2015年 11月 07日
残響のハーレム――ストリートに生きるムスリムたちの声 中村寛著 共和国 2015年11月 本体3,400円 菊変型判並製468頁 ISBN978-4-907986-15-5 帯文より:9.11直後のニューヨーク、その最深部に低く響くさけび、そしてうめき。200 年晩秋、フィールドワークに訪れたNY・ハーレム地区で僕が出会ったのは、マルコム・X 暗殺の容疑者だった……。差別や貧困、暴力が根強く残る都市の日常をみずみずしい文体で活写した、気鋭の人類学者によるエスノグラフィ。 ★まもなく発売(11月10日頃)。目次詳細は版元ドットコムの個別商品頁をご覧ください。著者の中村寛(なかむら・ゆたか)さんは多摩美術大学准教授。ご専門は文化人類学で、訳書に、テリー・ウィリアムズ+ウィリアム・コーンブルム『アップタウン・キッズ――ニューヨーク・ハーレムの公営団地とストリート文化』(大月書店、2010年)があります。単独著は今回刊行される『残響のハーレム』が初めてで、2008年に一橋大学に提出された博士論文「Community in Crisis: Language and Action among African-American Muslims in Harlem」をもとに、自身で日本語訳するとともに大幅な加筆修正と新章追加(第一章と第六章)が行われています。 ★本書はニューヨークのハーレム地区に生活するアフリカン・アメリカン・ムスリムたちを取材したエスノグラフィです。一部過激派の活動によってイスラム教徒一般への偏見が醸成されつつあるように見える昨今、ぜひひもといておきたい一冊と言えます。中村さんの密着取材によってアメリカ社会の明暗がその空気感とともにつぶさに描かれており、圧倒的な印象を持って読者に肉薄します。特に第六章に登場するアイシャという女性が、家庭内暴力や一夫多妻制の問題、マイノリティの住宅問題などに果敢に立ち向かっていく様は鮮烈です。 ★今回の装丁、その名も「ルーレット装」について共和国さんのfacebookでのご投稿から引用しておきますと、「カバーは1種類なので、いっけんおなじなのですが、そのカバーを取ると、表紙の図版違いが4種! そして、表紙をめくると見返しの色が赤/黄の2種。つごう8種の異装版が存在する次第となっております。基本的にランダムに梱包され、どれが届くかはわからないので、「ルーレット装」と名付けてみました(笑)」とのこと。面白い試みですね。 +++ ★上記書のほか、ここ最近では以下の書目との出会いがありました。 『イスラーム法とは何か?』中田考著、作品社、2015年10月、本体2,400円、46判上製272頁、ISBN978-4-86182-553-8 『谷崎潤一郎 没後五十年』尾高修也著、作品社、2015年11月、本体2,300円、46判上製330頁、ISBN978-4-86182-563-7 『毎日のパン』カタネベーカリー著、アダチプレス、2015年11月、本体1,400円、B6変型判並製136頁、ISBN978-4-908251-04-7 『KOKKO 第3号』国公労連(日本国家公務員労働組合連合会)発行、堀之内出版発売、2015年11月、本体500円、A5判並製80頁、ISBN978-4-906708-47-5 『弓立社という出版思想』宮下和夫著、論創社、2015年11月、本体1,600円、46判並製208頁、ISBN978-4-8460-1489-6 ★中田考『イスラーム法とは何か?』は発売済(10月30日取次搬入済)。イスラーム法の要諦を丁寧に解説したもので、中田さんが監修されている同社の『日亜対訳 クルアーン』(今年3月の時点で4刷!)と同様、堅実に動きそうです。イスラーム神学との交点も三章を割いて解説されていて、哲学系の読者にとっても有益です。 ★尾高修也『谷崎潤一郎 没後五十年』はまもなく発売(11月10日取次搬入予定)。作家の尾高さんには『青年期 谷崎潤一郎論』『壮年期 谷崎潤一郎論』(ともに作品社、2007年)という二冊の谷崎論がありますが、本書は80年代よりこんにちまで発表されてきたそれ以外の谷崎論を新稿二篇とともにまとめたものです。帯文に曰く「近親者の証言、書簡、恋文など新資料を踏まえて究明」と。 ★『毎日のパン』は発売済。アダチプレスさんの新刊第3弾です。代々木上原の住宅街に2002年にオープンしたパン屋さん「カタネベーカリー」がつくるパンや焼き菓子など150種類をオールカラーで紹介。パン作りの仕事やレシピ、お店の日常なども綴られています。書名のリンク先では予告編動画をご覧いただけます。「カタネベーカリーの店頭でお買い求めいただくと、特典としてエコバッグを差し上げます(数量限定。特典はなくなり次第終了)」とのことです。 ★『KOKKO 第3号』は発売済。「こっこう」と読みます。「国」と「公」を現場から問い直す情報誌、として今年9月に創刊された月刊誌です。今回の特集は「疲弊する研究現場のリアル」。目次詳細は版元ドットコムの個別商品頁をご覧ください。青土社さんの『現代思想』2015年11月号「特集=大学の終焉――人文学の消滅」と併読しておきたい赤裸々な内容の特集号です。 ★宮下和夫『弓立社という出版思想』はまもなく発売。小田光雄さんによるインタヴュー・シリーズ「出版人に聞く」第19弾です。帯文に曰く「吉本隆明と伴走した小出版社の軌跡を語る」と。取次による本の流通と販売をめぐる独立系出版社の体験談を知りたい方はぜひお読みになるべきだろうと思います。特に『吉本隆明全講演ライブ集』の制作・販売に際しての苦労は実にリアルで厳しいです。
by urag
| 2015-11-07 13:44
| 本のコンシェルジュ
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