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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2005年 08月 02日

今週の注目新刊(第15回:05年8月1日)その2

選書は済んでいたのですが、公開が遅れました。ようやくです。

***

広島――記憶のポリティクス
米山リサ著 小沢弘明+小沢祥子+小田島勝浩訳
岩波書店 本体3300円 46判302頁 4-00-001935-X
■帯文より:被爆地と被爆者をめぐり、せめぎあう語りがひらく。平和の象徴“ヒロシマ”から、廃墟と蘇生の“広島”へ。
■版元紹介文より:戦後半世紀、核のカタストロフはどのように語り伝えられてきたか。広島という被爆都市の変遷、被爆者の語り部たちの語りの変容、コリアン被爆者をめぐる加害と被害のせめぎあい、原爆を投下した米国側の正当性のゆらぎなどをめぐって、反発し、浸透し、越境してゆく原爆の被害体験と加害体験の記憶の表象。
●単独著の日本語訳はこれで2点目。1点目は2003年11月に今回と同じく岩波書店から刊行された『暴力・戦争・リドレス――多文化主義のポリティクス』 でした。『広島』は米山さんの主著。待望の翻訳です。この夏にひもときたい一冊。なお、共著では、『天皇のページェント――近代日本の歴史民族誌から』 (タカシ・フジタニとの共著)が1994年11月に、NHKブックスの一冊として刊行されています。

戦争はいかに地球を破壊するか――最新兵器と生命の惑星
ロザリー・バーテル(1929-)著 中川慶子+稲岡美奈子+振津かつみ訳
緑風出版 本体3000円 46判413頁 4-8461-0507-5
■帯文より:劣化ウラン弾からスターウォーズまで、軍と最新兵器による、地球生態系への破滅的影響。
●カナダの科学者バーテルさんの既訳書には『放射能毒性事典』(渕脇耕一訳、技術と人間、1987年)があります。劣化ウラン弾が人体にいかに深刻な被害をもたらすか、真剣に勉強してみようと思う人ならば必ず彼女の名前に行き当たることになります。私にとっては、ヴァンダナ・シヴァ(1952-)、バーバラ・ドゥーデン(1942-)、イザベル・スタンジェール(1949-)と並んで、文字通りラディカルな科学技術批判の姿勢を学ぶことのできる稀有な思想家の一人です。

バナナ・ペーパー――持続する地球環境への提案
森島紘史(1944-)
鹿島出版会 本体1500円 A5判4+127頁 4-306-09377-8
■帯文より:バナナ・ペーパーが地球を救う、エコロジー・デザインの実践!バナナの香りを封入したバナナ・ペーパーも挿入。
■版元紹介文より:バナナの茎から紙をつくることで発展途上国に産業を興し、地球環境保全にもつながることを提唱する。バナナ・ペーパーの製法プロセスとその製品への展開の可能性を、豊富なイラストや写真で解説する。
■目次:


第1章:バナナを知る
 1-1 バナナの植生・形態・生産分布・生産量
 1-2 バナナと人間社会
 1-3 廃棄物バナナの茎の製紙技術
第2章:バナナによる自立
 2-1 熱帯の途上国、自立への道
 2-2  プロジェクトのもつ多面性-経済、教育、文化
 2-3 カリブ海諸島における事例
第3章:バナナのエコロジー・デザイン
 3-1 日本のプレゼンス――環境問題への取り組み
 3-2 バナナ紙とバナナ布
 3-3 未来に生きる環境教育


●著者の森島さんは多摩美大を出て、米国アート・センター・カレッジ・オブ・デザインを修了後、名古屋市立大学大学院芸術工学研究科教授、イタリアISIA大学客員教授、愛知県立芸術大学非常勤講師などをつとめておられるそうです。香りつきの本というのは今までもいろいろありましたが、学術書で香りつきというのは初めてではないかと思います。

ゴッドハズアドリーム――希望のビジョンで今を生きる
デズモンド・ツツ(1931-)著 和泉圭亮+和泉利子+和泉裕子訳
竹書房 本体1200円 A5判161頁 4-8124-2222-1
■帯文より:1984年度ノーベル平和賞に輝く、ツツ大主教最新刊。幸せになる勇気を持てます。あなたの未来の大切さをわかりやすく教えてくれる本です。
●ツツさんがこれまで説教やスピーチや著述で明らかにしてきた、彼自身の思想や信念をまとめた集大成だそうです。1996年に南アフリカ・ケープタウン大主教を退いたのち、マンデラ大統領のもとで真実和解委員会の委員長をつとめ、その後も北フロリダ大学客員研究員、国際刑事裁判所(オランダ・ハーグ)の被害者信託基金理事として働いておられます。
●同性愛への差別を批判し、悪のテロリストという紋切り型のレッテルを拒絶し、戦争反対を主張してやまない彼は、現代において数少ない「信頼しうる宗教指導者」の一人だと私には思えます。ツツさんの既訳書には、『南アフリカに自由を――荒れ野に叫ぶ声』 (桃井健司訳、サイマル出版会、1986年)があります。

生命――この宇宙なるもの
フランシス・クリック(1916-2004)著 中村桂子(1936-)訳
新思索社 本体2500円 46判194頁 4-7835-0233-1
■帯文より:私たちはどこから来たのか。ノーベル賞受賞者、DNA構造の発見者である著者が、新パンスペルミア説(宇宙胚子説)を唱えて語る生命の起源と本性。これからの生命観、学問的方向を示す知的興奮の書。
●1989年刊増補新装版の、そのまた再装版だそうです。 ちょうど約一年前の2004年7月28日に死去したクリックは、DNAの二重らせん構造を発見した、イギリスの高名な生物学者です。
●既訳書には、『分子と人間』(玉木英彦訳、みすず書房、1970年)、『熱き探究の日々―― DNA二重らせん発見者の記録』(中村桂子訳、TBSブリカニカ、1989年)、『DNAに魂はあるか――驚異の仮説』(中原英臣訳、講談社、1995年) などがありますが、ぜんぶ絶版っていったいどゆこと?! 現代科学史上の最高峰に位置する人の本ですら、十年も経てば市場から消えるという苦々しい例のひとつです。

ヘブライ語-日本語単語集
飯田篤編著
国際語学社 本体2900円 46判217頁 4-87731-267-6
■版元紹介文より:ヘブライ語は1948年にイスラエル建国とともに300万人の公用語として復活した言語です。古代フェニキア語を引き継ぐセム・ハム語族の代表言語である古代ヘブライ語は、旧約聖書、死海文書、ユダヤ教古文書などに残されています。約3000語の日常頻出単語を掲載。明快な文法解説つき。シンプルで単語を気軽に引けるため、本書を傍らに古代文字の学習、趣味の探求が深まります。
●シリーズ「単語で辿る古代の歴史ロマン」の第二弾。第一弾は本年5月に刊行された『アラム語‐日本語単語集 シリア語付き』でした。語学マニアとまではいかなくとも、外国語、それも昔々の言葉に惹かれる読者は一定数いるはず。アラム語もヘブライ語ときたら次は何語でしょう。楽しみです。

アンデルセン童話集
ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805-1875)著 ハリー・クラーク(1889-1931)絵 荒俣宏(1947-)訳
新書館 本体3800円 46判上製函入619頁 4-403-27003-4
■帯文より:荒俣宏が贈るもうひとつのアンデルセン。クラークの絵が悲哀と残酷を感動に変えます。
■版元紹介文より:アンデルセン生誕200年。彼の面白さのエッセンスを、異色の傑作24篇に集約。アイルランドの幻想画家ハリー・クラークの夢幻味あふれる挿画40点を収録(カラー多数)。
■収録作品:ほくち箱/大クラウスと小クラウス/おやゆび姫/旅の道連れ/皇帝の新しい服/幸福の長靴/丈夫なすずの兵隊/父さんのすることに間違いなし/コウノトリ/みにくいアヒルの子/ひつじ飼いの娘と煙突そうじ人/モミの木/豚飼い王子/雪の女王―七つの話からできている物語/夜なきうぐいす/マッチ売りの少女/妖精の丘/古い家/蝶/人魚姫/ワイルド・スワン/沼の王の娘/パラダイスの園/絵のない絵本
●近年はグリム童話が、本当は恐ろしい~とか、世界一残酷で美しい~とか、大人向きに色々出版されてきましたが、荒俣さんの趣向はそんなところにあるわけではありますまい。今回のアンデルセン本は洒脱な装丁と造本を見る限り、そう思います。ところで若い世代にとっては荒俣さんは「トリビアの泉」の人、なのでしょうか。

シェイクスピア・ザ・ベスト
シェイクスピア(1564-1616)原作 不知火プロダクション編 筒井正明監修
宙出版 本体1200円 A5判183頁 4-7767-9198-6
■帯文より:あらすじで、知る。あらすじでは伝わらない面白さが、ある。世界文学が誇る不朽の名作をマンガでいいとこ取り。
●なんだかよくわからない帯文ですが、本書は「マンガで読むから面白い!世界の名作シリーズ」の一冊。シェイクスピアはたしかに、活字で追っていると何だか大げさだったり、台詞回しが長ったらしかったり、もうどんどん飛ばし読みしたい気持ちになることがあるのも事実。で、マンガで読んじゃいましょう、というのは「ドラゴン桜」的方法論としてはアリ? きちんと活字で読むんだという方は、『ザ・シェークスピア――全戯曲[全原文+全訳]全一冊』改訂新版(坪内逍遙訳、第三書館)がお得。


★今週の注目文庫

エスコフィエ自伝――フランス料理の完成者
オーギュスト・エスコフィエ(1846-1935)著 大木吉甫訳
中公文庫BIBLIO (中央公論新社) 本体876円  273頁 4-12-204544-4
■帯文より:帝王の料理人か、料理の帝王か。ベル・エポックを担った史上、最も偉大なシェフの回想録。戦争捕虜をも体験した彼は芸術家、革命家、国際人であり、そしてユマニストであった。
■版元紹介文より:数々のメニューを考案、技法を体系化し、近代フランス料理の父と呼ばれるに至るまでの軌跡が自身の言葉で語られる。エスコフィエが近代フランス料理を確立するまでの過程を語った回想録。多くの名物料理の考案、女優サラ・ベルナール、英国王エドワード七世などのセレブとの華やかな交流の一方で、捕虜生活の体験から貧困を打破する策について著作を遺した。普仏戦争、ベル・エポック時代、第一次大戦と激動の世相を反映した知られざる逸話は、国際人としての見識に貫かれ、「いかなる時代にも料理人はどうあるべきか」というエスプリにあふれている。
●同朋舎出版から1992年に『エスコフィエの自伝』として出版されたものの改題文庫化です。
●既訳書には『エスコフィエ・フランス料理』柴田書店、『エスコフィエのメニューブック』柴田書店、『エスコフィエとともに一年を――料理長の手帖』木耳社、などがあります。
●BIBLIOシリーズは名著の再刊が多く、たいへん好感が持てるシリーズです。

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以上です。(H)

by urag | 2005-08-02 22:12 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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