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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2015年 07月 24日

雑談(6)

◆7月24日9時現在。

いよいよこの日がやってきました。新提案の諾否の通知期限です。ここ一カ月、ほぼ毎日のように今回の一件に追われてきた出版社にはさすがに疲れが見えるようです。早く決着させたいという思いで新提案を承諾する版元さんもおられる一方、栗田への不信感をぬぐい切れずにいる版元さんもおられます。新提案を承諾することはすなわち二次卸スキームを受け入れ、6月26日以降の返品買上をすべて認め、この先も認め続けることを意味します。新提案を承諾し、還元額を受け入れつつも返品を保留したり拒否したりする、ということは「できません」。返品を保留したり拒否したりする場合は新提案を拒絶する必要があり、還元額も受けることはできません。栗田および代理人は1ヶ月返品相当額の還元について公平性を掲げています(それならば新提案の諾否は交渉材料に使うのではなく、新提案と関係なくすべての出版社に還元すべきだ、という声もあります)。もともと版元によって取引条件や支払いサイトが違うのですから、そうした版元間格差を考慮しない限り、本当の意味での公平性は実現されません。出版社はそのことを承知した上で、飲むか飲まないかを迫られているということです。

お金の問題ではなく、根本は信用の問題なのです。本件を今後想定されうる「取次界のリスク処理」の標準や前例にするのは危うい、ということを多くの出版人が心配しています。出版社の過半数がこの処理を認めたなら、栗田以外のケースが将来的に出てきた場合に「あれはあれ、これはこれ」という是々非々の対応を取ることが果たして《許される》かどうか。大局を決めるのは大手版元です。彼らは緊密に、そして時にゆるやかに連携しています。一方、頭数では負けない中小零細は、全員がしっかり連帯するというところまでは辿りつきにくい。そのことを栗田も大阪屋も株主たちも分かっているでしょう。その上で、これまでのことが起きています。おそらくは株主版元の了承のみ得た上で、その他大勢の同意を取り付けることは後回しにして、強引に返品を送り続け既成事実化しようとした、と。その他大勢の版元の対案や反発はことごとく留保し退け、再生スキームをごり押しし、いくばくかの金額の提示で懐柔しようとしている、と。金額は各版元によってまちまちですから、この条件であればOKとする会社があってもおかしくはありません。しかし、版元はよくよく気をつけるべきです。栗田やその背後にいる人々は今後も自分がやりたいようにしかやらないし、その他大勢の版元とは没交渉のまま(交渉をのらくらとかわしながら)物事を進めるでしょう。度し難いことです。

ある人からはこう皮肉を言われました。「出版社ってさ、懲りないよね、何度も痛い目にあってるのに、ぜんぜん懲りてないよね。何かあるごとに、仕方ないか、で済ませちゃうんでしょ。進歩ってものが感じられないなあ」。栗田事案では結局、出版社も「いい加減な存在」として冷笑されているわけです。この「いい加減さ」が寛容さや柔軟さとして機能していた時代はよかったのです。しかしこの先、このままでやれるのかどうか。

従来のシステムの維持にイエスと言うのか、ノーと言うのか。そんなに大げさなことじゃない、と言っても詮無いことです。栗田が取引条件の見直しはないと明言している以上、新提案回答期限の今日この日が、「今のままでもやむをえない」のか、「もうやめよう」となるのか、その象徴的な分かれ道のひとつになります。「今のままでいい」わけはありません。ずっと続けられるわけじゃない。すでに破綻は始まっています。新提案を受け入れようと受け入れまいと、出版界に変革が求められていることは事実であり、いくら立場が違おうともこれを否定できる人はいません。否定したところでどうにもならないからです。現時点では栗田の公式の再生計画は債権者に提示されていませんから、栗田がどのように変わっていけるのかは分かりません。現在の栗田の現場の空気感をつぶさに観察して「変わらないよ」と悟り澄ましている人もいます。実際にそれが現実かもしれません。版元格差は是正されないまま、不均衡なシステムを維持せざるをえない現実に「新栗田」も(そして大阪屋も)また、置かれているわけなのです。変えようともしないまま、今までの連鎖や悪循環を止められるはずもないのですが。

新提案の回答期限は今日まで。FAXでの送付が認められています。まだ回答できない場合も、栗田に連絡する必要があります。どうか読者の皆様には今回の選択がどこへ向かうのか、厳しい目でご覧いただけたらと思います。

なお、栗田役員が債権者集会とは別の場で口にしている「弁済率30%」というのは、そのまま「可能である」として信じることができるものなのかどうか、甘い判断は危険だと思われます。

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◆7月24日午前11時現在。

書評紙「週刊読書人」の事務所が改装され、「読書人スタジオ」が来月オープンします。オープンを記念し、9月より「神楽坂・読書人セミナー」が開講されます。その第一回となるイベントに登壇することになりました。ご来場の皆様との出会いを楽しみにしています。

◎神楽坂・読書人セミナー「独立系出版社の挑戦――編集・販売・経営」

日時:2015年9月11日(金)19時~21時
場所:読書人スタジオ(新宿区矢来町109;地下鉄東西線神楽坂駅より徒歩1分)
料金:1000円(ワンドリンク付)
予約・問い合わせ:読書人(電話03-3260-5791またはinfoあっとまーくdokushojin.co.jp)

登壇:下平尾直(共和国代表)、小林えみ(堀之内出版/『nyx』担当)、小林浩(月曜社取締役)

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◆7月27日15時現在。

「新文化」7月27日付記事「出版梓会の今村正樹理事長、「大幅な再販弾力運用を」」によれば、先週金曜日に行われた出版梓会の会員社懇親会で挨拶に立った理事長さんが再販制の運用について次のように語ったと報じられています。「今村理事長(偕成社)は、栗田の民事再生に触れたあと、「取次会社のビジネスモデルが壊れている。真剣に考えないといけない」と話した」。ここまでは出版人の多くが感じているところではないかと思われます。興味深いのは次です。

「個人的な見解と断ったうえで、「読者は本の価格が硬直化していることに不満をもっているのではないか」とし、今後は大幅に再販の弾力的運用を取り入れるべきと提言。取次会社は(出版社へ)1本正味などではなく、商品ごとに柔軟な取引きを行い、書店にメリハリのある仕入れを促した。とし、非再販の拡大と柔軟な取引きに変えていく必要性を訴えた」。読者が本の値段を「硬直化している」と感じているかどうかはしっかり統計調査なりを行った方がいいような気がします。商品ごとに正味や取引条件を変えるというのは、良く言えば柔軟ですが、それを応用することによって弱小版元を買い叩くことも可能にはなるでしょう。メリハリをつけることが悪いことではないにせよ、「片務的」(今年の出版業界の流行語大賞候補)な条件にならないようにすべきかと思われます。

いっぽう「ITmedia eBook USER」7月24日付記事「出版業界、5年間で1兆2500億円の売上減 帝国データバンクの経営動向調査」によれば、2008年から2013年の5年間にかけて、版元、取次、書店の三者で売上が一番落ちたのは版元、事業者の数が一番減ったのは書店、業績が一番悪化したのは取次、という分析結果が出たそうです。

曰く「2013年度の出版業界全体の総売上高は約5兆997億3500万円で、2008年度の総売上高約6兆3495億7500万円と比べ19.7%減少。減少率が最も高かったのは出版社、次いで書店経営業者となった。/2013年度の出版関連業者数は2672社で、2008年度から17.6%減少。減少率が高い順に書店経営業者、出版社、出版取次業者となった。2013年度に黒字を確認できた出版関連業者の比率は35.6%、2008年度は39.8%と微減。業態別で見ると、最も悪化が著しかったのは出版取次業者、次に書店経営業者、出版社となった」と。

さらに帝国データバンクの分析によれば「2013年度以降、慢性的な業界不振が続く中で消費税の引き上げなどが雑誌・書籍の販売不振に拍車をかけており、6月に準大手の出版取次業者・栗田出版販売が民事再生法の適用を申請したことで書籍流通の業界構造が大きく変化する可能性があると指摘。2013年度の出版関連業者倒産件数は42件、2014年度は72件まで増加し、今後も出版業界は厳しい業界環境が続くと予想している」とのこと。おおよその傾向としては予想通りになるのではないでしょうか。

出版社の売上が落ちる=取次が儲からない=書店が減る。この三位一体と栗田事案で起きている次の情況は背中合わせです。ごく大雑把に言えば、すなわち、これ以上書店が減ると困る=取次を救済する=出版社が負担する。

同じく24日に公刊された全国出版協会・出版科学研究所の「出版月報」誌2015年7月号の概要によれば、「2015年上半期(1~6月)の出版物販売金額は前年同期比4.3%減の7,913億円となり、低落傾向に歯止めは掛からなかった。/前年は4月以降、消費税増税の影響によって販売状況が一気に悪化した。それをベースにした今年も出版物の需要は振るわなかった」と。ちなみに全国出版協会の役員名簿はこちら

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◆7月27日16時現在。

栗田の債権者の一人である地方小さんが7月27日付の「地方・小出版流通センター通信」No.1348を公開されています。

曰く、6月「26日に届けられた栗田の民事再生計画案では、民事再生申し立て以前に栗田に納品された商品の返品について、株式会社大阪屋(以下大阪屋といいます)が栗田から買い上げ、出版社の大阪屋に対する請求から控除する(買い取れ)という、すでに回収不能債権を抱えた出版社に対して二重の負担を強いる、常識では理解しがたいスキームが提示され、承服しかねると考えております。〔・・・〕再生スキームで、6月26日以降の出荷については、支援取次である大阪屋が代金を保証するということですので、注文品については、中断することなく出荷を続けていますが、本来は債権額から相殺されるべき返品を買い取れというのは受入れ難く、栗田からの返品は、債権者集会で約された新提案を受けて、詳細に検討・再考するしかありません。民事再生というのは、営業がというか流通が「納品も返品も動いている」ので厄介ですし、全国取次の民事再生処理というのは先例がなく苦汁の判断を迫られています」。

新提案への諾否の回答期限は先週金曜日にいったんは締め切られていますが、すべての版元が回答したかどうかは定かではなく、判断材料に乏しいので回答を保留する、とお考えになっている債権者もおられるのかもしれません。

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by urag | 2015-07-24 11:19 | 雑談 | Comments(0)


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