――哲学/科学/芸術の共立 III-1 科学とは何か III-2 芸術とは何か 終わりに 思考/脳/抽象機械における〈非〉性 あとがき ★まもなく発売。河出さんのサイトでは4月22日発売予定とありますから、取次搬入日は19日あたりかと推察します。著者の大山載吉(おおやま・のりよし:1975-)さんは現在、立教大学専任講師。『ドゥルーズ 生成変化のサブマリン』(白水社、2005年)という松本潤一郎さんとの共著をこれまで上梓されており、単独著は今回の新刊が初めてとなります。「哲学は、敵を敵として認定し、敵視し、敵愾心をもって怒号とともに打ち負かすやり方以上に、静かに、ひそやかに、そして秘密裏に、敵とされるものを敵ではない何かに生成変化させることで、敵に依存する思考様式から抜け出して、全く新たな問いを立てるやり方をその本性とするものなのだ。哲学は何かを打倒する力をもたない。哲学にできるのは二項対立とは無縁の問いを立てることである。ドゥルーズはこれを「戦いなき戦い」と呼んでいる」(18頁)。全編書き下ろしとなるこのドゥルーズ論は「哲学そのものよりも哲学の核心にある」(『哲学とは何か』61頁)非-哲学的なものへの飽くなき探究を通じて、戦いなき戦いを挑む力作たりえていると思われます。 +++ ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか』山田奨治著、人文書院、2016年4月、本体1,800円、4-6判上製208頁、ISBN978-4-409-24108-0 『リモノフ』エマニュエル・キャレール著、土屋良二訳、中央公論新社、2016年4月、本体3,000円、四六判上製424頁、ISBN978-4-12-004732-9 『明治のワーグナー・ブーム――近代日本の音楽移転』竹中亨著、中公叢書、2016年4月、本体2,300円、四六判並製400頁、ISBN978-4-12-004841-8 『漢字廃止の思想史』安田敏朗著、平凡社、2016年4月、本体4,200円、4-6判上製552頁、ISBN978-4-582-83312-6 『SUNAO SUNAO 4』100%ORANGE著、平凡社、2016年4月、本体1,000円、A5判並製136頁、ISBN978-4-582-83724-7 ★『日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか』は発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文に曰く「米国からの年次改革要望書、フェアユース、違法ダウンロード刑事罰化、ACTA、TPP、五輪エンブレム問題など、近年の知的財産・著作権問題の核心にせまる、熱き緊急レポート!」。同著者による『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか――厳罰化する日本の著作権法を批判する』(人文書院、2011年)に続く一冊です。前著刊行から「四年半が経つあいだも、著作権法はますます厳しくなり、これから先もそうした方面に進みそうな気配が濃厚になっている」(7頁)と著者は書きます。今回の新著では「立法にたずさわる国会議員の言動、彼らを動かしたひとびとのこと、そして自国のグローバル企業の利益のために働く米国政府の意向に焦点を当てる」(8頁)し、さらには「TPP大筋合意にともなう著作権法改正の急激な動きと、二〇一六年夏の参議院議員選挙に向けての「緊急出版」だと、わたしのなかでは位置付けている」(174頁)と述べておられます。巻末には附録として、著作権法の抜粋のほか、年次改革要望書、日米経済調和対話、TPPの著作権関連主要部分の抜粋が付されています。人名索引がついているのも興味深いです。 ★中央公論新社さんの新刊2点『リモノフ』『明治のワーグナー・ブーム』はともにまもなく発売。アマゾンの記載情報では19日発売となっています。『リモノフ』は、フランスの作家エマニュエル・キャレール(Emmanuel Carrère, 1957-)による伝記小説、Limonov (P.O.L., 2011; Gallimard, 2013)の翻訳です。著者のキャレール(カレールとも)は、ロシア史家として名高いエレーヌ・カレール=ダンコース(Hélène Carrère d'Encausse, 1929-)の息子さんで、これまでに『冬の少年』(田中千春訳、河出書房新社、1999年)、『嘘をついた男』(田中千春訳、河出書房新社、2000年)、『口ひげを剃る男』(田中千春訳、河出書房新社、2006年)などの訳書があります。今回の伝記小説の主人公は、ロシアの詩人で作家、反プーチンの活動家でもあったエドワルド・リモノフ(Eduard Limonov, 本名:Eduard Veniaminovich Savenko, 1943-)。彼の生い立ちから2009年までを取材に基づいて活写した本書はフランスで様々な賞を受賞し、映画化の話もあるのだそうです。近年ではリモノフはウクライナ侵攻をめぐってプーチンに接近するのですが、それはまた別の話です。 ★『明治のワーグナー・ブーム』はドイツ近現代史、日独文化移転史がご専門の大阪大学教授、竹中亨(たけなか・とおる:1955-)さんの最新著。カバー紹介文に曰く「世紀転換期の明治末、宗教学者・姉崎正治〔あねさき・まさはる:1873-1949〕の雑誌論文に端を発する「ワーグナー・ブーム」は、日本の洋楽受容の縮図と言っていい。洋楽の流入経路、それに関わった役人や学者、音楽家、「お雇い」教師たちの意図と役割を詳細に辿り、日本近代化のもう一つの流れを描き出す鮮やかな社会文化史」。姉崎と言えばショーペンハウアーの翻訳(『意志と現識としての世界』博文館、1910年)や、異色の日蓮論(『法華経の行者日蓮』 博文館、1916年;講談社学術文庫、1983年)が有名ですが、ワーグナー受容にも一躍買っていたのですね。「彼〔姉崎〕にいわせれば明治日本は腐朽したヴィルヘルム期ドイツの胸像にほかならない」(342頁)と著者は解説します。「ドイツでは、ニーチェやワーグナーのごとき預言者がすでに現れた。危機からの脱却を説く彼らの言葉は若い世代の間で熱狂的に迎えられている。しかし翻って日本はどうか。今なお多くの者が惰眠をむさぼり、危機が存在することすら意識していないではないか。そこで姉崎は、ドイツの預言者の啓示を日本に伝え、それでもって故国の閉塞を打破しようとしたのであった」(同)。「明治の青年たちは、自分たちが硬直した社会に埋没し、袋小路のなかで精神的に窒息しつつあると感じていた。彼らは、この行きづまりを打破してくれるものをひたすら待ち望んだ。〔・・・〕ワーグナー・ブームは、ヴィルヘルム期ドイツ批判という迂回路を通した、明治の青年たちの社会文化的憤怒の表現であった」(344頁)。明治期日本の文化思想史の一幕として非常に興味深いです。 ★平凡社さんの新刊2点は『漢字廃止の思想史』が発売済、『SUNAO SUNAO 4』はまもなく発売(アマゾン記載によれば22日)です。『漢字廃止の思想史』は『日本語学のまなざし』(三元社、2012年6月)から約4年ぶりとなる著者待望の新著。帯文に曰く「漢字廃止・制限論と擁護論との対立が、さまざまな「応世」と偏狭頑迷な「伝世」の主張となって激しい「思想戦」をいくたびも繰り返してきた。その逆説の構図をあぶり出す、日本語そのものの在り方を問い直し、これからの日本語を考えるために不可欠の基礎作業」。「応世」とは「時世に適する」こと、「伝世」とは「後世に伝える」ことの意。一般読者の大半は「日本精神発揚」(平生釟三郎)を標ぼうした民間団体「カナモジカイ」がかれこれ百年近く活動を続けてきたことも、かつて先端的思想であったその漢字廃止論についても知らないだろうと思われますが、知らない分、よりいっそう興味深く読めるはずです。「本書では、文明化の思想、競争(能率)の思想、動員の思想、それらが輻輳した総動員体制下の思想戦、市井の一市民に与えた影響、民主化の思想などが漢字廃止・制限論の根拠になっていった事例を見ていく」(33頁)とのことですが、単なる過去の話で終わる議論ではないと気づかせてくれます。本書でも言及されていますが、梅棹忠夫さんの『日本語と事務革命』(京極夏彦解説「大先達に叱られないために」、山根一眞解説「「梅棹ローマ字論」から二十年目の日本語」、講談社学術文庫、2015年)と併読するとさらに刺激的だろうと思います。 ★『SUNAO SUNAO 4』は人気イラストレーターの100%ORANGEさんによる「ウェブ平凡」連載コミックの書籍化第4弾。2013年10月から2015年3月にかけての15回分に、描き下ろし3本と4コマ漫画1本を加えたものです。夢とうつつ、日常と狂気が交錯する不思議な世界は、読者をどこか懐かしいと同時に未知であるような遠い、奥深い内面世界へと連れていってくれます。
by urag
| 2016-04-17 23:14
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