2016年 03月 01日
◆2016年3月1日14時現在。 朝一番で太洋社さんよりFAXが入りました。3月1日付、國弘社長名で「お取引出版社様」宛の「ご報告とお願い」全2頁です。自主廃業に向けて今後の手続きのスピードを速めていくことが窺われます。重要ないくつかのポイントがありますが、いずれ業界紙で概要が報じられることでしょう。 なお「備忘録(23)」以後の太洋社関連の報道や論説には以下のものがあります。 「ヤフーニュース」2月27日付、篠田博之(月刊『創』編集長)氏記名記事「芳林堂書店の自己破産と出版界に広がる深刻な危機」に曰く「スマホは確かに便利だが、紙媒体の情報がネットに代えられるわけではない。最近、ニュースといえばヤフーニュースしか見てないという若い人が多い。でも、ネットニュースと新聞のニュースは実はかなり違う。このあたりはもうさんざん言われていることだから今さら書かないが、ネットの速報性は他のメディアをもって代えがたいが、新聞の持っている情報をネットが全て肩代わりできるわけではない」と。本論からは外れる言及ではあるものの、このことは「さんざん言われている」とはいえ、読者の多くはあまり気づいていないかもしれません。 「おたぽる」2月29日付、昼間たかし氏記名記事「太洋社の自主廃業の影響を受け、芳林堂書店もアニメイトグループに」に曰く「先週からは「日販・トーハンと帳合変更を協議したが、未払いの多さが原因で蹴られた」「一度は支援企業が決まりかけたものの、不採算店舗の状態を見て逃げられた」といったウワサが業界内で公然と流れるようになっていた。2月末にはなんらかの結論が出ると見られていたが、それは自己破産の申請という形になった」。「書泉は、現在神保町の書泉グランデと秋葉原の書泉ブックタワーを運営する企業。2011年以降はアニメイトの子会社となっている。/実際に、どのような形で事業譲渡が行われ、不採算店舗についても運営を継続するか否かは、まだ明らかになっていない。だが、アニメイトの勢力が一段と拡大することは間違いないだろう」と。 「東京商工リサーチ」2月29日付速報「[熊本] 書店経営/八重州書店(個人企業)/~業歴約50年の老舗書店、太洋社の自主廃業に連鎖した書店閉鎖は11店舗目~」に曰く「八重州書店(熊本市中央区出水4-38-29、事業主:中島邦博氏)は2月21日、運営する唯一の店舗「八重州書店江津店」を閉鎖した」。「創業から約50年の老舗書店で、最盛期は熊本市内を中心に7店舗を運営していた。しかし、市場の縮小や景気低迷、インターネット通販や電子書籍の普及などから順次店舗を閉鎖し、江津店の1店舗の運営となっていた。出版取次の(株)太洋社(千代田区)との親密な連携により、コミックの取り扱いは他の書店よりも充実し、地域住民より一定の支持を得ていた。〔・・・〕八重州書店の関係者によると、〔太洋社の自主廃業準備〕公表後、速やかに大手の取次業者と交渉を重ねたものの、コミックの入荷について太洋社ほど優遇された条件での契約は出来なかったという。このため、従来通りのコミックの取り扱い冊数が確保できなくなる可能性が高く、コミック以外を主力とした店舗への転換は難しいと判断。店舗を閉鎖するに至った」と。 日本出版者協議会・高須次郎(緑風出版)会長記名記事「太洋社は自主廃業できるのか」が2月29日付で同協会のブログにて公開されています。曰く「業界紙や小社の記録を辿ると、2008年に文真堂書店がトーハンへ帳合変更をしたのを皮切りに、2012年には、いまじん(大垣店、大桑店)が日販に、こまつ書店(6店舗。10月、トーハン)、喜久屋書店小樽店など5店舗(12月、トーハン)、東武ブックス(十数店舗)、メロンブックス、ブックスフジ(2店舗。13年2月)などが帳合変更し、43億円の返品が発生した。書泉を吸収したアニメイトも他帳合〔中央社〕となった。13年にはハイパーブックス(滋賀6店舗)、15年2月にはTRCが日販に、同年9月にはブックスタマ(12店舗。15年9月)がトーハンに帳合変更した。本年〔2月1日〕になって大洋図書のFC店188店が日販へと帳合変更した。/こうしてみると、トーハン、日販による草刈り場の様相を呈している。出版不況のなかで生き残りを懸けた大手取次店による帳合はぎ取りにあい、今日の事態を迎えたといえよう。これで耐えるのは難しい」と。 また曰く「太洋社の取引先300法人800書店の残り250法人450書店には雑誌書籍を流さずに取立に徹するというのである」という計算については、確かに数字上ではそうなるのですが、この800書店の中には商品の動きのない口座も含まれるという非公式の説明がありますから、実際に店舗が存在して運営されている形態での書店数はもう少し違うはずだとも言えます。この辺は本当は太洋社さんにもう少し整理して発信してほしいところですが、取引先の事情もありなかなか難しいようです。先述の3月1日付太洋社文書では「書店業を専業とする書店様のうち、事業の廃止を決定された書店様を除くと、8割を超える書店様の帳合変更が決まり、2月中には弊社に対する買掛金の支払を含めた帳合変更に伴なう決済もほぼ完了いたしました」とあります。この文書では実際、未変更書店さんの数は分かりませんし、太洋社さんとしても現時点では明かしようがないことなのでしょう。 小田光雄さんによる「出版状況クロニクル」の「94(2016年2月1日~2月29日)」が本日発表されています。当然ながら太洋社についても記述あり。それとは別に業界人の目を引くのはおそらく第8項でしょう。 +++ ◆3月1日18時現在。 書店さんの場合、取次の趨勢に左右される現実があって、今般のように太洋社さんの一件で閉店が連鎖すると目立つことがありますが、その一方で版元がひっそりと消えていっていることはあまり注目されていないかもしれません。何が店じまいの原因なのかはそれぞれの事情によりますが、ここ何年かで破産したり廃業したりした版元さんはたとえば京都の三月書房さんの「最近つぶれた出版社の本の在庫」に一覧が載っています。取次さんから書店さんへはメールなどで「有事版元一覧」「事故版元一覧」が随時知らされますから、どの版元がどうなったのかを一番よく知っているのは取次さんであり書店さんであるわけです。意外と版元同士では、お付き合いがないかぎりあまり動静を知りません。ちなみに出版社が閉店した本屋さんを網羅的に知っているかというと、アルメディアさんなどの有料情報に頼らない限りおそらくはほとんど知りません。「有事書店一覧」というお知らせが取次から届くわけでもなし(私が知らないだけかもしれませんが)、よほど大がかりなチェーンの帳合変更ですとか、ある程度の多さの在庫品の返品依頼がある書店さんでないと、閉店を知ることはないのです。ネット上では「開店閉店ドットコム」さんや「空犬通信」さんで確認できるくらいでしょうか。それでも昔に比べれば、SNSの普及でずいぶんと様々な情報を入手できるようにはなっています。 3月2日追記:様々な規模の書店さんのお話を聞く限りでは「有事版元一覧」のお知らせを取次さんがどんな取引規模の書店さんにどの程度配信されているかどうかは取次さんのみぞ知る、というのがより正確な表現かもしれません。 +++ ◆3月2日10時現在。 アマゾン・ベンダーセントラルより「組織変更について」の「重要なお知らせ」がメールで今朝。5月1日より、取引会社とAmazon.com Int'l Sales Inc.との間で締結している契約のうち、この度の組織変更に関連する契約については全てアマゾンジャパン合同会社へ譲渡される、と。契約書に関わるのは「アマゾンジャパン株式会社」「アマゾンジャパン・ロジスティクス株式会社」「Amazon.com Int'l Sales Inc.」「Amazon Services International, Inc.」の四社。このうち「アマゾンジャパン・ロジスティクス株式会社」との間の契約を除く三社の契約が「アマゾンジャパン合同会社」に譲渡と。アマゾンジャパン合同会社からの請求は消費税の課税取引となります。 「よくある質問」によれば、第17項「アマゾン ジャパン合同会社よりサービスに係る消費税額が請求されます」。第16項「アマゾン ジャパン合同会社による商品・サービスの販売は、消費税法上、国内取引として取り扱われ、消費税が適用されることとなります。これにより、2016年5月1日以後、アマゾン ジャパン合同会社が販売する広告サービス、共同マーケティングプログラム、Amazon Vine先取りプログラム等Amazon.co.jp上のプロモーションについて消費税を請求します。通常の仕入取引につきましては従来より消費税を請求しておりますので変更ありません」。第2項「今回の組織変更に含まれない商品カテゴリー・・・電子書籍、デジタルビデオ、デジタルミュージック、ソフトウェアダウンロード等のデジタルコンテンツ、アマゾン・ギフトカード、酒類は変更がございません。例えば、お取引先様がDVDとデジタルビデオの両方を扱っている場合、アマゾン ジャパン合同会社とAmazon.com Int’l Sales Inc.とそれぞれお取引が今後発生することになります」。 +++ ◆3月2日11時現在。 ぎょっとするような手違い。何が原因なのでしょう。登録者がうっかり「アダルト」や「非再販」を指定したのでないならば、・・・いずれにせよ、現在はジャンルも価格も修正されているようです。 +++ ◆3月2日正午現在。 おさらい。「新文化」3月1日付記事「太洋社、新刊書籍の搬入は3月4日まで」は、例の「ご報告とお願い」文書のごく簡潔な要旨。もう少しディテールがあるのですが、記事にはなりにくいのかもしれません。 おさらい。「徳島新聞」2月28日付記事「姿消す、徳島県内の書店 取次会社廃業で入荷困難」に曰く「徳島県内の少なくとも5書店が2月末までに相次いで閉店や休業などで書籍の販売をやめることが27日、徳島新聞の調べで分かった。いずれも中堅の出版取次会社「太洋社」(東京)の契約店で、同社が自主廃業の準備を進めている影響で、書籍の入荷が難しくなったことが主な理由という。老舗・小山助学館の1店も含まれている。全国でも影響が広がっており、インターネットの普及などによる出版不況の深刻化を印象づけている。/29日で書籍販売をやめるのは4店。小山助学館鳴門店(鳴門市撫養町小桑島)は休業し、徳島市と牟岐町の個人書店各1店は閉店、阿波市の個人書店1店は文具などの販売に特化する。吉野川市の個人書店1店は25日に閉店した。/太洋社は今月上旬、出版不況などの影響で自主廃業する方針を示した。県内では数店が別の取次会社と契約したものの、5書店は契約時に必要となる多額の保証金や経営者の高齢化、元来の販売不振などによって、撤退を余儀なくされた。〔・・・〕」。 閉店の理由として「多額の保証金や経営者の高齢化、元来の販売不振」の三つをきちんと挙げておられる取材姿勢に注目すべきです。このあと、小山助学館鳴門店さん、徳島市名東町・橋本書店さん、県書店商業組合さんの重要な証言が報じられています。 なお、同紙では約1年半前、2014年7月31日付で「姿を消す中小書店 県内、15年で4割が廃業」という記事を配信されていました。曰く「徳島県内の書店が減り続けている。民間の調査では、ここ15年で約4割の店が消えた。雑誌を扱うコンビニの増加やインターネット通販の台頭など、競合相手が増えたほか、本自体の売り上げが減っていることが追い打ちをかけている。書店は今、減り続けるパイを奪い合っており、中小店主らは「このままでは手の施しようがない」と悲鳴を上げている。/出版社アルメディア(東京)によると、県内の書店は2000年に175店を数えたが、今年5月時点で111店にまで減った。書店主でつくる県書店商業組合への加盟数も1989年の78から、4月時点は32と半数以下になっている。/組合によると、中小書店の売り上げの半分以上が雑誌とコミック類で、県内で増え続けるコンビニに客を奪われている。さらに県外大型店の相次ぐ進出、新刊に近い古書を販売する新古書店の増加、図書館の品ぞろえの充実などが書店減の背景にある。/平野惣吉理事長(62)は「真綿で首を絞められるように地元店の経営が圧迫されている。4月からの消費税増税も痛手だ」とため息をつく」。 消費税増税はまた繰り返されるわけで、高額本になればなるほど税額の負担感も強まります。出版社はここしばらく定価を上げざるをえない状況が続いているわけですから、消費税10%はほんとうにやりきれません。安倍総理は先月24日の衆院財務金融委員会で、おおさか維新の会の丸山穂高氏の質問に対して、書籍や雑誌を軽減税率の対象としていないのは「有害図書を排除する仕組みがない」からで、今後対象に加えるかどうかは「こうした課題も含めて検討される」と答弁したと言います(「毎日新聞」2月25日付、朝日弘行氏記名記事「軽減税率 安倍首相、書籍・雑誌「今後検討」 有害図書排除が条件」などをご参照ください)。また、菅官房長官は昨年末、「出版業界が有害図書の線引きを自主的に決めたうえで、議員立法で対象に加えるべきだとの考えを示した。書籍・雑誌はポルノ雑誌などを対象から排除する仕組みが課題となっており、菅氏は「線引きは業界の中で決めていただく。政府が決めると表現の自由の問題が生じる」と述べた」と報じられています(「毎日新聞」2015年12月25日付、高本耕太氏記名記事「軽減税率 有害図書、出版業界で線引きを 菅官房長官」)。何が「有害」であるのかの線引きについて出版社に球を投げてしまえば、出版社を沈黙させられると思っているのでしょうか。togetterのまとめ「軽減税率「有害図書、出版業界で線引きを」は事実上の検閲なのではないか」もご参照ください。 「徳島新聞」の2014年7月記事に戻ると「昨年、個人書店を廃業した徳島市の60代男性は「美容室や喫茶店向けに配達していた雑誌の冊数を減らされるなど、不況の影響もあった」と振り返る。県内では店頭販売をやめて教科書専門で外商だけを行う店が増えており、組合加盟数の約3分の1を占める」と。太洋社廃業準備の現在も「店売をやめて外商のみに絞る」という構図に変化はありません。 +++
by urag
| 2016-03-01 15:14
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