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2015年 02月 08日

注目文庫新刊:佐々木中『仝』河出文庫、など

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◎佐々木中さんのベスト講義録『仝〔どう〕』が河出文庫より

仝――selected lectures 2009-2014
佐々木中著
河出文庫 2015年2月 本体900円 文庫判336頁 ISBN978-4-309-41351-8

カヴァー紹介文より:この災厄と恐慌と蜂起の日々に、佐々木中は動揺も沈みもしなかった。『アナレクタ・シリーズ』の四冊から筆者が単独で行った講演のみ再編集文庫化し、新たに二〇一四年秋に行われた講演「失敗せる革命よ知と熱狂を撒け」を付した、文字通りのヴェリー・ベスト。

目次:
自己の死をいかに死ぬか
喜び、われわれが居ない世界の――〈大学の夜〉の記録
「夜の底で耳を澄ます」(2011年2月6日、京都Mediashopにおける講演)を要約する十二の基本的な註記
砕かれた大地にひとつの場所を――紀伊國屋じんぶん大賞2010受賞記念講演「前夜はいま」の記録
屈辱ではなく恥辱を――革命と民主制について――2011年4月28日、地下大学での発言
変革へ、この熾烈なる無力を――2011年11月17日、福岡公演によるテクスト
「われらの正気を生き延びる道を教えよ」(2011年12月8日、京都精華大学における講演)を要約する二十一の基本的な註記
失敗せる革命よ知と熱狂を撒け――京都精華大学人文学部再編記念講演会「人文学の逆襲」の記録


★発売済。佐々木さんの諸講演が文庫化されました。書名については特に跋文には特に直接的な説明はありませんが、「仝」は「同」の異体字なので、たとえば「些細な語句の訂正以外は文言を変えなかった。それは許さるべきではない。そしてまた、それは必要ではなかった」というくだりから意図を読みとれるかもしれません。

★今回初収録となる講演「失敗せる革命よ知と熱狂を撒け」で佐々木さんはこう切り出します。「この題目〔大学側から与えられた「人文学の逆襲」〕は正しくありません。大学と人文知はそもそも敵対関係にあるのですから。少なくとも両者の結びつきは自明ではありません。〔・・・ルネサンス期の〕人文主義者であると目される人びとは、原則として大学に批判的でした。だから、大学において人文学が重要だ、大学において人文知は守らねばならぬ基礎であるという言説は、歴史的に間違っています」(270-271頁)。

★むろんこれで話が終わるわけではありません。帯文にある「カントになるか、さもなくば革命だ」という言葉はこの講演の末尾に出てくる結論部分です。なぜそう展開していくのかはネタバレせずおきますので、皆さんの楽しみになさってください。大学に、もしくは大学院に進学して何をするのか、迷っている若い読者の皆さんに本書をお薦めします。自分探しに役立つ手頃な啓発書という意味において、ではありません。「ガイド」してもらうことの幻想を捨てたうえで、なおかつ胸にともせる熱い何かを求めている読者こそが本書に価値を見いだせるのではないかと思います。


◎ウィトゲンシュタインの「白熱教室」――12月~3月の文庫新刊より

『ウィトゲンシュタインの講義 数学の基礎篇――ケンブリッジ1939年』コーラ・ダイアモンド編、大谷弘・古田徹也訳、講談社学術文庫、2015年1月
『作用素環の数理――ノイマン・コレクション』J・フォン・ノイマン著、長田まりゑ編訳、岡安類・片山良一・長田尚訳、ちくま学芸文庫、2015年1月
『物と心』大森荘蔵著、青山拓央解説、ちくま学芸文庫、2015年1月
『観無量寿経』佐藤春夫訳、石田充之解説、ちくま学芸文庫、2015年1月
『召使心得 他四篇――スウィフト諷刺論集』ジョナサン・スウィフト著、原田範行編訳、平凡社ライブラリー、2015年1月
『三国志演義(四)』井波律子訳、講談社学術文庫、2014年12月
『ビヒモス』ホッブズ著、山田園子訳、岩波文庫、2014年12月
『法の概念 第3版』H・L・A・ハート著、長谷部恭男訳、ちくま学芸文庫、2014年12月

昨年末から念頭にかけて思わずうなった文庫新刊と言えば、年末は『ビヒモス』と『法の概念』、年始はウィトゲンシュタイン講義」第2弾と「ノイマン・コレクション」第2弾でした。ホッブズはこのところ新訳が立て続けに刊行されていて、12月には『リヴァイアサン』の新訳(全2巻予定、角田安正訳、光文社古典新訳文庫)が出ただけでなく、『ビヒモス』の初訳が出たのはなんともありがたいことでした。さらにハートのような、名著とはいえ文庫化など望むべくもないと信じて疑わなかった『法の概念』の新訳が出るとは。単行本としては、矢崎光圀訳でみすず書房より1976年に刊行されて以来ロングセラーを続け現在も入手可能(ただし在庫僅少)なだけに、余計に驚きが大きかったように思います。

『ウィトゲンシュタインの講義 数学の基礎篇』はアリス・アンブローズ編『ウィトゲンシュタインの講義 ケンブリッジ1932-1935年』(野矢茂樹訳、講談社学術文庫、2013年10月)に続く文庫版講義録第2弾。しかも、初訳です。単行本ではなく最初から文庫で、という計らいが実に嬉しいです。帯文に「白熱講義」という謳い文句が踊り、脳内では勝手に「白熱教室」とつい変換してしまうわけですが、これはあながち大げさな連想ではありません。「数学の基礎」と聞くとつい身構えてしまいますが、敬遠する必要はありません。本書から伝わってくる本気と熱気に読者はたちまち惹きこまれるのではないかと思います。アラン・チューリングをはじめ、豪華な出席者とのやりとりも興味深いです。

『作用素環の数理』は『数理物理学の方法』(伊東恵一編訳、新井朝雄ほか訳、ちくま学芸文庫、2013年12月)に続く「ノイマン・コレクション」の第2弾です。論文「作用素環について」4篇と、晩年の講演「数学者」を併載しています。講演では数学をその経験的な起源から遠ざけることの危険について語られています。同書と同じく1月には、大森荘蔵さんの『物と心』(東京大学出版会、1976年)もちくま学芸文庫から刊行されています。近年、大森さんの著作が少しずつ文庫で読めるようになってきたことは素晴らしいことです。帯文にある通り、『物と心』は、「対象と表象、物と心といった二元論を否定し「立ち現われ一元論」を打ち立てた代表作」です。ウィトゲンシュタイン、フォン・ノイマン、大森といった第一級の知性が文庫で味わえるというこの贅沢さ。

『三国志演義(四)』はこれで全4巻が完結です。佐藤春夫訳『観無量寿経』の親本は法藏館より1957年に刊行されたもの。文庫化にあたって阿満利麿さんによる解説「「凡夫」のための経典『観無量寿経』」が新たに付されています。佐藤春夫は死後半世紀が経過したため、今後著作の再刊が増えていくのではないかと思われます。たとえば来月の岩波現代文庫では佐藤訳の『現代語訳 方丈記』が発売される予定。弊社でも別の本の復刊計画があるのですが、いずれご披露できれば幸いです。

『召使心得 他四篇』はライブラリー・オリジナルの新訳で、表題作のほか、「ビカースタフ文書」「ドレイピア書簡」「慎ましき提案」「淑女の化粧室」を収録。副題にある通りこれは諷刺論集なので、たとえば子供の貧困を社会的に解決するための残酷な打開策を披露した「慎ましき提案」は真に受けるととんでもないことになります。スウィフトがもし現代に生きていたら、きっと健筆をふるうでしょうが、「正しさ」にがんじがらめになった現代人のほとんどはもはや彼の皮肉を理解できないかもしれません。だからこそ今回の新訳は時宜にかなったものだと言えます。

財布が追いつかないためまだ購読していませんが、12月から2月8日現在の時点までの注目文庫新刊には以下のものがありました。文庫本は年々高額になっており、すべてを買い揃えるにはそれなりの財力と本を置く場所が必要です。本が贅沢品だとは言いたくありませんけれど、そうしたものになりつつあることは否定できないのでしょうか。

『奇跡を考える――科学と宗教』村上陽一郎著、講談社学術文庫、12月
『全国妖怪事典』千葉幹夫編、講談社学術文庫、12月
『テンプル騎士団』篠田雄次郎著、講談社学術文庫、12月
『ジャーナリストの生理学』バルザック著、鹿島茂訳、講談社学術文庫、12月
『怒りの葡萄〔新訳版〕』上下巻、ジョン・スタインベック著、黒原敏行訳、ハヤカワepi文庫、12月
『新宿駅最後の小さなお店ベルク――個人店が生き残るには?』井野朋也著、柄谷行人解説、吉田戦車解説、ちくま文庫、12月
『ヒトラーのウィーン』中島義道著、ちくま文庫、1月
『チベット旅行記(上)』河口慧海著、講談社学術文庫、1月
『フランケンシュタイン』メアリー・シェリー著、芹澤恵訳、新潮文庫、1月
『聖なる侵入〔新訳版〕』フィリップ・K・ディック著、山形浩生訳、ハヤカワ文庫SF、1月
『芸術論20講』アラン著、長谷川宏訳、光文社古典新訳文庫、1月
『楽しみと日々』プルースト著、岩崎力訳、岩波文庫、1月
『民主主義の本質と価値 他一篇』ハンス・ケルゼン著、長尾龍一・植田俊太郎訳、岩波文庫、1月
『新編 中国名詩選(上)』川合康三編訳、岩波文庫、1月
『世界史の構造』柄谷行人著、岩波現代文庫、1月
『さっさと不況を終わらせろ』ポール・クルーグマン著、山形浩生訳、ハヤカワ文庫NF、2月
『ヒーローを待っていても世界は変わらない』湯浅誠著、朝日文庫、2月

最後に、今月から来月にかけての文庫新刊を見ていきます。なんと言っても3点の新訳、バザンの主著『映画とは何か』、マクルーハン『メディアはマッサージである』、ヤスパース『われわれの戦争責任について』の刊行が楽しみです。

2月10日『チベット旅行記(下)』河口慧海著、講談社学術文庫
2月10日『最暗黒の東京』松原岩五郎著、講談社学術文庫
2月10日『差別感情の哲学』中島義道著、講談社学術文庫
2月10日『地名の研究』柳田國男著、講談社学術文庫
2月17日『映画とは何か(上)』アンドレ・バザン著、野崎歓ほか訳、岩波文庫
2月17日『新編 中国名詩選(中)』川合康三編訳、岩波文庫
2月17日『超国家主義の論理と心理 他八篇』丸山眞男著、古矢旬編、岩波文庫
2月20日『クラッシャージョウ12 美神の狂宴』高千穂遥著、ハヤカワ文庫JA
2月25日『ユートピアと性――オナイダ・コミュニティの複合婚実験』倉塚平著、中公文庫
2月25日『孟子』佐野大介訳著、角川ソフィア文庫
2月25日『チベットの先生』中沢新一著、角川ソフィア文庫
2月28日『大渦巻への落下・灯台――ポー短編集III SF&ファンタジー編』巽孝之訳、新潮文庫

3月04日『日本人の死生観――蛇・転生する祖先神』吉野裕子著、河出文庫
3月04日『メディアはマッサージである――影響の目録』マーシャル・マクルーハン+クエンティン・フィオーレ著、門林岳史訳、河出文庫
3月10日『素描 埴谷雄高を語る』講談社文芸文庫編、講談社文芸文庫
3月10日『科学哲学への招待』野家啓一著、ちくま学芸文庫
3月10日『知性の正しい導き方』ジョン・ロック著、下川潔訳、ちくま学芸文庫
3月10日『われわれの戦争責任について』カール・ヤスパース著、橋本文男訳、ちくま学芸文庫
3月12日『ぼくはいかにしてキリスト教徒になったのか』内村鑑三著、河野純治訳、光文社古典新訳文庫
3月17日『映画とは何か(下)』アンドレ・バザン著、野崎歓ほか訳、岩波文庫
3月17日『新編 中国名詩選(下)』川合康三編訳、岩波文庫
3月17日『D・G・ロセッティ作品集』南條竹則・松村伸一編訳、岩波文庫
3月17日『現代語訳 方丈記』佐藤春夫著、岩波現代文庫
3月17日『ファンタジーと言葉』アーシュラ・K・ル=グゥイン著、青木由紀子訳、岩波現代文庫
3月20日『色のない島へ――脳神経科医のミクロネシア探訪記』オリヴァー・サックス著、大庭紀雄・春日井晶子訳、ハヤカワ文庫NF
3月20日『新版 徒然草 現代語訳付き』兼好法師著、小川剛生訳、角川ソフィア文庫
3月28日『レッドアローとスターハウス――もうひとつの戦後思想史』原武史著、新潮文庫

by urag | 2015-02-08 22:17 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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