2014年 11月 09日
『THE HERO――アメリカン・コミック史』ローレンス・マズロン+マイケル・キャンター著、越智道雄訳、東洋書林、2014年11月、ISBN978-4-88721-819-2 ★11月13日(木)取次搬入の新刊です。原書は、Superheroes!: Capes, Cowls, and the Creation of Comic Book Culture (Crown Archetype, 2013)。こういう大型本では定価を押さえるためにたいてい一部がカラーであとはモノクロにならざるをえないのが通例ですが、そこは東洋書林さんですからもちろん手抜きなし、がっつりオールカラーです(もとからモノクロのものはモノクロですが)。アメコミ好きはもちろんアメリカ文化史を学びたい方にもうってつけの内容。第1部「真実と正義と「アメリカン・ウェイ」」が1938年から1954年を扱い、第2部「大いなる力、重い責任」が1955年から1987年、第3部「誰もがヒーローになれる」が1988年から2013年を扱っています。大戦期の作品検証やコミック業界の変遷の研究、世相を反映したダーク・ヒーローの分析から数々のB級作品への言及に至るまで、存分に堪能できます。 ◎水声社さんの新刊より 先週、水声社さんはアマゾンへの出荷停止を3カ月延長することを発表されていますので、以下の新刊も当面はアマゾンへの入荷はないものと思われます。アマゾンしか利用しない方は不便かと思いますが、リアル書店や他のオンライン書店への出荷が停止されているわけではありませんから、アマゾンマーケットプレイスでの高額出品には手を出さない方が賢明です。 『サド全集 第十一巻 フランス王妃イザベル・ド・バヴィエール秘史 他』原好男・中川誠一訳、水声社、2014年11月、ISBN978-4-89176-881-2 『小島信夫短篇集成 ①小銃/馬』千石英世解説、水声社、2014年10月、ISBN978-4-8010-0061-2 『小島信夫短篇集成 ⑧暮坂/こよなく愛した』千野帽子解説、水声社、2014年10月、ISBN978-4-8010-0068-1 『オペラティック』ミシェル・レリス著、大原宜久・三枝大修訳、水声社、2014年10月、ISBN978-4-8010-0060-5 『オペラのメデイア――近代ヨーロッパのミソジニー』梅野りんこ著、水声社、2014年11月、ISBN978-4-8010-0056-8 ★『サド全集』(全11巻)の第5回配本は第11巻で発売済です。第1回配本だった第10巻『ガンジュ侯爵夫人』から約20年かかっており、本体価も3500円から倍の7000円になっていて、時代の経過を感じさせます。第11巻の収録作品は、原好男訳「フランス王妃イザベル・ド・バヴィエール秘史」と、中川誠一訳「アーデルハイト・フォン・ブラウンシュヴァイク――十一世紀の事件」の2篇。巻末解説は原さんが執筆されています。2篇とも20世紀後半になってようやく出版されたもので、「アーデルハイト」はサドの生前最後の作品と目されているようです。特に明記されているわけではありませんが、これまでの澁澤龍彦訳『サド選集』(彰考書院、桃源社、河出文庫)では2篇とも訳されていません。どちらも今回が初訳です。それぞれ十四~十五世紀のフランスと十一世紀のドイツが舞台で、女性が主人公。正史に抵抗するサドの強情な構想力を感じさせます。 ★『小島信夫短篇集成』(全8巻)の第1回配本は第1巻と第8巻で発売済です。第8巻の帯文に曰く「〈生と死〉の不可思議を鋭く穿つ初期の代表作から、〈小説〉とは何かを問いかけて止まない晩年の作品群、さらには長らく入手困難であった作品や単行本未収録作品もふくめた、160篇以上を一挙に集成」した短篇全集で、来年2月に迎える生誕百年を記念した出版です。1930年代から2000年代まで、発表順に収録されています。編集委員は千石英世さんと中村邦生さんのお二人。さらに各巻の帯文の文言を借りると、第1巻は「少年期に書かれた「太陽が輝く」から、著者随一の怪作「馬」まで、〈小説家小島信夫〉の誕生を告げる初期作品群を収録」し、第8巻は「著者最晩年、創作と現実のあわいを揺蕩しながら綴られた、文学の新境地を指し示す異色の短篇群を収録」しています。それぞれ27篇です。解題を編集協力の柿谷浩一さんが執筆されており、それに各巻ごとの解説が続きます。 ★月報は第1巻が近藤耕人「小島信夫の「踊子」、青木健「未完の相貌」、松本和也「草の匂い」、第8巻が岡田啓「小島家の墓」、千葉一幹「妹の力と小島信夫の文学」、生野毅「晴れやかな「無」」を収載。次回配本は今月下旬発売の第2巻『アメリカン・スクール/無限後退』(芳川泰久解説)です。毎月1冊刊行され、2015年4月に全巻完結予定。 ★『オペラティック』は発売済。水声社さんのシリーズ「批評の小径」の最新刊です。原書は、Operratiques (POL, 1992)で、ジャン・ジャマンがレリス(Michel Leiris, 1901-1990)の生前に未発表原稿を委ねられたオペラ論の集成です。巻末にはオペラ作品名および人名の索引あり。書名の「オペラティック」という言葉はレリスの1959年3月のメモによれば「オペラ」と「エラティック erratique」を組み合わせた言葉です。「エラティック」は「居場所が定まらない」「不安定な」「不規則な」「断続的な」の意。「私がオペラに見出すものは、祝祭的な雰囲気のなかで味わう、純粋に美的な楽しみだ、つまり、まぎれもない、愛好家としての楽しみである」(241頁)。本書では時折、オペラと闘牛の接点が語られますが、レリスがオペラだけでなく闘牛の愛好家でもあることは周知の通りです(『闘牛鑑』須藤哲生訳、現代思潮社、1971年;現代思潮新社、2007年)。 ★『オペラのメデイア』は発売済。著者の梅野りんこさんは1947年にお生まれで、71年に東京芸大の声楽科をご卒業後、1995年から2003年には横浜市の市会議員をお勤めだった経歴をお持ちです。その後、横国大の安藤孝敏研究室で学ばれ、2012年に博士課程後期を修了されています。本書は横国大に提出された博士論文に加筆修正が施されたものです。あとがきで梅野さんはこう書かれています。「全共闘運動やウーマン・リブ運動、政治活動を経験する中で、長年貧困や戦争、女性差別について考えてきましたが、こうした現代の諸問題を理解し解決するためには、現代社会の基礎を作ったヨーロッパの近代意識の源流にまで遡らねばならないのではないかと思うようになりました。オペラは近代とともに誕生した芸術様式であり、必ず女性が登場します。オペラの物語の女性表象を分析すれば、ヨーロッパの深層に存在し、近代黎明期により明確に現れてくるミソジニーに肉迫できるのではないかとの直感に導かれ」た、とのことです。17~18世紀フランスにおける、メデイアをめぐる4つのオペラ作品で描かれた女性像を詳細に分析する力作です。 ◎東洋文庫新刊より 『論語集注 3』朱熹著、土田健次郎訳注、東洋文庫、2014年10月、ISBN978-4-582-80854-4 『バーブル・ナーマ――ムガル帝国創設者の回想録 2』ザヒールッ・ディーン・ムハンマド・バーブル著、間野英二訳注、東洋文庫、2014年11月、ISBN978-4-582-80855-1 ★『論語集注 3』はまもなく発売。東洋文庫第854巻で、全4巻中の第3巻。巻五「子罕第九」から巻七「子路第十三」までを収録。構成単位は以下の通りです(やや複雑なので最初に憶えておかないと混乱するかもしれません)。『論語』の原文を最初に掲げそれに続けてブラケットで括った読み下し。改行して『集注』の現代語訳、改行して『集注』の原文を上段、読み下しを下段。改行して『集注』読み下しに付した訳注が並び、最後に改行して訳者による「補説」が必要に応じて付されています。「補説」は伊藤仁斎の『論語古義』および荻生徂徠の『論語徴』におけるそれぞれの『論語』解釈の要点を特記したもの。それらに続くアステリスク*ではさらに訳者の注記を示します。 ★『バーブル・ナーマ 2』もまもなく発売。東洋文庫第855巻で、全3巻の第2巻。第二部「カーブル(アフガニスタン)」を収め、ヒジュラ暦910年(西暦1504年)から914年(1509年)までの出来事と、925年(1519年)から926年(1520年)までの出来事が記録されています。チンギス・ハンの血を引くという著者バーブルが20代から30代を過ごしたアフガニスタン時代の回想録です。幼少の頃君主(サマルカンド政権)だったこともあるティムール朝は24歳の折に終焉していますが、その辺の記述は実に淡々としたもので、むしろその前年の、ヘラートからカブールに帰る際に大雪に苦しめられたことの記述の方がより主観的で目を惹きます。続刊予定の最終巻はバーブルがインドにムガル朝を樹立する40代の話です。 ★東洋文庫の次回配本は12月、「東洋音楽史」です。
by urag
| 2014-11-09 19:29
| 本のコンシェルジュ
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Comments(3)
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by
山田与作
at 2015-02-08 17:53
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京都国際マンガミュージアム三階の研究閲覧室に置いてあるこの本は俺が寄贈したものだ!!。
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by
any
at 2015-03-01 01:15
x
山田与作は検索して辿り着いたあちこちのエントリーに対して、内容と関係無い宣伝のスパムコメントを張っていくだけの奴です。
目障りでしたら削除して下さい。
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by
urag at 2015-03-02 18:12
anyさんこんんちは。アドバイスありがとうございます。一度目は履歴として残しておきます。二度目があった場合は考えたいです。
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