2015年 04月 05日
![]() ◎注目新刊:テイラーの大著『神の後に』が2分冊で刊行、ほか 『神の後にⅠ――〈現代〉の宗教的起源』 『神の後にⅡ――第三の道』 マーク・C・テイラー著 須藤孝也訳 ぷねうま舎 2015年2月/3月 本体2,600円/2,800円 A5判並製226頁/236頁 ISBN978-4-906791-41-5/42-2 帯文(上巻)より:世界同時的な右傾化と保守化とは、いったい何なのか。すべての蓄積を傾けた、思想の新たな挑戦。 帯文(下巻)より:対決する二つの原理主義。破局の予感をはらんで高速に回転する世界の現在の外に出る、不可能な挑戦へ! 未来の世代に、〈希望〉をたぐり寄せる道を突破の可能性を残すために。 ★発売済。原書は、After God (University of Chicago Press, 2007)で全1巻ですが、訳書では2分冊。A5判で2段組、合計400頁を軽く超える大冊なので、全1巻だと重すぎるという判断があったのかもしれないと拝察します。テイラーの著書の翻訳は、『さまよう――ポストモダンの非/神学』(井筒豊子訳、岩波書店、1991年)、『ノッツ(nOts)――デリダ・荒川修作・マドンナ・免疫学』(浅野敏夫訳、法政大学出版局、1996年)に続く待望の3冊目。『宗教学必須用語22』(奥山倫明監訳、刀水書房、2008年)というのもありますが、こちらは編書です。 ★マーク・C・テイラー(Mark C. Taylor, 1945-)はコロンビア大学宗教学部教授。初訳本だった『さまよう』は原文の複数のニュアンスを示すために記号を多用した超絶的な訳文となっており、個人的には今なお中毒性の強い印象があります(絶版のままなのが残念)。原著は多数あるものの、その後があまり続いていません。近年の著書には、Crisis on Campus: A Bold Plan for Reforming Our Colleges and Universities (Knopf, 2010)や、Speed Limits: Where Time Went and Why We Have So Little Left (Yale University Press, 2014)などがあります。今回訳された『神の後に』は近年のテイラーの代表作と見ていいと思われます。目次は書名のリンク先をご覧ください。「宗教のことがわからなかったら、今日の世界を理解することはできない。宗教がこれほどまでに大きな勢力を得、危険であったことは、今だかつてなかった」(7頁)とテイラーは序文の冒頭に記しています。 ★「きちんと学べば、宗教がしばしば最も見えにくいところで最も大きな影響を及ぼしていることがわかる。何年もの間、私は頭を悩ませてきたこの困難な問題の痕跡を辿り、宗教がよく隠れている場所に行き着いた。〔・・・〕以下では、どのようにして私たちが21世紀の初めにこの装丁が居の局面に到達することになったのかを分析し、もし未来を恐ろしいものにしたくないのなら、引き受けざるをえない喫緊の挑戦に取りかかるのにより適したオルタナティブなビジョンについて詳しく述べるつもりである」(8頁)。テイラーの言うオルタナティブなビジョンは第七章「神のない宗教」と第八章「絶対性のない倫理」で示されています。序文では次のように非常に端的に紹介されています。 ★「私たちが現在直面している最も差し迫った危険は、全く調停することができない対立へと世界を分断するような、競合する絶対主義同士の争いから発する。最後の二つの章で、異なる価値観を包含するオルタナティブな解釈枠組み(より正確に言えば図式)について論じようと思う。これは、現代の生活の複雑性により適応した政策や構想を促進するものである。存在することが接続することを意味するような世界においては、絶対主義は関係主義に道を譲らなければならない。関係主義の中では、すべてが互いに依存し合い共に進化する。神の後では、神的なものはどこか他の場所に存在するのではなく、それは発生的な想像力なのであり、これが生命という無限の織物を形状化し、反形状化し、再形状化するのである。神のない宗教は、地球上で生命が創造的に発生することを促進し支えるような、絶対性のない倫理のうちに発現する」(12頁)。イスラム国による日本人誘拐殺害事件以後を生きる私たちにとって、テイラーが提示する問題圏は切実なものとなりつつあります。彼自身の術語ではありませんが《より高度な無神論》とでも言うべきものを模索されたい読者にとって本書は多くの示唆を与えてくれるのではないでしょうか。 『次の大量絶滅を人類はどう超えるか――離散し、適応し、記憶せよ』アナリー・ニューイッツ著、熊井ひろ美訳、インターシフト発行(合同出版発売)、2015年4月、本体2,200円、46判並製368頁、ISBN978-4-7726-9544-2 『常磐線中心主義(ジョーバンセントリズム)』五十嵐泰正・開沼博責任編集、河出書房新社、2015年3月、本体2,000円、46判並製296頁、ISBN978-4-309-24694-9 ★『次の大量絶滅を人類はどう超えるか』と『常磐線中心主義(ジョーバンセントリズム)』は発売済。まず『次の大量絶滅を人類はどう超えるか』の原書は、Scatter, Adapt, and Remember: How Humans Will Survive a Mass Extinction (Doubleday, 2013)です。目次は書名のリンク先をご覧ください。「はじめに」と「解説」の立ち読みもできます。版元紹介文によれば著者は気鋭のサイエンス・ジャーナリスト。本書の内容はこう案内されています。「世界の100人を超える最先端科学者らに取材。大災害・大量絶滅の地球史・生命史・人類史を探究し、その要因と対策を徹底考察。都市を変え、地球環境を変え、ついには人類みずからを変えることによって、宇宙へ広がる。――滅亡する前に「離散し、適応し、記憶せよ!」」。アマゾン・コムではサイエンス部門で2013年の年間ベストブックスに輝いたのだとか。各紙誌でも高く評価されており、『ワイアード』誌では「私たちの未来はSF映画も想像できないような奇妙なものかも知れない」と感嘆されています。 ★「私たちが祖先の中の生存者たちから学んだ教訓があるとすれば、死にたくないなら、同じ場所にとどまって変化に抵抗するのは賢い戦術ではないということだ。生き延びる者は広大な地域を歩き回る。ある環境で敵に出会ったら、逃げ出して新たな環境に適応しようとする。戦う勇気よりも、探検する勇気を選ぶのだ」(333-334頁)という著者の言葉は、ある意味で出版人の心にも響いてくるものです。なお、人類が引き起こした動物たちの絶滅の深刻さについて書かれたエリザベス・コルバート『6度目の大絶滅』(鍛原多惠子訳、NHK出版、2015年3月)が先月刊行されています。類書は今後も増えていくと思われます。 ★『常磐線中心主義(ジョーバンセントリズム)』は常磐線の駅々――上野駅、柏駅、水戸駅、泉駅、内郷駅、富岡駅といった諸地域における人と町と産業を観察し記述することを通じて、首都と地方との関係性を新たな視点で見直すべく編まれた本です。「新たな商圏を模索する下町(上野)から、市民のあり方を問いかける郊外(柏)へ。衰退する中心市街地に新たな地域文化が芽吹き始めた県都(水戸)から、風評被害の向こう側を見つめる港町(泉=小名浜)へ。そして、閉山された炭鉱の記憶が息づく町(内郷)と、原子力の夢を見た町(富岡)へ。そしてその間の車窓には、再開発が進むインナーシティ(南千住)や茨城県の農業地帯、空洞化の進む企業城下町(日立)や常磐自動車道を行き来するラッパーたちの風景が差し挟まれる」(19-20頁)と共編者の五十嵐さんは序章で書かれています。本書のクレジットに「編集 柳瀬徹」という記載を発見して驚きました。柳瀬さんのことは青山BCにお勤めの頃から存じ上げており、その後編集者として活躍されているのを目の当たりにしてきました。相変わらずご活躍のようでなによりです。 ◎人文書院さんの2015年3~4月新刊より 『東京ブギウギと鈴木大拙』山田奨治著、人文書院、2015年4月、本体2,300円、4-6判並製250頁、ISBN978-4-409-41081-3 『戦艦大和講義――私たちにとって太平洋戦争とは何か』一ノ瀬俊也著、人文書院、2015年4月、本体2,000円、4-6判並製332頁、ISBN978-4-409-52061-1 『紛争という日常――北アイルランドにおける記憶と語りの民族誌』酒井朋子著、人文書院、2015年3月、本体6,000円、A5判上製308頁、ISBN978-4-409-53048-1 『ハイパー・インフレの人類学――ジンバブエ「危機」下の多元的貨幣経済』早川真悠著、人文書院、2015年3月、本体5,400円、A5判上製390頁、ISBN978-4-409-53049-8 ★『東京ブギウギと鈴木大拙』と『戦艦大和講義』はまもなく発売(4月8日取次搬入予定)。まず『東京ブギウギと鈴木大拙』は大拙の養子(戸籍上は実子)の鈴木アラン勝(まさる:c1916-1971)の知られざる生涯と、子育てに苦悩する大拙の実像に迫った貴重なノンフィクション作品です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。アランさんの子供時代は相当やんちゃで大拙は相当手を焼いたそうで、長じてからも「不肖の息子」として大拙の周囲から煙たがられたようですが、一方では「東京ブギウギ」の作詞者として活躍しています。第5章「大拙とビート世代」では米国における大拙の活動や交友に触れ、晩年の秘書・岡村美穂子さんとの出会いについても紹介されています。内田樹さんは本書に「鈴木大拙という武士的風貌の思想家の弱く、やわらかい部分に触れていて、大拙への親近感が一層深まりました」との推薦文を寄せておられます。 ★次に『戦艦大和講義』は埼玉大学教養学部准教授で日本近現代史が御専門の一ノ瀬俊也(いちのせ・としや:1971-)さんが大学で行った講義「近現代日本の政治と社会」(2011年/2014年)の内容を大幅に改変し追加して書籍化したものとのことです。目次は書名のリンク先でご覧いただけます。「近代日本はなぜ大和を作り、失ったか――大和から日本の近代史を知る」、「大和はなぜ敗戦後の日本で人気が出たのか――日本人の欲望の反映としての大和」、「現在の私たちにとって太平洋戦争とは何なのだろうか――大和から考える」の三部構成で、特に第九講「1974年、なぜ宇宙戦艦ヤマトはイスカンダルを目指して飛び立ったのか」と第十講「そのとき、なぜ青少年はヤマトに熱狂したのか」は子供の頃にヤマトに熱狂した私のような世代にとって興味深い内容です。第一部では吉田満『戦艦大和ノ最期』、第三部では『艦これ』なども取り上げられているので、前後の世代の目も惹くのではないかと思われます。第三部第十四講「もう一方の日本海軍の雄・零戦はなぜ人気があるのか」では戦闘機ゼロ戦がどう語られてきたかについても取り上げられています。 ★『紛争という日常』と『ハイパー・インフレの人類学』は発売済。目次についてはそれぞれの書名のリンク先をご覧ください。『紛争という日常』は20世紀後半の北アイルランドで約30年間にわたって続いた政治紛争の記憶をめぐる民族誌です。2010年にイギリス・ブリストル大学に提出されたPh.D論文を著者自ら翻訳し、大幅な修正を施したものとのこと。著者の酒井朋子(さかい・ともこ:1978-)さんは現在、東北学院大学教養学部准教授でいらっしゃいます。いっぽう『ハイパー・インフレの人類学』は南部アフリカの内陸部に位置するジンバブエ共和国でゼロ年代後半起こったハイパー・インフレーションの人類学的理解を目指した民族誌です。2012年度に大阪大学へ提出された博士論文に大幅な加筆修正を施したもの。著者の早川真悠(はやかわ・まゆ:1976-)さんは久米田看護専門学校で非常勤講師をつとめておられます。どちらも意欲的な研究書で、それぞれ紛争と経済危機に見舞われた日常の困難を生きる人々に直接取材した労作です。 ◎平凡社さんの2015年4月新刊より 『東北の震災復興と今和次郎――ものづくり・くらしづくりの知恵』黒石いずみ著、平凡社、2015年4月、本体3,000円、A5判並製308頁、ISBN978-4-582-54453-4 『保存修復の技法と思想――古代芸術・ルネサンス絵画から現代アートまで』田口かおり著、平凡社、2015年4月、A5判上製344頁、ISBN978-458-220643-2 ★『東北の震災復興と今和次郎』と『保存修復の技法と思想』はまもなく発売。まず『東北の震災復興と今和次郎』は帯文に曰く「80年前の住宅改善事業に学ぶ。1933年の昭和三陸地震の被災地・東北で住民に寄り添いながら行われた社会基盤作りのさまざまな試み」。「震災復興の観点から」と「先人の努力を掘り起こす」の2部構成で、2000年以降に公刊されてきた諸論文に加え、青学での共同研究や東日本大震災以後のワークショップの成果が示されています。いっぽう『保存修復の技法と思想』は、「現在までほぼ未整理のままであった保存修復の技法と思想の変遷を分析するとともに、両者の相関性を明らかにし、その全体像を再構築する」試み(13頁、序章「診断」より)とのことです。2014年に京都大学に提出された博士論文を加筆修正したもの。チェーザレ・ブランディの『修復の理論』(小佐野重利監訳、大竹秀実・池上英洋訳、三元社、2005年)での議論が随時参照されており、同書とともに書店さんに扱っていただきたい力作です。巻末には保存修復学関連の用語集とともに、参考文献や人名索引が付されています。
by urag
| 2015-04-05 21:48
| 本のコンシェルジュ
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