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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2015年 07月 31日

雑談(8)

1エントリーあたりの字数制限にひっかかってしまったので、新規投稿になります。前タイトルでは全7回をアップし、現タイトルでは8回目になります。7回目にまだ少し残っている余白も短い記事で活用する予定です。

◆7月31日午後13時現在。

リブロ池袋本店の「閉店」によって一般読者にとって思いがけず認知度が高まることとなった、鈴木敏文さん(トーハン取締役)が会長をおつとめのセブン&アイ・ホールディングスについてのニュースが各紙で報じられています。

「ロイター」7月31日付の清水律子氏記名記事「7&iHDとファーストリテ、年内めどに包括的業務提携へ」によれば、「セブン&アイ・ホールディングス(3382.T)とファーストリテイリング (9983.T)は、年内をめどに包括的な業務提携を行う方針を固めた。資本提携は行わない。関係筋が明らかにした。/具体的な提携内容は協議中だが、衣料品の新ブランド立ち上げや、インターネットで購入したユニクロの商品をセブンイレブンの店頭で受け取れるようにする。海外でも協力する」とのことです。

セブンネットショッピングで購入した本をセブンイレブンの店頭で受け取れるようになっているのは皆様ご存知の通りです。「ロイター」の同記事は「Yahoo!ニュース」にも異なるヴァージョンが配信されています。曰く「幅広い分野での提携により、変化への対応を強化する。〔・・・〕7&iHDは約1万8000店のコンビニ店舗網を有しており、ネットで購入したユニクロ商品のセブンイレブン店頭での受け取りを可能にし、消費者の利便性を高める。ユニクロの商品をコンビニで受け取ることができるようになるのは初めて。/この他、商品や物流など幅広い分野での提携を検討しているが、具体策は今後の協議となる」と。

さらにYahoo!ニュース版では次のような興味深い記述もあります。「楽天 <4755.T>は、楽天市場の対象商品について、ヤマト運輸と契約のあるコンビニ約2万店やヤマト運輸の営業所での受け取りを可能にした。また、通販大手のアマゾン・ジャパンは、ローソン <2651.T>やファミリーマート <8028.T>などのコンビニで受け取ることができる。/小売業界ではネット販売への対応が各社の課題となっている。ファーストリテは大和ハウス工業<1925.T>との物流網構築のほか、今年6月にはアクセンチュアとIT技術構築で提携するなどしてきた。一方、7&iHDは、今秋に実店舗とネットを融合させる「オムニチャネル」を本格的にスタートさせるため準備を進めている」。

上記の企業間の関係性について再度整理します。下記の図式では「=」はイコールを意味するのではなく、あくまでも連携を意味しています。

楽天=ヤマト運輸(物流)
アマゾン=ローソン(コンビニ)/ファミリーマート(コンビニ)
ファーストリテイリング=セブン・イレブン(コンビニ)/大和ハウス工業(物流)/アクセンチュア(IT)

楽天は大阪屋の筆頭株主でもあります。また、ユニクロは周知の通りビックカメラとコラボした「ビックロ」を2012年秋に新宿にオープンさせています。ひとまずこの関係性を覚えておくのが重要です。なぜかと言えば、今や出版業界は、よりいっそう大きな力関係(小売競争、物流競争)の渦中に投じられつつあるからです。

「オムニチャンネル」というのは、ほかならぬ栗田事案についての大阪屋の最初のコメント文書の中にもあったキーワードであると先日書きました。このキーワードは出版業界再編の行方を探る上でたいへん重要です。というのも、これまで業界内で自足し完結していたビジネスがますます業界外との連携によって「進化」を遂げつつあるからです。リアル書店では蔦屋書店に代表されるような書籍雑誌以外の商品を併売する「複合化」が不可欠となっています。いっぽうネット書店では客の利便性や販売機会の増大を目的としてリアル店舗との「融合」を推進しているわけです。セブン&アイのオムニチャンネル戦略については、Yahoo!ニュースでも参照されている「ネットショップ担当者フォーラム2014 in 東京」でのセミナーレポート「セブン&アイグループのオムニチャネル戦略が描く、異業態連携による“新たな買い物体験”」(2014年4月14日付、小山健治氏記名記事)をご参照ください。このレポートで写真とともに紹介されているセブン&アイ・ネットメディアの代表取締役社長の鈴木康弘さんのお父上はほかならぬ鈴木敏文さんでいらっしゃいます。

もうひとつ興味深い記事がYahoo!ニュースでは参照されています。「プレジデント・オンライン」(「PRESIDENT」誌2015年1月12日号)7月23日付配信記事「セブンvs.Amazon戦争勃発! 安売り時代の終焉とオムニチャネル時代の到来」(酒井光雄氏記名)です。曰く「現在、小売業で頭一つ抜けている企業は、セブン-イレブンを収益の柱とするセブン&アイ・ホールディングスです。セブンプレミアムに代表される、リーズナブルだが安売りではない商品の開発に注力し、リアルからバーチャルまで生活者とあらゆる場所で接点を持ち、買い物を可能にするオムニチャネルの取り組みでも先行しています。/今後、同社を脅かす存在が出てくるかどうか。可能性があるとすれば、アマゾンに代表されるネット系の小売業でしょう。アマゾンは書籍でつくり上げた仕組みとインフラをベースに取り扱いアイテムを総合化させ、あらゆる領域の需要を取り込もうとしています。リアル店舗もネット販売を行うようになっていますが、ネット専門店に比べると在庫管理が甘い。カード決済の顧客データを持っているのもネット系小売業の強みです。/セブン&アイが徳川幕府のように長期政権となるのか、アマゾンがそれを転覆させる黒船となるのか。流通業の戦国時代はまだまだ続きそうです」と。ちなみにプレジデント社は小学館や集英社と同じく「一ツ橋グループ」です。

これを先日ご紹介した「Business Journal」2013年8月17日付記事「“1強”アマゾン対楽天、競争激化で再編機運高まる出版業界~苦境の出版社・書店の思惑」と合わせて読むと、次のようなことが垣間見えてくるかもしれません。すなわち、楽天やセブンなど日本企業が、外資のアマゾンを包囲するようにして対抗軸を形成しようとしているかのようだ、ということです。これらの会社が外部企業との連携や提携を広げれば広げるほど、競合する領域も広くなっていき、出版界は従来より遥かに広域のビジネスシーンへと連結しうる可能性が高まる一方で、自らの力量を越えた戦争に巻き込まれることを余儀なくされるわけです。時代の変化と競争と危機の中で、個々の出版社が自身のアイデンティティをどこに置くのかが問われています。大局を見上げれば足元を見失う可能性があり、足元にこだわれば大局への対応が遅れかねないというジレンマです。

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◆7月31日22時現在。

新提案に同意しなかった出版社や、回答保留している出版社に対して、栗田代理人が「最後通牒」をFAXし始めました。このタイミングでの通達――熟考する暇を与えない巧みな手法には、本当に感心します。6月26日から今日に至るまで、じつに計画的で容赦がなく(またしても土日を挟む手口!)、見事です。新提案に同意しない版元、回答保留している版元は、8月3日までに栗田から版元へ届けられる予定の「7月31日付返品明細書」に基づき、債権から相殺できる、と。ただし、これは29日の「聞く会」で藤田弁護士が言っていた通り、例の1ヶ月分返品想定額を越えない範囲で相殺できるに過ぎません(公平性の名の元に)。

出版社によっては想定額より実返品額の方が大きい場合もあるでしょうし、逆に小さい場合もあるでしょう。大きい額の版元にとっても損ですし、小さい額の版元にとっても損です。すげえな、本当に。淀屋橋・山上合同さんのお仕事ぶりには感服します。特に軸丸先生藤田先生川井先生。書き下ろしで本を執筆していただきたいくらいです。『絶対に失敗しない民事再生』とか。債権届出についてだけでなく、さらに御熱心なことには、届出後に起こりうる事態についてもご忠告いただいています。曰く、新提案を拒否しても保留しても、栗田としては最終的に断固として短期日のあいだに未精算分返品を版元に買わせるよ、というお知らせです。二次卸スキームで大阪屋から返せないなら、栗田から返すからカネ払えよ、俺らの資金繰りのためなんだからさ、と。必殺、片面的解約権=返品権(「初めて聞く言葉です」by大阪屋大竹社長)発動!

栗田さん、こんな非情なやり方で版元を屈服させたって、遺恨が絶対に、絶望的に生じることは分かってるはずですよね。どうやっても埋まらない溝を作ることになるとはっきり自覚していますよね。それでもやるんですね、これを。謝りながら相手に蹴りを入れようっていうわけだ。出版史に芳名を刻んだ栗田および代理人の皆様、本当におめでとうございます。この無惨な仕打ちを受けた版元はきっと11月の再生計画決議の際に、否決に回るでしょう。新提案を呑んだ版元とて、賛成に回るかどうか分かりませんね、こんな強引な幕引きを確信犯的に実行するようでは。あまりにも容赦ないやり方だもの。賛成した版元に対してだって、この先さらに何を要求してくるか分かったものではありません。

最後に「雑談(2)」で参照しておいた、淀屋橋・山上合同による「簡易再生」の説明について再度引用しておきます。彼らが次に狙ってくるのはこのあたりかと。

簡易再生・・・「債権額で5分の3以上の届出再生債権者が、書面により、再生計画案と再生債権の届出・調査手続の省略について同意している場合には、再生債務者は、裁判所に対して簡易再生の申立てをすることができます。この申立てができるのは、債権届出期間経過後再生債権の一般調査期間の開始前に限られます」。「再生計画案の決議に関しては、書面決議の制度の適用が無く、集会で決議が行われますが、簡易再生に同意した債権者が集会に欠席した場合には、集会に出席して賛成したものと見なされます」。

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◆8月1日午前0時現在。

最後通牒に対する版元さんたちの声です(リンクは張りません)。

版元Aさん曰く「栗田の件、昼に電話があって非承諾の出版社には別途faxお便りくるとのことなので、用意した債権届出書を出さずにじりじり待機。つっても来週から出張なのでやることは山ほどあるんだけど。たぶん、こないだの出版会館での会で出た、8/4までの返品は相殺できるよ、その後も応談だよの件」。「ちょうどいま来ました。案の定、返品相殺の話ですが、月曜までに金額届けるから確認もどせとか。月曜も火曜も、私は出張販売なんですが」。「っつーか一片の通知をもって撤回しますとか言われても、相殺きかないのに今後、通常正味で入帳できないよね。返品の入帳は約定書にあるとおり納品時の条件だよ。納品が払われないなら払わないし、納品が切り下げられるなら返品も切り下げる。当然でしょ?」

→総務管理課さんが版元に(おそらく終日)電話を掛けまくり、再々提案のFAXを送ると伝えて、ようやく届いたのが22時時近く。本件をこの一カ月以上担当してきた方々も、間際の申し入れには呆気にとられるだろうと思います。「通常正味で入帳できない」のは当然ですね、先方はまたぞろ「すでに受け入れて下さっている版元さんとの公平性」を言いだすでしょうけれど。

版元Bさん曰く「本日の5時過ぎに栗田出版販売から29日までに再提案したことに拒絶の回答もしくは保留(弊社)もしくは無回答の版元へ最後通帳のような内容の電話。弁護士から法的な根拠をもって返品は出来るから、今回の再提案を許諾されようがされまいが返品はあるし許諾すれば少しだけ返品額が減るよということ」。「社長へ報告して月曜日に顧問弁護士に相談となったけど、あまりの一方的な言い分に来月から取引全部止めたくなっちゃったよ。帳合の書店さんへ直接連絡して売れ行き好調な看板雑誌の配本無くなるかもとお伝えしなくちゃならんかね」。「この期に及んで法的根拠あるから拒んだところで返品しちゃうから再提案を合意したほうが損が少ないとする理屈を、拒否・保留・無回答の版元へするってのは喧嘩売ってるとしか思えんな。売上構成比で2%未満な取引先だから本気で停止してもいいか、来週月曜日に社長へ上申しようっと」。

→債権者集会の時点ですら取引停止が頭をよぎった版元さんが多いかもしれないのに、今回のこんなにも喧嘩腰な最後通牒ではツイート主さんのように「もう取引やめたい」と思うのは当然です。強烈な共感を覚えます。拒否・保留・無回答・未回答の版元を全員敵に回しただけではありません。いやいやながら承諾した版元にとってもこの手法は恐怖を植え付けるでしょう、《ここまでひどいのか・・・版元が譲歩すればいいのは本当に二次卸スキームまでか? この先もっと要求が出てくるのではないか? 協賛金だの支援金だの分戻しだの負担金だの・・・いくらでも名目は増やせそうだ》と。

版元Cさん曰く「栗田から急きょ、ファクスを送る旨の電話連絡あり。一昨日の会で出た8/4まで分の相殺に関することではないかと推測。非承諾社が対象らしいが、情報出さないとそれこそ「不公平」になるからね」。「栗田さん、FAXまだ来ません…。問い合わせたら、どうも内容で手間取っているらしく本日夜遅く…とのこと。そんな時間に送られたって、各社週末で検討や意思決定だってままならないし、債権届で期限に実務的に間に合うのか。こうやって時間を稼いでない? 8/4は投函期限じゃないよ、必着だよ」。「栗田さんからFAXきました。22時前…。なんでこいつらを助けなければならないのだと、つくづくイヤになる。2年前、出来心でこんな取次と付き合ってしまったのが運の尽き」。

→まさに時間稼ぎですね。これは東京の版元にすらキツいのに、地方の版元さんのことなどはまったく考えていない。デモを起こされるレベルです。Cさんは昨日こうも呟いておられました。「情報が得られないから、得られる場所にわざわざ出向くけど、限定的な集会にだけ出席して情報を小出しにするという、このことこそが「不公平」なんだよな、栗田出版さんよ」。また、さらに別の日には「栗田との約定書を見直す。「返品引き取れ」とはあるが「しない場合は(栗田が)任意で処分して清算されても異議なし」ともある。こちらとしては強引に返品されるくらいなら処分可の姿勢。それでも“後付け”の片面的権利を濫用するなら、そもそも約定書は意味がない」と。約定書を発行する場合もあるのですね。発行されていない版元もいます。「強引に返品されるくらいならば処分された方がマシ」というのはまさに版元に共通の切実な本音かもしれません。

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◆8月1日午前1時現在。

記憶しておきたい、黙過されるべきではない重要な証言です(リンクは張りません)。閉店を決意された書店さんの最後の姿を見守られた方です。曰く、「本日2015年07月31日19時49分、知人を伴って最後の客として訪問した。この時間まで電気代がもったいないので半分の点灯で、店主と妻と娘×2が待機していた。昨日で全て返本済であったので、今日はシャッターを半開きにして営業したとの事。最後まで店頭告知文は掲示せず」。「この店の週刊誌などの宅配サービスに依存していた近隣住民からも困るという声が上がり、決して販売では負けていなかった、買い手は最後まで存在した、ただ栗田出版からの配本が切り捨てられて「餓死された」事を強調したい」。

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◆8月1日午前1時30分現在。

小田光雄さんの「出版状況クロニクル」が更新され、本日「87(2015年7月1日~7月31日)」が公開されました。13の項目のうち、トップは栗田事案です。注目したいのは以下の指摘です。「本クロニクル78で既述したように、昨年の大阪屋の再建に当たって、37億円の増資を引き受けたのは講談社、集英社、小学館、KADOKAWA、楽天、DNPであり、その前に社長として講談社の大竹深夫、小学館や集英社から取締役が送り込まれていた。/私が仄聞しているところによると、彼らの役割は増資案件の他に、高正味出版社の正味の見直し交渉があったとされるが、それらはまったく成功しなかったようだ。それゆえに、増資はクリアしても再建は片翼飛行でしかなく、今回の栗田案件とその吸収によって、かろうじての両翼飛行をプランニングしたのではないだろうか。あるいは増資に当たっての楽天やDNPに対する密約スキームのようなものであったとも考えられる。/これも本クロニクル80で大阪屋の役員の刷新にふれ、「新たな改革の見取図などは描かれていないと見るしかない」と書いておいたが、今となってみれば、栗田の案件が隠し玉だったのかと見なすことができる」。

高正味出版社の正味の見直し交渉失敗、というのは重要な情報です。成功していれば、画期的な「生まれ変わり」の第一歩をしるせたかもしれません。同クロニクルでは『日経MJ』の「第43回日本の専門店調査」「書籍・文具売上高ランキング」についても言及されています。小数の例外を除いて、上位はマイナス成長がほとんどで、戦慄を禁じえません。

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◆8月1日13時現在。

「新文化」2015年7月31日付記事「トーハン、アバンティブックセンターを買収」によれば、「トーハンは7月28日、取締役会を行い、イズミヤ(株)から同社の子会社であるアバンティブックセンター(大阪・西成区)の全株式を取得することを決議し、同31日にイズミヤと株式譲渡契約を締結した」とのことです。アバンティブックセンターについては次のように説明されています。「1988年3月に設立。現在、大阪、兵庫、京都などに56店舗を構え、売上高74億円(2015年3月期、決算期変更により13カ月分)を計上している。イズミヤは総合小売業のチェーンストア。95店舗を運営し、売上高は3137億円(3月期)」と。周知の通りトーハンは2012年12月にブックファーストを子会社化しています。「新文化」2012年12月21日付記事「トーハン、ブックファーストを子会社化」をご参照ください。仄聞するところによればトーハンはここしばらくブックファーストの人員削減を推進しているようです。アバンティも同じような情況になるのかどうか気になるところです。

今後も続くであろう出版不況の中ではこうした、取次による書店の子会社化や整理・合理化がいっそう進むのかもしれません。取次が特定の書店を経営的に見て「危機的水準に達した」と判断した場合、それが中堅チェーン以上であれば、倒産や帳合変更に至る前に何かしらの形で救済もしくは介入せざるをえないということでしょうか。書店としてもそうなる前に様々な努力をされるのだと推察しますが、自力のみでは合理化や人員整理にも限界があるはずです。

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by urag | 2015-07-31 13:53 | 雑談 | Comments(0)


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