2015年 01月 25日
![]() ◎フーコー晩年の講義録(2012年刊行)の訳書が早くも登場 悪をなし真実を言う――ルーヴァン講義1981 ミシェル・フーコー著 市田良彦監訳 上尾真道・信友建志・箱田徹訳 河出書房新社 2015年1月 本体6,200円 46判上製456頁 ISBN978-4-309-24689-5 帯文より:フーコーが西欧思想史を総括して、その「問題系」を語った唯一の講義。1981年、フーコーがルーヴァン・カトリック大学で集中講義を行う。それは告白と裁判を主題にしつつ、『狂気の歴史』から『性の歴史』にいたるフーコーの全思考を凝縮して展開するとともに、その「ミッシング・リンク」をもあきらかにするものだった――。 目次: 編集者による注記(ファビエンヌ・ブリヨン&ベルナール・E・アルクール) 開講講義 1981年4月2日 1981年4月22日の講義 1981年4月28日の講義 1981年4月29日の講義 1981年5月6日の講義 1981年5月13日の講義 1981年5月20日の講義 講義の位置づけ(ファビエンヌ・ブリヨン&ベルナール・E・アルクール) 訳者あとがき(市田良彦) ★『悪をなし真実を言う』は発売済。原書は、Mal faire, dire vrai - Fonction de l'aveu en justice - Cours de Louvain, 1981 (Presses universitaires de Louvain, 2012)です。周知の通りコレージュ・ド・フランスでのフーコーの講義は『ミシェル・フーコー講義集成』として筑摩書房から訳書が刊行されていますが(2015年1月現在未完結)、今回翻訳されたルーヴァン・カトリック大学での講義が行われた1981年4月2日~5月20日というのは、『講義集成』では第10巻『主体性と真理』(未訳、原書Subjectivité et véritéは昨年5月スイユより刊行)に収められた1981年1月7日から4月1日までの講義の直後にあたります。その翌年のコレージュ・ド・フランスでの講義は1982年1月6日から3月24日に行われ、第11巻『主体の解釈学』(廣瀬浩司・原和之訳、2004年)として公刊済です。 ★いわゆる「後期フーコー」を知る上で不可欠となるルーヴァン講義は、開講講義の言葉を借りれば「個人が自分に行使される権力とどのように結びつき、どのようにその結びつきを受け入れるか」(32頁)を問い、さらに「主体どうしが、各人が誓約する真理陳述の形式のなかで、またその形式により、どのように実際に結びついているか」(33頁)を問います。「真実を言うこと(=パレーシア)」形式を問い、「真偽をめぐるさまざまなゲームはどのように異なり、どのような形式ではじめられるか」が問われるわけです(33頁)。自身の研究を歴史家のものとも哲学者のものとも規定しないフーコーの歩みが、越境的な知的刺激を読者にいまなお与え続けているのは、歴史を経てもなお続いていく問題系に果敢に挑戦しているからではないかと感じます。 ★河出書房新社さんの最近の新刊には上記のほかに、河出書房新社編集部編『『論語』入門――古いからこそいつも新しい思想』(河出書房新社、2015年1月、本体1,650円、ISBN978-4-309-24688-8)や、岡和田晃/マーク・ウィンチェスター編『アイヌ民族否定論に抗する』(河出書房新社、2015年1月、本体1,900円、ISBN978-4-309-22620-0)などがあります。前者は版元紹介文によれば『論語』の「世界と思想の魅力を新旧の多様な角度からさぐ」ったもので、安田登、安富歩、小倉紀蔵、石川忠司、中島隆博、の各氏を始め多彩な寄稿やインタビューが並び、谷崎潤一郎の「麒麟」や、中島敦「弟子」といった小説の再録が花を添えています。後者は「札幌市議の「アイヌ民族、いまはもういない」発言。ネット上にあふれ、街頭にも飛び出したアイヌへのヘイトスピーチ。これらに多様な論者が「NO」を突きつける初めての一冊。緊急刊行!」とのこと。 ★また、2月6日発売の河出文庫新刊では、佐々木中さんの『仝(どう): selected lectures 2009-2014』(河出文庫、2015年2月、ISBN978-4-309-41351-8)が刊行されます。こちらは「『アナレクタ・シリーズ』の四冊から筆者が単独で行った講演のみ再編集文庫化し、新たに2014年秋に行われた講演「失敗せる革命よ知と熱狂を撒け」を付した、文字通りのヴェリー・ベスト」と告知されています。 ◎共和国さんが4か月ぶりに第4弾となる新刊を発売! 『お前は俺を殺した』佐々木治己著、共和国、2015年2月、本体3,000円、ISBN978-4-907986-05-6 『失われた夜の歴史』ロジャー・イーカーチ著、樋口幸子・片柳佐智子・三宅真砂子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2015年1月、本体3,200円、ISBN978-4-7726-9543-5 『フランス現代思想史――構造主義からデリダ以後へ』岡本裕一朗著、中公新書、2015年1月、本体880円、ISBN978-4-12-102300-1 『バーブル・ナーマ――ムガル帝国創設者の回想録 3』ザヒールッ・ディーン・ムハンマド・バーブル著、間野英二訳注、東洋文庫、本体3,200円、ISBN978-4-582-80857-5 『川村湊自撰集(1)古典・近世文学編』川村湊著、作品社、2015年1月、本体2,800円、ISBN978-4-86182-514-9 ★『お前は俺を殺した』は共和国さんの待望の新刊第4弾。まもなく発売で2月5日頃から書店さんの店頭でお目見えのようです。舞台作品の原作や書き下ろしなど、全6篇を収録した佐々木さんの第一作品集。解説は演劇評論家の高橋宏幸さん(来月『ガリア戦記』の新訳を岩波書店から刊行される予定の同姓同名の高橋さんとは別の方)が寄稿されています。既刊書に増して攻めている印象のブックデザインは宗利淳一さんによるもの。初版本のみ「寒冷紗巻き製本・天アンカット」仕様とのことで、現物をぜひ手にとってご覧ください。創業時より書評紙に掲載されている同社の広告「ツキダシ・レプブリカ」第37弾(!)によれば、2月末には『遊郭のストライキ――女性たちの20世紀・序説』という新刊が予定されているのだとか。このほかに3月までにもう何冊か発売となることが予告されています。 ★『失われた夜の歴史』は発売済。アメリカの歴史家ロジャー・イーカーチ(A. Roger Ekirch)の初訳本になります。原書は、At Day's Close: Night in Times Past (W. W. Norton & Company, 2005)で、イーグルトンやスタイナーから好評を得ているほか、数々の賞を受賞しています。電気照明によって煌々と照らされるようになる「産業革命以前の西洋社会」において、暗闇が支配する夜は人間にとってどのような時空間だったのか、様々な史料を博捜しつつ解き明かしています。暗闇が排除される以前と以後の人間はもはや同じ存在とは呼べないかもしれません。二者間の睡眠は同質とは言えず、暗闇の神秘性や危険性を排除してきた近代人の感性とは違う生があるのです。そうした議論の要点をめぐっては、こちらの動画で著者自身によるコメントが視聴できます。イーカーチさんは3月に来日が予定されているそうで、こちらで詳細情報をご確認いただけます。 ★『フランス現代思想史』は発売済。「レヴィ=ストロースの「構造主義」とは何か」「構造主義的思想家たちの興亡――ラカン・バルト・アルチュセール」「構造主義からポスト構造主義へ――フーコー」「人間主義と構造主義の彼方へ――ドゥルーズ=ガタリ」「脱構築とポスト構造主義の戦略――デリダ」「ポスト構造主義以後の思想」の6章立てで、昨年の中公新書『フランクフルト学派』と対になるような、非常に端的でコンパクトな「現代思想入門」になっています。「今後ホットな話題になるのでは」と著者が「はじめに」で展望している「ポスト構造主義以後」の潮流については、ヌーヴォー・フィロゾフ(グリュックスマンとアンリ=レヴィ)、リオタール、フェリー/ルノー、バディウ、ランシエール、ナンシー、レジス・ドブレ、スティグレール、が手際よく紹介されています。限られた紙数の中でキーワードをしっかり押さえておられるのは長年この主題に取り組んでこられた作業の賜物かと思います。 ★『バーブル・ナーマ 3』は発売済。本書をもって全3巻完結となります。第3巻はバーブルがインドに王朝を建ててから47歳の病没によって絶筆となるまでの記録が収められ、付録として後代のアブル・ファズルによる『アクバル・ナーマ』からバーブル関連の記述5篇が訳出されています。巻末には訳者による「あとがきにかえて――『バーブル・ナーマ』研究の回顧」のほか、人名索引が配されています。東洋文庫次回配本は2月、『論語集注4』です。 ★なお平凡社さんでは来月あたりから、レリスの自伝文学大作『ゲームの規則』全4巻(岡谷公二訳)のまず第I巻「ビフュール」と第II巻「フルビ」が発売になるようです。岡谷さんによる訳本『ビフュール』(筑摩書房、1995年)の刊行から約20年、ついに「La Règle du jeu」の完訳に向けて大きな一歩、さらに一歩が踏み出されるわけです。 ★『川村湊自撰集(1)古典・近世文学編』は発売済。同自撰集は全5巻で、1年をかけて刊行される予定です。第1巻「古典・近世文学編」は15篇の論考を収めています。帯文に曰く「『徒然草』を論じた最初期のデビュー作を基点に、馬琴・南北・篤胤などの古典を鮮やかに読み解く三十余年の批評活動の原点をなす彫心の論考」。巻末の「著者解題」では当時のエピソードも簡潔に記されていて興味深いです。次回配本は4月刊、第2巻「近代文学編」です。 ★作品社さんではまもなく、ジャック・アタリ『ユダヤ人、世界と貨幣――一神教と経済の4000年史』(的場昭弘訳)が発売予定とのことです。また、来月にはフレドリック・ジェイムソン『『資本論』講義』(野尻英二訳)が予定されています。 ◎『新版 象徴哲学大系』第III巻など:人文書院さんの新刊 『カバラと薔薇十字団』マンリー・P・ホール著、吉村正和・大沼忠弘・山田耕士訳、人文書院、2015年1月、本体4,000円、ISBN978-4-409-03085-1 『評伝 カンパネッラ』澤井繁男著、人文書院、2015年1月、ISBN978-4-409-04106-2 『司馬遼太郎 東北をゆく』赤坂憲雄著、人文書院、2015年1月、本体2,000円、ISBN978-4-409-16097-8 ★『カバラと薔薇十字団』は発売済。『新版 象徴哲学大系』の第III巻です。カバラ、タロット、薔薇十字団、フリーメーソンを扱います。シリーズの中ではもっとも一般受けするだろう内容がてんこ盛りの一冊です。巻頭カラー図版では、シェイクスピアの肖像画に半透明紙でフランシス・ベーコンの肖像画を重ねてみることができる頁があります。シェイクスピアの正体をめぐっては本書の「ベーコンとシェイクスピアと薔薇十字団員」で考察されています。最終回配本となる第IV巻『錬金術』は3月発売予定。 ★『評伝 カンパネッラ』は発売済。澤井繁男さんのご専門はイタリア・ルネサンス文化で、数々の研究書や入門書のほか、カンパネッラの『ガリレオの弁明』(工作舎、1991年;ちくま学芸文庫、2002年)やガルダーノ、デッラ・ポルタなどの訳書などを手掛けられています。今回の新刊は、研究者であると同時に小説家としてご活躍されている著者ならではの手法(史実への肉迫と細部への想像力)によってカンパネッラの生涯を描き出されています。カンパネッラ像に迫るもう一篇「神の誘惑」を収録した『若きマキアヴェリ』(東京新聞出版局、2013年6月)との併読をお薦めします。 ★『司馬遼太郎 東北をゆく』はまもなく発売。30日(金)取次搬入とのことですので、書店さんの店頭に並び始めるのは2月からかと思われます。本書は司馬の名著『街道をゆく』に描かれた東北紀行を豊かに読み解く書き下ろしです。同書の刊行を記念し、2月11日(水)19:30よりジュンク堂書店池袋本店4F喫茶コーナーで著者の講演会「いまなぜ司馬遼太郎なのか」が行われます。要予約、料金はドリンク付きで1000円です。
by urag
| 2015-01-25 23:03
| 本のコンシェルジュ
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