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2014年 11月 30日

注目新刊:ガタリ『リトルネロ』みすず書房、など

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◎ガタリ生前最後の「詩的自伝」

リトルネロ
フェリックス・ガタリ著 宇野邦一・松本潤一郎訳
みすず書房 2014年11月 本体4,800円 A5判上製184頁 ISBN978-4-622-07825-8

カヴァー裏紹介文より:「ポルト=ジョワの丘陵地帯のほうへ、ポールと自転車で。詩節、林檎。群れ、リエカ。誘拐。北斎、ベゴニア。いつもいっしょだったあの歳月の後。別離という試練はカールを茫然自失させ、余裕もなく立ち直ることもできず、彼は現実に直面するしかなかった。ある神秘的遺産を除いて。けっして宗教ではない。けっして超越性ではない。ひび割れた内在性、まったく未熟でもある。それはいつも何かの役に立つだろう。自己と宇宙の征服。ヴィクトールの死の代償として鋳固められた魔術的全能。彼はついに何がなんでもベルナデットに対する愛を強めることになった。そこにどれほど距離があろうと。だが他者、第三者が木霊し、侵入し、痛みを与える。ジョフレーがいつもいたるところにいる。カオスモーズの指針。…」/ジル・ドゥルーズいわく、「なんと感動的で不思議なテクストでしょう、幼少期、芸術、思考が混じりあっている。まるでフェリックスが戻ってきたような、あるいはむしろ、いつもここにいたかのようです」。1992年、死の直前に書きあげられたカオスミックな詩的自伝。157の断章からなる「さえずり機械」にして、みずから提唱した「リトルネロ分析」の試み。デュイゾンのガタリ邸で1984年に実施されたインタビュー「分裂分析のほうへ」を付す。

目次:
リトルネロ (宇野邦一・松本潤一郎訳)
付録 分裂分析のほうへ (宇野邦一訳・聞き手)
解説 ガタリ、リトルネロ、プルースト (宇野邦一)
訳者あとがき

★発売済。原書は、Ritournelles (Lume, 2007)です。原書では手のひらサイズの小さな本でしたが、訳書では大きさも厚さも倍以上になり立派な仕上がりです。単語の羅列が多く、言葉遊びを含み、非常に感性的で詩的な著作であるため、フランス語での朗読には向いているでしょうが、日本語に移しかえるのは相当に難しかっただろうことが想像できます。実際「訳者あとがき」では苦労されたことが綴られています。もともとの原稿は5倍も長いものだったようです。呪文とも暗号ともつかない言葉の粒子が157回の驟雨となって繰り返し(リトルネロ=リフレイン)、読者を襲います。

★解説で宇野さんはこう説明されています。「『リトルネロ』は、大部分が名詞、固有名、あるいは名詞どめの文章からなり、リズムの面からていねいに調律されている。日々の出来事、よみがえる記憶、夢、悪夢、出会い、性愛、旅、政治活動、さまざまな都市、風景が描かれているが、それらの記述はきわめて簡略で、リズム(リトルネロ)のほうが優先しているので、しばしば何が語られているのか不可解である。〔…〕『リトルネロ』にはジョイス的な言語実験の反響とジョイスへのオマージュがたしかに含まれている」(155頁)。

★付録の「分裂分析のほうへ」はもともと『現代思想』1984年9月臨時増刊号「総特集ドゥルーズ=ガタリ」に「スキゾ分析の方へ」と題して掲載されたインタヴューですが、巻末注記によれば「再録にあたり録音テープを再聴し正確を期すとともに訳語も一部改めている」とのことです。同臨時増刊号には宇野邦一さんに宛てられたドゥルーズによる1984年7月25日付の手紙が「いかに複数で書いたか」と題され掲載されていて、こんな印象的な言葉があります。「フェリックスからの衝撃によって、私は奇妙な概念たちが住む未知の領土にやってきたという印象をもった。この本〔『千のプラトー』〕は私を幸福にし、私にとって決して汲めどもつきぬものになった」(臨時増刊号、11頁)。

★みすず書房さんの続刊予定には以下の書目があります。

12月08日『21世紀の資本』トマ・ピケティ著、山形浩生・守岡桜・森本正史訳、本体5,500円、ISBN978-4-622-07876-0
12月22日『哲学への権利 1』ジャック・デリダ著、西山雄二・馬場智一・立花史訳、本体5,600円、ISBN978-4-622-07874-6
01月23日『形式論理学と超越論的論理学』エトムント・フッサール著、立松弘孝訳、本体7,000円、ISBN978-4-622-07850-0

ピケティの新刊はビジネス人文書の年末商戦における台風の目です。すでに電子書籍で先月、「週刊東洋経済eビジネス新書」No.76として『トマ・ピケティ『21世紀の資本論』を30分で理解する!』(池田信夫/平松さわみほか著)が発売されており、まもなく竹信三恵子『ピケティ入門――『21世紀の資本』の読み方』(金曜日、12月8日発売予定)、『現代思想 2015年1月臨時増刊号 ピケティ『21世紀の資本』を読む――格差と貧困の新理論』(青土社、12月12日発売予定)がみすずの新刊と前後にして来月発売されます。さらには来年年頭には、フランスの「リベラシオン」紙でのピケティの連載をまとめた『トマ・ピケティの新・資本論』(村井章子訳、日経BP社、2015年1月23日)も刊行されます。興味深いのはトマ・ピケティ(Thomas Piketty)は1971年生まれということで、日本で言うと東浩紀さんや門倉貴史さん、北田暁大さん、森川嘉一郎さん、西山雄二さん、廣瀬純さん、矢部史郎さん、山本貴光さんをはじめ、同い年がそれなりの人数いるのです。ピケティを中心に経済学書フェアをやるのは普通すぎるので、あるいは71年繋がりでリストを組んでみるのもいいかもしれません。

このほかのみすず書房さんの近刊としては、ハンナ・アーレント『活動的生』(森一郎訳、本体6,500円、ISBN978-4-622-07880-7)が1月19日刊で予告が出ていましたが、近刊情報のページからいったん下げられたようなので、現在発売日調整中といったところかと思われます。周知の通り『活動的生』は『人間の条件』のドイツ語版です。


◎山本貴光さんの雑誌連載が書籍化

山本貴光『文体の科学』新潮社、2014年11月、本体1,900円、ISBN978-4-10-336771-0

★季刊誌『考える人』の連載「文体百般――ことばのスタイルこそ思考のスタイルである」(2011年冬号~2013年春号)を改稿し単行本化したものです。帯文はこうです。「電子時代の文章読本。文体は人なり。長短、配置、読む速度・・・目的と媒体が、最適な文体を自ら選びとった。古代ギリシャの哲学対話から、聖書、法律、数式、広告、批評、文学、ツイッターまで。理と知と情が綾なす言葉と人との関係を徹底解読する」。「あとがき」で山本さんは「デジタル装置が広く使われるようになってきて、改めてものを読んだり書いたりすることについて考え直すきっかけを与えられた〔・・・〕。そうした状況を前にして、「文体」に目を向けてみる必要がありそうだと思った」(267頁)と書かれています。本書は出版人や書店人が直面している常日頃の課題への意識を深めるための見事な啓発書となっています。

★本文での様々な書物への言及はビブリオフィルの快楽を垣間見せてくれます。また、細かい文字で2段組みになっている巻末の「参考文献・映像」も見逃せません。本書の文献案内に記載されている書目はだいたい全部見知っているし現物に触れたこともある、と言える方は相当な読書家だろうと思います。私はここでレオ・シュピッツァーの『言語学と文学史――文体論事始』(塩田勉訳、国際文献印刷社、2012年、ISBN978-4-902590-22-7)を見つけて泣きそうになりました。こんな重要な本にまったく気づいていなかったなんて、人文書に関わる出版人として恥ずかしいかぎりです。どういうわけかリアル書店の店頭在庫を調べようとしてもヒットしません(版元サイトやアマゾンなど、ネットでは購入可能)。2年前には果たして店頭に並んでいたのでしょうか。まったく山本さんの探求力には脱帽です。


◎藤原書店さんの新刊より

ジャック・ル=ゴフ『ヨーロッパは中世に誕生したのか?』菅沼潤訳、藤原書店、2014年11月、本体4,800円、ISBN978-4-86578-001-7
石牟礼道子『不知火おとめ――若き日の作品集1945-1947』藤原書店、2014年11月、本体2,400円、ISBN978-4-89434-996-4

★2点とも発売済。『ヨーロッパは中世に誕生したのか?』の原書は英仏独西伊の5か国で共同出版された、L'Europe est-elle née au Moyen-Âge ? (Seuil, 2003)です。帯文に曰く「アナール派を代表する中世史の最高権威が、4世紀から15世紀に至る「中世」10世紀間に、古代ギリシア・ローマ、キリスト教、労働の三区分などの諸要素を血肉化しながら、自己認識として、そして地理的境界としての「ヨーロッパ」が生みだされるダイナミックな過程の全体像を明快に描く、ヨーロッパ成立史の決定版」。著者は残念ながら今年4月1日に亡くなっています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。特に第五章「都市と大学の「黄金期」ヨーロッパ――十三世紀」の第III節「教育と大学の成功」はこの世紀の知識人たちを概観する上で役に立ちます。この節についてもう少し読みたいという方は、ル=ゴフの初めての訳書である『中世の知識人――アベラールからエラスムスへ』(柏木英彦・三上朝造、岩波新書、1977年)をひもとかれると良いと思います。絶版本ではありますが、古書での入手はさほど難しくない方です。

★『不知火おとめ』は未発表処女作を含む初期作品集です。帯文によれば「16歳から20歳の期間に書かれた未完歌集『虹のくに』、代用教員だった敗戦前後の日々を綴る「錬成所日記」、尊敬する師宛ての手紙、短篇小説・エッセイほかを収録」。著者は「あとがき」で「十代のとき書いたものが、本になるとは思わなかった」と述懐しておられます。小説第一作となる「不知火をとめ」(1947年7月3日)、習作ノートと思しい「ひとりごと」(1946年12月11日~1947年7月20日)、恩師への手紙「徳永康起先生へ」(1946年1月15日~7月21日)、これらが本書で初めて活字化されたものです。終戦前後に書かれた「錬成所日記」の抑制された生々しさが印象深いです。巻頭には著者の若い頃の写真の数々が掲載されています。

★藤原書店さんの12月新刊には、アラン・コルバン『身体はどのように変わってきたか――16世紀から現代まで』(小倉孝誠・鷲見洋一・岑村傑訳、ISBN978-4-89434-999-5)が予告されています。コルバンのこの本がISBNの出版社記号「89434」での最後の本であり、ル=ゴフでは新しい記号「86578」が使用されています。


◎既刊書&近刊書より

ロナルド・ドゥオーキン『神なき宗教――「自由」と「平等」をいかに守るか』森村進訳、筑摩書房、2014年10月、本体2,100円、ISBN978-4-480-84725-6

★『神なき宗教』は先月発売。原書は、Religion without God (Harvard University Press, October 2013)で、2013年2月14日に亡くなったドゥオーキンの遺作です。2011年12月にスイスのベルン大学で行った「アインシュタイン講義」に基づき、闘病の中で若干の改訂を行ったものだそうです。帯文(裏表紙側)はこうです。「宗教上の理由で兵役を拒否する人と、自らの信念に基づいて徴兵に応じない人に、裁判官は同等の判決を下すことができるだろうか? 信仰者の兵役が免除されて、無神論者にはそれが許されないとするならば、法の下の「平等」は、いかに守られるのか? 宗教という難題を前にして、法に正解はあるのか? 法哲学の巨人が、対立の根底に横たわる問いに挑む」。巻末には訳者解説「ドゥオーキンと「神なき宗教」」、トマス・スキャンロンによる「ロナルド・ドゥオーキンをしのぶ言葉」(2013年10月2日付)、人名索引と事項索引が付されています。

★目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。世界各地で様々な宗派の原理主義が台頭しているこんにち、宗教をめぐる諸問題は避けて通れない問題です。本書は有神論と無神論の対立的構図を乗り越えようとする試みで、リチャード・ドーキンスのベストセラー『神は妄想である』(垂水雄二訳、早川書房、2007年)が示したような脱宗教の方向性とは違う道筋を志向しています。キーワードのひとつは「宗教的無神論」です。その中にはスピノザやアインシュタイン、カール・セーガンらが数えられていますし、もっと興味深いことには、パウル・ティリッヒを宗教的有神論者であると同時に宗教的無神論者でもあると評価しています(47頁参照)。ここはもう少しドゥオーキンの解釈を詳しく読みたかったところですが、今となっては本書に示された鍵を手に各自がティリッヒの著作に立ち返って思索するしかありません。例えば本書で引用されている「「人格神」の問題」(『ティリッヒ著作集(10)出会い――自伝と交友』所収、白水社、1978年)から読み始めてみるのが良いと思われます。

★『神なき宗教』のほかのこれまで言及していなかった既刊書と近刊書についていくつか備忘録を記しておきます。まず10月刊では:

ハンス・ブルーメンベルク『われわれが生きている現実――技術・芸術・修辞学』村井則夫訳、法政大学出版局、2014年10月、本体2,900円、ISBN978-4-588-01019-4

があり、11月刊では:

S・フロイト『フロイト技法論集』藤山直樹編監訳、坂井俊之・鈴木菜実子編訳、岩崎学術出版社、2014年11月、本体3,000円、ISBN978-4-7533-1082-1
アントワーヌ・コンパニョン『寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門』山上浩嗣・宮下志朗訳、白水社、2014年11月、本体1,600円、ISBN978-4-560-02581-9
ジョン・マーフィー/リチャード・ローティ『プラグマティズム入門――パースからデイヴィドソンまで』高頭直樹訳、勁草書房、2014年11月、本体3,200円、ISBN978-4-326-15433-3

といった注目新刊がありましたが、残念ながら未購読。『フロイト技法論集』は「精神分析における夢解釈の取り扱い」1911年、「転移の力動」1912年、「精神分析を実践する医師への勧め」1912年、「治療の開始について(精神分析技法に関するさらなる勧めⅠ」1913年、「想起すること、反復すること、ワークスルーすること(精神分析技法に関するさらなる勧めⅡ」1914年、「転移性恋愛についての観察(精神分析技法に関するさらなる勧めⅢ」1915年、「精神分析治療中の誤った再認識(「すでに話した」)について」1914年、「終わりのある分析と終わりのない分析」1937年、「分析における構成」1937年、の9篇の新訳を収めています。新訳の意図については書名のリンク先の「監訳者あとがきより抜粋」をご覧ください。岩波版全集への失望感が率直に綴られています。

なお、法政大学出版局さんの12月新刊では:

12月10日『現代革命の新たな考察』エルネスト・ラクラウ著、山本圭訳、本体4,200円、ISBN978-4-588-01020-0
12月16日『知恵と女性性――コジェーヴとシュトラウスにおける科学・政治・宗教』ロラン・ビバール著、堅田研一訳、本体6,200円、ISBN978-4-588-01021-7
12月22日『イメージとしての女性――文化史および文学史における「女性的なるもの」の呈示形式』ジルヴィア・ボーヴェンシェン著、渡邉洋子・田邊玲子訳、本体4,800円、ISBN978-4-588-01022-4

といった注目新刊が目白押しです。ボーヴェンシェンは待望の本邦初訳です。弊社より刊行しているアレクサンダー・ガルシア・デュットマンの本をお読みになった方はボーヴェンシェンが重要な参照項になっていることをご記憶かと思います。

by urag | 2014-11-30 23:18 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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