弊社7月新刊、ヴェルナー・シュスラー『
ヤスパース入門』(岡田聡訳、本体3,200円、A5判上製232頁、ISBN978-4-86503-027-3)が、今週より書店店頭にて順次発売開始となっています。シリーズ「古典転生」第12回配本(本巻11)です。著者のシュスラー(Werner Schüßler, 1955-)はドイツの哲学者であり、神学者。ティリッヒやヤスパースの研究者として知られています。ヤスパース(Karl Jaspers, 1883-1969.ヤスペルスと表記されていた時代もありました)というと、サルトルやマルセル、ハイデガーらと並ぶ「実存」思想の系譜に数え上げられる哲学者ですが、構造主義やポスト構造主義と同様に、実存主義もまた一枚岩のものとして語りうる思潮ではありません。サルトルともハイデガーとも異なるヤスパースの思想は精神医学を出発点としており、実存開明、世界定位、限界状況、主観-客観-分裂、責め、信号・暗号、超越者、基軸時代など、独特な術語で人間存在に迫る哲学を展開しました。ちなみにアーレントはヤスパースの弟子に当たります。
「人間であることは人間となることだ」とは主著のひとつ『哲学入門』(新潮文庫)にある有名な言葉です。「私たちの本質は途上にあることである」ともヤスパースは述べています。人間の生は常に可能性(=実存)の側面を持っており、ヤスパースにとって哲学とは人間であることへ呼び覚ましにほかならない、とシュスラーは説明しています(81頁参照)。『ヤスパース入門』は一章ごとが短いので、多忙な読者にとっても読み進めやすい本となっています。現在入手可能な他の入門書新刊はほとんどない情況で、著作の邦訳も限られています。古くは1930年代から邦訳があり、1950年から1999年にかけては理想社版『ヤスパース選集』(既刊37巻)が刊行されました。今秋からドイツでは新しいヤスパース全集の刊行が開始されるとのことで、ヤスパース再評価への道が世界的に開かれていくものと思われます。
写真にあるPOPは某書店さんが作成してくださったものです。数ある新刊の中、この一冊にも熱心に向き合っていただき、深く御礼申し上げます。