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2005年 06月 19日

今週の注目新刊(第9回:05年6月19日)

今週の注目新刊(第9回:05年6月19日)_a0018105_5445086.jpg他社版元さんの新刊で、要チェックだなと感じた本を、毎週末、リストアップします。このほかにもたくさん素晴らしい本はありますが、自分がぜひ購読してみたいと思った書目に絞ります。

書誌情報の見方と配列は次のようになっています。

書名――副題
著者、訳者など
版元、本体価格、判型サイズ、頁数(本文, 本文とは別立ての巻末索引や巻頭口絵など)
ISBN、発行年月
■は、図書館流通センターさんや版元さんのデータを引用&活用した内容紹介。
●は、私のコメントです。

***

★今週の注目文庫

幸福について――人生論
ショーペンハウアー著 橋本文夫訳
新潮文庫(新潮社) 本体514円 タテ16cm 365p
4-10-203301-7 / 2005.06.
●かつてこんなにも清々しいカバーが、ショーペンハウアーの文庫本にあったでしょうか(冒頭の書影をご参照)? ありえません、以前はあんなにも地味だったのに。これでは中学生まで買いそうな気がします(褒めているんです)。でもショーペンハウアーって毒舌だし、ちょいと危険なところもあるのに。ま、いいのかな、若人がたまに「毒書」するのも。さて本書はご存知の通り、ショーペンハウアーの『パレルガ・ウント・パラリポメナ(余禄と補遺)』第一巻に収録された「処世術のための箴言集」を訳したものです。同名の文庫がかつて角川文庫でもありましたが、角川文庫版の『幸福について』は石井正+石井立訳。これまで岩波文庫やその他で出ていた『知性について』『自殺について』『読書について』『女について』『自然について』『藝術について』『みずから考えること』といった本はすべて『パレルガ』から抽出したもの。『幸福について』はそうした中でも一番厚い本です。ちなみに『パレルガ』の全容を知るためには、白水社版の全集を買わねばなりません。

★今週の注目単行本

エステティカ――イタリアの美学クローチェ&パレイゾン
クローチェ+パレイゾン著 山田忠彰編訳 山田忠彰+訳
ナカニシヤ出版 本体2400円 タテ20cm 224p
4-88848-922-X / 2005.05.
■イタリアの美学・哲学界を代表する思想家の美学論考の対比。20世紀イタリア美学の展開を鮮やかに描写し、美学的・芸術的思索の核心に触れる。クローチェの「美学入門」と論文、パレイゾンの2つの論文を合わせて編訳。
●これは大注目というか、思わず拍手ですね。ルイジ・パレイゾン(1918-1991)の日本語訳で読めるのは、晃洋書房の「現代哲学の根本問題」シリーズの第4巻『藝術哲学の根本問題』(1978年)に収録された一論文「美の観想と形式の算出」くらいでしょうか。これは1955年の『国際哲学雑誌』第31号にフランス語で発表された"Contemplation du beau et production de formes"の、佐々木健一氏による日本語訳です。パレイゾンはイタリア美学界の大御所で、弟子筋には、かのウンベルト・エーコやジャンニ・ヴァッティモらがいます。佐々木さんの紹介によれば、パレイゾンの主著の一つ『美学――形成の理論』(1954年刊、未訳)に対して、ヴァッティモは「イタリア美学のクローチェ以後の時代とも呼びうるものを拓き、この時代の欧米の美学思想の中で最も生き生きとした流れとの対話へと、我々の文化を導いていった」と大きく評価しているそうです。

イタリアの美学思想の現在と言えば、エーコやアガンベンが日本では有名なわけですが、その前にパレイゾンがいて、さらにその前にベネデット・クローチェ(1866-1952)がいることを忘れるわけにはいきません。いきませんが、パレイゾンは翻訳がほとんど皆無だったし、クローチェの大著『美学』も翻訳本はもう半世紀以上前の話で古書店か大きな図書館でしか手に取れません(1921年に鵜沼直訳で中央出版社から『美の哲学』、1930年に長谷川誠也+大槻憲二 訳で春秋社の「世界大思想全集」第1期第46巻として刊行、後者はゆまに書房が1998年に「世界言語学名著選集」の第1巻として復刊していますが、一般読者向けと言うよりは、図書館や研究室向けです。本体15,000円、ISBN4-89714-407-8)。
ちなみにクローチェの『美学』はいずれ新訳(しかも完訳)が出ると耳にしたことがあります。

日本とちがってイタリアの場合、美学というのは伝統ある一大分野であると言えるのではないかと思います。ある意味、個別の哲学科目よりもずっと包摂的で、大きく諸学を横断する根本的で革新的な分野として、存在し続けているように見えます。先のエーコやアガンベンだけでなく、哲学者のヴァッティモやカッチャーリ、建築学者のタフーリ(1935-1994)もやはり横断的な美学的教養を当たり前のように持っています。イタリアでは美学が「生きている」のだと思います。

さて、長いコメントになってしまいましたが、最後に肝心の本書『エステティカ』の収録論文について。版元のナカニシヤ出版による紹介ページで公開されている本書の目次は以下の通りです。

I ベネデット・クローチェ

美学入門
第一章 「芸術とは何か」
第二章 芸術に関する偏見
第三章 精神と人間社会における芸術の位置
第四章 芸術批評と芸術史

創造としての芸術と形成としての創造

II ルイージ・パレイゾン

クローチェ美学における解釈の概念
一 クローチェ美学の際だった点
二 翻訳としての演劇的上演
三 追想としての音楽的演奏
四 「演奏」を芸術全体へと広げる必然性
五 ドラマ上演の必然性の基礎としてのその完全性
六 演劇的上演における忠実さと自由さ
七 音楽的演奏の多様性と相違
八 作品の唯一性と演奏の多様性
九 演奏される作品への必然的関連というクローチェの概念
十 作品の無限な解釈可能性というクローチェの新しい概念

人格の哲学
一 人格の理論としての哲学
二 哲学の歴史性と人格性
三 解釈の認識論
四 形成性の理論

訳者解説
あとがき
事項索引
人名索引

G8――G8ってナンですか?
ノーム・チョムスキー+スーザン・ジョージほか著 氷上春奈訳
ブーマー発行 トランスワールドジャパン発売 本体1400円 タテ19cm 238p
4-925112-48-1 / 2005.07.
■G8が世界を支配していいのだろうか? ノーム・チョムスキー、スーザン・ジョージといった時代をリードする作家や学者たちが、G8のネオリベラリズムを指摘し、世界が抱える様々な問題に対するG8の姿勢を議論する。
●人文社会系の本を愛読している読者にはあまりなじみのない発行・発売元かもしれませんが、トランスワールドジャパンと言えば、雑誌版元として名が通っています。スノボやスケボ関係のものや、ストリートカルチャー雑誌「WARP」など、色々と刊行しています。最近では読み聞かせ用の絵本の分野にも進出。ユニークですよね。

チョムスキーの名前はさいきんこうした人文社会系とはいままであまり関係がなかった版元から刊行された本で見かけるようになってきました。たとえばFOILが刊行した『「映画 日本国憲法」読本』とか。FOILはリトルモアの創業社長さんが「独立」して始められた出版社です。この読本では、ジョン・ダワー、ノーム・チョムスキー、ベアテ・シロタ・ゴードン、チャルマーズ・ジョンソン、日高六郎、ハン・ホングのインタビューが読めます。リトルモアでは3年前にドキュメンタリー映画「チョムスキー 9.11」と連動した書籍『ノーム・チョムスキー』ISBN4-89815-081-0が発売されていますから、FOILでチョムスキー関連書が出るのはふしぎではないのですが。

国家とはなにか
萱野稔人(1970-)著
以文社 本体2600円 タテ20cm 283p
4-7531-0242-4 / 2005.06.
■国家が存在し、活動する固有の原理とは何か。「国家は暴力に関わる一つの運動である」。この明解な視点から現代思想の蓄積をフルに動員し、国家概念に果敢に挑む。次世代を担う国家論の展開。著者は1970年生まれ。パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。現在、東京大学大学院総合文化研究科21世紀COE「共生のための国際哲学交流センター」研究拠点形成特任研究員等。
●担当編集者は、「批評空間」誌第三期の編集部から、同誌の廃刊後に青土社「現代思想」誌に移られて2004年8月号「いまなぜ国家か」などを担当し、その後、以文社に移籍されたMさん。Mさんのキャリアで初めての担当単行本になるわけだろうと推察します。同じく本書『国家とはなにか』が処女単行本となる萱野さんは、上記の「いまなぜ国家か」特集号のメインである柄谷行人さんのインタビュー「資本・国家・宗教・ネーション」の聞き手を務められており、冒頭の写真に写っている、坊主頭に細い眼鏡、胸元のボタンを大胆にはだけた白いシャツ姿がまず私の目に焼きついたのでした。

今回の本は「現代思想」誌に発表された論文を全面的に大幅加筆して成ったもので、ほぼ書き下ろしといってもいいようです。書名はイカメシイですが、けっこう読みやすく、面倒な議論に聞こえがちな「国家論」の位相を何とか読者に伝えようという苦心のあとが伺えます。たとえば酒井隆史さんや渋谷望さん、道場親信さんらの著書を読んできた方なら、本書はまず購入されていることでしょう。ネグリ+ハートの『〈帝国〉』(以文社)を購入された方にもお奨めです。

萱野さんを「現代思想」誌編集長の池上善彦さんに紹介したのは酒井さんだそうで、萱野さんは「あとがき」で酒井さんの『自由論』(青土社)や『暴力の哲学』(河出書房新社)と本書『国家とはなにか』は「おおくの点で議論を共有して」いるので、併読を、と記しています。帯文に「次世代を担う国家論の展開」とありますが、まさにその第一歩が記されたのでしょう。萱野さんの今後、そして担当編集者のMさんの今後の活躍に注目です。

自然との和解への道(上)
クラウス・マイヤー=アービッヒ(1930-)著 山内広隆訳
みすず書房 本体2800円 タテ20cm 285,13p
4-622-08163-6 / 2005.06.
■環境先進国ドイツの環境哲学とは何か。人間がその駆動力である「自然的共世界」の実現へ向けて、自然科学・哲学・政治を根本から見直す記念碑的労作。実践的(=政治的)自然哲学を提唱する。著者は1936年ハンブルグ生まれ。哲学博士。現在、エッセン大学名誉教授。著書に「未来のための学問-生態学的かつ社会的責任における全体論的思惟」などがある。
●みすず書房のシリーズ「エコロジーの思想」第二弾。第一弾は昨秋刊行された『環境の思想家たち(上)古代‐近代編』ジョイ・A・パルマー編、須藤自由児訳、ISBN4-622-08161-X。一見地味なシリーズですが、中味はなかなかのもの。今後も注目したいですね。出版社による第二弾の本の紹介文は以下の通り。

「この著作の根本思想は、ひとつの命題、《人間の外にある自然は、われわれの自然的共世界(Mitwelt)である》に要約できる」(「日本語版への序文」より) 。環境先進国ドイツにおける、本格的な環境哲学を紹介するはじめての本である。著者マイヤー=アービッヒは、エッセン大学で教鞭を執ってきた哲学者であるのみならず、マックス・プランク研究所で量子力学を研究した物理学者でもあり、ドイツ連邦議会のエネルギー政策審議会の一員として、またハンブルク市の大臣として、環境政策の政治決定にもたずさわってきた。本書においてはじめて、「実践的(=政治的)自然哲学」が提唱される。適切な自然理解と環境政策を統合する人間の行為を問うのが、実践的自然哲学である。そのためにアービッヒはまず、従来の受け身的な環境政策を批判し、自然を自然自身のために配慮する新たな環境保護立法を提案する。そして、真理への問いに開かれたプラトン以来の討議的政治と、理性的行為のうちに自然の意図をみるカントの倫理を継承し、自然の秩序に適った産業経済を可能にする科学技術を模索する。 人間もまた自然的共世界の一部である自然中心主義的世界像へ向けて、自然科学・哲学・政治を根本から問いなおす記念碑的労作の完訳、上巻。シリーズ《エコロジーの思想》第二弾。

ル・コルビュジエのインド
彰国社編 北田英治写真
彰国社 本体2381円 タテ24cm 160p
4-395-24102-6 / 2005.06.
■ル・コルビュジエはインドを23回訪れた。撮り下ろし写真と現地座談会を核に、彼の残した庁舎、議事堂、住宅などの建築を紹介する、ル・コルビュジエ再発見の旅の記録。

悟りへの階梯――チベット仏教の原典『菩提道次第論』
ツォンカパ著 ツルティム・ケサン訳 藤仲孝司訳
UNIO発行 星雲社発売 本体2800円 タテ21cm 415p
4-7952-8890-9 / 2005.06.
■チベット最高の仏教者ツォンカパによる、ブッダの心髄を伝えるインド大乗仏教の集大成。チベット仏教最大の原典であり、ダライラマ法王の講話の典拠ともなった大乗の理論と実践の精髄を全訳。

猫神様の散歩道
八岩まどか(1955-)著
青弓社 本体1600円 タテ19cm 204p
4-7872-3244-4 / 2005.06.
■お産や商売繁盛の猫神信仰、身の毛がよだつ化け猫伝説、招き猫に眠り猫…。全国60カ所の神社仏閣や祠を訪ね歩き、猫の神秘の力とそれに魅入られた人々の心性を余すところなく描く。著者は『旅の手帖』などで温泉ライターとして活躍。著書に「温泉と日本人」「混浴宣言」などがある。

乗馬の歴史――起源と馬術論の変遷
エティエンヌ・ソレル著 吉川晶造+鎌田博夫訳
恒星社厚生閣 本体4300円 タテ22cm 474p
4-7699-1020-7 / 2005.06.
■人類がはじめて馬に跨った日から今日までの馬との関係史。化石、絵画、彫刻、年代、地域、種族や部族間の争い、馬術やその達人、流派、獣医学、国家、軍隊、馬術学校、スポーツなど、さまざまな視点を通して論述する。
●こういう基本図書は重要。大著ですが、ぜひ購読したいです。

花田清輝集
花田清輝(1909-1974)著
影書房 本体2200円 タテ20cm 240p
4-87714-331-9 / 2005.06.
■小説・戯曲・記録文学・評論等、幅広いジャンルで仕事をした戦後文学者13名のエッセイを選んで刊行するシリーズ「戦後文学エッセイ選」の第1巻。「花田清輝全集」を底本として、敗戦前に執筆したものまで、全25篇を収録。
●同シリーズの第8巻『木下順二集』4-87714-332-7が同時発売されています。シリーズの全容は版元である影書房のこちらのページをご覧ください。いちおう全巻構成だけ転記しておきますと、以下の通りになります。

1:花田清輝集(既刊)
2:長谷川四郎集
3:埴谷雄高集
4:竹内好集
5:武田泰淳集
6:杉浦明平集
7:富士正晴集
8:木下順二集(既刊)
9:野間宏集
10:島尾敏雄集
11:堀田善衞集
12:上野英信集
13:井上光晴集

昭和初年の『ユリシーズ』
川口喬一(1932-)著
みすず書房 本体3600円 タテ20cm 292p
4-622-07146-0 / 2005.06.
■「ユリシーズ」本邦初の翻訳、出版は一つの事件であった。伊藤整vs小林秀雄、第一書房と岩波文庫の合戦、猥褻と検閲等、文壇の域を超えた本を巡る熾烈なドラマ、文化的・社会的事件を詳細に描く。
●川口喬一先生には『「ユリシーズ」演義』 (1994年、研究社出版)という大著がすでにおありですが今回の本は、また格別に面白そうですね。読んでない内から断言してしまいますが、面白くないわけがありません。各紙の書評にもきっと取り上げられることでしょう。

タンタンとエルジェの秘密
セルジュ・ティスロン(1948-)著 青山勝+中村史子訳
人文書院 本体2800円 タテ22cm 199p
4-409-18001-0 / 2005.06.
■わたしたちの時代の夢想と熱望が凝縮された現代の神話「タンタンの冒険旅行」。謎につつまれた作品の魅力とエルジェの創作力学を、ホームズのように鮮やかに解き明かす。著者は精神科医、精神分析家。さまざまな機関で臨床に携わりつつ、パリ第7大学等で教鞭も取る。著書に「明るい部屋の謎」「恥」など。
●ティスロンと言えば、2001年に二冊の翻訳が続けて刊行され注目を浴びました。『恥―社会関係の精神分析』大谷尚文+津島孝仁訳、法政大学出版局、2001年3月、ISBN: 4588007165。そして、『明るい部屋の謎―写真と無意識』青山勝訳、人文書院、2001年8月、ISBN: 4409030647です。後者はいわずもがなのロラン・バルトの写真論『明るい部屋』(みすず書房)を論じた秀逸な本ですが、今回の新刊はなんとコミック論ですよ。ティスロンの本をまとめて置いている本屋さんは早々ないですね。これで三冊目なのですから、そろそろまとめてもいいはず。心理学書や芸術書の棚よりは、バルトのそばでディディ=ユベルマンとかと一緒にしておくのがいいような気がします。バルトのそばにはジュネットやクリステヴァやルジュンヌらの本があり、トドロフやバフチン、そしてロシアフォルマリズム系の本があるだろうと思いますが、そろそろ再整理する必要があるでしょうね。

まめおやじ――原始式教育入門
友沢ミミヨ著
パロル舎 本体1200円 18×19cm 70p
4-89419-036-2 / 2005.06.
■むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おばあさんがまめをあけると、なかからかわいいまめのようなあかちゃんが産まれました-。抱腹絶倒、うごめくまめ宇宙! 『TV Bros』連載。
●子持ちにとってはもう「あるある」的共感の連続。というか大車輪。笑いをこらえながら読んでいましたが、私の場合、「あにょにょ」の回で思い切り吹き出さずにはいられませんでした。巻末のインタビューも話題の飛び具合が子供らしくていい。友沢さんの育児愛と観察眼に脱帽。

***

以上、今週は全部で1247点の新刊の中から、単行本12点、文庫1点を選びました。(H)

by urag | 2005-06-19 23:52 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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