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2015年 09月 06日

注目新刊:『エリアーデ=クリアーヌ往復書簡 1972-1986』慶應義塾大学出版会、ほか

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エリアーデ=クリアーヌ往復書簡 1972-1986
ミルチャ・エリアーデ+ヨアン・ペトル・クリアーヌ著
ダン・ペトレスク+テレザ・クリアーヌ=ペトレスク編 佐々木啓+奥山史亮訳 
慶應義塾大学出版会 2015年8月 本体5,500円 A5判上製264頁 ISBN978-4-7664-2247-4

帯文より:宗教学の泰斗エリアーデ、異端の継承者クリアーヌ。20世紀に新生した〈宗教学〉を代表する2人が1972年から86年にわたり交わした111通の往復書簡――。ルーマニア人亡命者、宗教学者、小説家、師弟、そして友として、親しみ溢れる筆致で交わした魂の対話。

★発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。原書は、Dialoguri înterupte: Corespondenţă Mircea Eliade – Ioan Petru Culianu (Polirom, 2013)です。2004年に刊行された初版に新たに3通の書簡を加え(総計111通)、編者注の加除のほか、新たな書誌情報や補足などが加えられた増補改訂版が2013年に刊行されています。訳者あとがきを参照すると、クリアーヌ(既訳書ではクリアーノとも)がルーマニアの保安警察の協力者になることを拒んだせいで大学卒業後に研究者として冷遇され、その後苦境から脱するためにイタリアへと渡った時期の手紙から、エリアーデが教鞭を執っていたシカゴ大学に客員講師として通うようになる直前の1986年1月までの手紙が収められています。エリアーデは同年4月に死去し、クリアーヌは1988年にエリアーデの後任としてシカゴ大学准教授に就任し、3年後の1991年、校内で不慮の死を遂げます。射殺されたのです。享年41歳。犯人は見つかっていません。本書簡集では、40歳以上年齢の離れた宗教学者の知的交流が明かされるとともに、東欧出身の知識人が置かれている政治状況の難しさというものを垣間見せてくれます。

★クリアーヌが殺害される前年の1990年に、エリアーデの大著『世界宗教史』の最終巻である第IV巻(筑摩書房、1998年;ちくま学芸文庫、7~8巻、2000年)がエリアーデの原案に基づきクリアーヌの編纂によって完成され、また同年にはこのエリアーデの大著を元にして二人の共著というクレジットで『エリアーデ世界宗教事典』(奥山倫明訳、せりか書房、1994年)が刊行されています。クリアーヌの単独著の訳書としては『ルネサンスのエロスと魔術――想像界の光芒』(桂芳樹訳、工作舎、1991年)や『霊魂離脱〔エクスタシス〕とグノーシス』(桂芳樹訳、岩波書店、2009年)があります。今回の往復書簡の訳者あとがきの末尾に二宮隆洋(1951-2012)さんのお名前があって驚きました。訳者の佐々木さんは、二宮さんがお亡くなりになる少し前に本書の出版について相談されたことがあったのだそうです。

★続いて、6月~8月の文庫既刊書から注目書をピックアップします。

『パンセ(上)』パスカル著、塩川徹也訳、岩波文庫、2015年8月、本体1,140円、ISBN978-4-00-336142-9
『文語訳 旧約聖書(II) 歴史』岩波文庫、2015年8月、本体1,380円、ISBN978-4-00-338035-2
『現代議会主義の精神史的状況 他一篇』カール・シュミット著、樋口陽一訳、岩波文庫、2015年7月、本体600円、ISBN978-4-00-340301-3
『夜の讃歌・サイスの弟子たち  他一篇』ノヴァーリス著、今泉文子訳、岩波文庫、2015年7月、本体600円、ISBN978-4-00-324123-3
『エラスムス=トマス・モア往復書簡』沓掛良彦・高田康成訳、岩波文庫、2015年6月、本体1,080円、ISBN978-4-00-336123-8
『古代懐疑主義入門――判断保留の十の方式』J・アナス+J・バーンズ著、金山弥平訳、岩波文庫、2015年6月、本体1,320円、ISBN978-4-00-336981-4

★まず岩波文庫では何と言っても『パンセ』の新訳に注目したいです。多くの既訳書の底本としてきたテーマ別編纂のブランシュヴィック版ではなく、写本(第一写本、第二写本)を元に新訳されたもので、写本に収録されていないテクストについては「可能なかぎりその典拠にさかのぼり、それがかなわない場合は最も信頼が置けると思われる刊本の読みを採用した。その上で、すべてのテクストについて信頼のおける諸刊本を参照し、必要な修正を加えた」(凡例)とのことで、「ラフュマ版とほぼ同じ構成」(同)となっています。こうした体裁をとった理由は訳者による巻末の「解説一 『パンセ』とはいかなる《書物》か」に書かれています。テーマ別の順番に慣れていた読者にとっては取っつきにくいだろうとの配慮から、同じく巻末にはブランシュヴィック版との対照表が記載されています。全3巻の予定。今月の岩波文庫新刊は16日発売で、なんと熊野純彦さんによる新訳のベルクソン『物質と記憶』が刊行されるそうです。

『道徳と宗教の二つの源泉』アンリ・ベルクソン著、合田正人・小野浩太郎訳、ちくま学芸文庫、2015年8月、本体1,500円、ISBN978-4-480-09615-9
『ポランニー・コレクション 経済と自由――文明の転換』カール・ポランニー著、福田邦夫・池田昭光・東風谷太一・佐久間寛訳、ちくま学芸文庫、2015年7月、本体1,600円、ISBN978-4-480-09666-1
『若き数学者への手紙』イアン・スチュアート著、冨永星訳、ちくま学芸文庫、2015年7月、本体1,100円、ISBN978-4-480-09673-9
『位相群上の積分とその応用』アンドレ・ヴェイユ著、齋藤正彦訳、ちくま学芸文庫、2015年6月、本体1,300円、ISBN978-4-480-09665-4
『現代という時代の気質』エリック・ホッファー著、柄谷行人訳、ちくま学芸文庫、2015年6月、本体1,000円、ISBN978-4-480-09679-1

★ちくま学芸文庫の6月~8月新刊では合田さんによるベルクソン新訳第4弾に注目です。これまでに学芸文庫では『意識に直接与えられたものについての試論――時間と自由』(合田正人・平井靖史訳、2002年)、『物質と記憶』(合田正人・松本力訳、2007年)、『創造的進化』(合田正人・松井久訳、 2010年)と続きました。『道徳~』の底本は2008年刊行のPUF版です。訳者あとがきで合田さんが記されている「誤解を恐れずに言うが、『アンチ・オイディプス』『ミル・プラトー』は、本書の、それと知られることなき続編である。親殺しの続編というべきだろうか」という言葉が胸に残ります。アンドレ・ヴェイユの文庫本は2010年刊の『初学者のための整数論』(片山孝次ほか訳)に続く第2弾。第1弾はすでに品切とのことで、今回の『位相群上』も早めに購入しておいた方がよさそうです。

『四國遍禮道指南 全訳注』眞念著、稲田道彦訳注、講談社学術文庫、2015年8月、本体1,080円、ISBN978-4-06-292316-3
『有閑階級の理論 増補新訂版』ソースティン・ヴェブレン著、高哲男訳、講談社学術文庫、2015年7月、本体1,280円、ISBN978-4-06-292308-8
『西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン』ロベール・ド・ボロン著、横山安由美訳・解説、講談社学術文庫、2015年7月、本体960円、ISBN978-4-06-292304-0
『ユダヤ人と経済生活』ヴェルナー・ゾンバルト著、金森誠也訳、講談社学術文庫、2015年6月、本体1,200円、ISBN978-4-06-292303-3

★講談社学術文庫の6月~8月新刊。「最古のお遍路ガイドが現代によみがえった」(帯文)と謳う『四國遍禮道指南 全訳注』は貞享4年(1687年)の八行本を底本に、読み下し文、現代語訳、地図の三部構成で、実用性を備えたハンディな一冊となっています。『有閑階級の理論 増補新訂版』は1998年刊のちくま学芸文庫版を全面的に改稿し、新たに「附論 経済学はなぜ進化論的科学でないのか」を追加したもの。『魔術師マーリン』は、『皇帝の閑暇』『東方の驚異』『聖パトリックの煉獄』『妖精メリュジーヌ物語』に続く「西洋中世奇譚集成」シリーズの最新刊。『ユダヤ人と経済生活』の親本は1994年に荒地出版社より刊行(金森誠也監修・訳、安藤勉訳)。親本は原著(Die Juden und das Wirtschaftsleben, 1911)の完訳(親本の帯文より)でしたが、文庫化にあたって第一部「近代国民経済形成へのユダヤ人の関与」の第六章「経済生活の商業化」および第七章「資本主義的経済志向の形成」と、第三部「ユダヤ的本質の誕生」(第十三章「人種問題」、第十四章「ユダヤ民族の運命」)が割愛されました。親本は古書価が高いので、文庫化は嬉しいです。しかし、割愛された第三部は人種論を扱っているだけに、特定の関心を含め、今後も参照され続けるだろうと思われます。薄めの分量の1冊として独立させてもいいような気がします。なお、学術文庫は10月9日発売のラインナップが強力です。熊野純彦『再発見 日本の哲学 埴谷雄高――夢みるカント』、辻惟雄『若冲』、木村敏『からだ・こころ・生命』、小泉義之『ドゥルーズの哲学――生命・自然・未来のために』、ダニエル・パウル・シュレーバー『ある神経病者の回想録』渡辺哲夫訳、夏目漱石『漱石人生論集』。シュレーバー回想録は平凡社ライブラリー版(尾川浩訳、2002年)が品切になっているだけに、嬉しいです。

★上記以外の文庫では、ダンテ『新生』(平川祐弘訳、河出文庫、2015年7月)や、ブレヒト『アンティゴネ』(谷川道子訳、光文社古典新訳文庫、2015年8月)などの収穫がありました。ダンテは『神曲』や『新生』のほかにも『帝政論』『俗語論』『饗宴』など、文庫で新訳全集が編まれたらどんなにか素晴らしいだろうと想像するのですけれども、以前も確かこんな他力本願を書いた記憶があります。谷川さんによるブレヒト新訳文庫は『アンティゴネ』で4冊目。今後も続いてほしいと願うばかりです。光文社古典新訳文庫ではまもなく、ハイデガー『存在と時間(1)』(中山元訳、全8巻!)、メルヴィル『書記バートルビー/漂流船』(牧野有通訳)、『虫めづる姫君 堤中納言物語』(蜂飼耳訳)が発売され(9月9日予定)、続刊として、マルクス『資本論第一巻草稿――直接的生産過程の諸結果』(森田成也訳)が予告されています。実に楽しみです。

★さらに最近では以下の新刊との出会いがありました。

弔いの文化史――日本人の鎮魂の形』川村邦光著、中公新書、2015年8月、本体880円、新書判並製320頁、ISBN978-4-12-102334-6
ディン・Q・レ――明日への記憶』森美術館編、平凡社、2015年9月、本体2,600円、A4変判上製函入168頁、ISBN978-4-582-20682-1
伊豆の長八――幕末・明治の空前絶後の鏝絵師』伊豆の長八生誕200年祭実行委員会編、日比野秀男監、平凡社、2015年9月、本体2,500円、B5判並製176頁、ISBN978-4-582-54454-1
林明輝写真集 自然首都――福島県只見町の四季』林明輝著、平凡社、2015年9月、本体3,400円、B4判上製128頁、ISBN978-4-582-27820-0
江戸詩人評伝集――詩誌『雅友』抄(1)』今関天彭著、揖斐高編、東洋文庫、2015年9月、本体3,200円、B6変判上製函入476頁、ISBN978-4-582-80863-6

★『弔いの文化史』は発売済。本書は「端的に言えば、折口信夫のタマフリ・タマシヅメという二様相から展開された鎮魂論に依拠して、弔いの文化史、とりわけそこに結晶している思想と心性を探ろうとするもの」(「おわりに」)であり、著者の近著『弔い論』(青弓社、2013年)と相補的な関係にある、とのことです。目次は以下の通り。

はじめに――芭蕉、漂泊の旅へ
序章 天災と弔い――鴨長明の作法
第I部 弔いの作法
第1章 鎮魂〔タマフリ/タマシヅメ〕とは何か――折口信夫の鎮魂論
第2章 火葬と遊離魂の行方――『日本霊異記』の世界
第3章 弔いの結社と臨終の技法――源信の「臨終行儀」と活動
第4章 女人の救いと弔い――蓮如の実践
第II部 弔いの風習
第5章 死者の霊魂の行方
第6章 弔いとしての口寄せの語り
第7章 ホトケ降ろしの語りと弔い
第8章 弔いの形としての絵馬・人形
第9章 災厄と遺影
おわりに
参照文献・図版出典一覧

★著者はこう書きます。「生・魂は死によって終決・消滅するとおおよそみなされている。それが近代の生命観であり、霊魂は信ずるに足りないものとされるのだ。〔・・・〕とはいえ、傷つきやすく危うい生/魂をかかえ、喪失する可能性に絶えずさらされている存在であること、そのことを自他ともに分かち会っているとおそらく誰しも想像できること、それゆえに自分が他の人びとに開かれてあること、そこに死者と生者の未決の生を互いに開いていくことができるとする根拠がある」(283頁)。「古代から東日本大震災後まで連なる鎮魂の形を探る」(カヴァー紹介文)本書は、死者への弔いが生者へのいたわりと表裏一体であることを教えてくれている気がします。死者へのまなざしがかき消される社会は、生者に対して過酷な生を強いる社会でもある、と気づかされます。

★平凡社さんの新刊4点のうち発売済は『ディン・Q・レ』で、『伊豆の長八』『林明輝写真集 自然首都』『江戸詩人評伝集(1)』はいずれも今週発売予定です。『ディン・Q・レ』は森美術館(六本木ヒルズ森タワー53F)で7月25日から10月12日まで行われている「ディン・Q・レ展――明日への記憶」のカタログです。版元紹介文に曰く「気鋭のベトナム人アーティスト、待望のアジア初個展図録。ベトナム戦争終結から40年、公式な歴史の陰に埋もれた名もなき人々の物語に耳を傾け、アートと社会の関わりを探る」とのことです。展覧会は上記東京展のあと、来春(2016年3月19日~5月15日)には広島市現代美術館へ巡回する予定。『伊豆の長八』は武蔵野市立吉祥寺美術館で9月5日から10月18日まで行われている「伊豆の長八展――幕末・明治の空前絶後の鏝絵師」の公式図録です。生誕200年を祝して長八の鏝絵、漆喰彫刻、掛軸、工芸品などの代表作約100点を収録し、多彩な論考やコラムで解説が試みられています。同展は常葉美術館(10月24日~11月23日)、伊豆の長八美術館(12月13日~2016年1月13日)へと巡回予定です。

★『自然首都』は今年6月にユネスコ「エコパーク」に登録された福島県只見(ただみ)町の豊かな自然の四季を15年間にわたって撮影した写真集です。山が好き、森が好き、という読者にとっては頁をめくるたびに被写体である風景の空気を深呼吸したくなる素敵な写真ばかりです。『江戸詩人評伝集(1)』は帯文に曰く「江戸時代から明治まで隆盛を誇った日本の漢詩。その代表的な詩人たちの人物・作品・生涯を丹念に辿る。漢学者・漢詩人の著者が伝説的漢詩雑誌『雅友』に連載した評伝を初集成。全2巻」。第1巻に収録されている詩人は以下の通りです。新井白石、室鳩巣、梁田蛻巌、祇園南海、六如上人、柴野栗山、頼春水、尾藤二洲、菅茶山、市河寛斎、古賀精里、頼杏坪、柏木如亭、大窪詩仏、菊池五山、宮沢雲山、広瀬淡窓、古賀侗庵。東洋文庫次回配本(10月)は李退渓『自省録』(難波征男訳注)とのことです。

by urag | 2015-09-06 23:45 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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