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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2015年 07月 10日

雑談(1)

◆7月10日15時現在。

さて皆様お気づきかと思いますが、例の名簿が削除されました。なるほどね。また、色んなところでアクションが起こっています。私も様々な立場の方から連絡をいただいていますし、たとえ直接はご連絡いただかなくても業界内外の気配に胸襟を開いておきたいと思っています。皆様ありがとうございます。エントリーのタイトルは今回から変更しております。誓って申し上げますが、「制限」は受けておりませんよ。なおこのカギカッコは引用として使用していることを付言しておきます。また、心配して下さる方がいらっしゃるといけないので申し上げておきますが、直前のエントリーでのコメント欄でのやりとりは今回のタイトル変更とはまったく無関係です。

昨日開催された首都圏栗田会についての簡潔なレポート「首都圏栗田会、「意見交換会」と「交流会」」が「新文化」7月9日付で公開されています。曰く「7月9日、首都圏栗田会が東京・目白の椿山荘で第7回総会を開催。当日は予定していたプログラムを変更し、総会の後に栗田と書店の意見交換会、出版社との交流会を行った。/意見交換会では、地方の書店も参加。山本高秀社長ほか下村賢一、森孝弘、高梨秀一郎の3取締役がこれまでの経緯を説明。中央経済社から報奨企画、三笠書房とフランス書院からは注文勘定のすべてを再生計画がスタートするまで延勘にする支援表明があったと伝えられた」。

債権者集会とは別のこうした機会で「これまでの経緯」の説明があったと。その中で、支援を表明される版元さんやどのような支援かについても紹介があったと。報奨だの延勘だのすごいですねえ。その他大勢の版元にはどう聞こえるでしょうか。逆撫での続きにならないといいですけれども(無理な気が)。私自身はぞっとしました。心底。栗田の延命によってなぎ倒される版元がたとえ出ても、心など痛まない人たちは残念ながら当然いるでしょう。分かってはいましたが、これは美しい助け合いなどではなく、形を変えた《戦争》なのです。

「出版社を交えた交流会では、双葉社の戸塚源久社長が祝辞を述べた後、大阪屋の大竹深夫社長、田村書店の田村定良社長、講談社の森武文専務、祥伝社の石原実取締役、河出書房新社の小野寺優社長、ベレ出版の内田真介社長、新星出版社の富永靖弘社長がエールを贈り、今野書店の今野英治社長や高島書房の高島瑞雄社長が出版社に協力を求めた」。

版元からの祝辞とエール、そして書店から版元に協力要請ですか。弊社のような版元とは立場が違いすぎて溜息が出ます。同様にお感じの版元さんもおられるかもしれません。出版社とて規模が違えばポジショニングが異なるわけで、栗田役員および栗田支援の立場の方々が、債権者集会での「紛糾」(引用です!)とは別の空気を作ろうとされていることにとても感心します。栗田さんにおかれましては、版元に対する例の申し入れの枠組みに修正と進展があるならば、ホームで励ましをもらいながらおしゃべりするのではなくて、ちゃんとした対外的発表をして欲しいですね。

首都圏栗田会については「文化通信」も「栗田、新たな返品スキーム提案へ 出版社へ理解求める」という記事を配信しています。興味深い、銘記すべき内容なのですが、有料記事なので引用できません。もったいないなあ。「新文化」記事のフラットさとは好対照です。講談社の森専務が何を語ったかが分かります。講談社さんってすごいですね、大阪屋を助け、栗田を助け、SKRの株主でもいらっしゃる。「文化通信」ではさらに同日付で、「栗田の返品問題で出版社が質問書、連名への参加呼びかけ」という記事も配信しています。無料公開されている冒頭は「出版社の有志で構成する「栗田出版販売民事再生債権者有志出版社」はこのほど、栗田が提示した2次卸方式の返品問題について、栗田側代理人に対する質問書を作成、出版社に連名に参加するよう呼びかけている。出版…」(以下有料)。この「栗田出版販売民事再生債権者有志出版社」は特にウェブサイトなどは設置していないようです。簡単なものでもいいので、お作りになった方がいいと思うのですけれども。

【7月13日追記:「図書新聞」ウェブサイトのトップページに掲載された記事「栗田出版販売、民事再生:中小版元(債権者)有志が連盟で質問状提出へ――賛同する出版社に参加を呼び掛け」で、上記の有志出版社による質問書の件が報じられています。】

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◆7月11日午前0時現在。

無意味じゃないし、諦める必要もない。目を覚ましてじっくりやるしかない。まずはもう一度、債権者集会後の版元さんたちの声に共鳴しつつ耳を傾けます。そのあとに続く私のコメントは応答というより自問です。

版元Aさん曰く「出版社の資金繰りはかなり特殊、だから弁護士の回答がまと外れになるのです。途中で栗田出版の人に回答を求める声が続出したのは、業界の資金繰りを良く知っている人に今回のスキームの正当性を納得いく説明をしてほしかったのだと思います」(7月6日)。「出版社で資金繰りをしている人間で売掛金の入金を100パーセントみているバカはいない、ところが今回の件はそれが0パーセントになるのに加えて、他社からの入金も入帳の方式次第で数10パーセント引かれる構図。つまり資金繰りで出版社に与える影響が大きいということ」(7月6日)。

取次にせよ大版元にせよ、中小の資金繰りの実情を大して知らない場合、おそらく「この債権額で潰れるのか」などという他人事を言いかねないだろう。ふだんから経営が安定していない相手の場合、その肩に手をぽんと置いただけで崖下に突き落としてしまうだろう。最後の一撃となるものが痛烈とは限らない。つまり恐れるべきは《低強度の連鎖》だ。《低強度の連鎖》による事故は、誰が悪いとか誰のせいだとは言われにくい。それは一見、ゆるやかな流れに見えるけれど、実は死の直前であって、終点がそれ自身を掴む時はむしろ素早い。《低強度連鎖》を孕んだ脆弱な圏域である出版界においては危機は過ぎ去らず、先延べされただけのことで、その間にも廃業者はひっそりと去っていく。自主廃業なのか、連鎖倒産なのか、その線引が問題なのではなく、その間にある《低強度連鎖》による危機の広がりを正しく構造的に恐れなければならない。

版元Bさん曰く「備忘と疑問。「誰が栗田を殺したか?(敬称略)」①返品入帳を版元が許可しなかった場合、書店さんの入帳はどこまでされるのか?そのシュミレーションは?宙に浮いた返品は誰のもの? ②大阪屋さんへの栗田さんの返品は、委託期間のものでも、それを待たずに一括入帳ということか? ③返品は買手が決めるということであれば、逆送というのは、出版業界だけの慣習であって、一般商流通では違法であるということか? ④今後、出版社への支払いが再開されたときにも、倒産の原因のひとつであると思われる、内払い特払いを継続するのか?よもやしないだろうと思いたい! ⑤約定書はどうするのか?再契約?連帯保証が必要?むしろ逆ですな。連帯保証が無ければ取引できないと出版社が言うべきでしょう。⑥今回の相殺のスキームが有効であれば、とてもじゃないけど怖くてお茶の水と五軒町以外には納品出来ないよという、前例と恐怖を植え付けましたね。25日締め直後の金曜日の15時が怖いよ毎月と。末広町とか」(7月6日)。

一部版元が有する強力な既得条件として知られる「新刊委託に対する内払いや特払い」という特権は、いわゆる自転車操業(本を刷った分だけお金になる)を可能にする悪弊の一つと言うべきだろう――そう語るすべてが都市伝説に属しているというわけではない。内払いや特払いは幽霊ではない。正体を暴くために名前を呼ぶ必要は必ずしもないのだ。出版界の大多数を占める小零細版元にはそれらの特権はない。取次が新生し、再出発しうるとしても、特権を有する版元は自らの条件を放棄しないだろうし、取次もそれを容易には崩せないだろう。強者には生き残ってもらわねばならないというわけだ。

取次口座を版元が開設してもらおうとする際に一番の難関となるのが、連帯保証人探し。一般人ではなく、業界人を探さねばならない。しかし今回の一件についてはもはや版元が先方に連帯保証書を提出せよ、と言ってもおかしくない展開ではある。・・・返品相殺スキームすなわち「預かった本の代金は払わないけど返品するから買い取ってくれ」の衝撃は、版元の恐怖心となってじわじわ広がり、取次(特に3位以下)を襲いつつある。「もう委託出荷なんて怖くてやれないよ」という声があちこちから聞こえる。「新刊委託は本の受託でも寄託でもなく売買契約です、支払時期は先ですがこちらが買い取ったわけですから、ここから誰にどう売ろうが勝手でしょ」という解釈が成り立つ場合、定価販売に拘るつもりのないアマゾンのような勢力を喜ばせるだろう。委託制度と再販制度が同時に崩壊しうる地平ではある。

版元Cさん曰く、「本件を機に獲得したいことが3つある。・送返品明細の版元への開示。・片務的な取引慣行、とくに個人保証事項の撤廃。・老舗版元の正味と支払い条件の見直し。これが為されれば業界の地力は改善する。すこしは、だけど。「多様性」を題目にするなら是非実現してほしい」(7月6日)。「栗田の件、それでも理がある方法で返品ふくむ流通を維持したいので、申入書をつくりました。本日提出してきました。-「返品入帳条件通知 参考書式」」(7月7日)。

中堅取次が新生したり合併したりしたとしても、既得権を有する版元の条件は見なおされないだろう。そこに平等は生まれないだろう。取引は個別のものだからというもっともらしい理由のもとで、株主たちは自分たちに不利なことは拒むだろう。革命は起こらない。ある読者は言いました。「上位まで含めて業界全体が壊れて更地にならないと、本当の意味では生まれ変われないのでは」。ある書き手は答えます。「更地にする必要はないさ。新しい大地がすでに生まれているから。アマゾンのKDPは、商業出版社であろうが一個人であろうが条件や扱いで差別していない。古き人々はその土地とともに滅び去るまで押しあいへしあいしていればいいよ」。これらの会話を引き継ぎうる出版人の答えは様々あるものの――。

Cさんが作成した申入書の返品入帳条件は次の3つ。「一、今回の債権確定にあたっては、2015年6月26日から債権届出期間満了日までの株式会社大阪屋からの返品のうち、6月25日以前の貴社向け搬入分であることが明らかな品目を小社で特定し、民事再生申請前の残債より相殺処理をおこないます。/二、最大限の再生債権削減のため、債権届出期間は法定最大限の期間をご設定ください。/三、上記作業を可能とするため、2015年6月1日以降に出版共同流通株式会社に到着した貴社および株式会社大阪屋あての返品について、書店名・書店コード・品名・ISBNコード・返品到着日の5項目の明細データを貴社の責任においてご開示ください」。債権者集会から導かれうる妥当な帰結。返品明細の重要性にもかかわらず、取次は透明性を嫌っているようだ。こうした議論は20年以上前から、いや、もっと前からある。先輩から私達へ。私たちから若い人々へ。だからといってこれが陳腐な議論であるわけでもないし、不毛であるわけでもないない。問題の根は危機によって露わになるまで問いの矢が刺さりにくいもの。今は矢を放つ時だ。SKRに版元の厳しい目が注がれているのはなぜか、分かる人には分かっていること。

【7月11日18時現在追記:Cさんより補足がツイートされています。「債権者届出期間の法定最大は軸丸弁護士が言っていたとおり4か月なようです。武富士など実例も多数あるので、実務上も無茶な要求ではありません」(7月10日)。「ただ、理屈から言えば債権者の人数金額ともに半数以上が合意すれば、残債の返品相殺をさらに延長するスキームだって可能なはず。リース会社などの一般債権者は優先弁済して。まあ、図書カードは列の後ろに並んでほしいけど」(7月10日)。】

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◆7月11日午前1時現在。

莫大なお金を突っ込んだって、将来的に負の遺産になるだけじゃないの? だから多くの人がNOと言ってるんじゃないの? え?・・・新国立競技場の話ですよ、もちろん。

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◆7月11日13時現在。

重要。「☆拡散希望☆もうすでに知っている方も多いと思われますが、例の往復ビンタの件は、成立しないと大阪屋さんから正式に回答あり。要は、大阪屋さんの支払分から栗田さんの返品を引くことは無く通常通り支払いが実行される、と。26日以降の栗田さん分は(大阪屋さんの)別口座にて管理される、と。他にも重要なとこがあるのですが、近々発表がありそうですので、ボクからは言いません」。

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◆7月11日19時現在。

曰く「贔屓にしていた本屋が七月末で閉店する。出版取次の栗田の民事再生法申請のあおりを食らった形だ。新刊が配本されなければ書店はどうにもならない。余所に乗り換えようにも大手の取次は中小の小売店は相手にしない。こうして町の本屋は消えて行く。寂しいものだ。さて、来月から何処で本を買おう?」(7月10日)。

他帳合でも今月で閉店という書店さんがあります。7月20日にリブロ池袋本店(日販帳合)、7月31日に明正堂NTT上野店(日販帳合)など。前者の「寄せ書き」の動画。後者の「張り紙」の写真。

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◆7月12日正午現在。

適宜、リンクは張りません。

版元さん曰く「栗田出版販売の新しい提案案を聞く。これまた(以下略)。これが通るのであれば、出版業界は緩慢な自殺に向かっていると言わざるを得ない印象」(7月10日)。また曰く「栗田出版に金曜日訪問したところ、債権者説明会の反応を受けて新たなスキームの提案をするべく、裁判所に申請中とのこと。通れば、早々に連絡するそうです。詳しくは書けませんが、前よりマシなレベルに感じました」(7月10日)。また曰く「出版カーストの闇は深い」(7月12日)。

そこに格差がある、と明言することはタブー視するべきではないと思うだけに、版元さんの「闇が深い」という発言には頷かざるをえません。また「緩慢な自殺」というのは恐らくそれなりの数の出版人がジレンマとして感じているのではと思います。

Kさんによる鋭い分析。「EBook2.0 Magazine Weekly」7月1日付記事「日本的出版システムの命数(1):取次の空洞化」曰く、「上述した“出版社会主義”は、紙と活字とインクと輸送手段が限られていた時代のサプライチェーンの最適化として、元々は上から(つまり機能的に)構築されたものだが、出版は一つ一つが、とても人間的行為なので、システムもそこに生きる人間と環境に合わせて社会(世間)化してきた」。「取次の危機は最終段階に入った。取次も書店もそれぞれ淘汰が進み、現在は、取次による書店の吸収、書店による流通機能の拡張という段階に入っている。これに大手印刷会社による書店の吸収も加わる。とうにメディアが大好きな「仁義なき…」の段階に入っているのだが、身近なことには使えないようだ。それに、出版社から書店まで、最近のトレンドは「脱出版」が目立っている。システムの再構築を避けるために、出版社は貸しビルに、取次は一般物流に、書店は雑貨屋に転じている。出版に強い動機を持っているのは、皮肉なことにアマゾンだ。アマゾンがいなければ、出版の衰退は放置され、知識は飾りに、本は小物になるのに任されていたろう」。出版社会主義っていう表現はなかなか含蓄がありますね。なお、書店員さんから記事に寄せられているコメントの通り、再販制と取次の仕入条件(出版社の出荷条件)についてはまず判然と区別しなければならないでしょう(セットとして考える側面も有効とは言え)。

以下は第4位とは別件。書店員Aさん曰く「取次の子会社になると売れる本の配本や注文が、少し幸せになるのでしょうか?」(7月11日)。書店員Bさんの答え「ぶっちゃけるとなれないですね(笑) 仕掛販売とかの指示がガンガン下りてきて、報奨施策、特約縛りまみれになります」。Aさん「それはキツイですね。現場が萎えます」。Bさん「それでも頑張ってやってるんですけど、限界近いですね…」。Aさん「上手く付き合っていくしかないですよね」。Bさん「そうですね…最新POSデータはかなりわかりやすく下りてくるのでそこが強みかもしれません…」。

以下も第4位とは別件。「日本経済新聞」7月2日付気時「書店激戦の池袋、リブロ再出店は賃料と面積が鍵」曰く、「7月20日、書店激戦区・池袋から1つの大型書店がなくなる。西武池袋本店に店を構えてきた「リブロ池袋本店」だ。1975年の開店以降、個性ある店作りで一時代を築いたリブロ池袋本店の閉店は書店業界で大きな話題となっている。■立地によって陳列方法が違う/池袋は「書店の街」と呼ばれることもあり、多くの本屋が存在する。リブロ池袋本店は池袋駅に直結した西武池袋本店の書籍館、別館に店を構え、同じく西武池袋本店の…」(以下は有料)。これに対する読者の反応はCeronで。

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by urag | 2015-07-10 16:55 | 雑談 | Comments(0)


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