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2015年 07月 20日

注目新刊:平凡社『原水爆漫画コレクション』全4巻、ほか

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★これはすごいです。戦後70年のこの夏、平凡社さんが「原水爆漫画コレクション」全5巻をまもなく発売されます。「原水爆をテーマとする大衆的表象文化を初集成」と。1950年代から60年代にかけての長短織り交ぜた作品群が圧倒的なボリュームで迫ってきます。カラー部分はカラーで印刷し、解題や解説を付すなど、資料としてたいへん貴重ですし、戦後間もない頃に少年期を過ごしたのではない若い世代にとってはほとんどの作品が初見のものとなるだろうと思われます。主題が主題だけに面白がって読むものではなく、その重さがずっしりと両肩にのしかかってきますが、こうした文化遺産が復刻され後代に受け継がれようとしていることはとても重要だと思います。

原水爆漫画コレクション1 曙光
手塚治虫・花乃かおる・安田卓也著 山田英生編
平凡社 2015年7月 本体2,800円 A5判上製384頁 ISBN978-4-582-28691-5
帯文より:“原子力施設の事故”と津波禍によるカタストロフを描く手塚治虫の先駆作、「第五福竜丸事件」直後に発表された異色のドキュメント漫画ほかを復刻!

目次:
口絵=原本書影
手塚治虫「大洪水時代」(1955年)
手塚治虫「太平洋X點〔ポイント〕」(1953年)
解題=三宅秀典
花乃かおる「ビキニ 死の灰」(1954年)
解題=正木基
安田卓也「宇宙物語」(1954年)
解題=三宅秀典
解説=成田龍一「原爆表象――認識の戦後史」


原水爆漫画コレクション2 閃光
谷川一彦著 山田英生編
平凡社 2015年7月 本体2,800円 A5判上製370頁 ISBN978-4-582-28692-2
帯文より:ヒロシマで肉親を失い、少女誌に“原爆の悲劇”を描いた最初期の長編少女漫画『星は見ている』(全2巻)全編を待望の初復刻!

目次:
口絵=原本書影
谷川一彦「星は見ている」前篇・後篇(1957年)
解題=吉備能人
解説=川村湊「ピカドン・キノコ雲・原爆ドーム」


原水爆漫画コレクション3 焔光
白土三平・滝田ゆう著 山田英生編
平凡社 2015年7月 A5判上製406頁 ISBN978-4-582-28693-9
帯文より:忘れられた被爆者差別への抗議を込めた被ばく少女漫画の記念碑作『消え行く少女』、文士漫画家のデビュー直後の稀少な貸本漫画『ああ長崎の鐘が鳴る』を復刻!

目次:
口絵=原本書影
白土三平「消えゆく少女」前篇・後篇(1959年)
解題=三宅秀典
滝田ゆう(ひろし)「ああ長崎の鐘が鳴る」(1958年)
解題=正木基
解説=椹木野衣「遅延する死――原水爆漫画をめぐって」


原水爆漫画コレクション4 残光
赤塚不二夫・松本零士・中沢啓治・池田理代子・ほか著 山田英生編
平凡社 2015年7月 本体2,800円 A5判上製386頁 ISBN978-4-582-28694-6
帯文より:「原爆の子の像」の実話漫画、池田理代子の初期作、「はだしのゲン」に先駆けて中沢啓治が初めて発表した原爆短編漫画、『ガロ』発表の先鋭な異色作ほかを収録。

目次:
口絵=原本書影
I
赤塚不二夫「点平とねえちゃん」(1960年)
杉浦茂「ゴジラ」(1955年)
東浦美津夫「みよちゃん 死なないで」(原作=春名誠一、1958年)
解題=正木基
II
影丸穣也(譲也)「影」(1960年)
松本霊士(晟)「THE WORLD WAR 3 地球 THE END」(1961年)
陽気幽平「地獄から戻った男」(1962年)
永島慎二「三度目のさよなら」〈漫画家残酷物語〉より(1963年)
解題=三宅秀典
III
渡二十四「真昼」(1965年)
花村えい子「なみだの折り紙」(1965年)
中沢啓治「黒い雨にうたれて」(1968年)
池田理代子「真理子」(1971年)
西たけろう「原爆売ります」(1970年)
林静一「吾が母は」(1968年)
解題=正木基
解説=正木基「原水爆を視る――マンガと映画における主題」

★昨今、『はだしのゲン』が図書館から撤去されたり閲覧を制限されたりという政治的反動が起こって世間を賑わせましたが、それは図書館所蔵の『アンネの日記』を次々と毀損して回るという愚行とどこか共通項があると思える、じつに馬鹿げたことです。原発推進派や核武装肯定派、歴史修正主義者などの諸勢力が意図的に動員をかけて公然と排外的な実力行使に訴えるという光景は、街頭にせよネット上にせよ、こんにちあちこちで見かけるようになってきています。そうした野蛮な群れの中に市長や教育者までがいたというのはおぞましく危機的なことです。「国民を守る」「児童を守る」という美名のもとに何が行われているのか、国体維持のためにタブー視されるような情報がどう攻撃され蔑まれ隠蔽されようとするのか、いかなる異論や他者が封殺されつつあるのか、いったい誰がそうすることで利益を得ているのか、それらを今後も賢明に見極めていく必要があると思われます。

+++

★このほか、最近では以下の書目との出会いがありました。『“ヒロシマ・ナガサキ”被爆神話を解体する』はまもなく発売、そのほかはすべて発売済です。

“ヒロシマ・ナガサキ”被爆神話を解体する――隠蔽されてきた日米共犯関係の原点
柴田優呼著
作品社 2015年7月 本体2,400円 46判上製300頁 ISBN978-4-86182-547-7
帯文より:“被爆体験”を戦後レジームから解放する。原爆70年目の真実。本書は、戦後日本の国民主義と合州国との共犯関係に鋭く切り込む、“新しい戦後史”の始まりを告げている。【推薦】酒井直樹、成田龍一、将基面貴巳、陳光興。

目次:
はじめに “被爆神話”としての“ヒロシマ・ナガザキ”――戦後日米関係の原点
第一章 アメリカが原爆の語られ方を創始する――わずか一六時間後のトルーマン声明
第二章 アメリカが被爆体験の語られ方を創始する――沈黙させられる被爆者
第三章 アメリカ人によるアメリカ人のための原爆被災物語――『ヒロシマ』を歴史化する
第四章 日本がアメリカでの語られかたを踏襲する――『ヒロシマ』の受容
第五章 ヒロシマ/ナガサキは人類の普遍的な悲劇か――平和主義をどう生かすか
あとがき
[資料]アメリカ大統領ハリー・トルーマンの原子爆弾に関する最初の声明
出典注
Selected Bibliography
主要日本語参考文献
本書への推薦文――酒井直樹、成田龍一、将基面貴巳、陳光興

★著者は朝日新聞記者やアメリカのセント・ジョンズ大学助教授を経て現在はニュージーランドのオタゴ大学助教授でいらっしゃいます。ご専門は日本文学、映像研究、文化研究(カルチュラル・スタディーズ)です。巻頭の「はじめに」によれば、本書は第一章で空爆後まもなく発表された米国大統領ハリー・トルーマンの声明を分析し、第二章では原爆による人的被害がその後いかに隠蔽されたかを検証。第三章では米国人ジャーナリストのジョン・ハーシー(John Richard Hersey, 1914-1993)による広島ルポ『ヒロシマ』(1946年刊;初訳は1949年、法政大学出版局;現在は増補版が同局より刊行)について論じ、第四章では米軍占領下で出版が許可されて普及した永井隆『長崎の鐘』(1949年)や長田新編『原爆の子』(1951年)などの日本の被爆者の語りが、『ヒロシマ』の語りとよく似ている面があることを取り上げます。そして第五章では、広島や長崎の原爆被災が人類全体の悲劇と見なされているかどうかについて考察。原爆の言説に関して次の3点の「現実」がある、と指摘しています。「(1)日本の外でどうなっているかみない、(2)日本の語りは限定的にしか外に出ていかない、(3)隔絶しているようにみえる日本の語りが、実は大いにアメリカの語りの影響を受けている」。

★各氏の推薦文の一部を抜き出してみます。酒井直樹さん曰く「戦後の日本での原爆についての理解や、制作、そして情緒が、その反米の見かけにもかかわらず、じつは、パックス・アメリカーナの秩序から決して自由になれなかったことを丁寧に例証〔・・・〕反米を気取る戦後憲法反対論そのものが、じつは周到に米国の覇権によって準備されたものであることを説得してくれる」。成田龍一さん曰く「日米の原爆にかかわる言説を再考察〔・・・〕双方の落差とともに日米関係の構造をも浮き彫りに」。将基面貴巳さん曰く「広島・長崎の原爆について、現代日本人が当然のことと思っている基本認識が、実はアメリカ起源であることを、迫力ある筆致で明らかに」。なかなかヘヴィな内容で、様々な議論を呼ぶのではないかと思われます。原水爆をめぐる日本の語りのうち、何が米国起源のものと相同性を有し、何がそうでないのかは今後の更なる検証が待たれるところでしょう。


わたしの土地から大地へ
セバスチャン・サルガド+イザベル・フランク著 中野勉訳
河出書房新社 2015年7月 本体2,400円 46判上製240頁 ISBN978-4-309-27612-0
帯文より:世界的写真家の、自伝。世界中に住まう社会的弱者たちの姿、そしてこの大地=地球に住まうことの奇蹟。「サルガドの提示してきた世界、その輝き、その沈黙は、私たちのかけがえのない宝である」(今福龍太解説「サルガドの「大地〔テーラ〕」とともに」より)。

★原書は、De ma terre à la terre (Presses de la Renaissance, 2013)です。ジャーナリストのイザベル・フランクの聞き書きによる自伝です。中ほどの頁には16頁分の写真作品が掲載されています。折しも8月1日からは、ヴィム・ヴェンダース監督による映画「セバスチャン・サルガド――地球へのラブレター」とのこと。今回解説をお書きになっておられる今福さんが訳者として関わっておられるサルガドの写真集『人間の大地 労働――セバスティアン・サルガード写真集』(岩波書店、1994年)が再刊されてもいいような気がしますが、どうなのでしょう。日本で今まで開催されてきた写真展の図録は重版される余地がないでしょうし、英語版の写真集をネット書店で購入できますから、日本語版写真集がなかなか出ないのは仕方ないとはいえ、映画の予告編を見るだけでも「写真集が欲しい」と思う読者の方は多いのではないかと思います。



ゾンビの科学――よみがえりとマインドコントロールの探究
フランク・スウェイン著 西田美緒子訳
インターシフト(発行)/合同出版(発売) 2015年7月 本体1,900円 46判並製240頁 ISBN978-4-7726-9546-6
帯文より:あなたもすでに死んでいる? 眠れなくなるような真実。〈生と死〉〈自己と他者〉の境界を超える脳科学、心と行動の操作、医療、感染と寄生・・・を探究。ゾンビパウダー、昆虫偵察機、喜びを生む機械、ネコからヒトの脳へ感染し性格を変えてしまう寄生生物、CIAのマインドコントロール研究、死者から授かった子供・・・驚きの研究・事例に、今宵あなたは眠れない。

★原書は、How to Make a Zombie:The Real Life (and Death) Science of Reanimation and Mind Control (Oneworld Publications, 2013)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者のスウェインさんはロンドン在住のサイエンス・ライター。彼は本書でこう書いています。「人類の創意工夫の力があれば、ゾンビを作る道具、あるいは少なくともそれに近い何かができているのではないかと考えていた。だが現実は、それよりはるかに不穏なものだった」(222頁)。「自分の人格、自分のアイデンティティ、自分の本質そのものが、無数の細胞と化学物質の複雑な相互作用にすぎず、その細胞や化学物質の一部は自分自身のものでさえないかもしれないのだ。みんな、自分のアイデンティティがどこで終わり、どこから寄生者の影響がはじまっているのかわかるだろうか?」(223頁)。帯文に列記されているように豊富な事例を次々と示し、「人間的とはどういう意味なのか、生きているとはどういう意味なのか、自分の運命を自分の思い通りにできるとはどういう意味なのかを考え」(9頁)たのが本書です。この暑い季節にもってこいの涼しい読書、しかも霊的なものではないものの恐怖を堪能できます。


アルパムス・バトゥル――テュルク諸民族英雄叙事詩
坂井弘紀訳
東洋文庫 2015年7月 本体3,100円 B6変判上製函入342頁 ISBN978-4-582-80862-9
帯文より:ユーラシア大陸各地域に存在するテュルク系諸民族が語り伝えた英雄叙事詩の本邦初訳。ギリシアの『オデュッセイア』に似た、勇士アルパムスが活躍する各民族のテクスト群を結集。

★平凡社さんの「東洋文庫」第862巻です。カザフ語版「アルパムス・バトゥル」および異稿、バシュコルト語版「アルパムシャ」および異稿、タタール語版「アルパムシャ」および「アルプマムシャン」、アルタイ語版「アルプ・マナシュ」、以上の全訳と、カラカルパク語版「アルパムス」およびウズベク語版「アルパミシュ」の梗概を収録しています。二段組で読み応えのあるボリュームです。東洋文庫の次回配本は9月、『江戸詩人評伝集1』と『自省録』が予告されています。10月は、夫馬進校訂注『乾浄筆譚――朝鮮燕行使の北京筆談録』とのことです。

by urag | 2015-07-20 16:39 | 近刊情報 | Comments(0)


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