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2014年 11月 16日
◎2014年11月文庫新刊より(価格は税別本体) 06日『隠された神々――古代信仰と陰陽五行』吉野裕子著、河出文庫、800円 07日『それをお金で買いますか――市場主義の限界』マイケル・サンデル著、鬼澤忍訳、早川文庫、800円 10日『貧困の哲学(下)』ピエール=ジョゼフ・プルードン著、斉藤悦則訳、平凡社ライブラリー、2000円 10日『工場日記』シモーヌ・ヴェイユ著、田辺保訳、ちくま学芸文庫、1200円 10日『卵のように軽やかに――サティによるサティ』エリック・サティ著、秋山邦晴・岩佐哲男編訳、ちくま学芸文庫、1300円 11日『三国志演義(三)』井波律子訳、講談社学術文庫、1700円 14日『マラルメ詩集』渡辺守章訳、岩波文庫、1200円 14日『人生処方詩集』エーリヒ・ケストナー作、小松太郎訳、岩波文庫、720円 14日『言語変化という問題――共時態、通時態、歴史』E・コセリウ著、田中克彦訳、岩波文庫、1020円 『隠された神々』(講談社現代新書、1975年;人文書院、1992年)の巻末に付された安田喜憲さんによる文庫版解説「吉野裕子先生のアニミズム」に曰く「「安田さん注連縄は蛇よ!」。この吉野裕子先生の一言によって、私の研究者としての人生は大きく変わった」」(228頁)と。吉野さんの『蛇』(法政大学出版局、1979年;講談社学術文庫、1999年)や『日本人の死生観――蛇信仰の視座から』(講談社現代新書、1982年;人文書院、1995年)、『山の神――易・五行と日本の原始蛇信仰』(人文書院、1989年;講談社学術文庫、2008年)といった著書に親しんできた読者としては誰しも「注連縄は蛇よ!」と語りかけられた心地がし、なるほど蛇か!と得心した経験があるのではないでしょうか。私もその一人です。世界各地に存在する古典的象徴としての蛇には実に興味深いものがあります。あくまでも私見に過ぎませんが、クンダリニーは蛇であり、腸もまた蛇だと考えています。 『それをお金で買いますか』は2012年刊の同書単行本の文庫化。親本にはなかった「訳者あとがき」が「2014年10月」との日付で新たに付されています。特に改訳改稿については言及されていませんが、この文庫本を決定版と見て良いと思われます。 『貧困の哲学(下)』が実現したのは、巻末の訳者解説によれば植村邦彦さんが訳者の斉藤さんを平凡社に紹介したことによるものだとか。植村さんは周知の通り、マルクス『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日――初版』(太田出版、1996年;平凡社ライブラリー、2008年)の訳者でいらっしゃいます。斉藤さんによる今回の初訳は日本語として読みやすく、プルードンの語り口は魅力的で活き活きとしています。本書が日本語で読めるようになった幸運を喜ばすにはいられません。 『工場日記』(講談社文庫、1972年;講談社学術文庫、1986年)は目次のあとに置かれた編集部の特記によれば、日記部分は明朝体、それに付されたメモはゴシック体と立て分けたほか、現行版原書に準じて順番を入れ替えた箇所があり、編集部による補足を亀甲括弧で括って加えた箇所もあるそうです。訳者補足も亀甲なので、どれが編集部によって新しく加えられたものなのかをどうしても知りたい読者は本書の底本である講談社学術文庫版に当たるのがよさそうです。 『卵のように軽やかに』は筑摩叢書(1992年)からの文庫化。巻末には共編訳者の秋山邦晴(1929-1996)さんのパートナーでいらっしゃる高橋アキさんがエッセイ「オンフルールへの旅」を寄稿されています。旅先での思いがけない「発見」のエピソードが心温まります。 『三国志演義(三)』は帯文に「劉備、関羽、張飛死す! 激動の「三国時代」は新局面に突入!」とあって迫力十分。六十一回から九十回までが収録されています。来月発売の第四巻で全巻完結です。 『マラルメ詩集』は岩波文庫では鈴木信太郎訳(1963年)以来の新訳。鈴木訳はもともと戦後まもない時期に創元社で刊行され、創元文庫(1952年)でも発売された歴史的なものだったので、新訳文庫が期待されていたところでした(ちなみに他の文庫版マラルメ詩集としては秋山澄夫訳が角川文庫より1953年に刊行されていましたが、80年代の「名著コレクション」でも創刊40周年特別企画「リバイバル・コレクション」でも再刊されませんでした)。今回の新訳版は帯文を浅田彰さんが書かれています。「マラルメの詩が、リーダブルな日本語となって、いま蘇る。これは事件だ」。確かに筑摩書房版『マラルメ全集』の最終回配本で第一巻『詩・イジチュール』が2010年に刊行された折はしばらく新訳は出ないだろうと想像できただけに、そのたった4年後に文庫で新訳が読めるとは思いもしませんでした。翻訳の経緯については「あとがき」に詳しく書かれています。今回の新訳ではまずドマン版(1899年)『ステファヌ・マラルメ詩集』が第I部に収められ、第II部は『詩集』に収録されていない8篇を「拾遺詩篇」として収め、第III部に未定稿「半獣神変容/エロディアード詩群」を収めています。こうなると『イジチュール』や『賽の一振り』も文庫で読めたらと夢を見たくなりますね。 『人生処方詩集』(創元社、1952年;角川文庫、1966年;ちくま文庫、1988年)がついに岩波文庫に入りました。同書は昨春、飯吉光夫さんによる新訳正続編が思潮社さんからも刊行されています。ケストナーといえば『人生処方詩集』をお訳しになった小松さんによる既訳がある『ファビアン』が今月、丘沢静也さんの新訳でみすず書房さんからまもなく刊行されますし、『飛ぶ教室』の池内紀さんによる新訳も月末に新潮文庫で発売になります。没後40年も子どもから大人までケストナーは愛されています。 『言語変化という問題』は版元解散により幻の書となっている『うつりゆくこそことばなれ――サンクロニー・ディアクロニー・ヒストリア』(田中克彦・かめいたかし訳、クロノス、1981年)の驚愕の文庫化です。文庫化にあたって巻末解説が2本付されています。コセリウの出身地ルーマニアの言語学者エマ・タマヤヌ-モリタさんによる「E・コセリウ――その人間像」と、田中克彦さんによる「この訳書のなりたちについて」です。田中さんはそこでこう書かれています。「これこそは、私が長い間見出せなかった、ソシュールの共時言語学という、出口なしの袋小路からの脱出のヒントを与えてくれる、おそるべき革命の書であると覚った。それはたとえていえば、雷に打たれたような思いであった」(423頁)。コセリウの訳書は三修社版『コセリウ言語学選集』全4巻を始め複数存在していましたが、現在は『一般言語学入門〔第二版〕』(下宮忠雄訳、三修社、2003年)のほか今回の文庫1点のみです。今こそ読み直すべき好機です。 ![]() ◎2014年12月文庫新刊より(価格は税込) 01日『ロックフェラー回顧録〔上・下〕』デイヴィッド・ロックフェラー著、楡井浩一訳、新潮文庫、853円/810円 01日『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー著、池内紀訳、新潮文庫、497円 01日『賢者の贈りもの――O・ヘンリー傑作選I』O・ヘンリー著、小川高義訳、新潮文庫、497円 04日『イタリア共産党讃歌』塩野七生著、文春学藝ライブラリー、1447円 04日『国家とは何か』福田恆存著、文春学藝ライブラリー、1458円 05日『リヴァイアサン(1)』ホッブズ著、角田安正訳、光文社古典新訳文庫、価格未定 05日『感情教育(下)』フローベール著、光文社古典新訳文庫、価格未定 08日『言説の領界』ミシェル・フーコー著、慎改康之訳、河出文庫、1296円 10日『宮沢賢治のオノマトペ集』宮沢賢治著、杉田淳子編、栗原敦監修、ちくま文庫、950円 10日『新宿駅最後の小さなお店ベルク――個人店が生き残るには?』井野朋也著、柄谷行人解説、吉田戦車解説、ちくま文庫、799円 10日『法の概念 第3版』H・L・A・ハート著、長谷部恭男訳、ちくま学芸文庫、1620円 12日『三国志演義(4)』井波律子著、講談社学術文庫、1836円 12日『奇跡を考える――科学と宗教』村上陽一郎著、講談社学術文庫、778円 12日『全国妖怪事典』千葉幹夫編、講談社学術文庫、1080円 12日『テンプル騎士団』篠田雄次郎著、講談社学術文庫、842円 12日『歴代日本銀行総裁論――日本金融政策史の研究』吉野俊彦著、1544円 12日『ジャーナリストの生理学』バルザック著、鹿島茂訳・解説、講談社学術文庫、1134円 16日『テアイテトス』プラトン著、田中美知太郎訳、岩波文庫、972円 16日『ビヒモス』ホッブズ著、山田園子訳、岩波文庫、1102円 なんといっても来月はホッブスの『リヴァイアサン』新訳と、姉妹篇の『ヒビモス』初訳が出るというのが一番のニュースですね。『テアイテトス』は旧版(1966年)も田中さん訳なのでどこが違うのかと思ったところ、「岩波版プラトン全集を底本にして読みやすく改版」とのこと。「テアイテトス」所収の全集版第2巻は1980年刊(当時の価格は3700円とお値打ち)ですから、アップデート版であるということですね。そろそろ同書の渡辺邦夫訳(ちくま学芸文庫、2004年)が再刊されると嬉しいのですけれども。ベルク本の文庫化で柄谷さんの解説がつくというのも楽しみです。
by urag
| 2014-11-16 23:50
| 本のコンシェルジュ
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